All Chapters of (仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~: Chapter 171 - Chapter 180

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執拗に絡む悪意に 4

「こんばんは、こんな急にすみません。白澤《しらさわ》さんから話を聞いて、すぐに迎えに行きたくなってしまって」「……ああ早速来てくれたんだね、ありがとう。あの子も早く鈴凪《すずな》に会いたがっているから、そのまま奥の部屋に入ってもらって構わないよ」 私たちが来ることを白澤さんが事前に伝えてくれていたのかもしれない、チャイムを鳴らしてすぐにシオさんが扉を開けてくれたから。 確かシオさんの作業場は一番奥だったと思い出し、ドキドキしながら一人で目的の部屋へと歩いていく。白澤さんとシオさんは二人だけで話があると言って、そのままキッチンの方へと向かって行ってしまった。 薄暗い廊下の奥から漏れる明るい光、きっとあの部屋に間違いないわ! 酷く傷つけられてしまったあの人形の姿を思い浮かべながら急いで作業場へと入ると、小さな椅子の上にちょこんと座ってる【あの子】を見つけた。「え……嘘でしょう? あの顔の傷も身体のヒビ割れも、ボロボロにされたドレスまで……こんなにも綺麗になってるなんて」 ナイフによって何ヶ所も付けられた傷が、どこにあったのか分からないほどすっかり消えていて。ぐしゃぐしゃにされた髪もドレスも、以前より美しくなったのではないかと思えた。 あまりに綺麗な仕上がりで信じられないくらいだけど、これもシオさんが特別に人形を愛しているからこそ出来ることなのかもしれない。 ギュッと人形を抱きしめて『痛い思いをさせてごめんね、でも綺麗にしてもらえて本当に良かった』と、小さく語りかけるように呟いて。「ふふ……満足してもらえたようだね、その子も鈴凪に迎えに来てもらえて凄く喜んでいるよ」「シオさん! 本当にありがとうございます、あの時の傷も無いし服も元々のドレスを手直ししてくれてるんですよね。もう何とお礼を言ったらいいのか……」 もちろん謝礼は用意してきたが、それだけでは私の気が済みそうにない。それをシオさんに伝えると、彼女は意外にも豪快に笑い出してしまって。「アハハハ! そこまで感謝されるとは思ってなかったかな、白澤が手を貸したくなるのも納得だ。そうだな、私は鈴凪のことをもっと知りたくなったから今度お茶でもご馳走してもらおうか」「……えっと、それだけでいいんですか? シオさんとのお茶くらいなら喜んで何十杯でも付き合いますけど」 戸惑ってそう返事をすると、シオさん
last updateLast Updated : 2026-02-07
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執拗に絡む悪意に 5

「それじゃあシオさん、遅くまでお邪魔しちゃってすみませんでした。ゆっくり二人でお茶が出来そうな日が分かったら、すぐにメッセージでお伝えしますね」 あまり長居するつもりはなかったのに、シオさんとの話が楽しくてついつい時間を忘れてしまっていた。外はもう暗くなっていて、家の前の道もすでに人通りは減っているようだった。 シオさんはわざわざ外まで見送りをしてくれて、かなり仲良くなれたのだと感じる。「そう急がなくても大丈夫だよ、鈴凪《すずな》が結婚式まで忙しいのは白澤《しらさわ》から聞いているし。まあ、こうして仲良くなれただけでも私は嬉しいしね」「私も仲良くなれて嬉しいです。その……この子の事だけでなく、大事な時に必要だった勇気をシオさんからもらったので」 修理を終えた人形は、シオさんがドレスを補修した時に余った布で作った袋に入れてもらっている。何となくこの子も喜んでくれている気がして、私も心がふんわりしてくる。 それに私がシオさんに感謝しているのは、人形のことだけじゃないから。「……ええと、何のこと?」「鈴凪さん、紫苑《しおん》はあまり深く考えて話してないので何を言ったかすぐ忘れるんです。まあ、必要な事だけは覚えているので特には困らないのですが」 私の言葉にシオさんはキョトンとしている、何のことだか分からないといった表情だ。すると白澤さんが彼女に変わって説明してくれたのだけど、まさか覚えてないなんて。 私にとって凄く勇気を貰った言葉だったが、シオさんにとっては当たり前の事だったらしく。余計に彼女の凄さを知った気がした。「白澤は私に喧嘩を売っているのか? 私が覚えていなくてもそういった事はお前が覚えているからな、あまり支障はないだろう」「……なんて人任せな、いくら長い付き合いでも呆れてしまいますね」 いつの間にか二人の会話が、夫婦漫才のようなやりとりに変わっていて。シオさんと白澤さんは、本当にお互いの事を理解し合えてるんだなって感心してしまう。「お二人のやりとりを見ていると、なんだか胸がほっこりしてきます。何だかんだと文句も言い合える関係って、凄く特別な感じがして」「そうですか? 私の視点からだと、朝陽《あさひ》と鈴凪さんも同じようなやりとりをしてると思いますけれどね」 ええ、ここで私と朝陽さんを引き合いに出してきますか? でもそう言われて悪い
last updateLast Updated : 2026-02-08
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執拗に絡む悪意に 6

「…………」 そんな白澤《しらさわ》さんの言葉で少し熱くなった頬を冷やすように手で仰いでいると、彼の隣で俯き黙っているシオさんに気付く。いったいどうしたんだろうと思い、ゆっくり彼女に近付いたのだけれど。「……あれ? シオさん、少し顔が赤くなってないですか? ちょっと冷えてきたからかな、風邪ひかないでくださいね」「ああ、本当ですね。いつも薄手の作業着でうろついているからでしょう、紫苑《しおん》はもう作業部屋に戻った方が良いのでは?」 シオさんは肌の色は白いから、頬が色付いているのがすぐ分かる。白澤さんの言うように少し寒そうな格好だし、すぐに家の中に戻ってもらおうとするが彼女は戸惑ったような顔をしていて。 いったいどうしたのだろうか? 彼女にその理由を聞いていいのかと迷っていると……「いや、私は大丈夫だが……ああ、そうだ。白澤に渡したいものがあったからちょっとついてきてくれ」「でしたら、鈴凪《すずな》さんも一緒に……」 普段はハッキリとした物の言い方をするシオさんには珍しく、少し何かを言い淀んでいるように感じて。白澤さんと二人で話したい事があるのではないかと思い、私だけその場に残ろうと考えた。「私は大丈夫ですよ、ここで大人しく待ってますから。それに、この子も傍にいてくれますし」「その……すぐに済むから、そうしてもらえると有難い」 シオさんの言葉に白澤さんの方が驚いているようだったけど、知り合ってまだ間もない私が目の前に居たら話しにくい事があってもおかしくない。 彼女もこう言っているし、そうしてくださいと目で合図すると白澤さんも理解してくれたようで。「……分かりました。少しだけ紫苑と話をさせて頂きますが、もしも何かあった場合は必ず大声で呼んでください」「ええ、何かあればそうさせてもらいますので」 シオさんは申し訳なさそうに私に頭を下げた後で家の中に入ったが、そんなに気にしなくてもいいのに。でもさっきの頬を染めていた彼女は、いつもと違って可愛い感じがして同性の私でもドキッとしたくらいだった。 ただあの時の会話の内容からすると、二人が何を話すのか気になるのも本音で。「もしかして……もしかしてたりするのかな、シオさんと白澤さんって。もの凄く気になるけど、今はまだ我慢しておかなきゃだよね」 家の中で交わされているであろう二人の会話をあれこれ想
last updateLast Updated : 2026-02-09
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執拗に絡む悪意に 7

****** ユラユラ、ユラユラ…… 揺らめく微睡《まどろみ》の中をいつまでも漂っているような感じで、自分自身の意識が何故かハッキリとしない。 近くで誰かがぼそぼそと話している声も耳に入ってくるけれど、その内容も頭がぼんやりした状態では上手く聞き取れなくて。 ……いったい何が起こったというのだろう? 今の自分が置かれている状況が異常だという事だけは、微かな意識の中でもどうにか理解が出来たのだけど。思うように動かない自分の身体と重くて開けない瞳、そして鈍った思考力では下手に動くことも危険かもしれない。 途切れ途切れになる意識の中で、ハッキリと記憶に残ったのは……「おかえり、鈴凪《すずな》」 彼の浮気によって婚約破棄したはずの元恋人、守里《もりさと》 流《ながれ》が呟いたその言葉だけだった――******「……んん、ここは?」 いつの間にか意識を失っていたのだろう? いつまでも続く微睡の中からやっと抜け出せたと思ったら、今度は全く知らない場所にいて。 お世辞にも綺麗とは言えないこの空間は、もしかしたら廃ビルか何かの一室かもしれない。酷く汚れていくつものヒビが入った壁や床は、長い期間なにも手入れされてないのだと分かるから。 古くあちこち破れたソファーに寝せられていたようで。変な体勢だった為かあちこちが痛むが無理して上半身を起こすと、少し離れた場所から私に話しかける声が聞こえてきた。「ああ、やっと目が覚めたの? たしか貴女は雨宮《あまみや》 鈴凪……とか言う名前だったかしらね、朝陽《あさひ》の婚約者気取りな身の程知らずなお嬢さん」 上機嫌な声で近付いてきた女性には見覚えがあって、いつもより地味な装いではあったが間違いなくそれは鵜野宮《うのみや》さんだった。 一気に身体を動かし立ち上がろうとした瞬間、自身の手首が自由に動かないことに気付く。 いつの間にか私の両手首には手錠がはめられて、その鎖の部分に細めの縄を巻きつけ……しかもそれを、私が乗っているソファーの脚にしっかりと括り付けられているではないか。「なんなの、これ……?」「うふふふ。貴女にはとてもお似合いよ、今のように汚れてみすぼらしい姿の方が」 嫌味を言われている事くらい分かる、最初からこの人は私に好意的ではなかったし。だからといってこんな事をしていいかなんて、子供でも分かる事な
last updateLast Updated : 2026-02-10
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執拗に絡む悪意に 8

 ソファーの上で身動きを取れないままの私を上から見下すような瞳、いくら美人でも絶対に好きになれない。相手を不自由にして勝ち誇った笑みを浮かべるような、この人の腐りきった性格も。 だけど彼女はまるで勝者にでもなったかのように、私に向かって一方的に意味不明な話しをしてくるのだ。「あらまぁ、そんなことも分からないの? 私の大切な朝陽《あさひ》に纏《まと》わりついて結婚まで出来ると勘違いしている、そんな貴女にちゃんと自分の立場って言うものを教えてあげるべきだと思ってね」 私の大切な朝陽って、いったい何を言ってるの? 私が初めて鵜野宮《うのみや》さんを見かけたのは、元彼の流《ながれ》と仲良さげに朝陽さんの会社から出て行く姿だった。その後も何度も二人が一緒にいる姿を見たし、その最中に彼女はトップリーガーとの熱愛だってスクープされていたはず。 それなのに……どうしてこの人は、そんな軽々しく大切な朝陽なんて事を言えるのか。「……言っている事の意味が分かりませんね。私は朝陽さんの正式な婚約者ですし、彼のご両親にも認めてもらっています。少なくともこの件に関して、部外者の貴女に口出しされる謂れはありません」 私は朝陽さんに纏わりついてるつもりもない、だって自分は彼の恋人で正式な婚約者なのだから。それを勘違いと決めつけて立場を教えるなんて、この人の発言の方がどうかしてる。 なのに彼女は私が反論するとは思っていなかったのか、顔を怒りで赤く染めると先程よりも大声で話し出した。「――な、なんですって!? そもそも朝陽の恋人は私で彼はプロポーズまでしてくれていたのに、そこに貴女が割り込んできたのでしょう! そんな恥知らずで平凡なモブ子が、あの神楽《かぐら》の嫁に相応しいわけがないのよ」「割り込んできた、とは? 鵜野宮さんが自分勝手な理由で朝陽さんの元を去った癖に、私が割り込んできたなんて良く言えますね」 その事については朝陽さんからちゃんと話を聞いている、彼が結婚したいと思っていたことも父親に紹介していたことも。 それでも彼が今選んでくれたのは、鵜野宮さんではなく私なのだ。 確かに彼女のような美しい容姿や家柄は持ってないし、私自身が平凡なOLであることに違いはないけれど。少なくとも神楽の家に相応しいか、とか貴女に決めつけられる事じゃない。 そもそも……神楽の家柄や朝陽
last updateLast Updated : 2026-02-11
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執拗に絡む悪意に 9

「私は仕方なく朝陽《あさひ》から離れたのよ、彼の父親からそうするように言われてね! 本当は彼を愛してたのに、あの時は身を引くしかなかった……それなのに、貴女なんかがしゃしゃり出てきて!」 鵜野宮《うのみや》さんは自分の都合の良いように過去のことを話してくるが、私はちゃんとその件に関しても朝陽さん達に聞いている。彼女の使う【愛】という言葉の軽さに、私の方が段々と苛立ちを感じてきて……「本当に朝陽さんの事が好きなのならば、なぜ彼のお父さんから対価を受け取ったんです? 社長令嬢である貴女を納得させるために、相当な見返りを要求されたと聞いてますが」「どうして、貴女なんかがそんな事まで……っ!? まさか、朝陽もその事を知っているっていうの?」 彼のお父さんは、初めはこの件について朝陽さんに伝えないつもりだったそうだけど。鵜野宮さん達からの嫌がらせや付き纏《まと》いを説明すると、その経緯についてきちんと教えてくれた。 そもそも幹臣《みきおみ》さんにとっての彼女の第一印象はあまり良くなかったようで……最初から別れてもらうために用意した見返りが、鵜野宮さんの目的だったのかと思う程だったそうだ。「鵜野宮さんはいままで、彼がそんなことも気付かない人だと思っていたのですか? ……ありえない」「さっきから何なのよ!? 自分ではまともに動けない状態の癖に、偉そうに言ってるけどいつまでそんな強気でいれるかしらね」 チラリと視線を私の手首に装着された手錠と縄に向けて、彼女はまたほくそ笑んでみせる。身体の自由の利かない私に対してそんな風に勝ち誇って、いったい何の意味があるというのだろう? ここで弱気になればこの人の思うつぼ、せめて気丈に振舞ってみっともない様子だけは晒さないでいるつもり。だけど不安や恐怖が無いと言えば嘘になる、どうにか自分で逃げられないかと考えてはみるが簡単にはいきそうにない。 鵜野宮さんに勘付かれないようにゆっくりと周りを観察していると、少し離れた場所にシオさんからもらった袋と人形の頭が見えて……「……ああ、あの人形ね? 貴女がなかなか離さないから、流《ながれ》君が仕方なく持ってきたみたいなのよ。あの時の人形と同じように、またメチャクチャに壊してあげましょうか?」「――やっぱり、あの時のは貴方達の仕業だったのね!?」 元カレの流が共犯であろうことは察し
last updateLast Updated : 2026-02-12
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執拗に絡む悪意に 10

 そうして奥にあった人形を片手で持ったまま戻ってくると、それを眺めながら鵜野宮《うのみや》さんは鼻で笑うように言った。「それにしてもずいぶん年季の入った人形ね、安っぽくて地味な感じが持ち主にそっくりで笑えるわ」「貴女の価値観で見ればそうなんでしょうね、その物の大切さを金額や見た目でしか判断出来ないんですから」 何度言葉を交わしてもそう、鵜野宮さんとはどうやっても分かり合える気がしない。今だって二人で会話をしているのに、その中身は噛み合っていないのだから。 物の見え方が違うのか、そもそもの考え方に大きな差があるのか……どちらにしても私達の意見は、きっと平行線のままなのだろう。「なあに、それって負け惜しみ? 貴女の価値観がどうであれ、朝陽《あさひ》のそれと近いのは同じような環境で育った私なのよ。その貧乏くさい性格に、彼はすぐに愛想を尽かすに決まってるもの」「そうでしょうか? そういう鵜野宮さんは財産や地位、そして朝陽さんの容姿など目に見えるものを求めてるようにしか見えません。私の知っている朝陽さんは、目に映らないものもちゃんと大切にしてくれています」 確かに大企業の御曹司として育った朝陽さんは、社長令嬢である鵜野宮さんに近い価値観を持っているかもしれない。でも一つだけ言い切れるとすれば、彼はそれだけしか見えない人じゃないってこと。 だからこそ鵜野宮さんとの恋愛だって引き摺っていたのだと思うし、いまは私に対して精一杯の愛情表現をしてくれる。彼女はきっとそんな事、気にもしなかったのでしょうけど。「はあ、綺麗事ばかり言うのね? 神楽《かぐら》の跡取りである朝陽の財産や地位が目的の癖に、私はそんなのには興味ありませんって顔して……」「そうやって貴女と一緒にしないでもらえませんか? 私は朝陽さんが神楽の御曹司でなくても、彼を想う気持ちに変わりはないんです。むしろ立場が違いすぎても諦められない、それくらい真剣に想い合ってますから」 朝陽さんから神楽家や仕事のことを切り離すのは無理がある、それは当たり前だけど。逆にお互いの立場に差があるから迷いもしたし、彼の想いに応えるのに勇気も必要だった。 それでも朝陽さんの事が本気で好きだから、二人で一緒に頑張ろうって思えたの。「……またそうして純真で素直なフリをするのね、私の朝陽を騙したように。騙される彼にも腹が立つ
last updateLast Updated : 2026-02-14
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執拗に絡む悪意に 11

 自由に動くことが出来ないがそれでも何とか後ろを見ると、分厚そうな扉の前にいたのはやはり元カレの流《ながれ》だった。コンビニにでも行っていたのだろうか、手には店のロゴのついた白い買い物袋を持っている。 彼は私が起き上がっている事に気付くと、すぐに傍に駆け寄って来て。「良かった、鈴凪《すずな》! ようやく目が覚めたんだな、あまり起きないから薬の量を間違えたのかと心配してたんだ」「……流、やっぱりあなたも共犯だったのね?」 意識を失ってここに連れて来られる前、いきなり何かを嗅がされたような記憶はある。流はそんなものまで使用して、私をこんなところに攫《さら》ってきたというのか。 本当に大好きだった、何年も愛していたはずの元恋人が……実はこんなことをする人だったなんて、正直信じられない気持ちで。「あら、今回の計画を立てたのは最初から流君だったのよ? まあ、私にとっても都合が良かったからこの話に乗ったのだけど」「利害の一致ではありますね、俺は鈴凪と貴女は神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》とお互いにヨリが戻せるっていうところで」 鵜野宮《うのみや》さんが首謀だと思ったのに、実際は流が計画したものだったらしく。その事にも驚いたが、冷静に鵜野宮さんとの関係は利害の一致だなんて言い切って。 私と別れる時はあれほど彼女に熱心にアプローチしていたはずなのに、どういうことなのか訳が分からない。「それはずいぶんと自分勝手な話じゃないのかしら? 私と朝陽さんは、貴方達とヨリを戻したいなんて気持ちは欠片もないのに」「……鈴凪、お前は神楽 朝陽に騙されてるんだよ。俺と何年一緒にいたと思ってるんだ、本当に鈴凪の事を理解出来るのは俺しかいない筈だろう?」 だけど私にだってちゃんと意思はある、流や鵜野宮さんがどう思っていようとそんなの関係ない。私は朝陽さんと一緒に歩いていく未来しか、もう考えられないんだもの。 それをハッキリと伝えるために、流にはもう感情が無いということを言葉にする。「そうね、でも一緒に過ごした期間に私を裏切っていたのは流の方よね。少なくとも私はそんな貴方の事を理解してなかったし、これからしたいとも思わない」「何を言うんだ! 浮気なんて一時の気の迷いで、心から愛していたのはお前だけなんだよ。だから……俺はあいつらから鈴凪をこうして助けだしたんだ」 婚約破棄ま
last updateLast Updated : 2026-02-16
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手段選ばぬ目的に 1

「以前のように隣に座りたいけど、まだ鈴凪《すずな》も戸惑ってるだろうし……ここで我慢しておこうかな」 流《ながれ》は少し離れた場所に置いてあったパイプ椅子を持ってくると、私の手が届かないギリギリの場所に置いて腰を降ろした。その距離にホッとしたが、それと同時に分かってやってるんだという怒りも感じて。 たとえ元カレが相手でも、こちらも嫌味の一つも言ってやらねば気が済みそうにない。「……ええ、それが正解だと思うわよ? 図々しく傍に寄って来たなら、頭突きでもしてやるつもりだったもの」「ずいぶん捻くれた事を言うようになったな、これも神楽《かぐら》の近くにいた所為なんだろうけど。まあその鎖がある以上、そう好き勝手は出来ないだろう?」 自分にとって都合の悪い事は、そうやって全て朝陽《あさひ》さんの所為にしようとする。きっと彼は長い交際期間も、私の事を本当の意味では見ていなかったのでしょうね。 負けず嫌いの性格も、猪突猛進なところも……そんな私の事を、朝陽さんは最初から分かってくれたのに。 今の流はこんな鎖を使わなければ、私と対等に話すことも出来ないんだなって悲しくもなる。「本当にね、復縁を拒否してここまでされるなんて思わなかったわ。過去の自分の見る目の無さがよく分かって、別れて正解だったと感じてるけど」「そういう鈴凪がどこまで強がれるのか、俺もとても楽しみだよ。こうして鎖に繋がれているのに、まだ諦めてないと言わんばかりのその表情にもそそられるし」 流の発言に気持ち悪ささえ感じる、今の彼には嫌悪や軽蔑という思いしか湧いてこなくて。でも……もしも流がここまで歪んでしまったのが、自分の所為だとしたら? そう考えかけて首を振る、私がこの状況で最優先にすべきは自分自身のはずだから。「貴方達の方こそ何時までそんなに余裕でいられるかしら、朝陽さん達が何もしてないとは思ってないでしょう? ここがどこだか知らないけれど、きっとすぐに見つかるはずよ」 神楽の御曹司である彼にとって、そういった方面のネットワークは半端ではない。何時何時に自分や周りの人に危険があるか分からない、だからこそ必要な情報網なのだと聞いたことがあったから。 このことは鵜野宮《うのみや》さんだって知っていそうなのに。それとも、もしかして?「はは、それはどうだろうな? そもそもこの場所は鵜野宮さんが裏
last updateLast Updated : 2026-02-17
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手段選ばぬ目的に 2

「それって……まさかここは県外、とか? ねえ、今は何日の何時であれからどれくらい時間が経ったって言うの?」 流《ながれ》は私がなかなか目覚めなかったとも言っていた、もしかすると自分が思っている以上に時間が経っている可能性がある。そう考えると、どうしても気持ちが焦ってしまって冷静ではいられない。「わざわざそんなことを教えるとでも思っているのか? それに鈴凪《すずな》が今一番に考えるべきなのは、目の前にいる俺の事だろう」 流はそう言いながら、私の手が届きそうなギリギリまで範囲まで顔を近づけてくる。その行動が余計に私を苛立たせるのに、本気でこんな事を思っているのだろうか?「それ以上、私に近付かないで! 分かってるとは思うけれど、流が今やっている事は立派な犯罪なのよ?」 私にやり返される可能性があるから、これ以上は距離を詰めないとは分かっていても気持ちが悪い。流は今の状況に酔っているのだろうけど、これはただの誘拐でしかないのに。 何も悪い事はしていないという表情、彼は罪の意識など全く感じて無さそうで。「ははは、犯罪だって? 何を言ってるんだ、俺たちは婚約までしている恋人同士じゃないか。邪魔をして俺達の間に割り込もうとする、神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》の方がよっぽど問題だ」「婚約している恋人同士? こんな風に私を繋いで自由を奪わなければ、まともに話も出来ないのに?」 馬鹿げている、婚約して想い合っている同士なら何をしても良いと? そっちからアッサリと私を捨てておいて、今になって朝陽さんが割り込んだと言えるその神経がどうかしてる。 一方的な復縁の要求と洗脳のような説得を繰り返し、それで勝手に満足しているに過ぎない。「こうでもしないと、鈴凪は俺の話を聞こうとしないから仕方ないだろ? お前が素直になって俺の傍に戻ると言えば、すぐに自由にしてやるのに」「私は最初から素直に自分の気持ちを話してるけれど、納得しないのは流の方じゃない。こんなやりとりは無意味だと、貴方こそどうして分かってくれないの?」 私と流の話は平行線のままだけど、今の状況から彼の言う通りにするのも身の危険を感じるし。かといってあまり反抗的なこの人を態度で逆上させても、きっと良い事は無いだろう。 精神的にもギリギリな状態で、いつまでこうしていられるか不安ではあるけれど。そんな私に流は、今度
last updateLast Updated : 2026-02-18
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