All Chapters of (仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~: Chapter 151 - Chapter 160

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思わぬ味方を得て 4

 待ち合わせの時間より遅れてしまったため、先に着いていた朝陽《あさひ》さんは駅近くのコーヒーショップで時間を潰していたそうで。私達が彼にメッセージを送ると、そのまま店を出てこちらに向かって歩いて来た。「ずいぶん遅かったな。てっきり俺の方が後になると思ってたんだが、何かあったのか?」「ちょっとだけ人助けをしてまして……ねえ、そうですよね白澤《しらさわ》さん?」 やましい事はないが待たせた事に申し訳なさを感じて、つい白澤さんに助けを求めるような言い方をしてしまう。それが朝陽さんを拗ねさせる原因になるなんて思いもしなくて。「そうですね、朝陽が嫉妬するようなことは何も起こってないので安心してください」 何故そんな意地悪な言い方をするんですか、普段は淡々と話すくせによりによってこんな時だけ。揶揄われていると分かっているのに、朝陽さんがあからさまに不機嫌そうな顔をするから白澤さんが喜ぶんですよ?「俺に対する嫌味なのか、それは? ……ったく、俺は待たされるのは好きじゃねえってのに」「へえ、それは意外でした。過去の経験上、朝陽さんは待つ事には慣れてるんだと思っていたので」 しまった、と思ったが口に出してしまった言葉は無かった事には出来ない。朝陽さんの鵜野宮《うのみや》さんに対する想いを知っていたからこそ、こんな言い方をしてはいけないと分かってるつもりだったのに。 けれども私の失言を朝陽さんはもう過去の事だと、はっきりと言葉にしてくれる。「それは全く別の話だろう? 昔だって好きで待ってたわけでもない、それにいま隣にいて欲しいのは鈴凪《すずな》なんだから」「そんな事まで言わなくていいです、ちゃんと……分かってますから」 今そんなことを言われたらキャパシティーオーバーなんです。自分の失言で焦っていたところなのに、そうやってトドメ刺さないで欲しい。顔面だけでなく身体中が熱くなって、思考回路がショートしそうになっていると……「私はもう帰ってもいいですよね、そろそろお二人のために空気でいるのも疲れましたし?」「白澤さんまで、そういうことを……っ!」 ああもう、やっぱり白澤さんて本性はドSな気がする。朝陽さんと彼が学生時代から交友が続いているのも、二人が似た物同士だと思えば納得出来た。 どうにか揶揄われないようにしなければ、なんて一人で真剣に考えていたのだが。
last updateLast Updated : 2026-01-11
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思わぬ味方を得て 5

 駅からそう離れていないと言われ、目的のお店まで朝陽《あさひ》さんと二人で並んで歩く。特に話題も思いつかなかったので、さっき話していた事について彼に聞いてみたのだけど。「明後日って朝陽さんは仕事じゃないんですか? 何か他に用事があったりするなら、無理に送ってもらわなくても……」「俺が送迎するのは不満なのか、それとも白澤《しらさわ》でなければならない理由があるとでも?」 そういう意味じゃないんですけれどね、どうしてそんな拗ねた様な顔をするんですか? こうして恋人同士になって、朝陽さんのいろんな表情を見る様になった気がする。 付き合う前は意地悪な笑顔ばかり見ていた気がするのに、余裕なさそうな今の彼に少しキュンとしちゃてる自分がいて。「……もしかして、本当にヤキモチ妬いてます? 私と白澤さんでは何も起こりようがないって、朝陽さんだって分かってるでしょう」 流石にそんな事は言えないから、好きなのは朝陽さんだけなのだと遠回しに伝えてみるけれど。白澤さんは良い人だと思うけれど、恋愛対象ではない……きっとお互いに。 おそらく朝陽さんも気付いてるはずだもの、白澤さんには他に意中の人がいるってことに。「頭では理解してる、そもそも俺がそうしろって言ったんだから。だが気持ちが騒つくのはどうしようもないんだよ、自分でも」「私だって同じです。もし美人秘書に言い寄られたらグラつかないかな……とか、取引先の社長さんからお嬢さんを紹介されたりしないかなって。結構不安になること多いんです、朝陽さんみたいな人が恋人だと」 むしろ私の方がずっと心配してますよ、自分の彼氏がどれだけハイスペックか知ってますし? きっと朝陽さんの職場でも、彼に特別な感情を抱いている女性は少なくないはずで。 それを言い出してしまうとキリがないから、あえて朝陽さんには伝えてなかっただけで。「そうなのか、鈴凪《すずな》はそんな素振り見せなかったから気付けずにいた。そうか……お前も同じなのか」「ふふ、そうなんですよ。さぁてお腹も空きましたし、そろそろお店まで案内してもらえますか?」 ヤキモチを妬いて煩わしいと思われたくなかったし、仕事に対する朝陽さんがどれだけ真剣なのかは分かってるつもりだったから邪魔にはなりたくない。 ……でも、これからは少しだけ不安は伝えてみようと考え直した。「そうだな、少し遅れ
last updateLast Updated : 2026-01-13
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思わぬ味方を得て 6

「個室にまだ空きがあって良かったな、思ったより客が多くて個室でなければ帰って話をする事になるかと思ったが」 ええ、本当にそうですね。しかもこの個室は落ち着いたアジアンテイストでオシャレだし、老若男女問わず色んな人に人気なのも頷ける。そりゃあ、恋人同士で来るのにはもってこいの雰囲気の店なのは確かだけど。「話の内容的に個室が良い、というのは分かるんですが……なぜこの状態で隣に座る必要が?」 ……そう。普通はカップルでも向かい合って座りそうなのに、朝陽《あさひ》さんは私にべったりとくっついて座っていて。しかも腰に腕を回されて、少しの距離も取ることが出来ない状態にさせられている。 なのに彼はそんな私の発言が不満だったらしく、余計にくっついてくるからこっちの方が緊張してしまうのだけど。「いやいや、近過ぎですって! いくら個室でももう少し離れてくれなきゃ、私だって困るんです」「……困る、なんで? この程度の触れ合いならだって今更だろう、俺は今までもずっと鈴凪《すずな》とこうしたいと思っていた」 はっきりそう言われてしまって余計にどうして良いか分からなくなる、甘い囁きに慣れてない私はそれだけで顔から火が出そうになっちゃうから。 もちろん朝陽さんのことは好きだから、そう思ってくれるのは本当に嬉しいのだけど。「その……家でなら構わないので、ここではちょっと」「はぁ、これがわざとじゃ無いんだからコイツは厄介なんだよな」 そう呟いて何故か片手で顔を覆った朝陽さんだが、彼の言う『わざとじゃ無い』というのは何のことだろう? でもそう言いながらも朝陽さんの腕の拘束は緩まないから、諦めるしか無いかと思っていたら。「マンションに帰ったら、だよな? ここで我慢させられただけ、ご褒美期待してるから」「ええぇ……?」 そのご褒美って、この会話の流れからするとお家でのイチャイチャってなる様な気がして。そう考えると余計に恥ずかしくなってしまって、慌てて話題を変えようと試みる。「朝陽さん、今日は貴方のご両親への挨拶について話し合うんでしたよね? 大事な内容なんですから、朝陽さんもちゃんとそっちに座って話しましょう!」「……分かった、それについては俺もきちんと話したいしな。時間もかかるだろうし、先に注文を済ませてからにしようか」 注文した料理があらかたテーブルに並び私たちは食
last updateLast Updated : 2026-01-15
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思わぬ味方を得て 7

 朝陽《あさひ》さんからの説明によると、彼のお母さんは大人しい性格で夫である社長に自分の意見を伝える事が苦手らしい。良家のお嬢様として育てられた彼女は、親から勧められて断れないままお見合い結婚をしたそうだ。 つまり……彼のお母さんに味方に付いてもらい、一緒に社長を説得してもらうのは難しいと思われた。「悪い人じゃないんだ、俺には愛情をもって接してきてくれたし。ただ……あんな父親が相手だから、母はずっと大人しく言う事を聞く妻でいるしかなかったんだと思う」「……朝陽さんの話でもちゃんと聞く気は無いって感じでしたしね、分からなくはないです」 何よも自分や会社の利益を優先する、私達に向けられたのもそれがハッキリと分かる言葉だった。そんな相手に素直に話をしたとしても、きっと分かり合えず平行線になるに違いない。 ならば、私達はどうすれば良いのか? ご両親との挨拶の日までそう時間は残っていない、何か方法は無いかと思案していると……「神楽《かぐら》に関わる人間はみんな、あの父に対して不満は持っているが口にはしない。それだけアイツの持つ権力と影響力は大きいからなんだ。意見を言えたのは死んだ祖母か、今はもう離れて暮らす祖父くらいで……」「まあ、そうですよね。でも結婚は私たちのことなので、自分たちで頑張るのが一番大事なんじゃないでしょうか? 私はもう向かい合う気満々ですし、朝陽さんもそうだと信じてますから」 そう言って拳を握って気合いのポーズを見せた途端、朝陽さんが吹き出し大きな声で笑いだしてしまう。いくら個室とはいえ、こんな笑い声を出せば周りにも聞こえてしまったはず。 焦る私に、朝陽さんは凄くスッキリとした笑顔で……「そうだよな、鈴凪《すずな》はそういう性格だったな。俺はお前を守らなければとか、嫌な思いをさせないためにと回りくどい事ばかり考えてて。一緒に戦ってくれる、鈴凪はそんな女性だって事を忘れてしまってた」「守られてばかりは性に合わないので、朝陽さんと知り合った時だって会社に単身で乗り込んじゃってたくらいですし?」 あえて恥ずかしい思い出を話したのも、私は大丈夫だという意思表示で。私が望むのはどちらかに負担を強いる寄りかかるような関係ではなく、相手を尊重しつつお互いに支え合える形だから。 二人でだからもっと頑張れるはず、きっと一人の時の倍以上が出せるんじゃ
last updateLast Updated : 2026-01-17
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思わぬ味方を得て 8

 そして迎えた朝陽《あさひ》さんのご両親との挨拶の日。落ち着いた雰囲気のワンピースと装飾品も彼が選んだものを身につけて、気合を入れて朝陽さんの実家にやってきたは良いのだけど……「大きすぎるでしょ、いくらなんでも」「まあ神楽《かぐら》グループを纏めている本家でもあるからな、ほとんどは来客のための部屋で家族の生活しているスペースはそうでもないんだが」 ……いや、それはそれで凄いと思いますけど。どう見ても家族で手入れ出来そうな広さではないから、結構な人数のお手伝いさんがいるのだろう。改めて朝陽さんが私とは全く違う環境で育ってきたのだと思い知らされた。 綺麗に手入れされた植木や色とりどりの花、掃除の行き届いている玄関に整えらた庭まで全てが私の実家とは比べ物にならない。ほんの少しだけ心が揺れる、本当にここ来たのが自分で正解なのか……と。 でもそんな私の不安な気持ちを朝陽さんは感じ取ったのか、優しく肩を抱いて囁いてくれる。こうやって挨拶に一緒に来れたのが、鈴凪《すずな》で良かったって。それだけでこれから頑張ろうと思える、この人との未来のためだから。 朝陽さんがインターフォンを押すとすぐに「はい」と返事が来たが、彼が名乗ると相手は何故か戸惑ったように言葉を濁している。もちろんそんな事で朝陽さんがすんなり引き下がるわけもなく。「おい、何かあったのか? お前は親父の秘書の敷島《しきしま》だろう、今日はきちんと会う約束をしていたはずだが」『そうですね、ですが……今はちょっと、出来ればもう少しお待ちいただけないかと』 何か都合が悪いのだろうか、敷島と呼ばれた男性の歯切れが悪い。しかも何故時間を伸ばして欲しいのかも言いたくないようだが、朝陽さんがそれで納得するはずはない。 何度かそうやって質問を繰り返した後、私たちは神楽の本家の中へと案内された。「……しばらくこの部屋でお待ちください。旦那様を呼んで参りますので」 そう言ってそそくさと部屋を出て行ったのが秘書の敷島さんと言う男性らしい、彼が何か隠している様に感じたのは私だけではなかったようで。 朝陽さんも部屋を見回した後、手を顎に当てて真剣な表情で何か考えているようだった。「この部屋は親父の書斎や家族の生活スペースからかなり離れている、普段は使用する事なんてないのにどうしてここに案内されたのか? やはり俺たちが
last updateLast Updated : 2026-01-18
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思わぬ味方を得て 9

 ようやく戻ってきた敷島《しきしま》さんは申し訳なさそうに頭を下げて、朝陽《あさひ》さんのお父さんからの伝言を伝えて来たけれど。やはりそれは私たちにとって「はい、そうですか」と素直に言える内容ではなく。「すみません、朝陽様。旦那様からどうしても本日は都合が悪いそうで、また日を改めて欲しいと」「都合が悪いって、何日も前に時間の取れる日を確認してきたはずだ。理由も分からないまま一方的に約束を反故されるのは、さすがに納得がいかないんだが?」 これは朝陽さんの言う通りだと思う、もしも急用が出来たのだとしても私たちがここに来る前には何の連絡もなかったし。こうして敷島さんという秘書だっているのだから、それが出来ない事はないはず。 それでも連絡をしなかったのは、よほど予定外のことが起こった所為なのかもしれないけれど。「その事については朝陽様にお話しするほどではないとの旦那様の判断ですので、申し訳ありませんが……」 どうしても理由を話せないのか、敷島さんは朝陽さんに詰められながらも困った顔をして首を振るばかり。それにしても実の息子にもワケを言いたくないって、一体何があったのだろう? そう思ってしまったのは、やはり隣にいる朝陽さんも同じだったようで。「親父の判断って、それで俺たちの話は聞きもせずに大人しく帰れってことか? それはいくら何でも――ん?」 扉の前で戸惑っている敷島さんに問い詰めていた朝陽さんの言葉が止まる、その扉のずっと向こうからドスドスという足音と焦った様な声が聞こえて来たからだ。 激しく言い争っている、というわけではなさそうだけれど和やかに話している感じではない。「……えっと、どなたの話し声でしょうか。段々こっちに向かって来ているような気がしますけど?」「朝陽様、すみませんがこの部屋からは絶対に出ないでください! す、すぐに旦那様をよんで戻ってきますので」 私の問いかけと扉の向こうから聞こえてくる声に、血相を変えた敷島さんがそう言って慌てて部屋から出て行ってしまった。やはり何かゴタゴタしている事は間違い無いと思うのだけど。「ええと……どうしましょうか、朝陽さん?」 このままこの部屋で大人しく待っているか、それとも……? 彼の返事の予想はついているけれども、念のために確認するとやはり答えは私の思ったとおりで。「向こうにとって何か都合が悪
last updateLast Updated : 2026-01-19
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思わぬ味方を得て 10

 その声には私も聞き覚えがあって、ドアを開いた朝陽《あさひ》さんもかなり驚いた表情をしていた。神楽《かぐら》家の主人……その言葉は神楽グループの代表であり朝陽さんの父親のことを意味する、その人物が焦った様子でこちらに向かって来ているのだから。 ただ私はその先を綺麗な所作で歩く女性にも見覚えがあった、だけどどうしてあの人がこの場所にいるのだろうか?「ええ、もちろん存じてますよ。ですがこの神楽グループをここまで成長させるのに、私の働きがなかったとは言わせません」「それは……おっしゃる通りですけれど」 おそらく朝陽さんのお父さんはすぐそばに私たちがいる事に気づいていない、そのことに気付いた彼は私を抱き込む様にして父親から見えないように隠れる。 様子を覗き見していた朝陽さんが、私にもかろうじて聞こえるような小声で呟いた。「どうして、サチおばあ様がここに……?」 ……お祖母様? でも朝陽さんは少し前に私に祖母は亡くなっていると話していたはず、ならば母方の祖母と考えたがそうでもなさそうだ。その女性と朝陽さんのお父さんの雰囲気に、なんとなく血縁関係があると感じたから。 朝陽さんに状況の説明をしてもらいたいが、難しそうなので黙って彼に匿われたままになっている。そんな私たちのすぐ傍までやって来た二人だったが、隠れていることを知らずそのやり取りを続けていて。「私はただ実家の様子を見に来たに過ぎません、朝陽が来ると聞いて久しぶりに会えるかと思いましたし。それとも私があの子に会ううと、お前には何か都合が悪いのですか?」「サチ叔母さん! ですから、私が言いたいのはそういうことではなく……!」 神楽グループの代表である人物にあんなにハッキリと物申せる相手が、まさかあの人の叔母さんだったなんて。どうやらあの女性は朝陽さんのお祖父さんの妹だったらしく、それを知って私も唖然としてしまった。「普段は神楽の家に滅多に来ない人だけど、会社を大きくするのにかなり貢献した人だから父も頭が上がらないんだ。まさか今日、ここに来ているなんて……」「そうだったんですね。でも私達もこのまま隠れているわけにはいきませんし、どうしましょうか?」 二人が話しているのはもうすぐ近くで、このまま隠れ続けるのは難しい。どちらにせよバレるのなら自ら出て行くべきかと考えていると、朝陽さんはニヤリと笑みを浮
last updateLast Updated : 2026-01-20
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思わぬ味方を得て 11

 朝陽《あさひ》さんは私の腕を掴んだまま強引に二人の前に出ると、いつものニ割り増しくらいの晴れやかな笑顔で女性へと挨拶をする。でも完璧な営業スマイルとは少し違う、これってもしかして本当に喜んでる……?「お久しぶりです、サチお祖母様。いつからこちらの方に来ていらしたんですか?」「朝陽、どうしてお前達が……っ!」 先に反応したのは朝陽さんのお父さんだったが、それを気にすることなく女性も嬉しそうな笑顔で彼の頬へと手を伸ばす。その女性に見覚えがある様な気がしていた私は、彼女のカバンに付けられたキーホルダーを気付いて。 ああ、この人は無くしものを探していた……あの時の女性なんだ。まさかこの方が朝陽さんと関係があったなんて、予想外の人物の登場に驚きしかない。「まあまあ! 朝陽ったら、しばらく会わないうちに随分落ち着いた雰囲気になったのね。実は貴方が大切な人を連れてくると聞いてて、数日前からこの人には内緒で神楽《かぐら》のホテルに滞在してたのよ」「サチおばあ様らしいですね、そういうとこは昔から変わらない。それにしても数日前からって、今回はゆっくり出来そうってことでしょうか?」 笑顔で話す二人とは対照的に朝陽さんのお父さんの顔色はどんどん悪くなっている気がする、さっき朝陽さんが言っていた運が味方しているってこういう事? そんな私の考えは割と的を得ていたようで。「そうね、一週間ほどの滞在を予定しているわ……幹臣《みきおみ》は早く帰って欲しそうですけれどね、ほほほ」「サチお祖母様とは積もる話もあるし、ゆっくり出来る部屋を準備してくれないか? それと母も呼んできてほしい、これから大事な話をするつもりだから」 ……なるほど。彼のお父さんはこの女性に頭が上がらないと言っていたから、もしもこの方が私たちを認めてくれたら困るって事なのでしょうね。それを認めるかのように焦り声を荒げるけれど、きっとそれも無意味なはずだ。「――朝陽、お前っ!」「元々そういう約束でしたよね、勝手に予定変更されても困ります。それが貴方にとって都合が悪かったとしても」 ハッキリと朝陽さんに言い返されてしまい言葉に詰まったようで、この状況への怒りが伝わってくる。だけどサチさんはそんな事で怯むこともなく、当然のことのようにこう言ってみせた。「幹臣、私も同席させていただきますよ。朝陽は私にとって可
last updateLast Updated : 2026-01-21
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見落とし失うのは 1

「私はお茶の用意をしてまいりますので、皆様は旦那様と奥様がいらっしゃるまでこちらでお待ちください」 敷島《しきしま》さんはそう言ってそそくさと部屋を出て行ったが、きっと朝陽《あさひ》さんのお父さんの様子が心配なのだろう。以前会った時は落ち着いているが威圧的な雰囲気で、決して揺るがなそうだったのに今日は余裕がなさそうだったから。 それでも今がチャンスな事に違いはないから、この機会を逃すつもりはないけれど。それについては、やはり朝陽さんも私と同じ気持ちのようで……「本当に助かります、サチおばあ様がこのタイミングで実家に来てるなんて。正直なところ、あの人が大声を出していたのには驚きましたけど」「うふふふ。私も神楽《かぐら》グループの経営に関わった人間ですからね、今でもそれなりの情報は入って来るのですよ。良い事も悪い話も……ですが今回は朝陽のことでしたから、ついここまで来てしまって」 この状況で和やかに話し出した二人に驚いたけれど、どうやら朝陽さんとサチさんはかなり仲が良いみたいだ。実の父親にはもっとピリピリした雰囲気になるのに、彼女に対しては随分柔らかな物腰で話しているから。 それはサチさんも同じようで、先ほどまでと打って変わった優しい表情をしている。本当に朝陽さんの事を大切に思っている事が、彼女のその様子からも伝わってくる。「おばあ様のそういう性格が俺は好きですけど、あまり無理はしないでくださいね?」「……ええ、分かっていますよ。相変わらず優しい子ね、貴女もそう思うでしょう? 困っていた私を助けてくれた、心優しいお嬢さん」 いきなりこっちに話を振られて戸惑う、気付いてるのは自分だけかと思っていたし……まさかこんな形で再会するなんて思ってもいなかったから。でも覚えてくれてるのは嬉しかったし、その優しい笑顔につられてしまう。「……やっぱりあの時の。また会えるなんて思ってませんでした、それも朝陽さんのおばあ様だったなんて」「――え? もしかして鈴凪《すずな》は、サチおばあ様と会ったことがあるのか?」 あの日は朝陽さんとの待ち合わせで駅に向かう途中だったため、その場には私と白澤《しらさわ》さんだけだった。人助けをしたとは彼に話したが、その相手がまさか彼女だとは流石に思わなかったのだろう。 こういう事が起こるから、人との出会いって本当に不思議なのだと思
last updateLast Updated : 2026-01-22
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見落とし失うのは 2

 そんな二人の思い出を語る様子を黙って見ていたのだが、くるりとこちらを向いたサチさんがまた私へ笑顔で話しかけてくる。                                                                                「それにしても、まさか貴女が朝陽《あさひ》のお相手だったなんて……鈴凪《すずな》さんとおっしゃるのね、また会えて嬉しいわ」「あっ……! 雨宮《あまみや》 鈴凪です、私もこんな形で再会したことには驚きましたが同じ気持ちです」 そういえばきちんと挨拶もしていなかった、でもさっきの会話だけで名前を憶えてくれたのは嬉しい。こうして再会出来たのはもちろんだけど、何か運命のようなものを感じて。 しかもそれは、私だけが思った事ではなかったようで……「まさか二人が会った事あるなんて、偶然というよりここまでくると必然じゃないかと思えるな」「ふふふ、もしかしたらそうかもしれないわね。私も鈴凪さんが朝陽に寄り添ってくれるのなら、本気であの子達を説得するつもりだもの」 朝陽さんもサチさんもそう言って笑っているが、これって凄く運が良いって事なのではないかと思う。真正面から彼のお父さんと向き合うつもりではあったけれど、心細かったのは事実で。 そんな時でもこうして励ましてくれる人がいる、それだけで随分と前向きになれるから。「親父は絶対反対だろうし、母もそんな父の意見に従うでしょうから。サチおばあ様が味方でいてくれること、本当にが心強いです」「もちろん可能な限りの後押しはしますよ、ですが結局は二人がどれだけ幹臣《みきおみ》に向かい合えるかです。力を合わせて頑張りなさい」 サチさんは私達を信じてそう言ってくれてるんだって分かる。自分たちの力で未来を切り拓きなさい、サポートするから……彼女の言葉にはそんな意味を込められてるんだと。 それが嬉しくて、私と朝陽さんは顔を合わせた後にしっかりと返事をした。「「……はい!」」 しばらくは穏やかな空気が流れたが、複数の足音が部屋に近付いてきて扉がノックされると私達の間に緊張が走った。 部屋に入って来たのは朝陽さんのお父さんと、小柄で痩せた色白の女性……本当にこの人が朝陽さんのお母さんなの? 私がそう思ってしまうくらいには、彼とその女性の醸し出す雰囲気は似て
last updateLast Updated : 2026-01-23
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