玲凪の瞳にほんの一瞬だけよぎった迷いの色を、深雲は見逃さなかった。彼はフッと鼻で笑い、それ以上誘うのをやめた。もともと酔った勢いの気まぐれだ。餌は撒いた。魚が針を飲み込まないというなら、別の魚に変えればいいだけの話だ。「酔い覚ましのスープ、助かったよ。利用証は後日、誰かに大学まで届けさせよう。気をつけて帰れ」そう言い残し、深雲は背を向けてエレベーターへと歩き出した。エレベーターに乗り込み、かつて景凪が住んでいた階のボタンを押す。目の前で扉が閉まりかけた――まさにその瞬間だった。スッと細い腕が隙間に伸びてきて、扉が閉まるのを遮った。「待ってください!」センサーが反応して再び開いた扉の向こうには、緊張と決意の入り混じった玲凪の顔があった。深雲の顔に驚きはない。玲凪はギュッと下唇を噛み締め、震える声で言った。「鷹野さん……私、上まで取りに行きます」深雲の口角が、満足げに吊り上がった。再び扉が閉まり、目的の階でエレベーターを降りた時、そこには二人の人影があった。深雲は先頭を歩き、景凪が以前借りていた部屋のドアを開けた。中へ入っても、彼は照明のスイッチを入れようとしない。玲凪は彼が忘れているのだと思い、壁のスイッチに手を伸ばした。しかし――「電気はつけるな」背筋が凍るような冷ややかな声で制止され、玲凪はビクッと肩を震わせて慌てて手を引っ込めた。「ドアを閉めろ」ここまで彼について部屋に入ったのだ。今さら変に拒絶して、貞淑な女を気取るつもりもない。彼女は言われた通り、素直に玄関のドアを閉めた。室内は暗かったが、窓から差し込む街のネオンの光で、部屋の様子がうっすらと浮かび上がっていた。玲凪は周囲をそっと見回した。ここは……まるで、女の人が小さな子どもと一緒に暮らしていた部屋みたい……「こっちへ来い」主寝室から、深雲の低い声が響いた。玲凪が言われるがままに足を踏み入れると、深雲はクローゼットの前に立っていた。中に掛かっているのは、すべて女性物の衣服ばかりだった。玲凪は内心驚いたが、余計な口出しはできない。深雲はその中からひときわ艶やかな赤いネグリジェを取り出し、ベッドの上に無造作に放り投げた。「着替えろ」微かに掠れたその声は、静まり返った空間の中で、息が詰まるような異様な威圧感を放っていた。「鷹野さん
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