まだ幼いとはいえ、辰希の纏う空気は大人さえ圧倒するほどの威厳を放っている。辰希は冷たい視線で目の前の男の子を睨みつけたまま、何も言わない。ただ一歩、また一歩と距離を詰め、じりじりと部屋の中へと押し戻していく。「お兄ちゃん!」辰希の姿を見て、清音は俄然、強気になった。「お兄ちゃん、早く耀くんのランドセル取って!その中に、弥生ちゃんのぬいぐるみが入ってるの!」辰希は、清音の背後に隠れる弥生に一瞥をくれると、再び目の前の男の子に向き直った。「ランドセル」すっと手を差し出す。幼いながらも、その声には有無を言わせぬ凄みがあった。耀は完全に気圧され、震える手でランドセルを差し出そうとする。その瞬間、亜紀が矢のような速さで駆け寄り、息子ごとランドセルを懐に抱き込んで庇った。「なによ!寄ってたかって、うちの子をいじめる気!?」口ではそう威勢よく叫ぶものの、息子の性格を一番よく知る彼女の瞳は、どこか泳いでいた。「亜紀さん」森屋先生が前に進み出た。「でしたら、耀くんのランドセルの中を調べさせていただけますか。本当に弥生ちゃんのぬいぐるみが入っているかどうか、確認しましょう」「な、なんでうちの子のランドセルをあんたたちに見せなきゃいけないのよ!これは私物よ!あんたたちこそ、うちの子を脅かすのはやめなさい!もしこのことで耀の繊細な心に傷でもついたら、承知しないわよ!」亜紀が、虚勢を張って叫ぶ。一方、傍らにいた莉奈は、ことの次第を察していた。防犯カメラには清音が手を上げる場面が映っていたが、自分たちの息子も、負けじと殴り返していたのだ。ただ、勝てなかっただけで。しかし、二人で共謀して他の子をいじめ、金品を脅し取っていたとなれば、話は全く別だ。問題はより深刻になる。園が本格的に調査に乗り出せば、本当に退園させられかねない。莉奈は息子の手を引くと、こっそりとその場を立ち去ろうとした。だが、二歩も進まないうちに、その行く手を景凪に阻まれた。「亜紀さん、莉奈さん。保護者同士、少しよろしいでしょうか」景凪は微笑みを浮かべていた。彼女は元々、人を寄せ付けないような険しさがなく、整った顔立ちをしている。その上、痩身なせいもあってか、笑うとどこか儚げで、か弱い印象さえ与えた。亜紀と莉奈は顔を見合わせる。彼女が何を言い出すのか、その魂胆を探るよう
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