「……」姿月の口元に浮かんでいた微かな笑みが、その瞬間ぴたりと止まった。詩由はさらに目を大きく見開き、一瞬自分の耳を疑ったが、理解した途端、嬉しさのあまり声を上げそうになった。景凪は淡々と語り続ける。「七年前、私がこの会社に入った時に結んだのは十年契約だ。私から辞めると言わない限り、十年間は開発部の責任者は私だ。数日後には通常勤務に戻るつもりよ」そして声を張り上げ、部内全員にはっきり聞こえるように言った。「もちろん、小林秘書について行きたい人は止めない。社長に提案して、開発部第二課を新設してもらうつもり。行くも残るも、各自の判断に任せる」もし今までの仕事がすべて深雲のためだったのなら、今日からは自分自身のためだけに戦う!開発部長の座は、かつて命を削って手に入れたものだ。あの時は、本当に命を落としかけた。自分のキャリアだけは、誰にも触れさせない!景凪はもう姿月たちと無駄なやり取りをする気もなく、オフィスへと足を進めた。このオフィスに引っ越した時、景凪はこっそりとプライベート金庫を設置していた。中には重要な開発資料が幾つも保管されている。今日はそれを取りに来たのだ。「待ちなさいよ!」真菜が苛立ちを隠せず、景凪の腕を掴んで甲高い声を上げた。「あなたは社長夫人って肩書きに乗っかって、姿月に個人的な恨みを晴らしてるんでしょ!恥を知りなさいよ!」さすがにその言葉は度が過ぎていた。海舟は眉をひそめ、真菜を引き離そうと前へ出かけたその時、景凪が氷のように冷たい表情で腕を振りほどき、その勢いのまま手の甲で真菜の頬を強く打った。パシッ!乾いた音が響き、場が一気に静まり返った。海舟は呆然と景凪を見つめ、信じられないといった様子だ。以前の奥様は、優しくて穏やかで、誰かを殴るどころか大きな声を出したことさえなかったはずだ。どうして植物状態から目覚めた彼女が、こんなにも変わってしまったのか?海舟は我に返り、周囲で野次馬をしていた社員たちを一喝した。「みんな、仕事はどうした?ここで立ち止まって何してる?」やはり特別アシスタントだけあって、彼の言葉には重みがある。社員たちはすぐに散っていった。詩由は三歩ごとに振り返りながら景凪を見つめ、口元の笑みを必死でこらえている。目にはキラキラと憧れの輝きが浮かんでいた。格好良すぎる!
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