夕方というにはいささか、空が暗くなりすぎていて、それでも時刻はまだ18:00を指していない。 でももう夏も終わって、秋真っ只中というのだから、空の変わり様は別に、そんなモノなのだろう。 それに今日は、文化祭準備の最終日であり、丸々1日を文化祭の準備に使うことを許された、ある意味特別な日なのだ。 だから講義は全て休講で、一般の生徒は校内にはおらず、文化祭にホストとして参加する団体の学生しか、今日は登校していない。 そうなると必然に、この時間帯に校内に居る学生は、おそらく僕ぐらいのモノなのだろう... いや、ちがう... 居るのは僕と、もう一人... 「荒木さん!!大丈夫ですか!!!」 そう言いながら入ってきた一人の女子生徒は、勢い良くそのスライド式の扉を、その勢いのまま開けたので、この部屋の静寂さには不釣り合いな鈍い音をして、そしてその反動で、自然と扉は閉じられたのだ。 「あ...れ...?」 そして同時に、驚いているような、それでいて呆気に取られているような、そういった類の声が彼女から... 花影 沙織 (はなかげ さおり) の口から、漏れたのだ。 「...」 そしてそんな彼女を前にしても、僕は何も言わず、何も発さず、ただ黙って、彼女のことをジッと、見つめるようにしていた。 そしてそんな彼女は、相変わらずの薄いフレームの赤渕メガネの、その奥に映る彼女の瞳を、二度三度瞬きして、その間にようやく、理解したのだろう。 「...あぁ、なんだ...そういうことですか...」 「...」 僕に騙されたことを、僕が嘘のLINEで呼びつけたことを... 「騙されちゃったんですね...わたし...」 このとき途端に、理解したのだ。 「あぁ、そうだよ」 そう言いながら、僕は花影に送ったLINEを、そのまま彼女に見せる様にして、携帯電話の画面を、彼女に向けて突き出した。『助けてくれ、例の破壊事件の犯人と出くわして、殺されそうになっている』 そしてそのメッセージの端には、17:55 と表示されていたのだ。
Last Updated : 2025-09-18 Read more