All Chapters of 火葬の日にも来なかった夫、転生した私を追いかける: Chapter 911 - Chapter 920

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第911話

-北城にて。礼央は病院で点滴を受けている。湊が彼のそばに歩み寄った。彼は深く息を吸った。「高瀬社長、公徳さんが寺原さんのところへ行かれました」礼央の瞳が冷たく光った。彼は何も言わず、点滴の針を抜いて立ち上がった。湊は、礼央の体調的に、絶対に安静する必要があると考えていた。しかし、湊は彼を止めることもできず、ただ付いていくしかなかった。外に出ると、礼央はすでに車に乗って行ってしまった。湊は歯を食いしばり、別の車で追った。礼央は運転席に座り、蒼白な顔をしていた。腕には針を抜いた後の跡が残っているが、彼は全く気にしていなかった。礼央は公徳の性格をよく理解していた。蒔子を探し出すためなら、公徳は何でもする。真衣は剛直な性格だから、衝突すれば必ず彼女が不利になる。礼央は医者の制止を振り払い、ただ早く江川城市に行って真衣の身の安全を確認したかった。車内の空気は重く、礼央は胸の鈍い痛みを感じ、呼吸も荒くなっていた。助手席に置いてある薬を取り、数粒をミネラルウォーターで飲み込むと、少し楽になった。車窓の景色が目まぐるしく後ろへ流れていく。彼は自分の状態が良くないことは分かっていて、いつ制御を失ってもおかしくなかった。それでも、彼は止まれなかった。-真衣は公徳と空港でしばらく揉み合ったあと、帰宅途中に湊から電話を受け、状況を聞いた。家に帰ると、彼女はソワソワしていた。礼央に何度も電話したが繋がらず、彼女はいてもたってもいられなかった。その時、突然インターホンが鳴った。彼女がドアの覗き穴を見ると、礼央がそこに立っている。彼は青白い顔をしており、冷や汗が額に浮かび、とても弱々しく見えた。真衣は慌ててドアを開け彼を支えた。「礼央、なんで来たのよ?」礼央は彼女を見た。心がガクンと沈んだ。彼はもう我慢できなかった。そして、いきなり真衣を抱きしめた。「ごめんな……」耳元で聞こえる彼の声は、とても低くかすれていた。「俺の対応が悪かった」彼女を高瀬家のいざこざに巻き込でしまった。真衣の胸が締めつけられた。彼女は首を振り、彼をソファに座らせると、白湯を汲みに行った。「大丈夫、もう追い払ったから」礼央はソファにもたれかかり、頭の中が混乱していた。まるで耳鳴りがするかのよ
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第912話

真衣は温めたお粥を手にキッチンから出てきて、リビングに入った途端、ソファで眠る礼央の姿が目に入った。彼女は足を止め、そっと手に持っていたお粥を置くと、ソファへ近づき、青白く憔悴した礼央の寝顔を見て、胸の奥で何かがキュッと締めつけられるような、酸っぱくて疼くような感覚に襲われた。彼女は手を伸ばし、礼央の眉間の皺を撫でてあげようとしたが、指が額に触れそうになった瞬間、彼女はそっと手を引っ込めた。せっかくの安らかな眠りを妨げるのが怖かったからだ。真衣は寝室に戻り、薄手のブランケットを一枚持ってくると、礼央の体にそっと掛けてあげた。彼女はソファの横にしゃがみ込み、しばらく彼を見つめてから、ようやく立ち上がって散らかった食器を片付けようとした。その時、寝室のドアがそっと開き、小さな人影がそこにいた。千咲はピンクのクマさんのパジャマを着て、眠そうな目をこすりながら、少し乱れた髪で現れた。どうやらリビングの物音で目が覚めたらしい。寝室を出るとすぐ、ソファに横たわる礼央の姿が見え、彼女の目がパッと輝いたが、すぐに心配そうな表情に変わった。千咲は忍び足でソファに近づき、上を向いて眠る礼央を見つめ、大人びたように眉をひそめた。彼女は小さな手を伸ばし、ブランケットに覆われた礼央の腕にそっと触れると、すぐに慌てて手を引っ込めた。彼を起こしてしまうのが怖かったからだ。真衣は千咲の姿を見つけると、急いで近寄り、しゃがみ込んで優しく聞いた。「千咲、どうして起きちゃったの?物音で目が覚めちゃった?」千咲は首を横に振り、目は依然として礼央に向けたまま、唇をキュッと結ぶと、不安げに聞いた。「ママ、パパどうしたの?」「パパはちょっと疲れて、眠ってるのよ」千咲はまばたきをし、礼央の青白い顔と険しい眉間を見つめ、心配そうに下唇を噛みながら小さな声で聞いた。「パパ、すごく苦しそうだよ。病気なのかな?」真衣は千咲の小さな手を握り、優しく言った。「パパは疲れているだけだよ。病気じゃないから心配しないで」千咲はわかったような、わからないような顔でうなずいた。真衣は千咲に寝るよう促した。千咲はおとなしく中に入った。「ママも早く寝てね」千咲が自分の部屋に入った後。リビングでは、礼央がまだ眠っていた。彼の眉間の皺は次第に緩み、呼吸も少し落ち着いて
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第913話

真衣は礼央を見つめ、少し間を置いた。場の空気が一瞬静まり返った。彼女はようやく静かな口調で「わかった」と言った。そう言い終えたのと同時に。真衣の視線は礼央をしっかりと捉えていた。「でも、なぜ距離を置きたいのか、教えてくれる?あなたが考えていることについて知りたいの?私は前に麗蘭から、もうあなたと距離を置いて、あなたとは会わないでほしいって言われたわ。私の存在が、あなたの気持ちに影響してたからなの?」これらの質問は、礼央の心に軽く刺さった。彼は垂れた手をわずかに握りしめ、深く息を吸ってから言った。「今はまだ気持ちの整理ができていないから、お前の質問には答えられない」彼は常にすべてをきちんと整えておくことに慣れていた。どんな返答も、どんな決断も、十分に考えた上で、万全を期していた。しかし、今の彼はうつ病に繰り返し苦しめられ、高瀬家のいざこざで心が乱れており、真衣の質問に対して、到底完璧な答えを出すことはできなかった。彼は何事においても用意周到な状態で臨んできた。準備が整うまでは決して動き出さないのだ。だが、今回は自分の父親である公徳が真衣を見つけ出したため、礼央は少し衝動的になっていた。彼は少し間を置き、真衣を見上げ、声を落として言った。「父さんがお前に言ったことは気にしなくていいから。彼のことは無視してくれ。彼の目当ては俺であってお前じゃない。お前を巻き込むべきじゃなかったな」真衣は彼を見て、軽く首を振り、ため息混じりの声で言った。「私はもう北城を離れたのに、彼は江川城市まできたのよ。私を探している人は、私がどこに隠れても、必ず見つけ出せるらしいわね」彼女は、公徳の性格をよく知っていた。目的のためなら、簡単には諦めない男だ。そう言い終えると、彼女は再び礼央を見た。「もし本当に私と距離を置きたいのなら、私も協力するわ。何よりあなたの体調が一番大事だからね。私のせいで病状が悪化するのを私も望んでいないし」彼女は一呼吸置き、深く息を吸い込んで続けた。「ただ、これからはもうお互いの間にモヤモヤを残したくないの。愛しているならそう言えばいいし、距離を置きたければそう言って。わざと隠したり、私を試したりしないで。もう私は疲れたの。いちいち探り合ったり推測しあったりするのはもうやめたいの」礼
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第914話

「体調もまだ良くないし、もしかしたら公徳さんがまだ近くにいるかもわからないよ。もし何かあったらどうするの?」礼央は彼女の手を払いのけようとしたが、全く力が入らないことに気づいた。真衣の手のひらの温もりが薄い服の生地を通して伝わってくるのを感じ、心がポカっとしたが、同時にさらに強い罪悪感も覚えた。「俺のことはもう構わないでくれ」彼は疲れた声で、「自分のことは自分で何とかするから」と強がった。「礼央、そんなに頑固にならないで」真衣は眉をひそめ、「あなたはもう一人じゃないわ。私もいるし、千咲もいる。みんなあなたのことを心配してるの。私たちのことも考えてくれない?」千咲の名前を聞いて、礼央の体がはっきりと一瞬固まった。昨夜、千咲が小さな声で「パパは病気なの?」と聞いた様子や、彼女が自分と一緒に過ごしたいと願うあのつぶらな瞳を思い出し、礼央の心にあった壁は一気に崩れ始めた。彼は目を閉じ、再び開いた時、その瞳には疲れと諦めが満ちていた。「俺は……」彼がまだ何か言おうとした時、寝室のドアが軽く音を立てた。二人が同時に振り向くと、千咲がピンクのクマさんのパジャマを着て、眠そうな目をこすりながら寝室の入り口に立ち、「ママ、パパ……二人はけんかしてるの?」と小さな声で聞いていた。真衣は慌てて礼央から手を離し、急いで千咲の元へ駆け寄った。真衣はしゃがみ込み、優しく言った。「違うよ、パパとママはけんかしてないよ。ただお話してただけ。どうして起きちゃったの?私たちの声で目が覚めちゃった?」千咲は首を振り、小さな目で礼央を見つめ、期待を込めて聞いた。「パパ、もう行っちゃうの?私のそばにいてくれない?」礼央は千咲の期待に満ちた瞳を見て、心が刺されたように痛んだ。彼は前に進み出てしゃがみ込み、千咲の頭を優しく撫でながら、柔らかい声で言った。「パパは用事があって、ちょっと出かけるけど、終わったらすぐ千咲と遊びに戻ってくるからな。いいかい?」千咲の瞳は一瞬で曇り、小さな唇をギュとひき結んだが、それでも利口に頷いた。「うん、わかった。パパ早く帰ってきてね。パパに会いたいから」礼央は千咲の物分かりの良い様子を見て、胸が締め付けられる思いだった。彼は立ち上がり、真衣の方を見た。複雑な感情を込めた視線を送りながら、結局はた
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第915話

彼は、自分が今回去ることで、再び真衣と千咲を傷つけてしまったことを知っていたが、どう向き合えばいいのか分からなかった。礼央は廊下の冷たい壁にもたれかかり、胸の苦しい痛みが徐々に和らぐまでじっとし、やがてゆっくりと立ち上がった。彼は何度も深呼吸し、自分を落ち着かせようとした。彼は携帯を取り出し、湊に電話をかけた。「湊、延佳の動向をしっかり監視してくれ。特に最近誰と接触しているか、怪しい金銭取引の記録はないかを見てくれ」礼央の声はいつもの冷静さを取り戻し、感情の起伏は全く感じられなかった。「それと、俺の父さんである公徳の動向にも注意してくれ。もし彼がまだ江川城市にいるなら、すぐに知らせてほしい」「承知しました、高瀬社長。すぐに調査します」湊の声は、非常に手際の良い印象を相手に与えた。電話を切った後、礼央はその場に立ち尽くし、がらんとした廊下を見つめていた。心はまだ乱れていた。真衣への態度が冷酷すぎたことはわかっていたが、どう彼女と向き合えばいいのか自分には本当にわからなかった。自分のネガティブな感情が彼女に影響を与えることを恐れ、また近づきすぎて再び傷つけてしまうことを恐れている。一方で、真衣は家の中で玄関の方を見つめながら、胸いっぱいに不安を抱えていた。礼央の体調がまだ回復していないこと、そして今の彼のメンタルはきっと最悪な状態にあることを彼女は知っていたが、結局追いかけはしなかった。礼央はもう大人であり、自分の考えを持っている。彼女がいつまでも心配するべきではなく、彼自身が自分の体調とメンタルに責任を持つべきだった。彼女は振り返ってリビングに戻り、パソコンを開いて仕事に集中しようとした。KJC宇宙航空研究開発機構のプロジェクトは現在重要な段階に進んでおり、次は原始林に現地調査に行き、現地の気候や温度データを記録し、無人機の飛行シミュレーションの参考にする必要があった。今回の出張は少なくとも2、3日かかるため、事前の準備が必要だった。翌朝早く、真衣は荷物をまとめ、千咲をいつものシッターに預けて登校させると、集合場所へ急いだ。到着すると、耀庭がジープの横に立ち、笑顔で手を振っているのが見えた。耀庭も今回の視察プロジェクトの責任者の一人で、人当たりがよく明るい性格の持ち主で、真衣にもいつも従っ
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第916話

彼女は軽くため息をつき、携帯をしまい、仕事に集中するよう自分に言い聞かせた。一方、礼央はホテルの部屋で一人きりだった。彼は昨晩、江川城市を離れずに真衣の家からそう遠くないホテルに泊まっていた。彼女の近くにいたいが、また邪魔をする勇気はなかった。彼はベッドにもたれかかり、目を閉じているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。夢の中で。真衣は冷たい表情で二つの書類を自分に渡し、サインを求めた。自分は彼女を信頼していたので、内容を確認せずにすぐにサインした。そして、無表情で真衣と千咲に対し、自分の邪魔をしないようにと言い、サインを終えると書類を渡してすぐに立ち去った。会食の場で。誰かが人の群れをかき分けて彼に告げた。「高瀬社長、奥様とお嬢様が本日火葬されます。葬儀場へ遺骨をお受け取りください」彼の心臓は一瞬止まりそうになった。信じられなかったのだ。彼は猛スピードで葬儀場に駆けつけた……「やめろ!」礼央は目を覚ますと、彼は冷や汗をびっしょりかいていて、胸は激しく波打ち、心臓は飛び出さんばかりに高鳴っていた。彼は荒い息をつきながら、広々とした部屋を見回し、今のがただの夢だったと気づいた。彼は手を伸ばして携帯を取り、時間を確認しようとしたが、真衣からのLINEが目に入った。どうやら彼女は出張らしい。彼の心に不安が一瞬で広がった。原生林は環境が厳しく、通信状態も悪い。彼女一人で行って、危険はないのか?彼は真衣に返信しようとしたが、何と伝えるべきかわからなかった。結局。彼は返信した。【わかった、気をつけて】LINEを送り終え、礼央はベッドにもたれかかっていたが、心の中にはまだ不安が残っていた。彼は携帯を取り出し、湊に電話をかけた。「湊、真衣の今回の出張先の具体的な場所と現地の天気状況、あと潜在的な危険がないか調べてくれ。それと、二人手配して、こっそり真衣の後をつけさせて、彼女の安全を確保しろ。気づかれないようにな」「はい、高瀬社長、すぐ手配します」湊は余計な質問をせず、すぐに承知した。電話を切ると、礼央は安堵の息をついた。こんなことをするのは余計なお世話だと彼自身もわかっていた。真衣は自立した有能な人間で、きちんと自分を守れるはずなのに、どうしても心配が抑えられなか
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第917話

一行は森の中にいた。ここの地質と気候はともに特殊だ。真衣は機器のそばにしゃがみ込み、手にクリップボードを持ち、ドローンから送られてくる温度や湿度のデータを真剣に記録している。耀庭は彼女のそばに立ち、気象観測装置を調整しながら、時折データのパラメータについて会話を交わし、二人の息はぴったりだった。「最後のデータ収集が終わりました。これで作業終了です」耀庭は腕時計を見て真衣に笑いかけた。「朝からずっと忙しかったですね。もう日が暮れそうなので、まずテントを張りましょう。暗くなるともっと面倒になますので」真衣はうなずき、クリップボードを片付けると、耀庭と一緒にジープからテント装備を降ろした。森の中の風の音が大きく、野生動物の奇妙な鳴き声も聞こえる。それ以外には何も聞こえない。二人は役割分担し、耀庭はテントの骨組みを組み立て、真衣は防水マットと寝袋を整え、どちらも手慣れた動きで作業していた。テントが完成した時、空はすでに薄暗くなっていた。真衣は額の汗を拭い、自分のテントに向かった。午後に採取したデータを整理・集計する必要があり、明日の早朝からまた調査が続くため、できるだけ早く終わらせなければならない。テント内は狭く、真衣はノートパソコンを開き、データを一つ一つ表に入力していった。時々記録を確認しながら、間違いがないか慎重に進めた。ドローンの飛行シミュレーションに置いて、データの精度は極めて重要で、ほんのわずかの誤差でも最終的なシミュレーション結果に影響するため、彼女は少しも怠ることができなかった。しばらくすると、テントの外から軽い足音が聞こえ、続いて耀庭の声がした。「寺原さん、もう終わりましたか?温かいスープとビスケットを持ってきました。よかったら一緒に食べませんか?」真衣はパソコンの画面を見て、まだ最後のデータが残っていることに気づき、テントの外に向かって叫んだ。「ありがとうね。もう少しで終わるから、後で一人で食べるわ」「データの整理はいつでもできます。まずはお腹を満たすことが大事です」耀庭の声には譲れない強さがあった。「この音、聞こえました?外では風が強く吹いています。いかにも雨が降りそうですよ。食べ終わったらテントを点検して、防水シートをしっかり固定しないと、夜中に雨に濡れてしまいます」真衣
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第918話

スープを飲み終えると、耀庭はビスケットを手渡した。「これもよかったら食べてください。後で一緒にテントのチェックをして、防水シートをしっかり固定しましょう。この雨はそう簡単には止まないみたいですね」真衣はビスケットを受け取り、うなずいた。「わかった、ありがとう」二人は懐中電灯を持ち、設営済みのテントを一つずつ点検した。耀庭は防水シートを固定しながら、真衣に念を押した。「夜中にテントから変な音がしたり、雨漏りしたりしたら、すぐに呼んでください。無理に我慢しないでくださいね。山の中は都市部と違いますので、何かあった時はお互い助け合わないといけませんよ」「わかった、ありがとう」真衣の心は感謝の気持ちでいっぱいだった。今回の出張先は環境が厳しかったが、耀庭は終始彼女を気遣ってくれた。装備を運ぶのを手伝い、温かいスープを用意し、細かな注意事項まで丁寧に教えてくれたおかげで、彼女はずいぶん心強く感じていた。テントの点検を終えると、雨はすでに降っており、風も強まっていた。二人は急いでそれぞれのテントに戻った。真衣がテントに入った途端、外ではパラパラと雨音が響き、雨粒が防水シートに当たる鈍い音がした。彼女はテントの入り口まで行き、カーテンの端をめくって外を覗いた。雨水が防水シートを伝って流れ落ち、地面には小さな水たまりができていた。耀庭のテントは少し離れた所にあり、明かりがまだついている。きっと最終チェックをしているのだろう。真衣はカーテンを閉め、再びノートパソコンを開いてデータの整理を続けた。しばらくして、突然真衣の携帯が鳴った。見ると、天気予報の通知だった。今後2時間、原生林地域では大雨が予想され、時折強風も伴うという。彼女は少し緊張しだし、急いで懐中電灯を手にテントの固定状態を再確認した。問題ないことを確認すると、真衣はホッと一息ついて再びパソコンの前に座った。データの整理が終わった頃には、もう真夜中になっていた。真衣はパソコンを閉じ、疲れた目をこすりながら、外の雨音を聞いてふと礼央のことを思い出した。彼は今どうしているのかしら。薬を時間通りに飲んで、ちゃんと休んでいるのかしら。公徳からまた嫌がらせを受けていないのかしら。彼女は携帯を取り出し、礼央にLINEを送ろうとしたが、電波が悪く、LINE
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第919話

今回の出張は秘密裏で行われているため、KJC宇宙航空研究開発機構の一部のメンバーしか知らない。延佳は冷たい笑みを浮かべた。「俺について来い、真衣。君を傷つけるつもりはないから」彼の声はとても小さかった。「どうしてついて行かなきゃならないの?」真衣は一歩下がり、彼の背後にいる男たちを警戒しながら尋ねた。「島袋さんは?あの人に何をしたの?」「彼は無事だ、ただ眠っているだけだ」延佳は淡々と言った。「もう一度だけ言う、俺について来い。手を出すような真似はしたくないから」真衣が断ろうとしたその瞬間、彼女の頭がふっと重くなった。鼻をつく奇妙な香りが次第に濃くなり、視界もゆっくりと霞んでいった。彼女はテントに手をかけようとしたが、体はぐったりとなり、眼の前が真っ暗になると、やがて完全に意識を失った。意識が闇に沈む最後の瞬間、延佳が手を振りあげたのを彼女は見た。そして、彼の背後にいた男たちが近づき、彼女を抱き上げた。-真衣が再び目を覚ましたとき、彼女は柔らかな大きなベッドの上に横たわっていた。部屋の内装は豪奢ながらもどこか冷たく、空気にはほのかな潮の香りが漂っていた。彼女は急に起き上がり、頭が割れるように痛みに襲われ、昨夜の記憶も破片のように一気に押し寄せてきた。不気味な香り、延佳の顔、そしてスタンガン……彼女は布団を蹴ってベッドから降りて、素早く窓際に歩み寄り、分厚いカーテンを開けた。窓の外には、果てしなく広がっている青い海があった。潮風が唸りながら白い波を立て、岸辺の岩に打ちつけていた。ここは孤島だった。辺りは見渡す限り海で、船の影すら見えない。真衣の心はどん底に沈んだ。彼女は部屋中を探し回ったが、携帯も身分証明書も財布もなく、昨夜着ていた服だけはそのままだった。彼女はドアまで歩き、力いっぱい取っ手を引いたが、ドアは堅く閉ざされたまま微動だにしなかった。その時、ドアが静かに開き、延佳が水の入ったグラスを持って入ってきた。背後には二人のボディーガードがついていた。「目が覚めたか?水を飲んで落ち着け」彼はグラスをベッドサイドテーブルに置き、日常会話のような淡々とした口調で言った。「延佳さん、一体何が目的なの?」真衣は彼を見つめ、「ここはどこなの?なぜ私をここに連れてきたの?」と聞いた。「落ち
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第920話

「そうだとしてもなんだ?」延佳は否定せず、声には狂気が混じっていた。「礼央は君のことを大切にしているんだろう?とても有能だって言うんだろう?君がいなくなったら、礼央は狂ったように暴れ回るかだろうな。その姿を見るのが楽しみだぜ。一番大切なものを失う苦しみを、思い知らせてやる。名声も地位もすべて奪い、完全に叩き落としてやる」真衣は延佳の歪んだ顔を見て言った。「延佳さん、あなたは本当に卑怯ね。私を使って礼央を脅せると思っているの?彼は私のためにあなたに屈したりしないわ」「そうかな?」延佳は嘲笑の眼差しで笑った。「ならば、見てみようじゃないか?すぐに礼央は慌てて君を探し回るだろうな。その時、彼は俺には敵わないと悟るはずだ」そう言うと、延佳は立ち上がり、背後にいるボディーガードたちに命じた。「しっかり監視しろ。絶対に彼女を逃がすなよ。もし何かあれば、お前たちの責任だ」「承知しました」ボディーガードたちは恭しく答えた。延佳は部屋を出て行き、ドアは再び鍵がかけられた。真衣はがらんとした部屋を見つめ、心は絶望感でいっぱいだった。彼女はこの孤島に閉じ込められ、助けを求めても誰も応えてくれず、延佳の思うがままになった。真衣は窓際に歩み寄り、広大な海を眺めた。彼女は千咲のことを思い出した。別れ際の千咲の期待に満ちた眼差し、シッターがちゃんと面倒を見ると言ってくれた言葉。真衣は礼央のことも思い出した。心身ともに弱ってしまった礼央。彼女は目を閉じた。自分はじっとしているわけにはいかない。礼央の言ったことは正しかった。延佳が帰国した今、彼がどこまでの手札を持っているのかは見えない。長く海外にいた分、こちらが知らないだけで、もしかしたら海外の組織と繋がっているのかもしれない。そして、彼のそばにいる人たちもみんな外国人だわ。今、自分はここが海外なのか、それとも国内なのかを確かめる必要がある。自分もまた、外界に助けを求める方法を見つける必要がある。真衣は孤島に閉じ込められ、焦りに駆られていた。彼女は部屋の隅々を探しまわり、一枚の紙でも、一本のペンでもいいので、何か外界に助けを求める手段を見つけようとした。しかし、部屋には豪華な家具と基本的な衣食住の品々以外、何もなかった。毎日、統一された服装を
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