餃子はさすがに食べ切れなかった分をバットに移し、ラップをかけて時雨が冷凍庫へ仕舞い込んだ。「あとで焼いても美味しいからね。冷凍しておけば、またみんなで食べられる」 と笑う時雨の声には、ほんの少し安堵の響きが混じっている。作り過ぎてしまったのは事実だが、それはただ料理に夢中になっただけではない。さくらの仕事のことを考えて胸がざわつき、それを打ち消すように黙々と包み続けた結果でもあった。「もうこんな時間じゃない。後片付けはうちらがやるから、宮部くんは今日は帰りなさい」 さくらがそう促す。時計の針はすでに夜の十時を回り、台所には餃子とニンニクの香ばしい匂いがまだ漂っている。「すみません。けど……本当に美味しかったです。餃子もサラダも卵スープも、全部。時雨さんにコツまで教えてもらえたし……それに、四人でこうして食卓を囲めて楽しかった」 清太郎は軽く頭を下げ、少し言いよどんでから続けた。「……あ、それと」 声の調子が変わったので、藍里もさくらも顔を向ける。「さくらさん。今週末はよろしくお願いします。ほんの少しだけでもいいんで、うちの母に会ってください」 これで三度目の打診だ。 病院で、食事の最中で、そして今。 清太郎の真剣な眼差しを前に、さくらは短く息を呑み、しばらく口を閉ざしたまま考え込む。だがやがて、静かに頷いた。「……わかったわ。あの時、話を聞いてくれたお礼もあるし。心配しないでって直接伝えるのも大事よね。仕事は夕方前に終わりそうだから、時間決まったら連絡ちょうだい」「ほんとですか……! ありがとうございます」 清太郎の顔がぱっと明るくなる。藍里もつい笑顔を浮かべた。「よかったね、清太郎。私もおばさんに会うの楽しみ。……て言っても、里枝さんにはほぼ毎日会ってるから、あんまり久しぶりって感じしないけど」「……確かにな」 冗談めかして言う清太郎に、さくらと藍里は顔を見合わせて笑った。「じゃあ、そろそろ帰ります。また明日からもよろしくお願いします……あ、見送りに」 立ち上がろうとした清太郎の腕を、時雨が伸ばしかけた時――「いててて!」 と声を上げる。さくらが遠慮なくその腕をぐいっと引っ張ったのだ。「ほら、藍里。玄関まで見送ってきな」「えっ……あ、うん」 半ば背中を押されるように、藍里は清太郎と二人きりで玄関へ。 ドアを閉
Last Updated : 2025-08-20 Read more