Share

それぞれの贈り物

last update Last Updated: 2025-09-02 07:16:35

屋敷に戻る。たくさん見て回った筈だけど、まだお昼だった。昼食にテオが戻って来る。

「街は楽しかったかい?」

聞かれて頷く。

◇◇◇

「えぇ、とても。それでね、あなた」

あなたと呼ばれてドキッとする。

「ん?何だい?」

聞くとジルは微笑んで俺に何かを差し出す。それはプレゼントの包みだった。

「これは……?」

聞くとジルが言う。

「あなたに。開けてみて」

俺は包みを開ける。中には青い革の手袋が入っていた。

「ほぅ、青か、珍しいな」

ジルがワクワクした様子で言う。

「付けてみて」

言われて手袋を付ける。柔らかく、それでいてしっかりとした作りだ。職人の腕が良いんだろう。

「どうだい?似合うかい?」

聞くとジルはうっとりしている。

「似合うわ、とても……」

そんなジルに微笑んで、俺は手袋を付けたまま、ジルの顎に手を添えて顔を上げさせる。

「こういうふうに使うんだろ?」

顔を近付けて言うとジルが言う。

「そうよ」

そのまま口付ける。口付けたままジルのうなじに手を回す。革の音がする。

◇◇◇

ジルは街での買い物について話してくれた。まだ渡していないから内緒にしてくれと。そんなふうに言うジルが可愛くて仕方ない。

「で、君自身のものは買ってないのかい?」

聞くとジルは微笑む。

「私のは良いの」

そして俺を見上げて言う。

「あなたがくれる物以外、欲しい物なんて無いもの」

そう言われて微笑む。

「そうか。なら街ごと買ってやる。国でも良いぞ?」

言うとジルが俺をホンの少し押す。

「もう!そんな事言って!」

笑ってジルを抱き寄せる。

◇◇◇

仕事に戻って行くテオに付いて行く。途中でテオの侍従であるダイナスとノリスが合流する。私は二人に錫製のマントの留め具をプレゼントする。二人とも飛び上がりそうな勢いで喜び、その場で付けてくれた。詰所に行くと参謀のマクリー卿と団長補佐のマドラス卿が居た。その二人にもプレゼントを渡す。

「頂いても宜しいのですか!」

マクリー卿が聞く。

「あぁ、構わない。ジルが選んで来たんだ、貰ってくれ」

テオがそう言うと二人とも震える手でプレゼントを開ける。中にはルビーをあしらったマントの留め具がある。

「これは!」

「何と!」

二人とも言葉を失い、感動しているようだった。

「す、すぐにでも……いや、家宝にするべきか」

マクリー卿が言う。私は笑う。

「すぐに使って頂けるかしら
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   欲望の手枷

    言われてテオを見る。テオは微笑んで立ち上がり、私の手を引く。連れて行かれたのはお風呂。お風呂の隅に立つとテオがガウンの紐を解く。「ジルが前に見たいって言ってただろ?だから見せてあげるよ」テオはそう言って私を見て微笑む。「しゃがんで」そう言われてしゃがむ。目の前にはテオのそれがある。テオは自分でそれを掴むと言う。「見られてると恥ずかしいな」そう言いながら天を仰ぐ。「……出るよ、ジル」言われて視線を戻す。テオの半勃ちのそこからそれが溢れて来る。ジョロジョロと出されるそれを目の当たりににする。あぁ、すごい、出てる……。テオは私の頭を撫でている。出し終わると雫が垂れる。◇◇◇「そんな顔するな……」ジルはとろけてしまいそうな顔をしている。「食べたいのかい?」聞くとジルが頷く。「良いよ」言うとジルがそれを口に含む。「あぁ……」天を仰ぐ。いやらしい格好で俺の前に跪いて、こんな事…ジルの頭が艶めかしく動く。ジルの頭を撫でながら腰が動いてしまう。「はぁ……はぁ……んっ……」ジルの手が俺のそれの根元を握り、しごく。「あぁ……ジル……イキそうだよ……」そこにグンと力が入る。ジルの口からそれを引き抜き、それを握ってしごく。「見ていて、ジル……出すとこ、見ててくれ……」動きを早める。「あっ……ジル……」ドピュッと噴き出す白濁液。ジルはそれを見ている。あぁ、見られている、自分でしごいて出すところを見られている……白濁液が糸を引いて垂れる。息を切らしてジルを見る。ジルはペタンと座ってしまう。それを見て微笑む。俺はそんなジルを抱き上げる。◇◇◇お湯で軽く流した足を拭いてやり、ジルに囁く。「目を閉じて……」ジルが目を閉じる。俺はスカーフを出してジルに目隠しする。「テオ……?」ジルが不安がらないようにジルの手に触れる。「大丈夫」そう言ってジルを抱き上げ、ベッドに上がる。ジルを座らせて言う。「両手を出して」ジルは言われるがまま両手を出す。ジルの手首にタオルを巻く。そして、用意してあった革のベルトをその上から巻いて固定する。「寝かせるよ」そう言ってジルを寝かせる。「両腕を上げて」ジルが両腕を上げる。ベッドヘッドにある飾り穴にベルトを通して固定する。「痛くない?」聞くとジルが頷く。ギシギシと革が軋む音がする。口付ける。舌を絡

  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   秘密の贈り物

    ノックがしてメアリーが現れる。「お呼びですか、奥様」入口に立っているメアリーに言う。「そうなの、ちょっとこっちへ来てくれる?」私の座っているソファーにメアリーが近付く。「ここへ座って」すぐ横をトントンと叩く。メアリーが遠慮がちに座る。「何でしょう」メアリーが聞く。入口にはギリアムが立っていて、含み笑いをしている。「あのね、メアリー。あなたに渡したい物があるの」そう言って包みを出す。メアリーは包みと私を交互に見て聞く。「これは……?」聞かれて私は微笑む。「あなたによ、メアリー」途端、メアリーは息を飲む。「私に?」メアリーの手にそれを載せる。「開けてちょうだい」言うとメアリーが包みを開ける。中には眼鏡用のチェーンが入っている。「奥様……」メアリーの目にはもう涙が溜まっている。「あなたにはいつも助けて貰っているもの、テオも私もね。この御屋敷の侍女たちを纏め上げてくれているあなたに、感謝を込めてね」メアリーの肩を撫でる。メアリーが俯いて肩を震わせる。「泣かないで、貰い泣きしそうだわ」「アンを呼んでくれる?」言うと二人が微笑む。「はい、奥様」二人とも新しい眼鏡チェーンがよく似合っている。ギリアムには黒い鎖のものを、メアリーには金細工のものを贈った。パタパタと足音がしてアンが現れる。「奥様、お呼びでしょうか」アンはまだ若い。私とそんなに歳も変わらない。子爵家の令嬢だけれど、ここへ奉公しに来ている。「アン、ちょっとこっちへ来て」アンは私の傍まで来る。私は立ち上がってアンの前に立つ。ここの侍女の服はちょっと特殊だ。普通一般的には黒の侍女服なのだが、ここは濃紺。色だけで王弟に仕えていると一目で分かる。普通、装飾品などは付けないのが一般的だけれど、出自の家柄が高い者は首元などにブローチを付けたりする。この屋敷にも何人か、そういう侍女が居るけれど、アンは違った。私はアンの首元にアメジストをあしらったブローチを付ける。「奥様、これは……?」アンが聞く。私は微笑んで言う。「あなたがここで私に仕えているという証よ。これを付けていれば、どこへだって行けるわ。私の侍女なのだから」アンはポロポロと涙を零して泣く。「奥様……」アンを抱き締める。「泣かないで。あなたにはこれからもっと頑張って貰うんだから」◇◇◇ジルのプレゼ

  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   それぞれの贈り物

    屋敷に戻る。たくさん見て回った筈だけど、まだお昼だった。昼食にテオが戻って来る。「街は楽しかったかい?」聞かれて頷く。◇◇◇「えぇ、とても。それでね、あなた」あなたと呼ばれてドキッとする。「ん?何だい?」聞くとジルは微笑んで俺に何かを差し出す。それはプレゼントの包みだった。「これは……?」聞くとジルが言う。「あなたに。開けてみて」俺は包みを開ける。中には青い革の手袋が入っていた。「ほぅ、青か、珍しいな」ジルがワクワクした様子で言う。「付けてみて」言われて手袋を付ける。柔らかく、それでいてしっかりとした作りだ。職人の腕が良いんだろう。「どうだい?似合うかい?」聞くとジルはうっとりしている。「似合うわ、とても……」そんなジルに微笑んで、俺は手袋を付けたまま、ジルの顎に手を添えて顔を上げさせる。「こういうふうに使うんだろ?」顔を近付けて言うとジルが言う。「そうよ」そのまま口付ける。口付けたままジルのうなじに手を回す。革の音がする。◇◇◇ジルは街での買い物について話してくれた。まだ渡していないから内緒にしてくれと。そんなふうに言うジルが可愛くて仕方ない。「で、君自身のものは買ってないのかい?」聞くとジルは微笑む。「私のは良いの」そして俺を見上げて言う。「あなたがくれる物以外、欲しい物なんて無いもの」そう言われて微笑む。「そうか。なら街ごと買ってやる。国でも良いぞ?」言うとジルが俺をホンの少し押す。「もう!そんな事言って!」笑ってジルを抱き寄せる。◇◇◇仕事に戻って行くテオに付いて行く。途中でテオの侍従であるダイナスとノリスが合流する。私は二人に錫製のマントの留め具をプレゼントする。二人とも飛び上がりそうな勢いで喜び、その場で付けてくれた。詰所に行くと参謀のマクリー卿と団長補佐のマドラス卿が居た。その二人にもプレゼントを渡す。「頂いても宜しいのですか!」マクリー卿が聞く。「あぁ、構わない。ジルが選んで来たんだ、貰ってくれ」テオがそう言うと二人とも震える手でプレゼントを開ける。中にはルビーをあしらったマントの留め具がある。「これは!」「何と!」二人とも言葉を失い、感動しているようだった。「す、すぐにでも……いや、家宝にするべきか」マクリー卿が言う。私は笑う。「すぐに使って頂けるかしら

  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   贈り物

    お店に入ると革製の物が所狭しと並べられていた。手袋、靴、ベルト……。「いらっしゃいませ、マダム」お店の店主らしき人物が声を掛けてくる。「何かお探しで?」とても礼儀正しい。「あのショーウィンドウに飾ってある青い手袋を見たいのだけど」言うと店主らしき人物は微笑んで頷く。「かしこまりました」今度は女性の方が近付いて来て言う。「宜しかったらこちらへ」促されるまま、店の奥にあるソファーへ座る。青い手袋を手に店主らしき人物が戻って来る。「申し遅れました、私、ここの店主をしております、クエロトーロと申します、こちらは妻のアルディージャ」礼儀正しく挨拶してくれる。「今日はお忍びで?」クエロトーロが小声で聞く。少し驚くとクエロトーロが微笑む。「お見かけしてすぐに分かりました、王弟妃殿下」私は何だか気恥ずかしくて俯く。「ローブをお召になっていても、その麗しさは隠しきれておりませんよ」そして青い手袋をトレーに載せて見せてくれる。手に取るとその青はとても美しかった。「さすがはマダム、お目が高いですね」クエロトーロはそう言うと目を細める。「革を青く染めるのは実は一苦労なのです。染料のラーゴラの花は希少なので」手袋の触り心地はとても良かった。「革製品はお使いになる方によってどんどん変わります。その方の生活に馴染み、色が変わり、その方独特の味が出るのです」私は決める。これにしよう。「これを頂くわ」クエロトーロは深くお辞儀をして言う。「私共の品を選んで頂き、大変光栄に存じます。プレゼント用にお包み致します故、お待ちください」テオがあの青い手袋をするところを想像して、ワクワクする。きっと似合う。立ち上がって店内を見る。ブラウンの手袋が目につく。手に取ると柔らかく、でもしっかりとした作り。女性用で小さく作ってある。「ルーシー」呼ぶと入口に居たルーシーが来る。「はい、奥様」私はブラウンの手袋をルーシーに渡す。「付けてみて」ルーシーは少し困惑しながらも手袋を付ける。「どう?」聞くとルーシーは照れ笑いしながら言う。「えぇ、とても柔らかくて心地良いです」私はそれを聞いて嬉しくなる。振り返るとアルディージャが控えている。「これも頂ける?」アルディージャが笑顔で頷く。「かしこまりました」ルーシーが手袋を外そうとするのを止める。

  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   散策へ

    仕事に復帰する。なまった体を鍛え直し、王城に行き国政を兄上と執り行う日々に戻る。家の執務はジルが取り仕切り、俺が持ち帰った書類にも目を通してメモを書き残してくれる。ジルの指摘は的確で、アドバイスも役に立った。俺はそれを決して自分の手柄にはせず、ジルが提言してくれているとハッキリ表明した。「やはり、お前の妻は有能だな」休憩中のお茶を飲みながら兄上が言う。「長く王妃教育を受けていたからな」ふと兄上を見る。顔色が悪い気がした。「何だ、兄上、具合でも悪いのか?」聞くと兄上が笑う。「次の世継ぎを作るのに忙しくてな」そう言われては何も言えない。「そうか」俺はふと疑問に思って聞く。「まさか、妾じゃないだろうな?」兄上は笑って言う。「私の相手はセリーヌしか居ないよ。もう懲りた」言われて笑う。そうか、励んでいるのだな、と思うと兄弟でも何だか恥ずかしくなる。「お前も励んでいるか?」聞かれて俺は吹き出す。「まぁな。心配するな」兄上は微笑んでまたお茶を飲む。◇◇◇それからしばらくして、ジルの護衛騎士に任命したルーシーが正式に護衛騎士となった。ジルが決めたデザインの服は凛々しく、ルーシーに良く似合っている。騎士団での小さな任命式を終えて、俺はルーシーに言う。「頼んだぞ、ルーシー」言うとルーシーは頭を下げて言う。「はい。この命に代えてもお守りします」ジルはその様子を見守ると、すぐに言う。「ねぇ、テオ、ルーシーを連れて、街へ行っても?」俺は笑って頷く。「あぁ、良いよ」ジルはルーシーの手を取ると引っ張って言う。「行きましょう!」ルーシーはジルに引きずられながらも俺に頭を下げ、ジルについて行く。その様子は本当に微笑ましい。周りに居た騎士たちもニコニコしている。「本当に愛らしいお方だ」またマクリーが言う。「あぁ、ジルはいつも愛らしいよ」二人の後ろ姿を見ながら目を細める。「殿下も変わられましたな」マクリーが言う。「そうか?」笑うとマクリーは微笑んで言う。「はい、それはもう。力がみなぎっていて、こう…お近くに居るだけで、あぁ敵わないなと思わせる、そこは変わりませんが、今は殿下の根底にはしっかりとした愛という地盤がある。我々にもそれが良く分かります。以前の殿下は少し危うさがあったので」それを聞いて苦笑いする。「戦場でいつ死ん

  • 始まりは婚約破棄~王弟殿下の溺愛~   本当はずっと……

    「私、何も出来なかったの……ただ、水にシャツの切れ端を浸して絞ってテオに乗せるだけ……それを繰り返す事しか出来なかった……」ジルの声が涙に濡れる。「怖かった……目の前のテオがこのまま本当に目を覚まさなかったら?何もかもをテオがしてくれるから、私はそれを見てるだけしかしてなくて、私は無力なんだって、実感したの……」ジルを見る。ジルはポロポロと涙を零している。「テオがこのまま死んでしまったらどうしようって、泣く事しか出来なくて、情けなくて……」ジルの頭を撫でてやる。「だから朦朧としながらも私の名前を呼んで、抱き寄せてくれた貴方にまた抱き着いてしまった……テオの腕の中で思ったの、もしこのままテオが死んだら、私もこのままテオを抱いたまま死のうって……」胸が苦しくなる。ジルを抱き締める。「そんな思いをさせてすまない。怖かったよな、ごめん……」ジルが泣く。あぁ、そうか。俺はパラベンでの一件以降、こうやってジルを腕に抱いて、ゆっくり泣かせてやる事もしていなかったなと思う。きっと我慢していただろうに。救い出された後はバタバタと俺の手当や移動があって、俺たちには常に誰かが付いていた。王都に戻る頃には王城に駆り出され、シオスの処刑やパラベンへの制裁措置やその後の国の再建などを話し合ったりしていた。その後は俺の静養とジルの心の安定をと思って過ごしていたのに。俺はまだジルを分かっていなかった。気丈に振舞っていても、本当はこうして甘えて泣きたかったに違いない。「ごめん……」そう言う事しか出来ない。「本当はね、いつもずっと不安なの……」そう言われて少し驚く。「不安?」ジルが俺を見上げる。「離れている時はいつも考えてる、テオに何か起こっていないか、怪我してないか、誰かがテオに言い寄ってないか……」ジルの涙を掬う。「いつも心配なの……」あぁ、何て可愛いんだ、こんなにも俺の事を愛してくれているなんて。ジルが体勢を変える。俺に跨り俺を見下ろし、俺の頬を両手で包む。「愛してるの、テオ……」顔が近付く。口を半開きにしてジルの口付けを待つ。あともう少しのところでジルが止まる。「しないのかい?」聞くとジルが聞く。「したい?」俺はジルのうなじに手を回して言う。「したい……」ジルは俺を見つめたまま動かない。息が上がる。「あまり俺を煽るな」言うとジルが聞く

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status