その日の昼、蘇我兼従は数人の弟子を連れ、旧友である車田宗明教授と久しぶりに食事を共にしていた。主な議題は、政府が主導するS級プロジェクト、『グリーンウォール計画』についてだ。プロジェクトの第一責任者である宗明は、この計画の核心技術の壁を共に打ち破るため、兼従とその弟子たちに参加を説得するつもりだった。話し合いは和やかに進み、打開策のおぼろげな糸口は見えたものの、それが通用するかどうかは、実際に実験を重ねてみなければわからない……歩みを止めた兼従が、不意にポケットに手を入れた。「いかん、万年筆を忘れてきた!」少し慌てた様子の兼従に、宗明が気前よく言う。「なら、俺のをやるよ」「お前のなんているか」旧友をにろりと睨みつけ、兼従は吐き捨てた。「あれは、そこらの店で手に入るような代物じゃないんだ!」「先生、私が取ってまいります」一番弟子の文哉が申し出る。「いや、いい。自分で行く。お前たちは先に車に乗っていろ」そう言って、兼従はくるりと踵を返した。景凪は、彼らから十メートルほど離れた後ろを、ただついて歩いていた。少しでも長く、先生や先輩たちの姿を見ていたかった。だが、恩師が突然振り返るとは思ってもみなかった。身を隠す暇もなく、景凪は真正面から兼従の視線の中に飛び込んでしまった。恩師の表情が、凍りつくのがはっきりと見えた。見られてしまったのなら、もう仕方がない。景凪は覚悟を決め、兼従に向かって歩き出した。緊張で手のひらを強く握りしめる。先生に近づけば近づくほど、心臓が早鐘を打った。恥ずかしさと懐かしさが胸の中で入り混じり、兼従の前に立ち止まったときには、景凪の目元はすでに真っ赤に染まっていた。「蘇我、先生……」七年ぶりにその名を呼ぶ声は、抑えきれない嗚咽に震えていた。涙がこぼれ落ちないようにするだけで、彼女は精一杯だった。文哉たちもその視線を追った。景凪の姿を認めると、三者三様の複雑な表情を浮かべる。希音は冷ややかに腕を組み、ぷいと顔をそむけた。隣にいた鶴真が、そっと彼女の袖を引く。「おい、希音……そんな態度とるなよ。あいつが見てるだろ。ただでさえ、つらい思いをしてるのに」希音は彼の腕を振り払った。「私にあんな後輩はいないわ!先生があの恩知らずを許すもんですか!」「……」鶴真は見るに忍びないといっ
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