景凪が声のした方、ホールの入り口へ視線を向けると、二人の黒服のボディガードに腕を掴まれた春江が入ってくるところだった。そしてその正面に、ちょうど姿月が立っている。半狂乱の春江は、ボディガードの腕を振りほどかんばかりの勢いで姿月へと突進する。その凄まじい力に、ボディガードたちも一瞬たじろぎ、抑えきれない。姿月も凍りついていた。まさか、この女が戻ってくるなんて——!春江は姿月の腕を掴むと、必死の形相でまくし立てた。「早くこの人たちに言ってよ!警察は呼ばないでって!あんたがやらせたんでしょ!あんたがお金をくれて、私は何も知らないって!」「離して!あなた、誰なの?」姿月の瞳の奥に、激しい苛立ちの色がよぎる。もがきながらも、頭の中では必死に対応策を巡らせていた。その時、姿月の視界の端に、こちらへ向かってくる景凪の姿が映った。途端に、彼女の顔から血の気が引く。どうして、あの女が……「知らないわけないでしょ!」春江は必死に姿月にしがみつく。「さっき会ったばかりじゃない!あんたがお金をくれて、『人が死にそうだって言えば、あの女は絶対助けに行く』って言ったじゃない!」絶対に、認めるわけにはいかない!姿月は金切り声をあげた。「助けて!この頭のおかしい女、知らないわ!」景凪がその茶番を冷ややかに見つめ、一歩前に出ようとした、その時だった。不意に、長身の見慣れた男の影が視界に飛び込んできて、景凪ははっと息を呑んだ。彼女はただ、見つめていた。深雲が、まるでヒーローのように駆け込んできて、危機一髪の姿月を救う姿を。「何をしている!」鋭い声で春江を怒鳴りつけると、深雲は片手で彼女を突き飛ばし、もう一方の腕で、恐怖に青ざめた姿月を背後にかばった。結婚して七年。彼は一度だって、こんな風に自分を守ってくれたことはなかった。それなのに、姿月は何度も、何度も、こうして彼の背中に守られている。景凪の口元に、乾いた皮肉な笑みが浮かんだ。クズ男と泥棒猫……ふん、お似合いのカップルじゃない。深雲もこの時、景凪の存在に気づき、一瞬固まった。「景凪?」来ていないはずではなかったか?その直後、景凪の背後に立つ若い男が、深雲の目に入った。体にぴったりと合ったダークスーツに、地紋の入ったネクタイが、その妖しいまでに整った顔立ちを一層引き立て
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