私の仕事は、俗に言う風俗だ。 ――といっても、いわゆるお店に出て客を取るタイプではない。 私は個室の中で、ただパソコンの画面越しに男の人たちと話す。それだけ。 ……本当に「それだけ」なのかは、今となっては疑わしいが。 思えば、あの日の軽率なクリックが始まりだった。 前の結婚生活では専業主婦だった私。 家事と育児だけで一日が過ぎ、誰かと話すことも、鏡を見ることすら少なくなっていた。 そんなある日、何気なくスマホを眺めていたときに目に留まった広告――「こっそり副収入」「完全在宅」「顔出しなし」 鮮やかなピンク色のバナーに小さく書かれたその言葉に、指が止まった。 お小遣いが少し増えたら、自分の欲しいものが買える。 美容室に行って、服も買って……。 夫には秘密で、こっそりやればいい。 ――そんな甘い考えが胸をよぎり、私は迷わず広告をタップした。 指定された登録会場は、駅から少し離れた雑居ビルの一角だった。 エレベーターを降りて案内された事務所は、思った以上に明るく清潔感があった。 もっとこう、裏社会の匂いがするような空間を想像していた私は、肩透かしを食った気分で受付に座った。「こちらで登録会を行いますね。お名前と簡単なプロフィールを……」 柔らかい物腰の女性スタッフに誘導されるまま、個室の並ぶ廊下を進む。 廊下の壁には白いペンキが塗られ、ほんのりアロマの香りが漂っていた。 ドアにはそれぞれ番号が振られており、小さな撮影スタジオのようにも見える。「お仕事の内容はですね、パソコンの前に座って男性とオンラインでお話ししていただきます。顔は出さなくても大丈夫ですよ」「……話すだけ、ですか?」「はい。それだけです。服装やメイクは自由ですし、ウィッグやコスプレもあります。お顔を見せない方も多いですよ」 話すだけ――そう言われても、どこか腑に落ちなかった。 けれど、スタッフの女性はにこやかに微笑み、「さぁ、どうぞ」と部屋を案内してくれた。 案内されたのは、まるで女の子の部屋のような可愛らしい内装の個室だった。 淡いピンクの壁紙、フリルのついたクッション、丸テーブルの上には造花が置かれている。 そこだけ異世界のようで、現実感が薄れる。「うーん……でも、さくらさんはもっと大人っぽい雰囲気の方が似合うかもしれませんね。こっちの和室を
Last Updated : 2025-09-10 Read more