(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~ のすべてのチャプター: チャプター 91 - チャプター 100

120 チャプター

心を抉る残酷さに 2

「本日から入社することになった、新人の東雲《しののめ》君だ。彼には轟《とどろき》さんの元で営業について学んでもらおうと思ってる。みんなよろしく頼むよ」「はじめまして、東雲 亮太《りょうた》です! みなさん、どうぞよろしくお願いします」 朝礼で部長から、その隣に立つ若い男性の紹介があって。 ずいぶん元気そうな新人さんが、この部署に入って来たのだと感心する。それも轟さんの元で、営業について学ぶことになるみたいだし。 事前に話を聞いていたのか、彼女は特に驚いてはいない様だったのだけど。「なんだか珍しいですね、こんな時期に新人さんが中途入社するなんて」 今までも中途採用が無かったわけではないが、特に忙しい時期でもないので不思議に思って轟さんにそう話しかけた。 すると彼女は……「東雲君は、大手の取引会社の社長子息なんだって。まあそう言っても彼は三男らしいし、これも社会経験のためらしいわ」「……へえ、そうなんですね」 やはり社長子息ともなると、勤められる会社もこういった紹介が多いのかもしれない。 そう言えば鵜野宮《うのみや》さんも社長令嬢だと聞いたが、朝陽《あさひ》さんの会社で見た時は仕事中だったような? 彼女は普段、どんな仕事をしているんだろう。 少し気になって、朝陽さんが帰ってきたら聞いてみようかと思ったりもして。そんな事を頭の中で考えていると。「貴女が轟さんですよね? これから色々な事を教えてください、頑張りますので!」 いつの間にか東雲君がすぐ傍にいて、ニコニコしながら私達に話しかけてくる。彼は結構、人懐っこいタイプなのかもしれない。「そう、こちらこそよろしく。そしてこの人は、私の補佐をしてくれている雨宮《あまみや》さん。彼女と関わる事も多いと思うから、二人共仲良くしてね」 轟さんはこういう時、必ず私の事も紹介してくれる。それもちょっと嬉しかったりするのだけど。 すぐに東雲君の視線がこちらに向けられて、満面の笑顔で私の手を握ってくるから驚いた。「はい、もちろんです。雨宮さんも、どうぞよろしくお願いします!」「はい、こちらこそよろしくおねがいします」 そう返すと、東雲君は部長に呼ばれてミーティングルームへと入っていった。まだ説明の途中だったようで、もしかしすると彼はかなりマイペースだったりもするのかな?「意外と良い子そうですね
last update最終更新日 : 2025-10-08
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心を抉る残酷さに 3

「そういえば、知り合いに預けているとお話したあの人形の事なんですが……」 白澤《しらさわ》さんとの帰宅途中に、彼からあの時の人形について話が出たことに驚いた。気にはなっていたけれど、急かしては申し訳ないと思い聞けずにいたから。 今は白澤さんの知り合いの人形を専門とする方に預かってもらっているが、上手く直してもらえそうだろうか?「はい、あの子は今どんな感じなのでしょう?」「ええ。とても大事にされてたのが分かるので、絶対に持ち主のところに返してみせると言ってましたよ」 その言葉にホッとする。もともと古い人形ではあったし、あれだけボロボロにされてしまってたから正直難しいのではという気持ちもあって。 でも白澤さんの知人の方がそう言ってくれるのなら、間違いなく帰って来てくれるのだろう。朝陽《あさひ》さんも、白澤さんも……この人たちが信頼している人なら、私も信じて大丈夫だと思えるもの。「ありがとうございます。白澤さんには色々とお世話になりっぱなしで、いつかお礼をさせてください」「いいえ。私はそう朝陽に頼まれていますし、鈴凪《すずな》さんには何というか……自分がそうしたくなる、そんな魅力があるんです」 白澤さんからの思いもよらない言葉に、頭がついていかなくて一瞬ポカンとした顔をしてしまったと思う。それくらい、自分が滅多に言われない内容だったから。 そうしたくなるというのが、手助けしたくなるということは分かる。でもそれを【魅力】なんて言い方をする人は、白澤さんくらいなのでは?「あ、えっと。よく手が掛かる子だった、とは母親からも言われてまして……」 父親からも鈴凪はとにかくお転婆だったとか、それでいて子供の頃から頑固で大変な子だと……今でもそうやって話題にでるくらいには。 なのに、白澤さんは首を振って。「いいえ、そういうのではなく。私が自分からそうしたいと思えるんですよ、貴女にはね」「……それって、違うんですか?」 逆にそう言われてしまって、戸惑うことしか出来ない。私だからってそう思うってのは、自分がそれだけ手が掛かるとか目が離せないってことじゃないんですか? 違いが分からなくて聞き返したのに、白澤さんはハッキリと言い切ってみせる。「ええ、全然違いますね。だから、鈴凪さんはもっと自信を持って良いと思います」 そうなのかな、白澤さんの中で
last update最終更新日 : 2025-10-12
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心を抉る残酷さに 4

「今日の午後はお得意様のところに挨拶に行くから、昨日用意した資料を持って十三時に駐車場に来てちょうだいね」「はい! 昨日、轟《とどろき》さんと一緒に作った資料ですよね? わかりました、準備しておきます」 新人の東雲《しののめ》君は轟さんの指導を受けながら、結構頑張っているみたいで。まだ二日目だけど、熱心に仕事に取り組んでいるので安心した。社長子息だと聞いていたのだが、彼自身は横柄でも我儘でもなく至って真面目だった。 まあ、どこかのドSな御曹司と比べて……とは、さすがに言えないけれど。「じゃあ、東雲君は先に昼休憩を済ませておいて。雨宮《あまみや》さん、後のことはよろしくお願いね」「はい。明日、明後日の資料も今日中に準備しておきます。他に何か必要な作業があったら、メッセージを送ってください」 デスクの棚から厚めの資料を取り出しデスクに置くと、機嫌良さそうに社員食堂に向かう東雲君。 彼が初めての仕事で、やる気を出してるのかと思うと微笑ましい。 ……今日は確か××企業の部長と会う予定だと、轟さんは話していたっけ? ただデスクにそのまま置かれた資料は、ファイルにでもいれておいた方が良いかもしれない。そう思って手に取ると、それに記載されているのは違う会社の名前で。「雨宮さん、その資料がどうかしたんですか?」「ああ、これなんだけど……ちょっと気になることがあって、確認してもらっていいですか?」 轟さんに報告しようかどうしようかと迷っていると、ちょうど東雲君が帰って来たので彼から確認を取ってもらう事にする。 私が話をしてややこしくなるより、そっちの方が良いと考えたから。「こんな間違いをしてしまうなんて、本当に教えてもらって助かりました。ありがとうございます、雨宮さん!」 あれからすぐに轟さんに電話して、資料が違っていたことを確認することが出来た。 東雲君はデスクからもう一つの資料を出して、今度はしっかりと二人で確かめてホッとする。 彼も最初は焦っていたようだけど、とりあえずは落ち着いたみたいだし。「いいえ、たまたま気付いただけなので。それよりも早くしないと、轟さんを待たせることになっちゃいますよ?」「ああっ! そうですよね、じゃあ俺は行ってきます。雨宮さん、今度このお礼をさせてくださいね!」 そう言ってバタバタとオフィスを出ていく東雲君の後
last update最終更新日 : 2025-10-13
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心を抉る残酷さに 5

「雨宮《あまみや》さん今日はありがとうね、資料の件について東雲《しののめ》君から話を聞いたわ」「いいえ、たまたま気が付いたので。これは仕事ですし、お礼を言われるほどの事はしていません」 会社に戻ってきた轟《とどろき》さんからそう言われて、私も何事も無くて良かったと返事をした。東雲君は出先から、そのまま直帰することになったらしい。 就業時間も過ぎてそのまま帰っても良かったが、轟さんと休憩室で缶コーヒーを飲んで少し話してから白澤さんの待つ玄関へと向かう。「遅くなるなんて珍しいですね、今日は残業だったんですか?」「いえ、轟さんと二人で少しだけおしゃべりをしてたので。待たせてしまって、すみません」 一応スマホにメッセージを送ってはいたが、白澤《しらさわ》さんの性格上ここで待ってるだろうとは思ってて。 それが申し訳なく、謝ったのだけど……「いいえ。朝陽《あさひ》も今は出張なんですし、少しくらいは良いと思いますよ」「そうですね、ありがとうございます」 白澤さんは私の言動に対して否定から話をする事はない、ちゃんと聞いて自分の考えを伝えてくれるから本当に凄いと思う。これが朝陽さんの場合だと、意見が食い違った時に言い合いになるんだけれど。 けれど、その言い合いになる相手が近くにいないとやっぱり寂しくて。「……早く帰ってこないですかね、朝陽さん」「そうですね、鈴凪《すずな》さんが素直にそう送ってみれば可能性は無くないかもですけど」 何となくそう言うと、白澤さんは思いもよらないようなことを話す。素直にそう送ればなんて簡単に言うけど、それって朝陽さんからするととんでもなく迷惑なのでは?「そんなことあるわけないじゃないですか、もしかしたら既読すらつかない可能性もありそう」「もしかしたら、って……では鈴凪さんは、昨日から一度もメッセージを送られてないんですか?」 逆に驚いたようにそう聞かれる理由が分からない。 そもそも必要最低限以外で、朝陽さんにメッセージを送ろうと思った事も無かったから。「え? そうで
last update最終更新日 : 2025-10-13
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心を抉る残酷さに 6

 今朝も会社の入口まで白澤《しらさわ》さんに送られて、いつも通りの時間にオフィスへと入る。すると、すぐに東雲《しののめ》君から大きな声をかけられて。「雨宮《あまみや》さん、おはようございます! 昨日は、どうもありがとうございました!」「東雲君、おはよう。今日も一日、頑張りましょうね」 昨日の書類の事でお礼を言われたが、仕事についてのサポートは当然だから気にしないでと伝えた。それでもニコニコと笑顔で、私に話しかけてくるから少し可愛くも見える。 そう思っていたのだけど、東雲君は思いのほか私を頼るようになって。「雨宮さん、これって……」「そう言えば、雨宮さん……」「あの、雨宮さん……」 轟《とどろき》さんに聞いた方が分かりやすい事もたくさんあるのだけど、何故か事あるごとに彼は私に質問してくるようになった。もちろん轟さんの補佐をしているので、答えられる内容ではあるのだけど。 それを見ていた轟さんは、こっそり私を呼び出して……「雨宮さん、ずいぶんと懐かれたみたいね。東雲君ったら、口を開けば『雨宮さん!』ばっかりで……ふふふ」「そうなんですかね? ああ……でも個人的な相談に乗って欲しい、とは言われました」 実は昼休みに少し話を聞いて欲しいと東雲君から言われて、仕事終わりに休憩室で話をする約束をした。どんな内容なのかはまだ聞いてないし、まだ私が役に立つのかは分からないけど。 それでもこうして頼られるのは、少し嬉しくて。「あら、本当に? 彼もまだ仕事に慣れなくて不安なのかもしれないし、雨宮さんが話を聞いてもらえると助かるわ」 轟さんは少し安心したようにそう言ってくれて、私の事を信頼してもらえてるんだって分かる。その分、頑張ろうって気持ちになれるから。「はい、私が何か力になれると良いのですけど」「そんなことないわ。雨宮さんなら大丈夫よ、よろしくね」 それから私達はまた仕事に戻り、今日の業務の残りを進めていく。明日も大事な取引先に向かうと聞いているから、しっかりとした資料を作らなければ。 白澤さんには作業の合間にメッセージを送り、仕事を終えて東雲君と約束した休憩室へと向かう。「あっ、雨宮さん! 良かった、来てくれなかったらどうしようかと……」「そんなわけないでしょう、ちゃんと約束したんだし。でもあまり時間は取れないの、ごめんなさい」 一応メッセ
last update最終更新日 : 2025-10-14
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心を抉る残酷さに 7

「いいんです、こうやって雨宮《あまみや》さんが来てくれたことが嬉しいので! それより珈琲でも飲みましょう、さっき自販機で買っておいたんです。ほら……あっ!」「あ、危ないっ!」 座っていた長椅子から勢いよく立ち上がった東雲《しののめ》君が、私の方へと寄って来ようとして躓き倒れかけてしまう。そんな彼を慌てて支えようと手を伸ばした瞬間、その持っていたコーヒーのカップに腕が触れてしまって。 東雲君が転ぶのはなんとか回避出来たが、そのカップの中身が零れて彼の白いシャツを汚してしまう。「ああ……これはちょっとヤバいかも、帰りどうしよう?」「早く、このシャツを脱いで。すぐに洗えば、これくらいなら落ちるかもしれないから!」 急いで水で濯げば、この程度なら何とかなるかも。そう思って東雲君にシャツを脱ぐように頼んで、床に零れた珈琲の後始末を手早く終わらせる。 そのまま後ろを向いた状態で、東雲君にシャツを脱ぎ終わったかと聞く。 すると、彼は申し訳なさそうな声で……「すみません、雨宮さん。シャツが濡れていて、上手くボタンが外せなくて」「いいのよ、これは私の所為でもあるんだから」 東雲君に自分が脱がしても大丈夫かと確認して、彼のボタンを一つずつ外していく。この時は、彼のシャツを早く洗わなければと私も焦っていて。 それから二人で給湯室に向かい、何とかシャツに付いてしまった珈琲の汚れを落とすことが出来た。「ええと、これでもう大丈夫そうかな? そのロッカーの中にドライヤーがあるから、ある程度乾かせば着れると思うわ。私はそろそろ行かないと、今日は相談に乗れなくてごめんね」 珈琲のシミを落とすのに思ったよりも時間がかかってしまい、これ以上は白澤《しらさわ》さんを待たせたくなくて。相談はまた明日にして、今日はお互いにもう帰る事にした。 東雲君も早くシャツを着たいだろうし、そろそろ家から迎えが来ると言っていたからちょうど良かった。「いいえ。本当にありがとうございます、色々と迷惑かけてすみません」 東雲君はそう言って何度も謝ろうとするけれど、これは私の所為でもあるから。 真面目で優しい性格の彼には、これからもこの会社で頑張って欲しい。自分はそんな彼らを、出来る限りサポートしていけたらって思っているから。 この職場が、ここで働く人たちが私は凄く好きだから……東雲君にもそ
last update最終更新日 : 2025-10-14
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心を抉る残酷さに 8

「おはようございます……あの、何かあったんですか?」 まだ朝礼前の時間なのに、オフィス内が妙にざわついている。それが気になって、すぐ傍にいた女性社員に声をかけたのだけれど。「ああ、それがね。朝一番で東雲《しののめ》君のお父様が来てらっしゃって、部長が対応しているところなんだけど……」 東雲君のお父さん? 確か取引先の社長だとは聞いているけれど、いったいどうしてこんな朝早くに? そう思っていると、応接室から出てきた部長が私を見つけて近付いてくる。 あまり顔色が良くないようだし、焦っているようにも見える。いったい何があったのだろう?「ああ、ちょうど良かった。雨宮《あまみや》君、ちょっと来てもらえないだろうか?」「……はい、わかりました」 あまり良い予感はしないが、ここで断るわけにもいかず部長の後をついて応接室へと入る。その部屋の中にいたのは小太りの中年男性で、何となく雰囲気が東雲君に似ている。 だがそっくりなのは容姿だけで、二人の性格はかなり違っていたようだ。「君が雨宮さんか。用件はもう分かっていると思うが、君はどう責任を取るつもりなんだ?」「責任とおっしゃいますと? 申し訳ありませんが、私には何の話をされているのか分かりません」 ハッキリとした話し方で私に質問をしてくるが、その意図が全く掴めない。いきなり責任と言われても、私にはそんな心当たりがないのだから。 私の返事に眉をひそめた東雲社長だったが、彼はそのまま一方的に話を続ける「……ほお? しらばっくれるつもりかね、君はうちの息子に強引に関係を迫ったそうじゃないか」「私が、関係を迫った? 東雲君がそういって話をしたのですか?」 何の話だろうか? 少なくとも私が東雲君に迫ったことも、逆に迫られたこともない。同じ職場で働く社員同士、という関係でしかないのに。確かに東雲君に少し懐かれてるのでは、とは思ったりもしたけれど。 何の根拠があってそんな話になるのか、訳が分からない。それなのに東雲社長は自信満々にこう言ったのだ。「ああ、そうだ。自宅のポストに数枚の証拠写真が入れられていて、それで亮太《りょうた》に確認したところ君に強引に迫られたんだと話したよ」「ご自宅のポストに写真が、ですか。すみませんが、それを確認させて頂いてもよろしいですか?」「ああ、写真に加工や小細工をされた形跡はな
last update最終更新日 : 2025-10-15
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心を抉る残酷さに 9

 ああ、やはり思った通りだ。手元にある写真には、昨日の休憩室で私が東雲《しののめ》君のボタンを外す姿が写されている。 これはこの前の飲み会で、流《ながれ》との写真を撮られた時と全く同じ手口で。だけどここはオフィスの内で、あの時に他の人がいるような気配はなかったはず。 ならばこの写真は、いったいどうやって撮られたというの?「……この写真は事実です。ですが、私が東雲君に迫るなんてことはありえません」 今の私には(仮)とはいえ、婚約者である朝陽《あさひ》さんという存在がいる訳で。そんな事をしようものなら、契約違反でどんな目に会わされるか分かったものじゃない。 しかし、東雲社長は……「本当にそうかね、君は最近婚約破棄されたばかりらしいじゃないか? そこに社長の息子である亮太《りょうた》が入って来たものだから、そういったことをしたんだろう!」 言いがかりもいいところだ。その相手が社長の息子であろうと、私がそういう事をする理由に婚約破棄されたことを使うなんて。 普通だったら有り得ない東雲社長のその言葉に、小さな疑いは徐々に確信に変わっていく。「……東雲社長は私が婚約破棄をされたと、なぜ知っていらっしゃるんですか?」 少なくともそんな話を東雲君にした覚えはないし、他の社員がペラペラと喋るとも思えない。そんな事を東雲社長が知っている事がおかしいのだ。 それを指摘された途端、予想通り焦った様子を見せる社長に『間違いない』と思った。「そ、そんな事はどうでもいいだろう! 君はこの件を認めて、その事について責任をどうとるつもりかと聞いているんだ!」「責任、ですか? 認めるも何も、事実でない事に私が責任を取る必要はないと思います」 自分が嘘をついている訳ではないのだから、ここは堂々と言い返した方が良い。それでも自分が処罰を受ける覚悟はしなければいけないが、今は毅然とした態度を取らなければ言い包められかねない。 そんな私の態度に東雲社長は苛立ち、隣に立っていた部長へとその怒りの矛先を向けた。「いったい何なんだね、この社員は! 私はここの社長と懇意にしているから大事な息子を預けたんだ、それを……!」 ……そういえば東雲君が入社したタイミングも、何故か朝陽さんの出張とピタリと重なっていた。 そもそも彼はこの事を知っているのだろうか? あんな風に私に懐いてくれた
last update最終更新日 : 2025-10-16
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心を抉る残酷さに 10

「落ち着いてください、東雲《しののめ》さん。雨宮《あまみや》君はそういう社員ではありません、ですのできちんと話をしましょう?」 詰め寄ってくる東雲社長を部長が止めようとしてくれるが、話を聞いてくれる状態ではなさそうで。流石に怒らせ過ぎてしまったかもしれないが、間違ったことは言ってないはずだ。「いいや! 彼女がこのような態度をとるのなら、私達もそれなりの対応をさせて頂こう。この会社との付き合い方も考え直さなければ」「な、東雲社長! ちょっと待ってください、それはいくら何でも……」 その言葉に私もハッとする。いくら何でもこの会社にまで迷惑をかける訳にはいかない。この職場の人たちに自分の所為で何かあるなんてそんなの……絶対にダメだ! そう思うと身体が勝手に動いて、今度は自ら社長の前に立った。「私に何を望まれてるんですか、東雲社長?」「そうだな。君が自ら会社を去るか、それとも……まあ何が一番ベストなのかを、自分で考えればいい」 なるほど、つまり社長は私に自己都合で会社を辞めろと言いたいのだろう。そうしなければ都合が悪い理由が、東雲社長にはあるのだと思われる。 どんな繋がりなのかは分からないが、その裏には鵜野宮《うのみや》さんの存在を感じて。こんな事をしていったい何の意味があるのだろう?  そもそも朝陽《あさひ》さんの心は、最初から鵜野宮さんに向いている筈なのに。 なのに、どうしてここまで?「私がこの会社を辞めれば、問題ないという事ですよね? 東雲社長が、それを守って頂けるのなら……」「ちょっと待ちなさい、雨宮君。とりあえず、二人とも落ち着いて話をするべきだろう!」 間に入って部長はそう言ってくれるが、東雲社長は私の「辞める」という言葉を聞いて一瞬で表情を変えた。 私はこの職場が大好きだから……自分の所為でこれ以上迷惑はかけられない。 朝陽さんも出張でいないこの状況では、良い打開策も浮かばなくて。諦めそうになった時――「ちょ、ちょっと勝手にはいられては困ります! いったい貴方は……」「急ぎの用だ、後でいくらでも説明するから後にしてくれ」 ……え? この声は、もしかして? そんなはずはない、彼は今愛知に出張中のはずで帰ってくるのは早くても明日だと言っていたのに。でも私が朝陽さんの声を聞き間違える訳が無くて、一気に胸が熱くなっていく。「
last update最終更新日 : 2025-10-18
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心を抉る残酷さに 11

「朝陽《あさひ》さん、どうしてここに!?」 ノックもなく開かれた扉、そこには間違いなく朝陽さんの姿があって。その隣には心配そうな表情をする轟《とどろき》さんもいるから、余計に驚いてしまった。 今日の事はあまりにも突然だったため、もちろん朝陽さんだって知らなかったはずなのに……本当に、どうして来てくれたの?「何だね、君は? 今は大事な話の最中なんだ、出て行きなさい!」 そのまま応接室内に入ってきた朝陽さんに、東雲《しののめ》社長はすぐに出ていくように言うが彼はまったく気にした様子は見せない。それどころか……「この俺に出て行けと? そんな事が言える立場なんですか、東雲社長」「――っ、まさか!?」 どうやら東雲社長は朝陽さんと顔見知りだったようで、彼が神楽《かぐら》の人間だと分かった途端に表情を変えた。でもそれは仕方ない、そもそも東雲社長と神楽グループの御曹司ではその立場を比べるまでもないのだから。 一気に形勢が悪くなったのを察したようだが、東雲社長はまだ納得出来ないというように私を睨みつけて……「今はこの女性社員の行動について処分を求めているところなんです、関係のないのに口を挟むつもりですか? 神楽の御曹司ともあろう人が!」「……ほう? どういう理由で彼女に処分を求めているのか、面白そうだから俺にも聞かせてもらおうか。それくらいはいいだろう、東雲社長」 訊ねるような言い方だが、実質断ることは許さないと言わんばかりの話し方。普段の朝陽さんとは全然違うその様子に、私の方が戸惑ってしまう。 やり手だと言われている、これが朝陽さんのビジネススタイルなのだとハッキリ見せつけられているようで。普段自分がどれだけ優しく接してもらっているかのかを、この時になって初めて気づいた。 だけどそんな事をゆっくり考えている暇などなく。「ではこれを見てもらいましょうか? うちの息子の亮太《りょうた》に、この女性社員が無理矢理迫っているんですよ? きっとうちの金が目的なんでしょうが、こんな事は私が許しませんがね」「ほお、ずいぶんよく取れている写真だな。しかしこんな物を貴方はどうやって手に入れたんです?」 私が東雲君のシャツの釦《ボタン》を外している写真を差し出されても、朝陽さんは極めて冷静だった。ほんの少しくらい動揺するかと思ったが、そんな事はなく。だけど、それもそ
last update最終更新日 : 2025-10-19
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