ヴィラへの帰り道、深雲は海舟からの報告の電話を受けた。「社長、ダイヤモンドのネックレス、お届けいたしました」「景凪本人に直接渡したのか?」深雲は問い詰めた。「はい」「……景凪は、何か訊いてきたりしたか……?」妙な緊張を覚えながら尋ねると、海舟は淀みなく答えた。「いえ、何も。社長が奥様のために特別にご用意されたプレゼントだとお伝えしたところ、奥様はとてもお喜びのようでした。特に何も訊かれることなく、その場でお受け取りになりました」「……」その言葉を聞いて、無意識にハンドルを握りしめていた深雲の手から、ふっと力が抜けた。江島海舟という男は、時に融通が利かないこともあるが、誠実で裏表がない。相手によって態度を変えるような人間ではないのだ。それこそが、深雲が彼を個人的なアシスタントとして側に置いている理由だった。海舟がそう言うのなら、景凪は本当にあのダイヤモンドのネックレスを気に入ったのだろう。深雲の胸のうちを占めていた一抹の不安は、すっと消えていった。彼の口角が、微かに上がる。「そうか、わかった」深雲は片手でイヤホンマイクを外し、助手席に放り投げると、何を思ったかふっと鼻で笑った。てっきり景凪は宝飾品になど興味がないと思っていたが、やはり女は女、ということか……いや、あるいは景凪も心の底ではこういうものが好きだったのかもしれない。ただ、実家が裕福でなく、これまで高級品に触れる機会もなかったせいで、ダイヤモンドや宝飾品の価値を知らなかっただけだ。加えて、格上の家に嫁ぎ、俺のことしか見えていない状態では、何かをねだることなどできるはずもなかったのだろう。女を懐柔するには、やはり金を積むのが一番手っ取り早い。それでダメなら、さらに積めばいいだけの話だ。スマホを手に取り画面を確認するが、先ほど景凪に送ったメッセージへの返信はまだない。だが、そのことに深雲はもう焦りを感じなかった。彼の唇から、侮蔑の色を帯びた乾いた笑いが漏れた。ダイヤモンドのネックレスは受け取ったくせに、まだ俺の前で気取ってみせているつもりか。ここ数年、自分が景凪にろくなものを贈っていないことを思い返す。結婚指輪でさえ、式当日に母親の文慧が体裁を保つために貸し与えたものだ……金銭面では、確かに景凪に対して少し負い目があったのかもしれ
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