Todos os capítulos de 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Capítulo 1701 - Capítulo 1710

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第1701話

「送ろうか?」鳴海が尋ねた。「大丈夫です、一人で帰れます」麗蘭は微笑んだ。「今日は本当にありがとうございました」「遠慮はいらない」鳴海は言った。「気持ちが不安定な時は、仕事に没頭すればいい。多くのことが大したことはないと気づくはずだよ」麗蘭は頷き、地下鉄の駅へ向かった。彼女は夜風に吹かれながらゆっくりと歩いた。足はもうほとんど痛みを感じなかった。麗蘭はふと思った。すべての記憶を取り戻す必要はなく、時正との関係も、はっきりさせなければならないわけでもないのかもしれない。ゆっくりと、日々を過ごすのも悪くない。麗蘭は、クリニックの前に着いた。突然、麗蘭はその場に立ち尽くした。街灯の下に、見慣れた黒い車が停車している。車種やナンバープレートを見て、麗蘭の胸は高鳴った。時正の車だ。彼は自分を……訪ねてきたのだろうか?麗蘭はその場に立ち、指先に力を込めた。今までの平穏が破られ、心に再び複雑な感情が押し寄せた。挨拶をすべきだろうか?「どうしてここに?」と尋ねるべきだろうか?それとも、気付かないふりをするべきだろうか?さまざまな考えが、頭に浮かんだ。昨夜の、彼の気遣いや、両親の前でうつむいていた姿、彼女が彼を追い払った時の、彼の傷ついたような瞳を思い出していた。麗蘭は深く息を吸い、決意した。彼女は目を伏せ、クリニックの入り口に向かって歩き、カードキーを通すと、ドアを開け、エレベーターのボタンを押した。その間、彼女は一度も振り向かなかった。しかし実際は、彼女の胸は激しく高鳴り、心の中は混乱していた。麗蘭は、時正が自分の後を追って来るだろうと思っていた。しかし、彼は来なかった。エレベーターのドアがゆっくりと閉まり、麗蘭は、窓の外を眺めた――車は静かに停車したまま、何の動きもなかった。やはり、彼は追いかけて来ない。上にも上がっては来なかった。ただ、ひっそりと停車した車内から、彼女の部屋に明かりが灯るのを見守っているのだろう。麗蘭はエレベーターの壁にもたれ、そっと目を閉じた。時正は一体、どうしたいのだろう。彼は、ある時は彼女を追い詰め、ある時はきっぱりと身を引く。彼女に気があるような素振りをしたかと思えば、ただ命令に従っているように振る舞う。エレベータ
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第1702話

さらにスクロールすると――麗蘭は指先を止めた。少し若い頃の彼女と時正の写真があった。夕日を背に、彼女が昨夜行った川辺に似た場所で、二人は並んで立っていた。写真の中の時正も、無表情だった。でも麗蘭は、無防備な笑みを浮かべ、彼を見つめていた。こんな眼差しを、彼女が彼に向けることは、二度とないだろう。麗蘭は、さらにスクロールした。一枚、また一枚。クリニック、車内、彼女の玄関前、花火大会、寒そうな雪の降る日……大切な日、ささやかな日常、心温まる瞬間、そんな多くの時間を、彼女は彼と過ごしていた。二人は、本当に長い時間を共に歩んできたのだ。時正は突然麗蘭の生活に飛び込んできたのではなく、ずっと前から彼女の傍にいたのだ。彼女が、「偶然」、「使命」、「責任」だと思っていたものには、根本的に、彼らの歳月が隠されていたのだ。麗蘭の指が、微かに震えた。道理で時正は、自分の好みを熟知し、あんなに優しい目で自分を見つめるわけだ。道理で自分は、記憶を失っても、彼に心を許し、彼といると安心できるわけだ。これは錯覚ではなく、偶然でもない。一方的な思い込みでもない。彼らはずっと一緒に、長く深い歳月を過ごしてきたのだ。忘れてしまった時間は、空白ではなかった。時正が、大切に守ってくれていたのだ。麗蘭の胸に、切なさと罪悪感が込み上げた。彼に言った心無い言葉、冷たい態度。両親の命令に従っただけだと疑ったこと……自分は、何も知らずに、彼に何てひどいことをしてしまったのだろう。彼には感情がなかったわけではない。彼にあるのは責任感だけではない。彼はただ、口に出さないだけなのだ。どれだけ待ったのか、どれだけ我慢したのか、どれだけ傷ついたのか、彼は何も言わない。麗蘭は立ち上がった。まだ微かに足に痛みを感じたが、彼女は気にしなかった。下へ行かなきゃ。彼に会わなきゃ。ちゃんと聞かなきゃ――写真のこと、過去のこと、そして、彼の自分への気持ちは本心なのかどうかを。記憶を理由にして、逃げるのはもう嫌だ。麗蘭は、階下に停まる車に向かおうと、ふらつく足で玄関まで歩き、慌てて靴を履き替え、ドアを開け、急いで階下へ降りた。急がないと、彼がいなくなってしまう。エレベーターが降りる間、麗蘭の胸
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第1703話

廊下のセンサーライトが消えていく。駐車場に一人立つ麗蘭は、夜風に吹かれ、寒さに身体を震わせた。階下へ降りた時の衝動や切なさ、後悔の念が、夜の闇の中で、ゆっくりと冷めていった。ふと、足の痛みを感じて、麗蘭はようやく我に返った。部屋の窓を見上げると、まるで整理のつかない彼女の心のように、真っ暗だった。彼女は振り返り、建物の入り口へ向かった。あの瞬間、麗蘭は時正が自分を愛し、長年にわたり、心から自分を大切に思い、守り続けてくれていたのだと、確信していた。しかし今、静寂に包まれた夜空の下、少しずつ理性が戻ってきた。そう、夜は人を感情的にさせる。あの写真も、彼が傍にいてくれたことも……彼が自分を愛してくれていたからなのだろうか?それとも、ただ単に――やはり彼は、父に命令された通りに任務をこなしていただけなのだろうか。麗蘭はエレベーターの壁にもたれ、そっと目を閉じた。父は言っていた、彼女を守れと。そして、時正は父に頭を下げて謝罪し、「いかなる処分も受ける」と言った。その時の彼は、依頼人に自分の失態を詫びているようにしか見えなかった。時正は、今まで一度も麗蘭を好きだと言ったことはない。彼女を愛していると、認めたこともない。いつも、「無事を願っている」と言うだけだ。無事――という言葉を聞くと、麗蘭は責任や約束、使命という言葉を連想してしまう。記憶を失う前、ボディガードだった彼は、記憶を失った後も、やはり守護者でしかないのだ。事故に遭えば駆け付け、病気になれば付き添ってくれる。波多野家に脅された時も、彼は密かに手を打って事態を収拾してくれた。しかし、そのどれもが、「榮太郎さんとの約束だから」ということなら、合点がいく。麗蘭は部屋に入ると、明かりをつけないまま、リビングに佇んでいた。窓の外に、まばらな街灯が見える。彼女は膝を抱えてソファに座り、今までの出来事を一つ一つ思い返した。彼女を見つめる時正の眼差しは、深く、重く、優しかった。食事に関しても、彼は彼女の好みをちゃんと覚えていてくれた。こちらが何を言っても、彼は弁解せず、ただ離れた場所から彼女を見守り続けていた。両親の前で、彼はすべて自分の責任だと言った。しかし、職務に忠実なボディガードなら、誰でも彼と同じように行
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第1704話

さまざまな感情が、夜の静けさの中で、ゆっくりと沈殿していくようだった。このままの関係を、続けるわけにはいかない。もう彼を突き放したり、後悔したくない。彼を疑ったり、これ以上、大切なものを見逃してはいけない。彼女には答えが必要だった。はっきりとした、明確な答えが。もはや、記憶の有無は関係ない。ただ、彼の気持ちが知りたい。時正、あなたが私を守ってくれるのは、任務だから?それとも愛してくれているから?もう、こんな風に推測したり、葛藤したくはない。麗蘭は、携帯を取り出した。画面の光に、彼女は目を細めた。アドレス帳を開き、画面に表示された「細貝時正」という名前を見つめた。彼の連絡先は、友達や家族など特定のカテゴリには入っておらず、ただ「細貝時正」とだけ表示されていた。彼は彼女にとって……友達のようでもあり、家族のようでもあり、恋人のようでもあった。特別であるからこそ……麗蘭は特定のカテゴリに分類しなかった。彼女は発信ボタンを押した。発信ボタンを押した瞬間、やはり胸の鼓動が速くなった。「プルル――プルル――プルル――」呼出音は、胸に突き刺さるように響いた。麗蘭は息を殺し、時正の応答を待った。彼女は心の中で、言うべき言葉をあらかじめ用意していた。しかし、時正は電話に出なかった。呼び出し音が消えた後、不在を告げるガイダンスが流れた。麗蘭は、携帯を握りしめた。彼は出なかった。気付かなかったのか、故意に出なかったのか?忙しいのか、それとも避けているのか?頭の中に、さまざまな考えが浮かんだが、麗蘭は冷静を保っていた。出なくてもいい。待てばいい。麗蘭は、メールの画面を開き、時正にメッセージを打った。【時正さん、あなたに会いたいの。会って、話がしたい】メッセージを作成すると、麗蘭は送信ボタンをタップした。麗蘭は携帯を傍に置くと、ソファにもたれて目を閉じた。記憶はまだ戻っていない。彼女は、二人の過去を何も覚えてはいない。それでも、二人の関係を中途半端なままにしておきたくはなかった。麗蘭は一睡もできなかった。窓の外の空が、次第に明るくなっていった。麗蘭は、ずっと起きていた。枕元に置いた携帯の画面を、頻繁に見る勇気はなかったが、気になって仕方なかっ
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第1705話

定期検診で病院向かう途中、麗蘭はずっと携帯を手に握りしめていた。彼女はメール画面を何度も開き、画面は点いたり消えたりを繰り返していた。返信も、着信もない。本当に彼は、まるでこの世から消えてしまったかのようだった。診察室に着く頃には、麗蘭は全身の力が抜けたように、ぐったりとしていた。彼女を見て、鳴海が眉をひそめて言った。「顔色が優れないね?気分もよくないみたいだ」鳴海は心配そうに言った。「昨日のシンポジウムは、なかなか収穫があっただろう?気晴らしになったと思っていたんだが」麗蘭はゆっくりと腰を下ろし、かすれた声で言った。「ええ、シンポジウムでは……確かに収穫がありました」「じゃあ、他に何かあったんだね?」鳴海はすぐに気づいた。麗蘭はうつむいて、しばらくの間沈黙した。静かな診察室の中に漂う消毒液の匂いに、彼女は不思議と安心感を覚えた。少し落ち着いた後、麗蘭は心の内を話す覚悟を決めた。「大切な人がいるんです」小さな声だったが、はっきりと聞こえた。「彼はずっと、私の傍にいてくれました。私が追い払っても、冷たい態度を取っても、彼は私の傍を離れずにいてくれた。私が病気になった時も。事故に遭った時も、彼は真っ先に駆け付けてくれました。一人で川辺に行った時も、彼は遠くから、私のことを見守ってくれていました」そこまで言って、麗蘭は言葉を詰まらせた。今まで自分が彼にしてきたことを思い出すと、胸が締め付けられるように痛んだ。「今までは、彼が私の傍にいるのは、単に彼が両親からそうするように命令されているからだと思っていたんです。私は彼に借りを作りたくなくて、関わりたくなくて、彼を遠ざけてきました。でも、昨日初めて……そうじゃないのかもしれないと気づいたんです。彼と話がしたくて。彼の気持ちが知りたくて。誤解を解きたいと思ったんです」彼女は少し間を置き、震える声で続けた。「でも彼、いなくなったんです。どこにもいなくて。メールを送ったけど、返事が来なくて。電話にも、出ないんです。一晩中待ったけど、連絡がないままで」医師は口を挟まず、静かに耳を傾けていた。麗蘭は顔を上げ、独り言のように言った。「彼は今までずっと……傍にいたのに。どうして、いなくなってしまったの?」診察室は静寂
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第1706話

麗蘭は、緊張した面持ちで、振動する携帯を手に取った。彼女は、震える手で画面をスワイプした。連絡は、時正からのものではなかった。ただのシステム通知だった。メール画面には、彼女が昨夜送った文章だけが表示されていた。メールは既読にもなっていなかった。この瞬間、大きな失望感が潮のように押し寄せた。彼が返信しないことを、予想していなかったわけではない。しかし、実際にそうなると、胸がズキズキと痛んだ。数日前まで、時正は彼女の傍を離れず、熱を出した時には、付きっきりで看病してくれていた。彼女が気付き、振り向いた途端、姿を消し、連絡すら取れなくなってしまうなんて。腑に落ちない。あまりにも不自然だ。彼に何かあったのだろうか?それとも……本当にもう、彼女に会いたくないだけなのだろうか?麗蘭はベッドに座り、携帯を握りしめた。彼女は決して、人にしつこく付き纏うような性格ではない。しかし、どうしても納得がいかない。彼に会って、確かめなければ。彼の口から、直接聞かなければ――なぜ返事をしてくれないの?今、どこにいるの?あなたは私を、どう思っているの?これらのことをはっきりさせなければ、ずっと落ち着かないままだ。麗蘭は深く息を吸い、決意した。これ以上、ただ待っているのは嫌だ。ただ携帯を握りしめて、時間を無駄にしたくない。彼を探そう。時正の居場所は、見当がついていた。会社でも、別荘でもない、彼が頻繁に足を運ぶその場所を、麗蘭は覚えていた。記憶を失った後、麗蘭はそこが彼の縄張りなのだと、直感的に感じていた。麗蘭は、簡単に身支度を整えた。誰にも告げず、タクシーに乗り、運転手に住所を伝えた。運転手は、何か言いたげな表情を浮かべたが、結局黙って車を発進させた。その一帯は、彼女が普段住んでいる場所とはまったく別世界だった。狭い道路に小さな店が立ち並び、人を寄せ付けない雰囲気が漂っていた。行き交う人は皆、うつむいて歩き、時折、警戒するような視線を麗蘭に向けた。ここは時正の縄張りだ。その場所の存在は、話には聞いていたが、実際に足を踏み入れたのは初めてだった。麗蘭は、ラウンジバーの入り口に立つと、ゆっくりと深呼吸し、ドアを開けた。薄暗い店内にBGMが鳴り響き、空気には微か
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第1707話

まさに、常套句だった。礼儀正しい言葉を並べているが、実際は門前払いしているのだ。麗蘭は拳を握りしめ、その場に立ち尽くした。彼女は信じなかった。どんなに忙しくても、忽然と姿を消すはずがない。それに、ここに来る途中、彼の車が停まっているのを目にした。時正はここにいる。ただ、彼女に会いたくないだけなのだ。そう思うと、麗蘭の胸にじんわりとした痛みが広がった。彼女はその場に立ち、落ち着いた表情で店内を見渡した。店内にいる客や従業員たちが、こちらを見ている。うつむきがちに視線を向ける者もいれば、あからさまに、観察するように見る者もいた。店内にいる多くの者が、彼女を知っていた。もしくは、「麗蘭」という名を知っていた。彼らにとって彼女は、時正が長年守り、一定の距離を置いていた令嬢なのだ。また、波多野家や琴美と複雑な関係にある。彼らの囁き声が、はっきりと聞こえた。「あれが、麗蘭さん?何でまた、こんなところに?」「さあ?珍しいこともあるもんだ。気位が高くて、時正さんを何度も追い出したことがあるって聞いていたけど?」「もしかして、琴美さんに嫉妬してるとか?でも、琴美さんは刑務所の中だし、もう彼女を脅かすような存在でもないだろ?」「きっと、時正さんに愛想つかされて、焦ってるんだよ。今まで散々、冷たい態度を取ってたらしいから。愛想つかされて寂しくなって、今になって追いかけてきたんだろうよ」彼らの言葉が、針のように胸に突き刺さった。麗蘭は背筋を伸ばし、無表情のまま、その場に立ち尽くしていた。他人の目や言葉を気にしない覚悟は、できているつもりだった。しかし、彼らの言葉は、麗蘭が最も後ろめたく、不安に感じる部分を正確に突いていた。囁き声は、まだ続いていた。「時正さんは、彼女のことが好きなのかな?これだけ長い間、彼女を守っているんだし」「そんなわけないだろ。ただの任務さ。金で雇われて、護衛していただけだよ」「ああ、ただの保護の対象さ。好きなら、とっくに一緒になってるよ」「彼女が時正さんに惚れてるのは、一目瞭然だけどな。残念だけど、時正さんは何とも思ってない」「今や任務もほぼ終わって、琴美さんの件も片付いたし、構う必要もなくなったんだろ」『任務』その言葉を聞いて、麗蘭の胸は締
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第1708話

なるほど。その「任務」の中で、心動かされ、感情を揺さぶられていたのは自分だけだったのだ。そして時正は、彼女がようやく振り返った途端、音もなく身を引いた。麗蘭は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。切ない思いが胸に込み上げ、息苦しく感じるほどだった。これ以上、時正の行方を問い詰めたり、彼に会おうとするのはやめよう。麗蘭は向きを変え、外へ向かって歩いた。彼女は背筋を伸ばし、店を後にした。本当は、歩くたび、心が張り裂けそうに痛かった。外の冷たい風が、彼女の全身を包み込んだ。麗蘭は顔を上げ、灰色の空を見上げた。どれほど大切でも、手の届かないものがある。戻りたくても、彼が同じ場所にいるとは限らない。二人は、深い絆で繋がっていると思っていた。しかし、それはどうやら、自分の勘違いだったらしい。時正にとっては、彼女の気持ちなど取るに足らないものなのだろう。ラウンジバーでの話し声。麗蘭の耳には、彼らの囁き声が、まだ離れずに残っていた。「ただの任務さ。時正さんは、護衛の対象としか見ていない。琴美さんの件が片付いて、もう傍にいる必要がなくなったんだろ」耳から離れないその言葉が、彼女の心に突き刺さったままだった。微かな期待を抱いていた――彼は忙しくて、携帯を見る暇がないのかもしれないと。しかし、店内にいた多くの者たちが、そう囁いていた。二人の間にあったのは、単なる任務と、それに付随する責任だけ。麗蘭は、鞄をぎゅっと握りしめた。昨日の夜中、彼女は時正に会って話したいとメッセージを送った。今日、彼を訪ねたが、そこにあったのは、「ここにはいない」、「面会できない」、「ただの任務だ」という言葉だけだった。麗蘭の目に、涙が込み上げた。彼女は言い聞かせた、これでいいのだと。もうこれ以上、彼を探さない。勝手な思い込みをしてはいけない。時正はきっと、もう彼女と関わりたくなくて、返事をしないのだろう。任務が完了して彼が去るのなら、自分も目を覚まさなければならない。麗蘭は、タクシーを拾おうと、大通りに向かって歩き始めた。その時、少し離れた場所から、二人の若者の話し声が聞こえた。「時正さん、大丈夫かな。こっちに戻ったばかりで、また国境の方へ向かうなんてさ」「仕方ないよ。か
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第1709話

麗蘭は身体が硬直し、一歩も動けなかった。時正は、決して彼女を避けていたわけではなかった。彼は国境へ向かっていたのだ。国境付近は、想像を絶する危険が潜んでいる場所だと聞いたことがある。胸に込み上げていた感情が、一瞬のうちに恐怖へと変わった。国境。越境での任務。行方を隠す。情報の封鎖。誰も近づけさせない。それらの言葉が、麗蘭に告げていた――時正は、危険な状況に身を置いている。なのに自分は、彼から連絡がないというだけで、あれこれ妄想し、自己否定し、自暴自棄に陥りかけていた。麗蘭、なんて馬鹿なの。胸に鋭い痛みが走り、溜まっていた悔しさが一気に吹き飛んでいった。今は、体裁や他人の目を気にしている時ではない。頭の中にはただ一つの思いしかなかった。時正を見つける。何があっても、彼を見つけてみせる。麗蘭は振り返り、話をしている二人の若者に歩み寄った。「今の話は、確かなの?彼は国境に向かったのね?都市の名前はわかる?どの辺り?」二人は驚き、慌てて首を振った。「俺たちは、何も知りません。何も言っていません……」「聞こえたわ」麗蘭は落ち着いた声で言った。「お願い、彼の行き先を教えて」「無理です。絶対に口外するなと言われているので」二人は青ざめた顔で、後ずさりした。麗蘭は二人を見て、これ以上尋ねても何も聞き出せないと悟った。時正が命令した以上、簡単に情報を得ることはできないだろう。だが、彼女だってそう簡単には諦めない。麗蘭は、ラウンジバーを離れ、携帯を取り出した。記憶を失って以来、頼れる人物はそう多くなかったが、一人だけ心当たりがあった。彼女のアシスタントだ。アシスタントは長年彼女に仕えており、人脈はさほど広いわけではないが、意図的に隠された行方ぐらいなら突き止められるはずだ。電話はすぐに繋がった。「麗蘭先生、今日は定期検診へ行く予定では?何かあったんですか?声の調子が、いつもと違うような」「私は大丈夫」麗蘭はできるだけ落ち着いた声で言った。「今からすぐ、時正さんがいる場所を調べてほしいの。具体的な場所が知りたい」アシスタントは驚いて言った。「時正さんの?彼の……情報は完全に遮断されていて、部外者の近づけない場所に行ったと聞きましたが」「ええ」麗蘭は唇を噛んだ。「
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第1710話

彼は、夜通し彼女の看病をし、彼女を脅した波多野家に、裏で手を打ち問題を解決した。なのに彼女は、彼が危険な場所へ向かったとも知らず、彼の気持ちを疑い、誤解し、連絡がないことに失望していた。込み上げる後悔と混乱で、麗蘭の目から涙がこぼれ落ちた。時正を失うわけにはいかない。自分の気持ちがわからないまま、彼に謝罪をしないまま、彼の気持ちを聞き出せないまま、彼の身に何かあってはならない。間もなく、アシスタントから連絡があった。「麗蘭先生、調べました。時正さんは今、国境付近の港町――臨済市にいるそうです。情報によると、辺り一帯が現在封鎖され、一般人の立ち入りは禁じられています」臨済市。麗蘭はその地名を頭に刻み込んだ。「最速の列車か、航空券の手配を頼める?」「麗蘭先生、それはできません!」アシスタントは慌てた。「あの地域は危険すぎます。現在封鎖中で、近づくことさえできません」「構わない」麗蘭は言った。「彼がそこにいるなら、私は行く。中に入れなくても、彼の近くにいたいの」彼女は遠く離れた場所で、ただ見ているわけにはいかないのだ。少しでも、彼の近くにいたい。少なくとも彼に知らせたい。自分がただ、彼に守られているだけの人間ではないのだと。今度は、麗蘭が時正を探しに行く番だ。アシスタントはため息をついた。「わかりました。すぐに車を手配します。何かあればすぐに電話してください」「ありがとう」麗蘭は電話を切った。-臨済市、国境付近。目的地まで、十数時間かかる。先に進むにつれ、検問所がますます増え、明らかに異様な雰囲気を醸し出していた。空は次第に暗くなり、ヘッドライトが前方の狭い道を照らし出していた。麗蘭は、道中眠らず、食事も摂らず、ただ少し水を口にしただけだった。頭の中は、時正でいっぱいだった。写真の中の彼、病院で付き添ってくれた彼、薬を飲ませてくれた彼、両親の前で頭を下げていた彼……どの姿も、彼女の心に刻み込まれている。麗蘭はついに、時正に対して抱いている感情をはっきりと悟った。彼女は彼が好きで、彼を気にかけている。どうしても、忘れられないということを。それは、記憶を失っても消え去ることのない、いわば本能だった。もし彼が無事に戻って来られたら、もう二度と突き放したり、
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