斯礼に売却した株の代金が振り込まれており、その額は決して少なくない。「いえ、お急ぎには及びません」ところが、然はきっぱりとそれを断った。そして、いかにも真面目腐った声で言う。「穂坂さん。どうか私のプロとしての矜持を尊重してください。勝利を勝ち取る前に報酬のお話など……それは、私に対する侮辱ですよ!」その言葉に、景凪は虚を突かれてあっけにとられ、然に対して尊敬の念を抱かずにはいられなかった。「……はい」彼女は、ネットでの彼の評判を不当に感じ始める。「桐谷先生、ネットでの先生への評価は、あまりに偏っていて酷いものですね。お金のためにしか動かないとか、高額な案件しか受けないとか……先生は、そんな方では決してないのに」「はは、お気になさらず。世間の評判など、気にしたことはありませんから」然は後ろめたそうに鼻の頭を掻き、乾いた笑いを漏らした。好きに言わせておけばいいさ。貧しい人間から不当に搾り取るわけでも、良心を売り渡すような仕事をするわけでもない。金儲けが好きで、何が悪い?至極当然のことじゃないか。然との電話を終えた景凪は、カレンダーに視線を落とした。来週の株主総会の日付に、赤いペンで丸い印をつける。それだけで、これからの日々が少しだけ待ち遠しくなる気がした。ブーッ、ブーッ。手の中のスマホが、短く震えた。画面に浮かび上がったのは、郁夫からのメッセージだった。【郁夫:もう寝たかな?もし気分が落ち込んで眠れないようなら、少しだけ近所を散歩しない?】今夜、家まで送ってくれたのは郁夫だった。深雲が彼女に危害を加えるのではないかと心配し、すぐ近くの角を曲がった場所でずっと待っていてくれたのだ。郁夫のその心遣いに、景凪は心から感謝していた。けれど……景凪は、郁夫からのメッセージをじっと見つめる。彼のこの優しさは、純粋な善意なのだろうか。昔、彼を助けたことへの、ただの恩返しなのだろうか。それとも……私に対して、何か特別な感情を抱いているのだろうか。景凪は小さく頭を振った。自惚れてはいけない、と自分に言い聞かせる。今の私は厄介事だらけで、二人の子供もいる。一方の彼は、今やIT業界の寵児で、その資産は千億円とも言われるほどの人物。そんな彼が、一体私に何を望むというのだろう?丁寧にお断りのメッセージを打とうとし
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