Semua Bab 離婚したら元旦那がストーカー化しました: Bab 361 - Bab 370

449 Bab

第361話

承平の投稿は至ってシンプルだった。文字は一切なく、添えられていたのは一枚の写真だけ。その写真は――婚姻届受理証明書。今まさにネットを騒がせている折原グループの社長・承平と郁梨の婚姻届だった。投稿の直後、折原グループの公式アカウントがその投稿をリポスト。それが事実であることを、公然と証明したのだ。郁梨は間違いなく折原グループの社長夫人。紛れもない事実だった。ネットは一瞬にして爆発的な騒ぎとなった。そして細部まで目を光らせていたユーザーたちは気づく。二人が婚姻届を提出したのは三年前。そして郁梨の母が亡くなったその日は、まさに二人の結婚三周年の記念日だったのだ。【道理で、郁梨は撮影所でうちの推しとドラマ撮ってたはずなのに、急に戻ってきたと思ったら……折原社長との結婚記念日のためだったんだね】【でもおかしくない?結婚記念日なら普通は一緒に過ごすでしょ?どうして郁梨はひとりで病院に?しかも足まで血だらけだったって】【ほんとだよ、何があったの?その時、折原社長は郁梨のそばにいなかったの?】【郁梨って、そんなに可哀想な状況だったの?折原社長って彼女のこと大事にしてるように見えたけど……SNSアカウントも作ってたじゃん?なのに放置してたってこと?】【さあね……もしかしたら、郁梨はもう愛されてないんじゃない?捨てられる寸前とか】【誰が捨てられるって?郁梨はあんなに綺麗なのに、折原社長が捨てるわけないでしょ?あなた、清香のファンか?まったく推しにそっくりで気持ち悪いんだけど】【清香さんは映画界の女王様よ?郁梨なんて、その足元にも及ばないでしょ】【郁梨が清香と比べられるとか、笑わせないで!格が違いすぎるわ】【清香のファンはさっさと消えて。折原社長に訴えられても知らないよ?】【私は文太郎のファンで、ただの通りすがりだけど――さすがに言わせてもらうわ。清香のファン、本当にひどすぎる。郁梨のお母さんが亡くなったばかりなのに、こんな場所で皮肉言ってるとか、少しは良心を持ちなよ!】郁梨と折原グループの社長が、すでに3年前に婚姻届を出していたという事実は、ネット上で瞬く間に拡散され、多くのユーザーの注目を集めることとなった。意外だったのは、それがただの議論や疑念にとどまらず、やがてファン同士の激しい罵り合いに発展していったことだ。当
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第362話

清香はそこまで言うと、まるで得意げな様子で甘い声で笑った。「彼らが離婚すれば、私にチャンスが回ってくるのよ、俊明。あなたはずっと私が折原グループの社長夫人になることを望んでいるでしょ?私たちはその未来にますます近づいているのよ、喜ぶべきじゃない?」喜ぶ?俊明はどうしても喜べなかった。「清香さん、考えたことがありますか?もし事が露見して、この件が清香さんの陰謀だと知られたら、私たちはどうすればいいんでしょう?郁梨があなたを許せると思いますか?折原社長は?それに折原家は?」俊明の声は次第に重くなったが、清香は気にも留めないふうだった。「俊明、そんな取り越し苦労やめてくれない?浩輝は仕事が頼りになるの。たとえ調べられても、何も出てこないから安心して」「安心?浩輝こそが一番不安定な要素です。安心できるわけがないでしょ」と俊明は言った。「あの人?」清香は嗤うように笑った。「金さえ払えば何でも解決できるわ。それに、これは浩輝がやったことよ。彼が口を割る勇気があると思う?」俊明はその言葉を聞いて、ようやく眉が少し緩んだ。「とにかく、これから何かする時は必ず私と相談してください」「わかったってば」清香は白い目を向けて言った。「あなた、本当にどんどん臆病になってるわね。こんな些細な事で何を心配してるの?」「些細なこと?」俊明は驚愕した。「郁梨の母親が亡くなったんですよ、それでも些細なことですか?」「亡くなったってどうだっていうの?人はみんな死ぬのよ。郁梨の母親はもともと癌で、あと数か月しか持たなかったのよ。私は彼女を助けてあげたの。早く亡くなれば早く成仏できるって、わからないの?」俊明は眉をひそめた。「人が亡くなったっていうのに、そんなことを言うのはどうかと思いますよ」「私の言ってること、間違ってる?」清香はだるそうにソファにもたれかかった。「時には、生きることより死んだほうがマシよ」俊明は納得できずに言った。「清香さん、どうしてそんなに極端になっちゃったんですか?」「極端?」清香は眉をひそめて、不機嫌そうに言った。「俊明、私はただ、本来私のものであるはずのものを取り戻したいだけよ。忘れたの?手段を選ばない人だけが、欲しいものを手に入れられるって、教えてくれたのはあなたじゃない」俊明はハッとして言葉を失った。清香
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第363話

郁梨がこの件を知ったのは、承平が二人の関係を公表してからすでに四時間が過ぎた頃だった。明日香は多忙な合間を縫って、郁梨を見舞うために病院まで駆けつけてくれた。多忙という言葉も、大げさではない。郁梨の母親が亡くなって以来、ネット上では郁梨に関する話題が絶えず、明日香は一日中その対応に追われていたのだ。そこへ追い打ちをかけるように、承平が何の前触れもなく突然、二人の関係を公にしてしまった。おかげで明日香は、さらに忙しくなった。この日の午後だけでも、真偽を確かめるために電話をかけてきたメディア関係者が百人を超え、明日香は仕方なく携帯の電源を落として、ようやくひとときの静けさを得たのだった。明日香はスタジオを出ると、その足でまっすぐ病院へ向かった。彼女が持ってきたのは、未開封の携帯電話一台だけだ。郁梨の携帯電話はすっかり壊れていたが、彼女にはそれを買い替える余裕もなかった。そんな中、明日香が気を利かせて、わざわざ新しい携帯を届けてくれたのだった。「白井さん、ご親切に」蓮子は、明日香が郁梨のためにSIMカードを入れ替えている様子を見ながら、社交辞令の笑みを浮かべた。「会長夫人、これは私にとって当然のことです」折原グループの会長夫人を前にして、明日香はやや緊張しているようだった。蓮子は穏やかに微笑んだ。「午後からずっと座りっぱなしだったので、少し体を動かそうと思います。ついでに果物でも買ってきますから、白井さん、郁梨のことを少しお願いできますか」蓮子が、二人きりで話せる時間をわざと作ってくれたのだと、明日香はすぐに察した。「わかりました。お気をつけてください」そう感謝の気持ちを込めて返事をした。蓮子が病室を後にすると、明日香は青ざめた顔の郁梨を見つめ、心配とやるせなさが入り混じったように、ため息をついた。「郁梨さん、大丈夫ですか?」ここ数日、明日香には郁梨に何があったのかを聞く余裕などなかった。ただただ焦りながら今日までを過ごし、ようやく会えたというのに、最初に出た言葉は彼女を案じる一言だった。その気遣いに、郁梨の胸はじんと熱くなった。「大丈夫です。心配しないでください」と、かすかに笑みを浮かべながら言った。本当は、大丈夫なんかじゃなかった。けれど――この件に関しては、明日香にできることは何もない。だからこそ、
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第364話

明日香は郁梨の手を軽く叩いて言った。「大丈夫ですよ、私は郁梨さんのどんな決断も応援しますから。なんとかなりますよ。離婚しても全然いいと思います。芸能界って、むしろ独身の方が有利ですし」もし承平が力づくで来るようなことがあれば、郁梨たちが折原グループに立ち向かうなんて無謀もいいところだ。それでも、明日香のこの一言が、郁梨の心をじんわりと温めた。血の気のない唇が、かすかに持ち上がる。「白井さん……ありがとうございます」「何を今さら。私たち、同じチームの仲間ですから。一緒に戦うのが当然でしょ」そんなふうに二人で言葉を交わしていたちょうどその時、病室の扉が開いた。入ってきたのは承平だった。明日香がいるのを目にして、彼はわずかに驚き、反射的にわずかな拒否反応を見せた。「白井さん、なぜここに……」明日香は承平の視線を真正面から受け止め、まったく怯む様子を見せなかった。「私は郁梨さんのマネージャーです。来ちゃいけませんか?それとも……折原社長、私が余計なことを口にするのが怖いんですか?」承平は手に持っていた保温容器をテーブルの上に静かに置き、冷たく言い放った。「何を言ってもらってもかまいませんよ」その言い方からして、明らかに彼はすでに明日香が郁梨に何か話したと察していた。けれど承平は、明日香など最初から眼中にないかのように、ゆっくりと病床へと歩み寄り、穏やかな声で問いかけた。「……体調は少し良くなったか?」その瞬間、郁梨の眉がぎゅっと寄った。どうしてこの人は、まるで何事もなかったみたいに、そんなことが言えるの?傍らにいた明日香も、思わず混乱していた。ついさっき郁梨から、二人が離婚訴訟を起こすしかない状況まで追い詰められていると聞いていなければ――危うく、仲睦まじい夫婦のひとコマだと勘違いするところだった。郁梨は彼の問いに答えなかった。だが承平は気にする様子もなく、さらに問いかけた。「お母さんは?どうしていないの?」病室には相変わらず沈黙が流れていたが、ちょうどそのタイミングで蓮子が戻ってきた。おかげで承平は、気まずい空気に取り残されずに済んだ。いや、もしかすると、彼は厚かましいので、最初から気まずさなど感じていなかったのかもしれない。「今日はずいぶん早いのね」蓮子は先ほど病室で何があったのかを知らず、手にしたフルーツをテ
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第365話

郁梨は一瞬も目を逸らさずに、承平をじっと見つめていた。彼が一体何を考えているのかはわからなかった。けれど、彼が本当に何でもやりかねない人間だということだけは、よく知っている。結局――彼女はおとなしく、口元まで運ばれた料理を一口食べた。食べ終わるや否や、次の一口がすぐに差し出される。さらにまた一口、そしてまた一口……承平の威圧的な気配のなか、郁梨は知らず知らずのうちに、たっぷりとよそわれた料理をすべて食べきっていた。ここ数日で、最もまともに食べた食事だった。承平はゆっくりとテーブルの上を片づけると、傍らの椅子を引いて、病床のすぐ横に腰を下ろした。「郁梨……腹を割って話をしよう」まさか自分から「話し合おう」と言い出すとは――郁梨は少し意外そうに彼を見たが、すぐに唇の端を冷たく歪めた。「どれくらいの誠意があるっていうの?」その言葉に、承平の胸の奥が締めつけられるように痛んだ。自分は、どれだけ彼女に嫌われてしまったんだろう。ここまで疑われるほどに。承平は膝の上に置いた大きな手に力を込め、平静を装いながら口を開いた。「郁梨、俺は本気で言ってる。お前の気持ちを、正直に聞かせてほしい。俺も、自分の思っていることを一つ残らず話す。お互い、隠し事なしで話し合おう」離婚は一人では決められない。二人の問題である以上、向き合って話すのは当然だ。彼が話す気になってくれるのなら、それに越したことはなかった。「じゃあ、私から。結婚前に交わした契約書、覚えてるよね。あそこには、結婚をいつ終わらせるかはあなたが決めるって書かれていて、離婚する時には、私に6億円の慰謝料を支払うって――でも今回、離婚を切り出したのは私の方なので、契約違反になるわ。だから、その6億円は払わなくていい」承平の鼻の奥がつんと痛んだ。郁梨は一切の前置きもなく、いきなり本題に入った。どこまでも距離を取るその態度に、彼女の決意の固さが、嫌というほど伝わってきた。「それから、あなたは結婚後に私に車を二台買ってくれた。離婚した後、暇があったら名義を変えておくわ。あと、毎月送ってくれていた生活費……額が多すぎて、使い切れなかったので。カードにはまだ、たぶん6億円くらいは残ってると思う。それも全部、お返しするので」承平の胸の奥が、さらにきつく締めつけられるようだった。生活費まできっちり返そう
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第366話

承平の顔が青ざめた。「そんなに俺と離婚したいのか?」郁梨は眉をひそめて淡々と答えた。「したいかどうかの問題じゃないの。私たちの関係は、もう取り返しのつかないところまで来てしまったのよ」「試しもしないで、どうして取り返しがつかないとわかる?郁梨、俺が取り戻したいのはお前なのに、そのお前がチャンスをくれないんだ!」「どうやってチャンスをあげろっていうの!」郁梨の声は一気に高まり、そして力なく沈んだ。彼女は独り言のように呟いた。「承平、もうあなたにチャンスをあげる勇気なんてないの。わかってる?」「郁梨!」承平は突然立ち上がり、郁梨の手をぎゅっと握りしめた。彼の目には必死の懇願が浮かび、全身が小さく震えていた。「本当に自分の過ちに気づいた。二度としないから、もう一度だけチャンスをくれないか?もう一度だけ俺を許してくれないか?これが最後だ、本当に最後だって誓う!」承平の大きな手はいつも温かく、握られるたびに、まるで陽だまりに包まれたような感覚があった。けれど今、その手は氷のように冷たかった。郁梨が顔を上げると、承平の目は真っ赤に充血し、心の底から後悔しているように見えた。なんて滑稽なんだろう。人はみんな、失って初めて後悔するものなの?郁梨は無理やり自分の手を彼の手から引き抜いた。承平はその瞬間、手の中が空っぽになり、同時に心まで空洞になってしまったように感じた。「私はチャンスをあげたわ。母が亡くなったあの日よ。承平、あなたも覚えているでしょう、あれが最後のチャンスだったの。私は心から喜んでその機会をあげたのに、あなたはそれを受け取らなかったじゃない。少しも大切にしなかった。むしろ、また私の信頼を踏みにじったのよ!」あの時、彼女は心の中で自分に言い聞かせた。これが承平に与える最後のチャンスだと。ようやくお互いの気持ちを確かめ合い、幸せな結婚生活が始まると思っていたのに――現実は、再び彼女を地獄へ突き落とした。郁梨の心は恨みでいっぱいだった。こんな結末を迎える必要なんてなかったのに!「承平、この三年間、私はあなたに何度もチャンスをあげてきた。多分、それが簡単に手に入るものだから、あなたは好き勝手に無駄にしてきたのね。全部使い果たした今になって、また私に求めてくるなんて?でも、もうないの。私はとっくに、自分を空っぽにしてしまったの」
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第367話

承平はいつだって主導権を握っていた。結婚生活でも、恋愛関係でも、彼女は終始、支配される側だった。離婚のことは、彼女のなかであらゆることを考え尽くしていた。あとは手続きをするだけだったのに――承平の「お前と離婚するつもりなんて一度もなかった」という一言が、彼女の羽をへし折った。まるで大空へ羽ばたこうとしたカナリアが、再び鳥籠に閉じ込められたかのようだ。もがいても、叫んでも、すべて無駄だった。「承平、あなたに何の権利があるの?」お粥を食べて少し血色が戻った郁梨の顔は、次の瞬間また真っ白になった。「結婚も離婚もあなたの都合で決めて、今は離婚したくないって言う。でも私は、拒むことすら許されないの?私は一体……あなたに何を負っているというの?」郁梨の言葉ににじむ無力さが、承平の胸を鋭く突き刺した。「お前は俺に何も負ってなんかいない。負っているのは俺のほうだ。郁梨、俺は一生かけても償いきれないほどお前に借りがある。だから、一生をかけて償わせてくれ。埋め合わせをさせてくれ。お前を守らせてくれ。いいだろう?」「いらないわ。そんなもの、私には必要ないの。わかってる?ただ、私の世界から完全に消えてほしいの。承平、あなたの償いも世話もいらない。もうこれ以上あなたと関わりたくないの、わかる?どうして?どうして私を解放してくれないの!」「お前を解放?」承平は苦笑を漏らした。真っ赤に充血した目で彼女を見つめ、かすかに呟く。「じゃあ、誰が俺を解放してくれるんだ?郁梨、教えてくれ。お前なしで俺はどうすればいい?何もかも俺の言いなりで、お前には拒む権利がなかったって言うけど、今のお前の態度はまさにそれじゃないか?」承平は今にも泣きそうなほど悔しげな顔をしていたが、郁梨にはまるで理解できなかった。いったい何の芝居をしているの。「はっきり言ってよ。私があなたに何をしたっていうの!」承平の声は詰まり、目は涙で赤く染まっていた。今にもこぼれ落ちそうなその涙をこらえながら、彼は必死に訴えた。「あまりに残酷だよ、郁梨。前はあんなに優しかったのに。お前の存在に慣れて、その気遣いに甘えるのが当たり前になって。俺の心の中にお前が根を下ろしたのに……それで今さら俺を捨てるのか!」まるで彼女のほうが、気まぐれに男を捨てる冷たい女のように聞こえた。「郁梨、勝手に俺を捨てら
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第368話

承平の手が一瞬止まったが、すぐにまた優しく彼女の涙を拭い始めた。その仕草はまるで、手のひらに載せた宝物を扱うかのようだった。「どうしたら私を解放してくれるの?承平、はっきり答えて」「やめてくれ、それ以上言わないでくれ!」承平は彼女と向き合う勇気をなくし、逃げるように病室を後にした。病室は一瞬にして静まり返り、郁梨の泣き声さえも聞こえなかった。――承平は病院の廊下で二時間近く立ち尽くしたあと、病室に戻った。テーブルから果物を取って洗面所で丁寧に洗い、小さく切り分けて皿に盛った。それは、見よう見まねだった。以前は、承平が食後に書斎で仕事をしていると、郁梨がいつも果物やお菓子を用意してくれたものだった。「果物でも食べるか?お母さんがわざわざ買ってきたんだ」承平は何事もなかったように振る舞い、郁梨は困惑した。これでどうやって離婚できるというの?「承平……」「言いたいことはわかってる。でも今はその話はやめよう。どうせ答えは出ないだろう?今は何よりも体を治すことが大事だ」それから数日間、承平は意図的にこの話題を避け続け、郁梨が話そうとすると話をそらした。郁梨にはどうすることもできなかったが、この問題はいずれ解決しなければならない。彼はいったいいつまで逃げ続けるつもりなの?体が良くなるまで待てと言うのなら、今はその時を待つしかなかった。やがて、郁梨の退院の日が来た。承平は会社に行かず、蓮子も朝早くから病院に来ていた。「郁ちゃん、私たちの考えではね、しばらくは実家のお屋敷で過ごしてはどうかと思うの。体も完全には回復していないし、承平は昼間仕事で、あなた一人だとし心配なのよ」郁梨は少し困った表情を浮かべた。彼女が断ろうとする前に、蓮子が続けた。「郁ちゃん、実家のお屋敷ではあなたが前に使っていた部屋を使いなさい。客室も片づけてあるから、あの子はそっちに寝かせるわ」「あの子」とは承平のことだ。目上の人がここまで気を遣ってくれるのでは、郁梨ももう断れなかった。それに、引っ越し先を探すなど、まだ整っていないことも多かった。車が実家のお屋敷に着くと、郁梨は承平の祖母の姿が見えず、不思議に思った。「お義母様、お祖母様は?」祖母は彼女が来るのを知っていたら、きっとリビングで待っているはずだった。蓮子は承
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第369話

承平の祖母は思ったより元気そうだ。郁梨はその姿を見て、ようやく胸を撫で下ろした。この数日、どうしても祖母の体調が気がかりだったのだ。「郁ちゃん、体の具合はもう大丈夫?足の傷はまだ痛むの?」祖母は郁梨を見るなり、すぐに歩み寄って彼女の手を取った。祖母だけが、郁梨の手をあのプラスチックの箱から一瞬だけ離させることができた。「お祖母様、私はもう何日も入院していたから、とっくに大丈夫ですよ。それよりお祖母様こそ、お義母様から聞きました。最近ずっと寝てばかりだとか……体の具合が悪いんですか?」祖母は郁梨を見ると嬉しそうに、うれしそうに目を細め、優しく笑った。「大丈夫よ、ただゆっくり休みたかっただけ。年寄りの体なんだから、たくさん寝るのも悪くないよ」年配の人がよく眠れるのはいいことだ。郁梨は安心して笑みを浮かべ、祖母と話し始めた。その間、栄徳と蓮子も会話に加わったが、承平だけは、折原の姓を持ちながら、まるで外の人のように黙っていた。郁梨が退院したのは午前中で、折原家の屋敷に着いたときには、ちょうど昼食の時間になっていた。台所には、肉も野菜も並んだ栄養たっぷりの料理が所狭しと並べられていた。折原家の人たちがどれほど自分を気遣ってくれているか、郁梨はよくわかっていた。昼食のあと、郁梨は待ちきれないように母の遺品の箱を抱え、二階へと上がっていった。栄徳が承平に目を向けた。「午後も会社に行くのか?」承平は思わず二階を見上げ、軽く首を振った。「行かない」郁梨のことが心配だった。母の遺品を見れば、きっと泣くだろう。彼はその涙を見るのがつらかった。自分が好かれていないことはわかっている。だからこそ、彼にできるのはただ静かに見守ることだけ――たとえ隣の部屋でも、壁一枚隔てたところでも、それでよかった。少なくとも、彼はそばにいることができたのだから。「お父さん、お母さん、おばあちゃん、俺も上に行くよ」蓮子は慌てて彼を呼び止めた。「承平、上がってどうするの?郁ちゃんはきっとお母さんの遺品を見てるのよ。邪魔したらだめでしょう」「わかってるよ。邪魔はしない」彼には行く勇気などなかった。如実に関するものは、どうしても目を向けられなかったのだ。蓮子はまだ眉をひそめていた。「あなたの部屋は片付けておいたわよ。東側の部屋よ」承平は小さくう
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第370話

写真は全部で三枚。二枚は古いもので、一枚はここ数年のうちに撮られたものだった。郁梨と如実のツーショットはほとんどなく、記憶にある二枚だけが、今ここに揃っていた。一枚は、郁梨が赤ん坊のころ。如実が彼女を腕に抱き、まんまるな瞳でカメラを見つめる彼女の姿が映っている。その写真を見ると、郁梨は思わず涙をこぼした。けれど、口元には微笑みが浮かんでいた。郁梨は写真の中の如実の顔をそっと撫でた。「お母さん……あの頃は、なんて若くて、きれいだったんだろう」人々は、そんな彼女の母を「自分勝手だ」と責めた。夫が亡くなったあとも子どもを産み、この子を父親のいない可哀そうな子にしたのだと。誰も如実を思いやらなかった。若くして夫を亡くした如実は、本当なら子どもをあきらめて、別の幸せを選ぶこともできたのに――それでも如実は、母としての優しさと慈しみから、この世に生まれようとした命を自らの手で絶やすことができなかった。郁梨は笑いながら泣いた。涙がぽたりと写真に落ち、慌てて拭い取る。それから写真を少し遠ざけ、もう二度と汚してしまわないように、両手で大切に持ち直した。もう一枚の古い写真は、小学生のときに撮られたものだ。学校で行われた記念撮影に、保護者も参加できる日。郁梨はおそるおそる如実に「来てくれる?」と聞き、忙しい如実はそれでも笑って「行くわ」と約束してくれた。その日のことは今も鮮明に覚えている。お母さんが少し遅れて到着し、カメラマンが片づけようとしていたとき、自分は泣きじゃくりながら必死に引き止めた。やがて駆けつけたお母さんを見て、カメラマンはお母さんが教師で、わざわざ学校から急いで来たと知り、わざわざ二人に一番きれいな場所を選んでくれた。夏の日差しの下、二人は学校のシダレヤナギの木陰で並んで写った。二人とも笑顔だった。ただひとつ惜しいのは、郁梨の目が真っ赤に腫れていて、泣いた跡がくっきり残っていたことだ。「お母さん……入院していたとき、何度この写真を手に取って、あの日のことを思い出しては泣いたんだろう」郁梨は、ふとそんなことを思った。彼女は写真をそっと置き、涙をぬぐってから、最後の一枚を手に取った。それは大学の卒業式の日に撮った、一人きりの写真だった。ローブに身を包み、花束を抱えて、太陽のように明るい笑顔を見せている。あの日の彼女は
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