承平は今日は最初から酒を飲むつもりはなかった。だが、清香がわざわざ赤ワインを持ってきた以上、まったく口をつけないわけにもいかなかった。彼は運転手を先に帰らせていたため、帰りは代行運転を呼ぶしかなかった。道中、清香はずっと彼の肩にもたれ、「承くん、承くん」と甘えた声で呼び続けていた。代行の若い運転手は、バックミラー越しにこっそり二人の様子をうかがい、承平の眉間の皺は一度も消えなかった。ようやく清香の住むマンションに着き、警備員が車内の彼女を確認してからようやく通してくれた。ここまで酔っている清香を、そのまま置いて帰るわけにはいかない。代行も待ってはくれず、承平は清香をソファに横たえ、湯を一杯入れて差し出した。「清香、水を飲んで」「いらない……気持ち悪いの、吐きそう……」「吐きそうか?」承平は慌てて立ち上がった。「ちょっと待って、ここじゃダメだ。はい、ゴミ箱……今なら吐いていい」清香はゴミ箱を抱きしめ、うめくようにすすり泣いたが、結局何も吐けなかった。承平はどう対処していいのかわからず、思わず俊明に電話をかけた。電話口の俊明の声は、すでにろれつが回っていなかった。「折原社長、どうかなさいましたか?」「お前……酒を飲んでるのか?」承平はすぐに察して、眉をひそめた。「ええ、接待でして、仕方なく……折原社長こそ、清香さんと食事中じゃなかったんですか?」「そうだが、彼女が酔いつぶれてしまってな」「清香さんが酔ったんですか?ああ、私はもう飲みすぎてダメです」俊明は少し考えて言った。「では、申し訳ございませんが、もう少々お待ちください。清香のアシスタントを呼びます。彼女に任せましょう。ただ、芳里は少し遠い所に住んでいるので、到着まで一時間以上かかるかもしれません」「大丈夫だ」「では、今すぐ彼女に連絡します」俊明は電話を切ると、すぐに芳里へ連絡を入れた。夜も遅く、電話を受けた芳里は寝ぼけたように戸惑っていた。「清香さんが酔いつぶれて、今、折原社長が世話をしてる。すぐに行ってくれ」俊明は開口一番そう告げた。芳里は一瞬言葉を失い、すぐに返事をした。「はい、すぐに伺います!」「急ぐな!まだ話は終わってない!」すでにベッドから飛び起きていた芳里は、その言葉に動きを止めた。「俊明さん、何か他にご指示でも
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