星乃は車をUME本社のビル前に停め、大きく息を吐いてから建物へと向かった。ちょうどそのとき、遥生がすでに入り口で待っているのが見えた。軽く挨拶を交わし、二人で並んでエレベーターに乗る。だが、エレベーターの扉が開いた瞬間、社内からやや激しめの声が漏れて聞こえてきた。「聞いたか?今日、遥生社長が技術部に新人を連れてくるらしいぞ。しかも、その新人がいきなり技術部の主任になるって」「それだけじゃないよ。大学卒だって、院にも行ってないし、しかもさ……五年も専業主婦やってたらしい」「え、女性なのか?」男性社員の一人が驚いたように声を上げる。「五年も働いてない主婦が、いきなり主任?遥生社長、正気か?」UMEの現メンバーは、基本的に高学歴揃いだった。海外の有名大学を卒業している者もいれば、国内の一流大学の博士号取得者も多く、最低でも大学院を修了しているレベルだった。そんな中、長らく職場を離れていた「主婦」が主任として迎えられるなど、到底納得できない空気が漂っていた。皆、どこか憤りを感じていた。そのとき、誰かが小さな声でつぶやいた。「履歴書を見たけど、その新人って社長と大学の同期らしいよ。顔立ちはかなり整ってて……なんというか、典型的な『魔性の女』ってやつ。今回、冬川グループの出資を断ったのも、彼女が関係してるって噂だ」「やっぱり魔性の女かよ……もう我慢ならん!俺、直接文句言いに行ってくる!」そう叫んだ男は、顔を赤らめながら廊下を足早に進み――ちょうど、星乃と遥生の目の前で鉢合わせた。星乃は、自分が技術部主任として迎えられるにあたって、社内の反発を買うことは覚悟していた。だが、初日からここまで、あからさまな騒ぎになるとは思ってもいなかった。正直、気まずさがこみ上げる。一方、遥生は淡々とした表情で、特に気にしている様子はなかった。彼は男の前に立ち、落ち着いた口調で言った。「何か不満があるなら、今ここで話してくれていい」男は遥生がちょうど入ってくるとは思っていなかったらしく、一瞬たじろいだが、唇を結んで言い放った。「遥生社長、UMEをここまで成長させるのに、どれだけの努力があったか……それを信じて、皆ついてきたんです。でも、あなたの私情で、簡単にアレやコレを会社に招くのは、会社にとってもマイナスです!」「アレやコ
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