着なれた着物を着こなして、まるで童話に出てくるような、不思議な綺麗さを持っていた少女。 あの夏休みの熱海旅行で遭遇してしまった、想い人の思いによって重さを与えられてしまった、旅人の異人となってしまっていた幽霊の少女。 そして今でも、その後遺症のせいなのか、成仏出来ずに様々な所を旅する浮遊霊的な何かになってしまった... そのせいで、彼女は僕以外からは、認識されることはない。 そこに彼女が居たとしても、そういう風には誰も見ない。 そんな存在に、そんな概念に、彼女は成ってしまったのだ。 しかし... しかしそれでも、そんな、怖くない筈がない自分の状況でも、彼女は外を見たいと思いを馳せて、遠路に花を掛けるのだ。 高貴で高尚な、桐の花を... 時刻はお昼を過ぎた十五時頃 目的の物は早々に買い終えて、そんなに時間を使わずに帰るつもりだったのに、どうやらそういうわけにはいかなくなってしまったみたいだ。 なぜなら今、僕はその浮遊霊的な彼女を連れて、普段なら確実にスルーしているであろうパンケーキのお店に、来ているからだ。 いや...この場合、連れて来られたのはむしろ僕の方なのだろう。 僕と一緒に居なければ、誰からも認知されることがない幽霊的彼女は、とりあえず今は、事ここに至っては、普通の客として周りから認知される。 それはあの時の最後もそうだった。 だから彼女は、あのときも僕と一緒に、電車に乗ることが出来たのだ。 だからなのだろう… だから彼女は、僕と会ったことをいいことに、今日まで彼女がずっと入りたいと思っていたお店に、僕と共に入ったのだろう。 そして今まさに、目の前に座る彼女は瞳を輝かせ、そのお店のメニュー表を見ているのだ。 そんな彼女に、僕は少しだけ戸惑いながら、声を掛けた。
Terakhir Diperbarui : 2025-09-08 Baca selengkapnya