このところ、UMEのロボットはかなり好評で、注目度もほぼ冬川グループと肩を並べるほどだった。けれど、冬川グループは資金力も規模も桁違いで、その勢いにあっという間でUMEの話題はかき消されてしまった。星乃は宣伝に大金を投じるのをためらい、自分の手で広告を打ち、提携先を探すつもりでいた。今回、登世の寿宴には、瑞原市の名だたる一族や企業家、政界の要人、それに学校や病院など公共機関の関係者までもが顔をそろえていた。これ以上ないほどのビジネスチャンスだった。一度悠真と離婚してしまえば、こんなふうに多くの人脈と出会える機会は二度とない。「本当にやるつもり?」遥生は壇上の悠真に目を向けて言った。「こんなことしたら、悠真を怒らせるかもしれないよ」「怒らせるようなことなんて、もう山ほどしてきたわ。今さら一つ増えたところで変わらない」星乃は淡々と答えた。「そもそも、商売の世界なんて弱肉強食でしょ。大企業が小さな会社を飲み込み、小さな会社は生き延びるために必死でチャンスをつかむ。悠真ほどの人が、そんな単純な理屈もわからないはずがない」そもそも怒らせなくたって、悠真がUMEに手を抜くとは思えない。星乃の中には、もう感情への未練など一片もなく、ただ未来への渇望と、手にできる限りのチャンスを掴もうとする強い意志だけだった。遥生はしばらく黙り、これが良いことなのか悪いことなのか、判断がつかなかった。「遥生」背後から低くよく通る声がした。二人が同時に振り返ると、そこに立っていたのはえんじ色のスーツを着た中年の男だった。厳めしい顔つきで、無言のままでも人を圧する気配がある。星乃はすぐにその人を思い出した。水野家の当主であり、遥生と沙耶の父・水野崇志(みずの たかし)だ。彼の正妻、つまり遥生と沙耶の母が亡くなったあと、崇志は六度も再婚していた。離婚した相手もいれば、病で亡くなった人もいる。そして、どの妻との間にも子どもがいるが、彼は誰もが納得する形で、家族全員をまとめ上げていた。家の中で揉め事が起こったことは一度もなく、外ではたった一人で水野家を支え、内では見事に家を守ってきた。星乃は子どもの頃から、そんな崇志を尊敬していた。――あの出来事までは。数年前、崇志は水野家の利益のために、沙耶と圭吾の政略結婚を強引に決め
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