悠真がドアを開けて入ってくると、結衣の顔色がひどく悪く、恵子はうなだれたまま、まるで何か悪いことをした子どものようにその前に立っていた。ふたりはリビングの大きな水槽の前に立っていた。中の魚たちはぐったりしていて、そのうちの一匹、赤いアロワナが腹を上にして浮かび、すでに息絶えていた。これは、星乃が以前とても気に入っていた魚だった。悠真は眉をひそめた。「これはどういうことだ?」その声を聞いた瞬間、恵子の全身がびくりと震えた。結衣も一瞬、息をのむ。まさかこの時間に悠真が帰ってくるとは思っていなかった。これまで彼女は気が向いたときに魚へ餌をやっていたが、この数日はずっと気分が落ち込み、手入れをする気にもなれなかった。その結果、今日になって水槽を覗くと、一匹が死んでいたのだ。大したことではないと思えばそうだが、言いようによっては問題にもできる。結衣はこの件を口実に恵子を少し脅してやろうかと思っていたが、まさか悠真が帰ってくるとは思わなかった。少し考えたあと、結衣は穏やかに言った。「悠真、このことは私に任せて」言い終える前に、悠真が冷たく遮った。「部屋に戻って。この件は君とは関係ない」結衣はまだ何か言いたげだったが、悠真の冷えきった表情と、底の見えない暗い瞳に息をのむ。その目には、まるで氷の刃のような気配が渦巻いていた。結衣は怖くなり、何も言わずに部屋へ戻った。「星乃がやっていたことは、何のことだ?」悠真が冷ややかに恵子を見た。ここまで来ると、もう隠し通せない。恵子はおずおずと答えた。「……魚の世話です」そして慌てて手を振りながら言い足した。「でも、それは星乃さんご自身がやるっておっしゃってたんです。好きでやってくださってて、私が無理にやらせたわけじゃありません!」「魚の世話『だけ』か?」悠真は水槽を一瞥した。中は青苔がびっしりと生えていて、魚の数も減っていた。彼は普段こういう細かいことには関心がなかったが、星乃がいた頃の水槽はいつも澄みきっていたことを覚えている。「掃除や水替え、酸素の入れ替えも、全部彼女がやってたんだな」恵子は黙り込み、さらに深く頭を下げた。悠真のまとう空気がどんどん冷たくなっていく。その圧に押され、恵子は息をするのも苦しくなった。悠真は低く笑った。「恵子、俺が何のために
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