地下駐車場の高級車の中。誠司は運転席に座り、緊張のあまり手のひらに汗をにじませていた。ルームミラー越しに、後部座席の悠真をちらりと見る。車に乗り込んでからというもの、悠真は一言も発さず、感情の読めない顔で黙り込んでいた。この沈黙の圧力は、怒鳴られるよりもよほど恐ろしい。さっきの寿宴での出来事はすでに耳にしている。星乃が大勢の前で離婚を宣言し、その場で新しい恋人の話までしたという。それだけでなく、登世が株の持分を星乃に譲ったらしい。離婚のことはさておき、悠真のこの表情は、おそらくその株の件が原因だろう。彼の気持ちは理解できる。何年もかけて育ててきた果実を、やっと実ったところで他人に半分持っていかれたようなものだ。誰だって、そんな状況で平静ではいられない。けれど、相手は星乃だ。五年の夫婦生活があるのだから、きっと話し合えばどうにかなるはずだ――誠司はそう思っていた。しばらく考えたあと、恐る恐る口を開く。「悠真様……もう一度、星乃さんと話してみませんか?」星乃は筋の通らない人間ではないし、人のものを当然のように奪うような人でもない。株を受け取ったのにも、きっと何か理由があるはずだ。悠真は黒い瞳を窓の外に向け、何かを思案しているようだった。誠司の声でようやく我に返る。拳を握りしめ、皮肉な笑みを浮かべた。「話す?今さら何を?」もう離婚は成立している。ただの気まぐれかと思っていた。けれど、まさか、一ヶ月も前から離婚の準備をしていたなんて。――星乃、お前ってやつは、ほんとに隠すのがうまいな。考えれば考えるほど、胸の奥が重くなる。息が詰まりそうだった。誠司が小さく言った。「五年も一緒にいたんですし、星乃さんもまったく気持ちがなかったわけじゃないと思います。一時の衝動かもしれません。少しでも折れて、謝れば、もしかしたら考え直してくれるかも」彼は、星乃が登世の株を受け取ったのは、悠真と結衣に見せつけるためだと思っていた。最近の悠真は、結衣のことでさすがにやりすぎだったから。その言葉に、悠真は鼻で笑った。「俺に謝れって?」彼女は一方的に離婚を言い出し、それどころか、ひと月も前から計画していた。それなのに、今になって自分が悪者だと?謝るのは自分だって?「ありえない」悠真は低く言った。
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