結衣は星乃を上から下まで見下ろし、嘲るように言った。「星乃、この前、冬川家で見たでしょ?悠真の心には、もうあなたなんていないのよ。それなのにまだ、そんな手を使って近づこうとするなんて……」「もうやめたら?そんな小細工、悠真には嫌われるだけよ」星乃はわざわざ弁解するつもりもなく、淡々と答えた。「言ったはずよ。ちゃんと身を引くつもりだって」だが結衣は、まるで信じていない様子だった。星乃は彼女の態度など気にも留めず、そのまま立ち去ろうとする。すると結衣がバッグから一枚の紙を取り出し、彼女の前に差し出した。「それでもまだ、悠真の気持ちに少しでも期待してるなら……これ、見てみたら?」星乃はその紙を受け取り、目を通す。それは自分の入社申請書だった。すぐに目に飛び込んできたのは――給与欄に記された「15万円」という、まるで皮肉のような数字だった。「冬川グループにいるただの警備員でも、月給30万円はあるわよ?新卒のインターンでさえ、最低25万はもらってるのに」そう言って、結衣は唇を押さえながらクスッと笑った。「それにくらべて、私は少し前に冬川グループの子会社に入って、悠真から提示された年収は1200万。それに会社の株までついてるの」「――これが、どういう意味か分かる?」星乃の給与明細を見つけたのは、偶然だった。最初は冗談かと思ったが、署名欄にはしっかりと冬川グループの社印が押されていた。つまり、本気で彼女を月給15万円で雇うつもりだったのだ。結衣が嬉々としているのを見ても、星乃は特に表情を変えることなく、静かに言った。「つまり、あなたの年収1200万の仕事は、もうすぐ消えるってことね」結衣の顔が一瞬で強ばった。「……今、なんて言った?」「冬川グループには、給与情報を外部に漏らすのを禁じる規定がある。あなたは今、そのルールを破ったのよ」星乃は手にした入社書類をひらひらと揺らしながら続けた。「これは重大な規則違反。解雇対象になるって、知ってるわよね?」結衣の顔から、みるみる血の気が引いていった。指先をぎゅっと握りしめる。だがすぐに何かを思い出したように、落ち着いた表情を取り戻す。「ふん、そんなことで私がビビると思ってるの?悠真が、あなたの言うことなんか信じるわけないじゃない」「じゃあ、録音があっ
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