「言ってしまった」藤並は、胸の奥でその言葉を繰り返した。自分の口から、全部がこぼれ落ちた。隠してきたもの、抱え続けたもの、誰にも言わなかったはずのこと。全部が、今日の夜、この小さな座敷で、湯浅の前に落ちた。言わなければよかった。黙っていればよかった。そんな思いが、頭の中をぐるぐると回る。けれど、不思議だった。絶望しているはずなのに、胸の奥が少しだけ軽くなっている。「壊れた」と思った。でも、「救われた」とも感じた。矛盾している。その矛盾が、今の自分の全部だった。視線はまだ、テーブルの上に落としたままだった。グラスの底に残った氷が、カランと小さな音を立てた。その音に、肩がほんの少しだけ揺れた。「藤並」湯浅が、低く名前を呼んだ。その声は、何も追及してこなかった。何も責めてこなかった。ただ名前を呼んだだけ。それだけで、藤並の胸はさらに軋んだ。「はい」小さな声で返事をした。唇が震えていたが、それを止めることはできなかった。「今日は、それでいい」湯浅は、それ以上何も言わなかった。「それでいい」その言葉が、耳の奥で響いていた。いいわけがないのに。こんな話をしてしまって、何が「それでいい」だ。でも、どこかで安心していた。このまま責められなければ、今日だけは、壊れずに済むかもしれない。「……すみません」藤並は、また小さな声で呟いた。「謝るな」湯浅の声は低く、短かった。それ以上は何も言わなかった。言葉を続けることも、触れることも、しなかった。藤並は、ネクタイの結び目に手を伸ばしかけたが、途中でやめた。その手を、そっと膝の上に戻した。肩の力が、少しだけ抜けた
Terakhir Diperbarui : 2025-08-12 Baca selengkapnya