二人きりをいいことに、なのか時雨と藍里は寄り添う。 「なんかホッとする」 「僕も」 「こうやってブランケットにくるまってなかったけどさ」 「くるまってもらわないと」 あのとき時雨が藍里に泣きついた以上に顔の距離は近い。 不思議と藍里はドキドキしない。反対に時雨がいつも以上にニヤニヤして顔を赤らめている。でも目を逸らさずに話す。 あくまでも時雨はブランケットに包んだ藍里を両手で抱き抱えるだけ。赤ん坊を抱くような感じで。藍里は体に寄り添う。 「ねえ、手は出しちゃダメなの?」 「手、かぁ……片手だけ」 藍里は右手だけ出した。そして時雨の手を握る。弱く握ったり離したり、また握ったり。動きを変えるたびに時雨は声を上げて笑う。 「どうしたの」 「ううん、なんでもない。楽しい? 手を触って」 「うん。硬い手だね」 「そうかなぁ。わかんないや」 と藍里は指の一本一本を触る。 藍里も次第に鼓動が高まる。すると藍里は時雨の手を自分の顔に近づけて匂った。 流石に時雨もびっくりして引っ込める。 「こらこら。なに匂うの……恥ずかしいよ」 「……パパはね柔らかくて、こんなに手汗なんてかかないし、あとタバコの匂いもした」 「今はタバコ吸わないからさ。お父さんはタバコ吸っていたんだね」 「うん、ママは嫌がったけど台所のコンロの近くとかベランダで吸ってて。その姿カッコよかったの」 藍里が片手を出したまま時雨に寄り添おうとしたら時雨は藍里をソファに横にさせ、立ち上がった。 「そ、そうだ……コンビニでお菓子買ってくるね。……あ、何か欲しいのあるかな」 「なにを急に。お菓子なんていらないよ。宮部くんからもらったばかりだし」 「あ、そうだよねぇ。でも書いたいものがあるから」 少し慌てた様子の時雨。カバンを持って部屋を出ていった。 藍里はブランケットから出てソファーに座った。 「……わたし、なにやってんだか。時雨くんはお父さんじゃないよ」 ふとスマートフォンを見る。先ほどテレビで気になったことを検索した。 あまり藍里はスマホを見ることはしないタイプである。 その検索結果は 『橘綾人娘役オーディション』 の画面である。渋い顔をした宣材写真。オーディションの条件は東海地区の高校生から大学生まで。芸能事務所所属でも可
Last Updated : 2025-07-31 Read more