All Chapters of (仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~: Chapter 161 - Chapter 170

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見落とし失うのは 3

 朝陽《あさひ》さんの言葉に彼のお母さんはとても驚いた表情をしていたが、言われた父親の方の反応は違っていて。彼の問いかけに眉一つ動かさずに、さも当然のように信じられない言葉を放った。「どうせ破談になるのだから、この程度の事をわざわざ話す必要は無いだろう?」 驚いたのは私だけじゃない、もちろん朝陽さんのお母さんもサチさんもその言葉に絶句してしまって。けれどそれすらも予測していたかのように、朝陽さんはこのお父さんを相手に鋭く切り返す。「逆に聞きたいですね、どうして貴方は俺達が別れると確信を持っているんです? ……ああ、今まで自分がそうなるように裏で手を回してきたから?」「――えっ!?」 過去に何があったのか私でも分かってしまう。朝陽さんの以前の恋人、つまり鵜野宮《うのみや》さんとの関係が駄目になった理由にこの人が関わってるのだと。 そう考えれば朝陽さんが彼女への想いを引きずっていたのも納得がいく。「良い条件を前にした時、簡単に変化する程度の気持ちしか持ってないような相手だったんだ。それに神楽《かぐら》の家に入る可能性のある人間を、ふるいにかけるのは当然の事だと思わないか?」 だからといって、この人が何をしても良いっていう理由になるの? 鵜野宮さんと朝陽さんが上手くいっていたら今の自分がここにいないと分かっていても、それでもどうしようもない怒りが湧いてくる。「言いたい事は分かりますが、自分の伴侶を選ぶ権利は俺にだってあるはずだ。鈴凪《すずな》をそんな風に貴方達の物差しで測ろうとするのも、俺は絶対に許さない」「朝陽さん……」 あえて過去の事には触れず、それでも私を大事に守ろうとしてくれる言葉に胸が熱くなる。守られてばかりじゃ駄目だって思うけど、余計な口出しをする時じゃないと考えてまだ黙っていた。「そういう考え方だから、お前は神楽グループの後継者としての自覚がないと言うんだ。お前の結婚相手によってどれだけ企業への利益が変わると思う、それをこんな平凡な家庭の娘となんて……馬鹿げている」 確かに私の家はどこにでもある普通の家庭に違いはない、神楽グループに何かしらの利益をもたらすことは出来ないって分かってはいるけど。この人はそんな風にしか人を見れないんだって、何とも言えない気持ちになっていると朝陽さんが……「神楽家の利益のため、そうやって貴方は母を妻に
last updateLast Updated : 2026-01-24
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見落とし失うのは 4

 朝陽《あさひ》さんのその言葉を聞いて彼の父は怒りの表情を浮かべたが、それまで口を挟まなかったお母さんの反応は全く違っていて。 実の息子からのその指摘は確実に二人の心を揺さぶったとは思うが、このままでは冷静な話し合いは出来ないかもしれない。そんな不安を感じて慌てて間に入ろうとしたが、それを朝陽さんに止められる。「ずっと貴方が俺や母に言い続けた『神楽《かぐら》のために、会社のために』という言葉を、俺は家族を犠牲にする便利な理由として使うつもりはないんです」 その言葉を聞いて、やっぱり朝陽さんは凄いと思った。しっかりと自分の考えを持ち、誰が相手であってもその意見を怯まずに伝えることが出来る。 大企業のトップであるこの人に意見をする……それが実の親であってもどんなに勇気が必要かは、私でも分かることだから。「……ふん、私に言いたい事はそれだけか? 経営者としての自覚も経験も中途半端だから、そんな甘い考えを持っているんだろう。忙しいからと妻にお前の教育を任せていたのは失敗だったようだな」「――っ!?」「失敗だって!?」 なんて事を……! あまりにも無責任で酷い言葉を聞き、私も朝陽さんも怒りで身体が震えてしまって。サチさんも口にはしないが、その目付きは今までで一番厳しいものになっている。 まるで責任の全てがあるように言われた朝陽さんのお母さんは、真っ青な顔で両手を握りしめ震えている。それを見て、私は思わず……「……貴方はそうやって都合の悪い事は人の所為、自分は忙しかったと言い訳して責任逃れされてきたんですか? そんな人が立派な経営者だというのなら、朝陽さんには絶対そうなって欲しくないですね」 もしも朝陽さんがこの人のような考えを持っていたら、私は絶対に好きになんてならなかった。身近な人でさえ大切に出来ない、そんな男性は私だって愛せないもの。 なのに、この人は私の言葉を反抗的なものとしか受け取らなかったようで。「はっ! ほら見ろ、このお嬢さんが良い証拠だろう? こんな非常識な娘を神楽の家に迎えるなんて有り得ない、そもそも妻がしっかりと朝陽に選ぶべき女性を教えていれば……」 自分の考えは間違っていない、よほどその自信があるようだけど。少なくとも朝陽さんは失敗したことを人の所為にはしないし、間違ったことは素直に認めることが出来る。 それに……私は朝陽さ
last updateLast Updated : 2026-01-25
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見落とし失うのは 5

「それ以外に何の価値がある、神楽《かぐら》の嫁になるという事はそういうことだ。後は慎ましい妻として、家で子供を育てていればいい」 あまりにも自分本位な考え方に驚きと同時に怒りが湧いてくる。最初から威圧的で冷たい人だとは感じていたが、それは会社の為になのかもと思ったけど……やっぱり違っていたんだわ。 その周りにいる人どころか、自分の家族にさえこんな事を平気で言えるなんて。暴言を許せず一歩前に出掛けた私を、今度はサチさんが庇うようにしてその人と向かい合った。「いい加減になさい、幹臣《みきおみ》。まさかお前がそんな風に妻子に対して接してきたなんて、私は本当に悲しくて情けない気持ちでいっぱいです」「いったい何が問題なんですか? 私は神楽の当主としての責任を持って、この家と会社を支え大きくしてきたつもりです。それなのに、急になぜそんな事を?」 この人は自身の会社のためにならば、自分以外の人たちが苦しんでいても何も感じないというの? 責任ある立場だからといって、何をしても許されるわけないのに。 今までずっと、朝陽《あさひ》さんや彼のお母さんがこんな扱いを受けてきたのかと考えるとゾッとした。「そのためなら家族をどれだけ犠牲にしても構わないなどと、いったい誰が教えたんですか? 離れて暮らす貴方の父ですか、それとも……」 サチさんの質問に朝陽さんのお父さんはぐっと喉を詰まらせている、どうやら口論ではこの人を良く知る彼女の方が有利のようだ。誰が教えたのか、という事に対する答えも分かってて問い詰めているのでしょうから。 そんなサチさんの質問には、父親の代わりに朝陽さんがハッキリと答えた。「……いいえ。祖父は祖母の事をとても大事にしていました、祖母が亡くなった今も」「ええ、そうですね。私も兄がどれだけ妻である義姉を大事にしてたか知っています。なのに、それを見て育ったはずのお前がこんな事をするなんて……」 彼の父はかなり立場が悪くなったためか、その表情を険しくしながらそれでも身勝手な反論を止めようとはしない。もの凄く諦めが悪いのか、そもそも己の間違いを認められない性格なのだろう。「これも全て神楽のためなんです、もう会社とは何の関係もない叔母さんにどうこう言われる筋合いは――」 ない! と言いかけた父親に厳しい視線を向けて朝陽さんは、ハッキリとその考えを否定してみ
last updateLast Updated : 2026-01-26
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見落とし失うのは 6

 朝陽《あさひ》さんにここまで言われるとは思っていなかったのか、怒りを押し殺したような声で逆に問いかけてきた。実の父親だからこそ、彼のその言葉に隠された意味があると感じ取ったのかもしれない。「……何が言いたいんだ、お前は?」「俺はこれから鈴凪《すずな》と協力し合い、いつか神楽《かぐら》に新しい風を取り入れるつもりです。貴方には出来ない、色々な取り組みをもっと増やして神楽の家もグループも全て変えていく」 まさか私もその計画の中に入っているなんて思いもしなくて、つい大きな声を上げてしまった。けれどもその話を聞いた朝陽さんのお父さんは、私とは違いむしろ落ち着いていて。「――ええっ!? 朝陽さん、それ本気なんですか?」「ふん……馬鹿馬鹿しい、私はそんなことは認めるつもりはない。そもそもそんな娘とお前一人で何が出来るというのだ、自惚れもいい加減にしろ」 もしかしたら今までも、親族や周りの人たちに同じような事を言われた経験があるのかもしれない。これだけ大きな企業のトップに立っているのだから、これまでに何もなかったはずがなくて。 彼は当然のようにそう言い返し私達に冷めた視線を向けたが、その後のサチさんの言葉にまでは冷静でいられなかったようだ。「あら、私は朝陽の後押しをしますよ? ある程度の株も所有してますから、少しくらいは口を出させてもらうつもりです」「……それくらいで、私をどうにか出来るとでも?」 先ほどよりも少しだけ苛立ちを感じさせる声音に、こちらも後一押ししなくてはという気持ちになる。 ここに来たのは私達の結婚の挨拶のつもりだったが、朝陽さんは最初からここまでするつもりだったのでしょうね。 そんな私達を応援してくれるのは、なんとサチさんだけではなかった。「私も……朝陽と息子の選んだお嬢さんを応援させて頂きます。私の財産も実家からの支援も、全て朝陽の方へ変更すれば少しは違いますよね?」「――な、なんだと!? 何故こんな時にお前がそんなことを言い出すんだ!」 まさかの朝陽さんのお母さんがそんな発言をするとは思ってなくて、私も彼も傍にいたサチさんでさえ大きく目を見開いて。 そして誰よりも彼女の言葉に驚愕していたのは……その夫である幹臣さんだったのだけど。「貴方にとって私がどんな存在か、今日の話で良く分かりましたから。このままずっと家族の前ですら
last updateLast Updated : 2026-01-27
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見落とし失うのは 7

 月子《つきこ》さんがずっと隠してきた自身の本心をハッキリと告げた。その事は朝陽《あさひ》さんやサチさんを凄く喜ばせたが、夫である幹臣《みきおみ》さんの反応だけが全く違っていて。 ブルブルと固く握った拳を震わせ、顔色からもハッキリと分かるほどに怒っているのは間違いない。「お、お前達は本気でそんな事を言ってるのか!? この先、神楽《かぐら》の家やグループがどうなっても良いと……」 どうしてこういう時だけこの人は、神楽に関わる事の責任を周りの所為にしようとするのだろう? 自分の言う事を聞かせるために、企業や家の事を都合良く使っているだけじゃないの。 けれども彼のそんな言葉にも、今の朝陽さん達は全く揺らがない。「ええ。少なくとも俺は本気ですよ、最初から鈴凪《すずな》の事と別にこの話もするつもりで来ましたから」「私も今までお前に好き勝手にさせ過ぎたと反省してます。今日の事は貴方の父親にも伝えるつもりですし、私も神楽には新しい風を入れるべきだと思いますから」 真っ向から自分たちの意見を言えるこの二人はやっぱり凄いと思う。 ……でも朝陽さんも少しくらいは私にも話しておいて欲しかったな、と思ってしまったり。私は神楽の事に口を出せないから仕方ないのだけど、僅かでもいいから力になりたいのに。 だけれど今はそれどころではない、朝陽さんとサチさんの隣に一歩踏み出た月子さんも覚悟を決めたような表情で口を開く。「……幹臣さん、私はずっと貴方を陰で支えているつもりでした。私の意見を聞いてもらえてなくても、それは伝わってると信じて。でも、もう慎ましやかで良い妻なんてやめますから」「――!! 月子まで、いったいどうしたって言うんだ? いままでずっと大人しく立場を弁えた妻だっただろう、何故いきなりそんな事を」 意外な事に朝陽さんのお父さんは、妻である月子さんの発言に一番ショックを受けているように見えた。だけど……逆にどれだけこの人が、月子さんをきちんと見てなかったことが分かるだけで。「夫である貴方がそうさせていた、の間違いではないですか? これは本当の母だった、俺はそう思いますけれど」「そうね、私もずっと勘違いしていたわ。月子さんはこんなにハッキリと自分の意見が言える人だったのね」 朝陽さんだって、夫の言いなりになる母よりも今の月子さんの方がずっと良く感じてるはず。サ
last updateLast Updated : 2026-02-01
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見落とし失うのは 8

 そう言った月子《つきこ》さんの表情はほんの少し悲し気で。しかも今まで伝えらずにいた事を全部吐き出したためか、その細い身体は若干ふらついていた。 私はすぐに彼女の傍に行き、自分の右腕をそっと差し出して。「月子さん、大丈夫ですか? もし良ければ、私の腕に掴まっていてくださいね」「……ありがとう、鈴凪《すずな》さん。貴女と朝陽《あさひ》のおかげで、私もこうして勇気が出せたわ」 普段は夫の言いなりだったであろう彼女にとって、これはかなりの覚悟と勇気が必要だったはず。それでも朝陽さんや私のため、そして月子さん自身の為に頑張ってくれたのだと分かる。 言いたい事をハッキリと告げる事の出来た彼女とは正反対に、夫である幹臣《みきおみ》さんはショックを隠せないまま唇を震わせていた。「……どうしてだ、月子。お前には神楽《かぐら》の嫁として何不自由ない生活をさせてきただろう、なのに何が不満だったと言うんだ?」「二十年以上も私の意見は一つも聞いてもらえない、そんな中でいったい何が自由だというのですか?」 その言葉の意味は身内でなくても分かることで、どれだけ月子さんが抑圧された中で暮らしてきたかも想像がついた。朝陽さんが笑顔を見たことが無いというのも、これなら納得がいく。 だけど意外だったのは……驚くほど夫である幹臣さんが、彼女の言葉にガックリと肩を落とした事で。朝陽さんのどんな言葉にも強気な対応だったのに、今は別人のように真っ青な顔をしているから。「私はこれから先、私達夫婦の形を話し合う必要があるのではないかと思っています」「なんだと、月子? それは、まさか……」 分かりやすい程に焦った様子を見せる幹臣さんだったが、逆に月子さんは落ち着いていた。 きっとこの人は二十年間ずっと妻の言葉に耳を傾けなかったのに、彼女がいなくなるかもしれない日が来ることは想像もしなかったのでしょうね。月子さんの気持ちや意見を見落として、信用や愛情を失うまで気付かないなんて……「この話はまた二人の時にしましょう、今日は朝陽と鈴凪さんの事を優先したいので」「……分かった」 それからは月子さんやサチさんのフォローもあって、最後には幹臣さんにも私達の婚約を無事に認めてもらうことが出来た。 特に後半は月子さんのペースで、もしかしたらこれから幹臣さんは彼女に頭が上がらなくなるのではないかと
last updateLast Updated : 2026-02-03
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見落とし失うのは 9

「月子《つきこ》さんって私が想像してたより、本当はずっと強い女性なんだと思いました。それに最後は朝陽《あさひ》さんのお父さんが全く反論出来なくなってて、胸がスッキリしちゃったくらいで」 朝陽さんと二人でマンションへと帰るタクシーの中、先ほどまでの出来事を思い出し笑ってしまう。きちんと私達の結婚を認めてもらえたし、両親の夫婦の仲もきっと改善されるんじゃないかと思えて。 それにサチさんもその様子を満足そうに見た後、迎えに来た男性と一緒に帰っていったから。「ああ、あれが本来の母の姿なんだって俺も初めて知った。鈴凪《すずな》やサチおばあさまがあの人を勇気付けてくれた、それも大きな理由だと思う。本当にありがとう……」「お礼を言われるような事はしてません、私は朝陽さんや貴方の大切な人の力になれたらいいんです。ただの自己満足、やりたい事をしてるだけなんだから」 そう、これは私やサチさんが望んでやったことに過ぎない。今はまだ神楽《かぐら》の一員にでもない私に、こうして発言させてもらえただけでも十分だった。 何かの役に立てたかなんて、私自身はあまり深く考えてなかったし。「……鈴凪のそういうところに俺は凄く救われている、最初に会った時は猪突猛進なとんでもない奴だって思ってたのにな」「朝陽さん、それはもうそろそろ忘れてもらえませんか? 私はあの日を思い出すだけで顔から火が出そうになるんですけど」 この話をされる度に思い出しては恥ずかしさで埋まりたくなるくらいなのに、繰り返す朝陽さんって本当に意地悪だと思う。 確かにあんな出会い方をしなければ、きっと二度と会う機会は無かっただろうけれど。「忘れられないだろ、衝撃的過ぎて。それにお前との出会いは、俺にとっては大切な思い出でもあるんだし?」「……その言い方は、もの凄く狡いと思います」 朝陽さんはいつも、意地悪の後にこうやって甘い言葉で私を困らせる。私がそれに戸惑って恥ずかしがるとこまで、全部理解した上でやってる事もちゃんと知ってるんだから。「そうやってちょっとした言葉でテレるとこも、俺は結構好きなんだよな? 鈴凪のその顔が見たくて、つい苛めてしまいたくなる」「やっぱり朝陽さんはドS御曹司じゃないですか……!」 ここはタクシーの中で、この会話は運転手にだって聞こえてるって分かってるくせに! 聞いてないフリをしてく
last updateLast Updated : 2026-02-04
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執拗に絡む悪意に 1

「……もう、信じられない。今日は式場での打ち合わせやドレス選びがあるからって、あれほど言ったのに」 まだ身体がダル重くて起き上がる事もままならない状態だ、家を出る時間まであと一時間半しかないと言うのに。恨みがましい目を向けても、私をこうした張本人はそれは機嫌良さげに目を細めてこっちを見ているだけ。 濃密で甘い極上の一夜を過ごしたとはいえ、経験したことないほど長い時間肌を重ねあったためか私の身体は悲鳴をあげていて。今もケロッとしている朝陽《あさひ》さんは、とんでもない人だと思ってしまう。「そう文句を言うが、そもそも鈴凪《すずな》が散々俺を煽ったんだろう? まあ……理性を飛ばしかけて、一番中お前を抱き潰したのは悪かったと思うけど」「そ、それはっ! 朝陽さんが、あんな風に私に意地悪をするから……」 それ以上は恥ずかしくて言葉を濁すしかない、昨夜の自分の痴態はとても口に出来るような内容ではなかったから。朝陽さんにずっと焦らされて我慢出来なくなった私が、どんな風に彼に強請ったかなんて思い出しかけただけで憤死しそう。 そんな意地悪で私が恥ずかしがったり戸惑って悩む姿を、彼は喜んで何度も見たがるとんでもないドS御曹司なんだもの。「……鈴凪が本気で嫌だと思っているのなら止める。その時の顔が可愛いと思っているのは本当だが、お前が辛いと感じていることをやりたいわけじゃないから」「嫌、なわけではないですけど。少しは手加減して欲しいかな、っては思ってます」 ……私だって本当は分かってる。朝陽さんがそれだけ私を想ってくれてるからこそ、その行為がとても濃密であることも。 でも次の日に大事な用事があるってことは事前に分かっていたのだから、その事に関しては少しくらい文句も言ってやりたくなるのだ。「まあ、ずっとこのままってわけにもいかないよな。風呂にも入らなければいけないし、それに時間もないから……よっと」「――え? きゃあああ!」 急に脇と膝下に手を入れられて、そのまま朝陽さんに軽々と抱き抱えられてしまう。スーツの上からだとスマートに見えていた彼だが、実は意外と筋肉がついていて腕力もそれなりにあったりするのだ。 私を抱えたままズンズンと浴室に向かって歩いて行く朝陽さん、コレはもしかして……?「いいよな、一緒に風呂に入っても? 鈴凪はまだ辛そうだし俺が洗ってやるから」
last updateLast Updated : 2026-02-04
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執拗に絡む悪意に 2

「朝陽《あさひ》様、雨宮《あまみや》様。ようこそお越しくださいました。打ち合わせの用意は出来てますので、どうぞそちらの部屋にお入りください」「ああ、ギリギリの時間になってすまなかった。さあ早速、結婚式の細かい打ち合わせに入ろうか」 朝陽さんはいつもの爽やかな笑顔でそう話しているが、このホテルに到着したのは本当についさっきで。もし間に合わなかったらどうしようかと、こっちはハラハラしていたのに。 彼が時間を短縮する為と言ったから二人でお風呂に入ったはずなのに、逆に遅刻しかける羽目になるなんて……朝陽さんの言葉を信じちゃダメな時があるのだと、今回の件でよく分かったわ。 それにしても……「あの、私達って本当にこのホテルで結婚式を挙げるんですよね?」「この前、軽く説明しただろう。ここは神楽《かぐら》グループのホテルでそれなりに融通もきくんだ、もしかして鈴凪《すずな》はどこか不満があるのか?」 朝陽さんが心配して聞いてくれているのは分かる。でも私が感じているのは真逆の事だったりするので、そのまま伝えていいのか戸惑ってしまう。 だけどそれを言わなければ、このまま朝陽さんが納得しないのも分かっているから。「いえ、その……不満というよりあまりにも自分には不相応な気がして」「不相応? いいか、鈴凪は俺の愛され花嫁になるんだ。だからこそもっと自信を持って、堂々と俺の隣に立って欲しい」 私があまり自分に自信が無い事を彼は理解していて、こうやって何度も特別な存在だと言葉にしてくれるのだけど。 せめて私が……鵜野宮《うのみや》さんのような気品や女性としての魅力があれば、そう考えてしまって。「結婚式で俺が見たいのは鈴凪の花嫁姿だけだ、俺の生涯の伴侶としてのな」「……はい」 いやいや、それもどうかと思うんですけれど? でもハッキリとそんな風に言ってくれるのは有難い、そんな朝陽さんの言葉によって私は勇気を出すことが出来るのだから。嬉しくて彼に少しだけ甘えるように擦り寄っていると。「……あの、そろそろお式の説明をさせて頂いても?」「――あっ! すみません、どうぞお願いします!」 いつの間にか部屋の入って来ていた担当のスタッフに声をかけられ、私は焦って朝陽さんとの距離を取る。間違いなくノックはされたはずなのに、私達は完全に二人の世界を作ってしまっていたようで。 
last updateLast Updated : 2026-02-05
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執拗に絡む悪意に 3

「……なるほど、それは大変でしたね。まあ朝陽《あさひ》もかなり浮かれているのでしょうから、少しだけ大目に見てあげてください」 いつものように会社へと向かう途中、昨日と一昨日の事を白澤《しらさわ》さんに話をしたのだけど。彼はその様子を想像したのだろう、普段よりほんの少しだけ口元が緩んでいるように見えた。 朝陽さんとは長い付き合いの白澤さんからみても、かなり珍しい事らしいけど……流石に限度があります、くらいは言いたかったが我慢する。「嬉しいんですよ、もちろん。だけど……朝陽さんみたいな素敵な人にここまでしてもらっていいのかなって、そんな気持ちにもなるんです」「私からすれば、鈴凪《すずな》さんの方が朝陽には勿体ないくらいの女性だと思ってたりしますけどね。以前も言いましたが、貴女はもっと自分に自信を持ってください」 白澤さんは朝陽さんとはまた違う真っすぐさがある、そんな彼の言葉は嘘や偽りがなく心にスッとしみ込んでくるのだ。 決して口数の多い人ではないけれど、優しさを含んだその言い方にじんわりと胸が温かくなる。「そうでしたね、自信を持つって意外と難しくて。でも白澤さんや朝陽さんが私を認めてくれるので、少しずつですけど自分の事が好きになれてきてるんです」 これは本当の事。元彼の事で自信も無くして、自分の事が嫌いになってしまった時もあったけれど……流《ながれ》と交際していた時よりも、今の自分の方がずっと好きだ。 それは周りの人が、私を……雨宮《あまみや》 鈴凪という人間を受け入れてくれるからなのだと思えて。「それならば良かったです。ああ、そういえば……昨夜、紫苑《しおん》から人形の直しが終わったので迎えに来て欲しいと」「――え! シオさんから連絡があったんですか!?」 いきなりシオさんの名前が出て、少し驚いたのだけど。それにしてもあれだけ傷が付けられていたのに、もう全部直し終わったなんて凄い。 すぐにでも迎えに行きたい気持ちではあるが、これから仕事だしいつなら時間が作れるかと考えていると……「今日の仕事終わりに迎えに行きますか? 朝陽には私から連絡しておきますし、彼のマンションまではきちんと送りますので」「えっ、いいんですか!」 白澤さんからの提案に私は迷うことなく頷いて、自分からも朝陽さんに『シオさんの所に寄って返ります』とメッセージを送ってお
last updateLast Updated : 2026-02-06
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