景凪は思わず言葉を失った。冗談を言っているようには見えなかった。潤一の鋭い眉が険しく沈み込み、いくつもの戦場を潜り抜けてきた者だけが纏う、硝煙の匂いが立ち込めるような威圧感があたりを支配する。彼は本気で、伊雲の身勝手な振る舞いに堪忍袋の緒が切れているのだ。景凪が何か口を開こうとした、その時だった。鼓膜を突き刺すような、女の鋭い叫び声が夜の静寂を切り裂いた。「潤一さん!私は命懸けであなたに会いに行って、弾丸からだって守ろうとしたのに!帰国して私には目もくれないで、どうして病院でこの女と会っているのよ!」伊雲がそこに立っていた。景凪を睨みつけるその瞳には、今にも食らいつかんばかりの憎悪が燃え盛っている。彼女は、戦火の絶えない異国まで潤一を追いかけていった。彼のために食事を作り、服を洗い、甲斐甲斐しく尽くすつもりだったのだ。彼に危険が迫っていると聞けば、なりふり構わず駆けつけた。彼のためなら盾にだってなれる、そのつもりだった。それなのに、この男は彼女を一瞥だにせず、部下に命じて自分を拘束させ、無理やり飛行機に押し込んで強制送還させたのだ。自分への無慈悲な仕打ちなら、まだいい。時間をかけて彼の心を溶かしていけばいいのだから。けれど、なぜ景凪なのだ。彼女にその価値があるというのか。伊雲は怒りに狂い、そのまま景凪に掴みかかろうと突進した。だが、潤一は表情ひとつ変えず、景凪を背に庇うようにして立ちはだかった。「いい加減にしろ。少しは自分の立場を弁えたらどうだ。鷹野家の家訓には『恥を知れ』という言葉はないのか?そもそも、許可なく戦地まで追いかけてくること自体、俺にとっては迷惑以外の何物でもないんだよ」潤一は本来、女性に対しては紳士的に振る舞う性分だが、伊雲のような救いようのない愚か者は、彼の逆鱗をこれでもかと踏み荒らしていた。「潤一さん、私が無鉄砲だったのは分かってる……でも、どうしてもあなたに会いたかったの!あなたが無事か心配で、居ても立ってもいられなくて……」伊雲は悔しさに瞳を潤ませ、縋るように潤一の腕を掴もうとした。だが、彼は苛立ちを隠そうともせず、その手を冷たく振り払う。「君が会いたいと言えば、俺が応じるのが当然だとでも思っているのか?」射抜くような冷徹な視線が彼女を貫く。「随分と自分に自信があるようだが、自惚れるのも
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