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All Chapters of 異人青年譚: Chapter 41 - Chapter 50

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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅱ_01

着なれた着物を着こなして、まるで童話に出てくるような、不思議な綺麗さを持っていた少女。 あの夏休みの熱海旅行で遭遇してしまった、想い人の思いによって重さを与えられてしまった、旅人の異人となってしまっていた幽霊の少女。 そして今でも、その後遺症のせいなのか、成仏出来ずに様々な所を旅する浮遊霊的な何かになってしまった... そのせいで、彼女は僕以外からは、認識されることはない。 そこに彼女が居たとしても、そういう風には誰も見ない。 そんな存在に、そんな概念に、彼女は成ってしまったのだ。 しかし... しかしそれでも、そんな、怖くない筈がない自分の状況でも、彼女は外を見たいと思いを馳せて、遠路に花を掛けるのだ。 高貴で高尚な、桐の花を... 時刻はお昼を過ぎた十五時頃 目的の物は早々に買い終えて、そんなに時間を使わずに帰るつもりだったのに、どうやらそういうわけにはいかなくなってしまったみたいだ。 なぜなら今、僕はその浮遊霊的な彼女を連れて、普段なら確実にスルーしているであろうパンケーキのお店に、来ているからだ。 いや...この場合、連れて来られたのはむしろ僕の方なのだろう。 僕と一緒に居なければ、誰からも認知されることがない幽霊的彼女は、とりあえず今は、事ここに至っては、普通の客として周りから認知される。 それはあの時の最後もそうだった。 だから彼女は、あのときも僕と一緒に、電車に乗ることが出来たのだ。 だからなのだろう… だから彼女は、僕と会ったことをいいことに、今日まで彼女がずっと入りたいと思っていたお店に、僕と共に入ったのだろう。 そして今まさに、目の前に座る彼女は瞳を輝かせ、そのお店のメニュー表を見ているのだ。 そんな彼女に、僕は少しだけ戸惑いながら、声を掛けた。
last updateLast Updated : 2025-09-08
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅱ_02

 「なぁ、若桐...」 「なんですか?」 瞳を輝かせながら、しかしその視線はお店のメニュー表に注がれて、僕には一切目もくれず、若桐は応答する。 「いや...ご満悦の表情でメニューを見ているところ悪いんだけど、僕あまりこういうお店は来ていなくて...その...勝手が分からなくて困っているんだけ...」 そう言いながら、自分でもわかる程に変な緊張をしながら、最初に運ばれてきたお冷に口を付けていると、目の前に座る彼女は、僕の方を一切見ないでこう言った。 「大丈夫ですよ、荒木さん。なにも心配は入りません。あなたはただ、久しぶりにたまたま道で再会した友人に、パンケーキを御馳走すればいいのです」 「えっ...ちょっとまって...話の内容がもはや誰も追いつけない様な、光の速さで進んでいるように思うのは僕だけかな?」 「そうです、あなただけです」 「すげーなお前、言い切ったよ...」  そう僕が言うと、若桐はメニューを閉じて、今度はちゃんと僕を見て、こう言った。 「まったく、荒木さんは私達のあの感動的な夏の思い出を忘れてしまったのですか?読者の皆さんはちゃんと付いて来てくれていますよ?」 「ちょっとまって読者ってなに!?まさかこの世界は小説か何かなのか!?」 「何を言っているんですか?まさか今さら気が付いたのですか!?私はもうとっくに、荒木さんと出会った時から、ちゃんと気がついていましたよ?」 「うそつけ!!そんな筈があるか!!」 「いいえ、荒木さん。これは事実です。なんなら確かめてみますか?」 「確かめる…って、そんなもん一体どうやって確かめるんだよ…」 「簡単です。」 そう言いながら若桐は、徐に、それでいて大袈裟に、店員さんを呼ぶために手を挙げて、そしてその呼んだ店員さんが僕達が居るテーブルに来る前に、彼女は声高らかにこう言ったのだ。  「デラックスパンプキンパンケーキ!!!!!!」 その値段、一皿二千五百円の代物である。
last updateLast Updated : 2025-09-09
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅱ_03

「なぁ若桐…さっきのはどういうつもりだったんだ…?」 僕は目の前で例のパンケーキを頬張っている、その姿には似合わない様な着物姿の童女を見て、彼女に問うた。 しかし肝心の彼女は、まるでなにもわからないような素振りをして、僕に問い返して来たのだ。 「何がですか?」 「いや...だから、なんで大声でそのパンケーキを頼むことが、僕達のこの世界が小説では無いっていうことを確かめることになるのかって、聞いてるんだ。」 「あぁ、言いましたね、そんな与太話」 「与太話!!??」 「えぇ、そうですよ。そりゃそうでしょう、まさか荒木さんはあんな御話を本当に信じて、この私達の世界が本当に小説なのではないかって、本気で不安になられたのですか?」 「おまえ...初めて出会った頃はもっとなんかそんな捻くれて居なかったじゃないか!」 「そう言われましても...まぁ、人は変わるモノなので...」 「幽霊がそれを言うのか...」 「幽霊といえども、元は普通の人間です。でもそうですね...」 そう言いながら、彼女は話しながらも食べ続けて居たパンケーキの、最後の一切れとクリームを食べ終えて、彼女はそこで言葉を切った。 「こんなに美味しいモノを頂いたので、せめてさっきの与太話の真意くらいは説明しましょうか」 そして口元のクリームを拭きながら、彼女は話し始めたのだ。 「まぁ、説明すると言っても、実はそんなに難しい話ではないんです。単に『モノの見方が肝心』と言うだけの話で...先程私が大声で注文をしたとき、おそらく読者である方達...いいえ、もっと言い方を変えましょうか、そうですね...ここは簡単に、『第三者』とでも言いましょう。その方達には、私が奇想天外なことをしたように見えたかもしれません。当たり前です。なぜなら私は、『なんなら確かめてみますか?』とその話を促した後に、いきなり大声で、メニューを叫んだのですから。」 「あぁ、まぁその通りだな...ってかその言い方だと、その当事者であるところの僕は、それをまるで驚くはずが無いと言っているように思えるのだが...」 そう僕が言うと、若桐はコクリッと頷いて、言葉を続けた。 「えぇ、そうですよ。本来なら荒木さんは、私と会って、二人でこのお店に入っているのだから、当事者であるというか、私の相手である筈の第二者にならなければいけな
last updateLast Updated : 2025-09-10
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯Ⅱ_04

 若桐との戯れを楽しんだ後、帰り道の途中、花影からLINEで、明日から始まるサークルの事前訪問についての資料が送られてきた。 そして文章では、『明日からよろしくお願いしますm(__)m』と書かれていたのだ。 その文章と砕けた顔文字のおかげで、少しばかり気が楽になったのも確かだが、本当に自分がこういう、言うなれば学校行事というモノに関わることになるとは… なんだかそれが、とても不思議な感覚を覚えたのだ。 そして次の日、僕はいつもの様にいつも通りに、大学での授業を熟し、その全てが終わった後、僕は柊と落ち合った。 そして僕たちは、文化祭が開催されるまで委員の事務所が置かれている空き教室に向かっていたのだ。 そんな時に、歩いている道中に、彼女は口を開いた。 「荒木くん、今日はとてもご機嫌ね、まるで前日に女子中学生くらいの女の子と一緒にパンケーキを食べたみたいにご機嫌じゃない」 「なぜ知ってる!?…ってかそれ、ものすごく具体的でわかりやすいレアケースなご機嫌ではないか!!」 「あら、図星だったの…ごめんない変態さん」 そう言いながら、彼女はわざとらしく、心底申し訳無さそうな顔をしていた。 「その言葉、出来ればもうちょい冗談めかして言ってくれない?今の柊の表情だとガチになっちゃから…」 「えっ…だって荒木くんって、本気のロリコン野郎でしょ?私達と行ったあの旅行で、アリもしない女の子の話題を熱心に熱弁するくらい、ガチなヤツでしょ?」 「その話は前もしたよね!?異人の女の子だったって話をして了承していたよね!?」 「あら…そんなこと話したかしら…?」 「頼むから思い出してくれぇぇ!!!」 そう僕が言うと、一拍置いて柊も何かを言い掛けようとして、口をまた開こうとした。 しかしそこで、柊の携帯が、鳴ったのだ。
last updateLast Updated : 2025-09-11
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯II_05

 そして画面に映し出される名前を確認して、その名前が花影であることを確認して、彼女は淡々とした口調で電話に出た。 「もしもし沙織?こっちはこれから向かうところなんだけど、なに、どうかしたの?」 疑問形の言葉の後、彼女はそこからは口を挟まず電話口から聞こえているのであろう、花影の言葉に耳を傾けて、そして最後に、これもまた淡々とした口調で言った。「そう、わかったわ。じゃあ後で落ち合いましょう」 そしてその言葉を最後に、柊は電話を切って、そして隣にいる僕の方に視線を移したのだ。 なので僕は、それに対して何も言われているわけではないけれど、その彼女の視線に応答するようにして、言葉を探した。 「さっきの電話、花影だろ?何かあったのか?」 「...わからないわ、でも何故か、事務所の方には行かずに7号館の201教室に来て欲しいとのことよ」 「7号館の201教室って...たしか今日、事前訪問するサークルが使っている教室だったような...」 そう言いながら、僕は昨日、あらかじめ花影からLINEで貰っていた、訪問するサークルが書かれた資料を、携帯の画面に映す。 そしてそこには、ART(アート) という名前の、文化祭では画集販売と絵画展示を行う予定のサークルが活動しているということが、その資料には書かれていたのだ。 その資料を2人で見ながらそのことを確認すると、先に口を開いたのは意外にも、柊の方だったのだ。 「もしかしたら…何かあったのかしら…」 その彼女の性格とか人格からは似合わない、そんな言葉に少しだけ驚きながら、僕は応答する。 「いや…そんな大それたことでも無いだろ…ただ単に、仕事の効率化を図るために、僕等を現地集合させたいだけじゃないのか…?」 そう僕が言うと、彼女は少しだけ考える様にして、そして静かに言葉を紡ぐ。 「…そうよね、きっとそうだわ…それなら早く行きましょう」 そう言いながら、彼女は僕を連れて、足早
last updateLast Updated : 2025-09-12
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯II_06

 「一体どういうつもりなのかしらねぇ...」 そう言いながら、柊は破壊された馬の模型の部品を、まじまじと見つめていた。 「...どういうつもりって...?」 「だってこれ...どう見ても不自然だと思わない、荒木くん?」 そう言いながら彼女はその馬の模型から、僕の方へと視線を移す。 そして僕は、その彼女の力が込められた瞳に耐えかねて、対照的に彼女から、その馬の模型へと視線を移す。 そしてその馬の模型の部品には、何かの大きな爪痕がくっきりと残っていて、それでいてもう直すことは出来ないくらいにボロボロにされていて、そしてそのすぐ近くには、奇妙な張り紙が貼られていたのだ。 「別に...不自然と言えば全てが不自然としか言い様が無い光景だが...」 その僕の言動に、柊はタメ息を吐いて、言葉を返す。 「はぁ...呆れた...荒木くん、あなたはきっと探偵には向いていないかもしれないわ...」 「別に探偵になった覚えは無いし、向いてなくて結構なんだけど...」 そう言いながらも、僕はさっきの柊木と同じように、まじまじとその馬の模型を観察する。 しかしそうやってよく観察してみると、なんとなく、その不自然がわかった気がした。 ボロボロに壊されているのは、馬の模型のある一部の部品だけで、それ以外の部分は何も破損しているところはなく、それどころか倒されて出来た傷すらも、見受けられなかったのだ。 結局何が言いたいかと言うと、僕もそれを見て不自然というか、違和感を覚えたのは確かだった。 その違和感が柊の言う不自然と同じかは、正直わからないけれど… そんな風に考えながら観察する僕を見て、今度は後ろから、花影が近付いて声を掛ける。 「あの、この張り紙ってなんなんですかね...?」 そう言いながら、彼女は壊れたその馬の模型の部品に貼られていた貼り紙を手にとって、それを僕と柊の両方に見えるように、渡して来た。 そしてその渡された紙には、何かを意味しているのだろうか、何かを知らせているのだろうか、そんな感じの『絵』というか『記号』的な何かが、描かれていたのだ。 それを見て、僕はそれをそのまま形容するようにして声に出してみた。 もしかしたら声に出せば、何かわかるかもと、淡い期待をしながら。 「これ...なんだろう...真ん中に大きな円が描かれていて、右端が少し黒
last updateLast Updated : 2025-09-13
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯II_07

 時刻はもう既に二十一時を過ぎていて、僕は自分の部屋に戻り、仰向けに寝転がりながら、ただただボーっとしていた。 しかしながらただボーっとしているだけなのも飽きたので、手持ち無沙汰というか、退屈しのぎを兼ねて、あの例の再生紙の代物を眺めていた。 眺めて、眺めて、眺めて... 「これ...なんなんだろ...?」 何もわかる筈がなく、ため息のようにして、呟いた。 その紙には相変わらず、先程あの現場で見た時と同じで(まぁ変わる筈がないんだけど)、表面には暗号のマークが、裏面には何かのパンフレットの一部である様な、所属する団体名と数名の人名が記載されていたのだ。 「まぁ、今のところ手掛かりといえるモノはそれだけなんだし、何かをこちら側に知らせているのは確かよね」 そう言いながら、横たわる僕の隣で、柊は携帯を操作していた。 「知らせている?」 「えぇ、そうよ。だってそうじゃなければ、そもそも暗号なんて使わないじゃない。本当にただの愉快犯で、ただ壊して爪痕を残したいだけなのなら、わざわざこんな不自然なモノ、あの場に置いて行かないでしょう?」 「そっか...たしかに壊すことが目的なら、わざわざこんなモノ置いて行かないよな...あの馬の模型の一部の...」 「鐙」 「えっ...?」 唐突に言葉を遮されたことと、聞き慣れない単語に、僕は一瞬戸惑ってしまう。 しかしそんな僕のことを気にもせず、柊は言葉を続ける。 「...あの馬の模型、言ってしまえば倒されているだけで、殆どが無傷だったけれど、部品の一部がボロボロに壊されていたでしょう?その壊されていた部分のね、中でもさらに、特に破損が酷かった部分は、鐙の部分だけだったのよ...」 「鐙って、たしか馬に跨るときに、足を引っ掛けるヤツだろ?」 「そうね、でもあの模型では、本物の鐙のように、足を掛けるためにぶら下がっているわけではなくて、鞍の部分に付着して作られていたの。きっと絵のモチーフのためのモノで、本当に人が乗るわけではないから、そういうテキトウな作りでも良かったのでしょうね...だから最初見たときは、わからなかったわ...」 そう言いながら未だに携帯を操作する手を止めない柊は、僕等があの部屋を出る直前まで、あの壊された馬の模型を眺めていた。    だからあのとき、その異変に
last updateLast Updated : 2025-09-14
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯III_01

例の事件に遭遇してから数日後、僕は今、学部の授業を真面目に受講していた。 文化祭本番まで、残すところ後十日となっていた今日この頃... あれ以来あの奇妙な破壊事件は、すっかりと鳴りを潜めていた。 しかしながらあの日、僕が柊に襲われているときに、柊の携帯に来た花影からのメッセージには、こう書かれていたのだ。 『悪い知らせです。今回のあの事件、あれと同じ様な事が多数、他のサークルでも起きています。何者かが各サークルの備品を破壊して、その横に例の貼り紙を置いて行っていることから、同一人物だと思われます。先輩たちと見たサークルも含めて、実際に被害に遭ったサークルと被害に遭った備品は、以下の通りです。』 そしてそう書かれたメッセージの下には、ズラリとその事件に遭ったサークル名と、壊された備品の名前が記されていた。 ART(絵画サークル):馬の模型の一部  異国文化研究会:石畳をモチーフにした絨毯  ウクレレ演奏サークル:ウクレレ本体  ESSサークル:サークル部員のAirPods  お料理研究会:メニュー表  空手道サークル神拳会:ビニール傘  切り絵創作サークル:展示予定の作品  車旅愛好会:出店で出す予定の食材  軽音サークルPOP:キーボード  小料理屋研究会:出店で出す予定の料理に使う調味料 あの日の段階で、これだけのサークルが被害にあったことに、僕はおろか、流石の柊も動揺していた。 さらに追記で... 『残されていた貼り紙の写真も順番に全て送ります』 そう記されたメッセージの後に、それぞれの現場に残されていた例の貼り紙が全て送られてきて、その全ての写真には、何かのパンフレットの様な、参加サークルと数名の人名が書かれた再生紙が写されていて、そしてその裏面には、僕達が実際に見た貼り紙と同じく、真ん中に円が描かれていたのだ。 しかしながら、それぞれに違う点もあった。 それは円の中を塗られている黒の部分が、右端から少しずつ、大きくなっていっているということだ。 それを見て柊は、「まるで満月カレンダーみたいね」と、そう言った。 しかしながらそれ以外に、わかることはもう、なにもなかった... この数日で、もともとの仕事であった各サークルの事前訪問を期に、被害状況を尋ねたりもしたが、話を聞いてみると、どうやらさらに奇妙なことが、事
last updateLast Updated : 2025-09-15
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯III_02

 任されていた作業を一通り終わらせた僕と柊は、自分達の手元にあった、手掛かりと成り得るモノと、先程まで扱っていた完成版のパンフレットを全て並べて、あの連続破壊事件の全貌を考えていた。 時刻は時計を背にして座っているから見えないのでわからないが、夕方頃であることは確かなようで、窓から指す光には少しだけ、含有された橙色が瞬いているように見えて、そういう時間だということだけはわかった。 僕は柊と共に過ごすこの時間は、正直あまり得意ではない。 それが誰も居ない、この大学の空き教室という場所でなら尚更なわけで、彼女と相対して居るなら尚更なわけで、むしろかなり苦手な方だ... しかし今は、そんな状況や状態などは気にならない程に、僕と柊はあの事件の全貌を、生意気にも名探偵さながらに、推理しようとしていたのだった。 手掛かりと成り得る例の貼り紙を、実物のモノを一枚と、彼女の携帯電話に保存されていた、先程に見辛いからという理由でプリントアウトしてくれて、写真となった残りを、全て並べ終えたところで、彼女が口を開いた。 「今までのこの暗号、これらからわかることは、それぞれの被害にあったモノに直接貼られていたということと、この暗号に記されている円の中、それが少しずつ、右側から黒く塗られているということよね...」 「あぁ、それと、その暗号の裏面...」 そう言いながら、僕は自分が持っているその暗号の用紙の裏面を見せて、机に置いた。 そこには、あの完成されたパンフレットと同じように...っというよりもほとんどが、暗号で使われた再生紙のモノと同名で、参加サークル紹介と実行委員数名の名前が記載されていたのだ。 それを見て、僕は確認する様に確信して、言葉を紡いだ。 「やっぱり、ここに記載されているサークル名、完成版のパンフレットのモノとほとんど同じだ。特に被害に遭ったサークルに関しては、このパンフレットとそれぞれの紙にも、全て同じ記載がされている」 そう言いながら、僕は被害に遭ったサークルと、そのサークルで実際に破壊されたモノを記したメモ用紙を、並べた手掛かりの上にそっと置いた。 ART(絵画サークル):馬の模型の一部 異国文化研究会:石畳をモチーフにした絨毯 ウクレレ演奏サークル:ウクレレ本体 ESSサークル:サークル部員のAirPods お料理研究会:メニュ
last updateLast Updated : 2025-09-16
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不死身青年と賢狼烈女の悪戯III_03

 街灯が乏しく、それでいて夜の影が大きく見えるこの道は、いくら大学からの徒歩数分の帰り道だろうと、少しばかりの恐怖心を煽る様な、そんな道のように思える。 しかしながら、このときまではこの道に、本当にお化けが出たとか、もっと現実的なことを言えば不審者が出たとか、そういう話を実際に聞いたわけでも、見たわけでもないのだ。 そう、本当にこのときまでは...  「よぉ~久しぶりじゃねぇ~か、混じってる兄ちゃん」 そう僕に向けて言いながら、何の前触れも予告も無しに、その若い女性はあの時と変わらず、履いているヒールの音を響かせながら、それでいて長く綺麗な青い髪を揺らしながら、耳に付けたピアスを揺らしながら、着ている白色のワンピースを揺らしながら、右手には小さなピストルを持ちながら... こんな大学からの帰り道の、暗く光が乏しい住宅街に、あの時に異人組合の静岡支部で出会ったときのようにして、現れた。 「えっと...たしか、下柳さん ...でしたっけ...?」 そして僕は、そんな彼女に恐る恐る、記憶を確かめるようにして、彼女の名前を尋ねて、そしてその僕の問い掛けに、彼女はまたあのときと同じ様な、陽気で妖気な、そんな声で笑いながら、答えるのだ。 「おっ、なんだなんだ~覚えててくれたんだ~うれしいねぇ~うれしいねぇ~光栄の極みだねぇ~」 そして僕は、そんなに回数を重ねて出会ったわけではないけれど、そんな彼女がやはりどこか苦手で、少しだけ引き気味に答えてしまう。 「えぇ...まぁ...あの相模さんが、あんな風にあなたに対しては礼節をわきまえていたので、なんだかそれがとても、物珍しく見えたので...」 「あっ?相模?誰だよ、そいつは??」 その彼女の言葉に、一瞬僕は戸惑いながら言葉を返す。 「えっ...相模さんですよ、相模...和人さん...」 「えっ?あーなんだなんだ、和人のことか~あぁ、そうか...あいつ姓は相模だったのか~まったく...忙し過ぎてそんなこと覚えてらんねぇよ~人の名前なんざ、そんないちいちフルネームで覚えていられるかよ、それじゃなくてもこっちは、毎度毎度化け物の世話をしているんだ。そんな状況じゃあ、自分が嫁ぐか嫁がれる以外で、苗字なんて気になるわけがないだろう」 そう言いながら、片手で頭を抱えて、もう片手では小さなピストルを
last updateLast Updated : 2025-09-17
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