Semua Bab 支配されて、快楽だけが残った身体に、もう一度、愛を教えてくれた人がいた~女社長に壊された心と身体が、愛されることを思い出: Bab 21 - Bab 30

108 Bab

身体だけが動く

美沙子がゆっくりと藤並の腰に跨がった。湿度を帯びた室内の空気が、微かに揺れる。ベッドのシーツがきしむ音が、耳の奥で遠く反響していた。藤並は、何も考えずに身体を差し出した。心はもう、そこにはなかった。反射的に呼吸を整え、筋肉を緩める。美沙子の手が、自分の太腿を撫でるのがわかった。けれど、感覚は鈍い。皮膚だけが反応している。美沙子の指先が、藤並のものを包み込んだ。身体は素直に反応した。熱が集まり、硬さが形を成す。けれど、それは自分の意思ではなかった。まるで、誰か別の男の身体を遠くから見ているような感覚だった。「可愛いわね」美沙子の声が聞こえた。耳元で囁くような声。けれど、その言葉も、どこか遠い場所で鳴っているようだった。藤並は目を閉じなかった。天井を見つめていた。白い天井。何の模様もない、のっぺりとした天井を、ただ目で追い続けた。美沙子がゆっくりと腰を沈める。藤並のものが、彼女の奥に吸い込まれていく。それを感じながらも、心は何も動かなかった。「これは、作業だ」内心で、そう呟いた。快楽も、興奮も、もうなかった。ただ、身体が役割を果たしているだけ。誰かに指示されたわけでもない。でも、もう止められなかった。この5年間、繰り返してきた動作だった。美沙子の中は、熱く湿っていた。けれど、それも遠い感覚だった。自分の身体が反応しているだけで、心はそこにいなかった。「気持ちいい?」美沙子がそう囁いた。藤並は微笑みを浮かべた。営業スマイルと同じ。唇だけが動き、目は天井のままだった。「はい」甘い声で答えた。それが求められていると分かっているから。それだけだった。美沙子の腰が動くたび、ベッドが小さく揺れた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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無表情で、果てる

身体が揺れ、湿った音が部屋にこだました。藤並は目を閉じなかった。天井を見つめたまま、呼吸だけを続けていた。規則的な動き。それに合わせて、体内の熱が一定のリズムで高まるのを感じていた。だが、その熱は心には届かなかった。身体は、ただ物理的に反応しているだけだった。美沙子の動きに合わせて、硬さは維持された。内部で蠢く感覚も、今や習慣になっている。何度も繰り返してきた動作だ。数え切れない夜を過ごしてきた。だから、恐怖も嫌悪も、もう何もなかった。「蓮くん、そろそろね」美沙子の声が耳に落ちた。その声も、藤並には遠く感じた。耳の奥で、くぐもった音のように鳴っているだけだった。「はい」藤並は、静かに答えた。唇の端を少しだけ上げた。営業用の微笑みと同じ表情。完璧な笑顔だった。だが、目の奥は焦点を結ばなかった。何も映さず、ただ空間を見ている。美沙子が腰を沈めるたび、藤並の身体は内側から膨らむような感覚を抱えていた。だが、それは快楽ではなかった。身体だけが、反射的に終点へ向かって進んでいる。心は、そこにいない。ただ、作業が終わるのを待っているだけだった。その瞬間が来た。熱いものが、奥へと流れ込んでいく感覚。その感覚だけは、どうしても避けられない。白濁が流れ込む瞬間、藤並は天井を見たまま、微笑みを保った。心は静かだった。波立つものはなかった。ただ、身体の機能が終点を迎えただけだった。絶頂による安堵も、恥も、快感も、もう感じなかった。美沙子は、藤並の髪を撫でた。指先が額に触れる。その手つきは、どこか慈しむようだった。「やっぱり、蓮くんは可愛い」美沙子が囁いた。唇が耳元に触れる。湿った吐息が頬にかかる。けれど、藤並の心は動かなかった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-28
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夜の終わりに残るもの

バスルームから、シャワーの音が聞こえていた。水が壁を叩く音。流れ落ちる水音が、ガラス越しにぼんやりと藤並の耳に届いていた。室内は蒸し暑かった。空調は静かに回っているはずなのに、湿気は消えなかった。ベッドの上で、藤並は仰向けになり、目を閉じた。けれど、眠るためではなかった。ただ、目を閉じるしかなかった。開けていても、見えるのは白い天井だけだ。閉じていれば、何も見えずに済む。「疲れた」心の中で、ふとそう思った。それは、五年目にして初めて浮かんだ言葉だった。今までは、疲れることもなかった。感じることをやめていたから。考えることを止めていたから。けれど今夜、身体の奥からじわりと広がる感覚は、確かに「疲れ」だった。「これが俺の日常だ。壊れても、まだ続く」その事実だけが、重たく胸にのしかかる。心はもう、どこか遠い場所にあった。身体だけが、作業を続けている。役割を果たすだけの、機械のような身体。それが今の自分だと、藤並は分かっていた。ベッドのシーツが、まだ身体の下で微かに湿っていた。美沙子の体温が、ほんのりと残っている。けれど、その感覚も遠ざかっていた。肌に触れるもの全てが、もう現実感を持たなかった。「疲れた」また同じ言葉を心の中で繰り返した。唇は動かさなかった。表情は、まるで彫像のように動かない。目の奥では、野村の姿を探そうとした。けれど、思い出そうとしたその背中は、もう霞んでいた。学ランの背中。肩が触れたあの日の夕暮れ。その記憶すら、ぼんやりと色あせていく。「全部、もう消えてもいいのかもしれない」藤並はそう思った。それでも、身体は生きている。呼吸は続いている。心はどこにもないのに、身体だけが続いていく。それが、今の自分だった。シャワーの
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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完璧な朝

藤並蓮は、コピー機の前で静かに資料を揃えていた。まだ朝礼前のオフィスは、完全に目を覚ましていない。外は湿度を含んだ曇り空で、窓ガラスがほんのりと白く曇っている。その曇りの向こうに、東京のビル群がぼんやりと映っていた。機械から吐き出される資料を受け取りながら、藤並は左手の親指でネクタイの結び目をなぞった。形は崩れていない。それでも無意識に触れてしまうのは、幼い頃からの癖だ。シャツの第一ボタンは、きちんと留められている。黒髪はワックスで整え、耳の横でピタリと収まっていた。白い肌と、整った頬のライン。鏡面ガラスに映る自分の顔を、藤並は商品でもチェックするような目で見つめた。「よし」小さく呟いて、口角を上げた。けれど、その笑顔は口元だけのものだった。目の奥には何もない。目を細めると、ガラスに映る自分の顔がぼやける。だが、あえてそのままにした。営業は顔と数字だ。それでいい。それだけでいい。「綺麗な顔だね」「営業向きだよ。お客さんに喜ばれる」そう言われ続けてきた。大学の就職説明会でも、面接の場でも、配属された時も、何度も同じことを言われた。最初は気にしていなかったはずだった。けれど、繰り返されるたびに、その言葉が胸の奥に澱のように溜まっていった。だから、もう考えないことにした。「顔で得するなら、それでいいじゃないか」心の中で自分にそう言い聞かせる。思考を止めるほうが楽だ。資料をまとめ終え、クリアファイルに滑らせる。指先が紙の縁に触れたとき、ほんの少しだけ冷たさを感じた。けれど、その感覚もすぐに消えた。「おはようございます」後ろから誰かが声をかけた。藤並は完璧な営業スマイルを貼りつけ、振り向いた。「おはようございます」声のトーンは柔らかい。だが、胸の奥は凍っている。感情はもう、どこにもない。同僚たちが続々と出社してくる。黒いスーツに白いシャツ。整列する制服のような空気の中、藤並だけがほんの少しだけ浮いて見えた。「藤並くん、今日も綺麗だね」年上の女性
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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商談は舞台

会議室の中は、空調の風が天井から静かに降りてきていた。ガラス張りの壁越しに、東京のビル群が見える。曇った空と、灰色の建物。その風景は、まるで背景画のように無機質だった。藤並蓮は、笑顔を浮かべたまま資料を配っていた。「こちら、本日のご提案資料になります」柔らかな声色。喉の奥で作った営業用のトーンだ。落ち着きと親しみやすさを、絶妙に混ぜた音色。資料を渡すとき、指先は震えない。爪の先まで神経が行き届いている。クリアファイルの端をきちんと揃えて、相手の手に差し出す。その一連の動作は、まるで舞台で踊る役者の所作のようだった。「ありがとうございます」クライアントが微笑む。けれど、その目は資料には向かっていなかった。視線は、藤並の顔に釘付けになっている。「本当に、綺麗な顔してるね」まただ、と思った。「営業にぴったりだよ。うちの女性社員、喜んじゃうんじゃないかな」藤並は、営業スマイルを崩さなかった。「恐縮です」その言葉も、何度口にしたか分からない。唇の形も、声のトーンも、完璧にコントロールしている。だが、胸の奥には冷たいものが沈んでいた。「また顔を褒められた」資料を渡す手を戻すとき、手首の内側がひやりとした。だが、手は動く。笑顔は続く。「それでは、資料の一枚目をご覧ください。本日は、コスト削減と業務効率化のご提案です」プレゼンが始まる。藤並は立ったまま、ホワイトボードの横に位置を取る。レーザーポインターを手にし、資料のグラフを指し示した。「こちらが、現行コストと新規提案の比較になります」声は明るい。表情も柔らかい。だが、心の中では別の言葉が響いている。「また商品として評価された」話している内容は、すでに自動的に口から出る。営業トークは何度も練習してきた。身振り手振りも、視線の配り方も、すべて計算済みだ。けれど、そのすべてが演技だと自分で分かっている。「どうして、資料を見ないんだろう」クライアントたちは、時折うなずきながらも、視線は
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-30
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昼休みの無表情

社員食堂の窓際に座ると、藤並はトレイの上のランチセットを見下ろした。ご飯と味噌汁、鶏肉の照り焼きと小鉢。いつもの日替わり定食だ。けれど、何が乗っていようと関係はない。味も、匂いも、最初から感じるつもりはなかった。「いただきます」口に出してそう言い、箸を取った。だが、動作は機械的だった。箸の先で鶏肉を持ち上げると、口の中に入れる。咀嚼する。味はしない。舌の上を食材が通過していく感覚だけがある。「おい、藤並」隣の席から、同僚の声が聞こえた。藤並は顔を上げ、営業スマイルを作った。「はい」「今日も顔がいいな」「モテるだろ?女の子からめっちゃチョコもらってたろ、バレンタイン」藤並は笑った。「いえいえ」「またまた。顔だけで得してるよな」「恐縮です」その会話のすべてが、もう耳慣れている。何百回も同じやり取りを繰り返してきた。反射的に、笑顔で答えることができる。言葉の内容など、もう記憶にも残らない。「彼女いるの?」「いませんよ」「嘘だろ。隠してんだろ」「ほんとです」無表情に近い笑顔だった。それでも、相手は笑っている。だから、これでいいのだと自分に言い聞かせる。「顔と数字、それだけでいい」冷たい水の中で足を動かしているような感覚があった。水の抵抗を感じながら、それでも足は止めてはいけない。止まれば沈む。沈んだら、戻れなくなる。ご飯を口に運ぶ。咀嚼する。飲み込む。その一連の動作が、演技の一部に感じられた。「今日、午後はどこ行くの?」「〇〇商事に行きます」「またモテそうだな」「いえいえ」また同じ言葉を返す。箸を持つ手が、一瞬止まった。指先が、ふっと冷えた。けれど、すぐに動かす。「止まること」は恐怖だ。手が止まった瞬間に、周囲の空気が自分を囲む気がした。だから、動き続けなければならない。笑顔も、声も、手の動きも、すべて止めてはいけない。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-30
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湯浅の視線

午後一時、会議室の空気は冷房の風でひんやりとしていた。窓から見える曇り空は、午前中と変わらず、色を持たない灰色だった。藤並は、資料を手にして立っていた。白いシャツの袖口はきちんと留められ、ネクタイの結び目は昼休みの後にもう一度整えている。結び目はきれいだった。完璧だと、自分に言い聞かせた。「それでは、今回の見積もりについてご説明します」会議室に響く自分の声が、少し遠く感じた。自分で発したはずなのに、どこか他人事のようだった。会議室には、営業部の面々が座っている。だが、今日の会議はいつもと少し違った。湯浅律が正式に同席するのは、今日が初めてだった。湯浅は藤並より五歳年上。三十三歳。肩書は営業部主任、つまり藤並の直属の上司になる。異動してきたばかりの男だった。背は高い。目立つほどではないが、並ぶと分かるくらいの差がある。黒髪は短く整えられ、スーツの着こなしも控えめだ。だが、姿勢には無駄がなかった。動作も、余計なことはしない。何より目だ。湯浅の目は、他の誰とも違った。会議室の端の席に座り、藤並の発表を聞きながら、彼はじっと藤並を見ていた。視線が、痛い。他の社員は資料を見たり、メモを取ったりしている。ときおり相槌を打つ者もいる。けれど、湯浅だけは違った。ずっと、藤並の目を見ていた。まるで何かを観察するかのように。「欲望の目」ではない。女たちが向ける目とも違う。男たちが向ける羨望の目とも違う。ただ、じっと、観察している。藤並は資料をめくり、次のページを示した。「こちらが、今回のコスト比較になります」声は滑らかだった。喉の奥でつくる営業トーン。けれど、心の中はざわついていた。「見られている」その感覚が、背中に突き刺さる。表面をなぞる視線ではなく、皮膚の奥にまで届いてくるような目だった。「この人は、俺の仮面を見透かしているのかもしれない」そう思った。だが、顔は崩せなかった。崩せるわけがなかった。「営業は、顔と数字」心の中で繰り返した。それだけが、今の自分を支える言
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-31
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鏡越しの自分

会議が終わり、藤並は無言で会議室を出た。手には資料を抱えたまま、足音を殺すように歩く。周囲は営業フロアの喧騒に包まれていたが、その音は耳の奥で遠く反響しているだけだった。「大丈夫」心の中で呟いた。何もおかしくない。表情も声も、完璧にやりきった。それでも、心の奥にはざわつきが残っていた。湯浅の視線が、背中にまとわりついている気がした。エレベーターホールの脇を抜け、誰もいないタイミングを見計らって、藤並は男子トイレに入った。一番奥の鏡の前に立つ。無意識にネクタイに触れる。指先で結び目をなぞり、少しだけ整えた。鏡の中の自分が、こちらを見ている。「……誰だろう」そう思った。目の前の男は、今日も完璧だ。黒髪は一筋の乱れもなく、白いシャツは皺ひとつない。ネクタイの結び目も美しく整っている。けれど、その顔の奥にあるものは、自分でも分からなかった。「これが、俺なのか?」鏡の中の自分は、いつも通りの営業スマイルを浮かべている。口角だけが、形よく持ち上がっている。だが、目は笑っていなかった。「違う」心のどこかで、そう呟いた。「これは、本当の俺じゃない」けれど、その考えを打ち消すように、もう一度口角を上げた。「感情は要らない」それが、自分を守るルールだった。鏡の前で、もう一度微笑みを作る。口元だけを、ゆっくりと持ち上げる練習をする。目の奥は動かさない。それが、長年染みついた癖だった。「顔と数字だけでいい」心の中で繰り返した。そうすれば、きっと何も感じずに済む。けれど、そのときだった。ほんの一瞬、眉が震えた。自分でも気づかないくらいの、小さな揺らぎだった。「だめだ」眉間に皺が寄りそうになるのを、必死で抑えた。口角は上げたまま、眉だけを平らに戻す。「まだ壊れちゃいけない」そう思った。「まだ、誰にも気づか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-31
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煙草と距離感

午後四時過ぎ、営業フロアの空気が少し緩んだ時間帯。デスクワークの手を止め、藤並は静かに立ち上がった。「煙草を吸いに行こう」心の中で呟いた。いつもの習慣だった。昼と午後の間に一度、気持ちを切り替えるための喫煙時間。けれど、切り替えているのか、ただ無感覚なまま時間を消費しているのか、もう分からなくなっていた。オフィスビルの十二階。西側の片隅にある小さな喫煙所。ガラス張りの壁から、曇り空が見えた。東京のビル群は、午後の湿度を含んだ光で霞んでいる。藤並はポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけた。煙を吸い込む。肺の奥まで入れ、ゆっくりと吐き出した。細く長い煙が、ガラス越しの景色に溶けていった。そのときだった。扉が開く音もなく、気配だけが近づいてきた。「……湯浅さん」視界の端で確認する前に、分かった。湯浅律が、何も言わずに藤並の隣に立った。藤並は、ほんの少しだけタバコを持つ手を遠ざけた。無意識だった。肩がわずかに緊張する。けれど、それもすぐに隠した。視線を動かすことなく、煙を吐き出す。だが、横顔には確かに湯浅の視線を感じていた。「……」湯浅は黙っていた。タバコを取り出す気配もない。ただ、隣に立って、藤並を見ている。その視線が、胸の奥をざわつかせた。「なぜこの人は俺を見てくるんだ」心の中で、そう呟いた。他の上司や同僚とは違う。誰もが藤並を「顔で得している営業マン」として扱うのに、湯浅だけは違った。「欲望の目」ではない。「羨望の目」でもない。ただ、観察している。まるで、藤並の中身を見ようとしているかのような目だった。煙を吐きながら、指先がわずかに震えた。けれど、それを「煙のせいだ」と思い込んだ。「大丈夫。何もおかしくない」心の中で繰り返す。だが、肩は確かに固くなっていた。湯浅は何も言わなかった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-01
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戻らない呼吸

フロアに戻ると、いつもの音が耳に入ってきた。キーボードを打つ音、電話のベル、誰かが立ち上がる椅子のきしみ。藤並は、自分のデスクに向かった。椅子に腰を下ろし、背筋を伸ばす。動作は滑らかだった。何度も繰り返してきた動きだ。そこに迷いはない。けれど、胸の奥が妙にざわついていた。パソコンの画面に目を向ける。メールソフトを開くと、件名のリストがずらりと並んでいた。取引先からの返信、社内の連絡、確認依頼。いつもの業務だ。けれど、手が止まった。マウスを持つ右手が、わずかに震えている。「どうしたんだ」自分に問いかける。けれど、答えは出なかった。「大丈夫。何もおかしくない」心の中で繰り返す。だが、胸の奥が冷たい。「呼吸を整えよう」意識して、息を吸った。肺の奥まで空気を入れる。けれど、うまく入らなかった。吸い込んでも、奥まで届かない。「……おかしいな」そう思いながら、また息を吐く。けれど、浅い。「大丈夫。いつも通りだ」パソコンの画面を見つめる。メールをクリックしようとした。だが、指が動かない。クリックしようとした瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。「戻らない」呼吸が、戻らなかった。「大丈夫。大丈夫だ」心の中で繰り返した。けれど、胸の奥は冷たかった。さっきから、何度も呼吸をし直しているのに、うまくいかない。「このまま、誰にも気づかれず壊れていけたら楽なのに」ふと、そんなことを思った。気づかれなければ、そのまま静かに壊れてしまえばいい。誰にも迷惑をかけずに、誰にも知られずに、ただ壊れていく。それが一番楽だ。けれど、もう誰かに気づかれてしまった。湯浅の視線を思い出す。会議室で、喫煙所で、あの目は確かに自分を見ていた。外側ではなく、内側を見ていた。「どうして、気づかれたんだろう」そう思った。けれど、答えは出ない。「でも&hel
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