All Chapters of (仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~: Chapter 181 - Chapter 190

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手段選ばぬ目的に 3

 さっき同じことを鵜野宮《うのみや》さんにも言われたけれど、この人たちは朝陽《あさひ》さんを神楽《かぐら》グループの御曹司としか見れないのでしょうね。 いつだって私と誠実に向き合ってくれる、そんな本当の彼を知っていればこんな風には考えたりしないはずだもの。 だからといって、それで全てが上手くいくわけではなけれど。「ええ……それはそうね、私だって朝陽さんとの価値観のズレを感じる事が無いわけじゃない」「なっ、そうだろう! だから鈴凪《すずな》には俺が一番合うと思うんだ!」 私が彼の言葉に納得したと思ったのか、流《ながれ》はすぐに上機嫌になり話を進めようとする。私は今までこの人に、こんなに単純な人間だと思われていたのだろうか? だからこそ、あんな酷い裏切りも平気ですることが出来たのかもしれないが……「確かにそうだけど、それをお互いに擦り合わせていくのも愛情でしょう? 私に合わせてもらうだけだった流は、それに気付かなかったのでしょうけど」「それも鈴凪が俺を想っていてくれたからだろう!? これからはお前のことを想って大事にしていくんだし、いつまでもそんな意地を張らずに戻って来いよ」 どうしてそこまで自分の都合が良いように、話の内容を勘違いすることが出来るのだろう。もう過去の事として伝えてるのに、今でも自身が想われているとでも? 付き合っている頃は、ここまで話が噛み合わない相手ではなかったのに。「そんな必要はないわ、そこに戻るつもりなんてないもの。流のことを好きだったのも、もう過去の事でしかないから」「……俺がこんなにも頼んでいるのに? 鈴凪は本当に変わったんだな、俺が以前のお前に戻してやらなきゃいけない」 これが頼んでいる態度って言えるの? こんな場所に監禁して強引に言う事を聞かせようとしてる、これは一方的な意見の押し付けでしかない。 それを、流は私が変わったと何度も責めてくる。戻すも何も……私はずっと前からこういう性格だったのに、この人は何も分かってなかったんだ。「ふざけたことを言ってないで、さっさとこれを外してくれないかしら? 私はこんな場所で、いつまでも大人しくしてるつもりはないの」「鈴凪がそんな風に相手を想っていても、肝心の神楽 朝陽が同じ気持ちとは限らない。もしも、アイツから手酷く裏切られてもそう言えるのか?」 よくもまあ、そんな
last updateLast Updated : 2026-02-19
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手段選ばぬ目的に 4

「どういう意味って……ははっ、そりゃあ気になるよな? さっき言ったように、今頃はあの男もお前との別れ方でも考えてる事だろうさ」 焦って感情的になりかけた私を見て気分が良くなったのか、流《ながれ》はさっきよりも詳しい内容を話しだした。もしかしたら、私にもっとショックを与えようと考えたのかもしれないけれど。 言われたことをそのまま鵜呑みにして傷付くほど、いつまでも素直で単純なままの私じゃない。「でも、それはどうかしらね? 鵜野宮《うのみや》さんと朝陽《あさひ》さんは綺麗サッパリ別れているのに、今さら彼女に出来る事があるとは思えないわ」 今まで何度も朝陽さんや私に手出しをしてきたけれど、何も意味が無かったからこんな恐慌に及んだのでしょう? 鵜野宮さんが簡単に朝陽さんとヨリが戻せるのなら、私にこんな事をする必要はない筈。 それが何故か流には伝わらないようで、彼は全く違う方向に話を持っていこうとする。「はあ、お前は何を言ってるんだ? これは鵜野宮さんだけの問題じゃない、彼女の父親が経営する会社と神楽《かぐら》グループの繋がりや未来に関わる事でもあるっていうのに」「……そういうことを、鵜野宮さんが流に話したの?」 確かに社長令嬢である鵜野宮さんと朝陽さんが結婚すれば、神楽の家や会社に影響があるのは当たり前で。でもそれだって、今となってはどうにもならない事でしかないのに。「そもそも神楽 朝陽が最初に結婚を考えていた相手は、お前ではなく鵜野宮さんだったんだろう? 本来ならそこで纏《まと》まるはずの事業計画もあったそうだ、それを聞いても鈴凪《すずな》は平気なのか」「それが事実だったとしても私を責めるのはお門違いだわ。だってそれは、過去の鵜野宮さんがとった自分勝手な行動の結果でしかないもの」 どうしてそれに私が罪悪感を抱く必要があるのか、意味が分からない。その原因を作ったのも朝陽さんや私ではなく、鵜野宮さんのはずなのに。 それを彼女は、何もかも私が悪いと思わせるように流に話したのだろうか? それをそのまま信じる彼にも、こんな風に平気で人を騙す鵜野宮さんにも怒りを感じて。「鈴凪がそうだとしても、彼女の元婚約者だったあの男はどうだろうな? 多少なりとも申し訳なさを感じたり、それか鵜野宮さんとやり直した場合のメリットを考えるかもしれないぞ」「さっきから……流は朝
last updateLast Updated : 2026-02-20
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手段選ばぬ目的に 5

 ……どうして流《ながれ》が、その事について知っているのだろうか? この人は今さっき【俺達は】と言ったから、その事についての情報を得たのは鵜野宮《うのみや》さんの可能性もあるけれど。ただ……どちらにしても今のこの状況では、私達の【仮】の婚約が彼等にとって都合が良い事には違いないはずで。 もしも私が下手な事を言えば、現状がさらに悪くなる可能性もある。『今は違う!』と言い返したい気持ちをグッと堪えて、情報を引き出すためそのまま押し黙っていると。「……」「ほら何も言い返せないだろう、それが事実だと証明している。神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》は別れても鵜野宮さんを想い続け、彼女の気を惹くために鈴凪《すずな》と婚約するフリをした。結局のところ、二人はただの契約関係でしかない」 そうやって自分の都合の良いように解釈すればいい、この人は機嫌が良くなると言わなくても良い事までペラペラと喋ることを知っているから。 私から質問しても警戒して話さなかった内容だって、ついうっかり口にするかもしれない。「そこまで知っているたのね、貴方達は。だけど、いったいいつからその事を?」「少し前に鵜野宮さんが神楽本人から告げられたそうだ、鈴凪はアイツから何も聞かされてないんだな。最初から自分に都合の良いように、お前を利用するつもりだったんじゃないか?」 自分の手柄でもないくせに、自慢げにそう話す姿には流石にうんざりさせられる。だからといって今そんな本音を零す気もないし、もっと知りたい事はあるから黙って俯いた。「……」「はあ、可哀想に。そもそも鈴凪は素直で単純だから、あの男も簡単に騙せると思ったんだろうな」 別に流に可哀想だと思ってもらう理由なんてないけれど、本人は随分と上機嫌になったようで。私の不幸を想像してこんなに喜んでいる人間が、寄りを戻そうと考えてるなんて寒気がする。 彼は昔からこんなに歪んだ人だっただろうか? そう思いだそうとして止める、どうだったとしてもこれからの私には関係ない事だから。「彼がその話を鵜野宮さんに伝えたからといって、私との交際が本気ではない証拠にはならないでしょう。少なくとも自分は、朝陽さんから彼女とヨリを戻すなんて話は聞いてないもの」「それを言う必要も無い程度の存在なんだろ、アイツにとってのお前なんて。鈴凪……そんなお前を誰よりも理解して、大事
last updateLast Updated : 2026-02-21
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手段選ばぬ目的に 6

「いいえ。私は朝陽《あさひ》さんに十分大事にしてもらってるわ、貴方と付き合ってた頃とは比べ物にならないくらいに」 これは間違いなく本当の事で、朝陽さんからは自分が経験したことない程の愛情を貰っている。口が悪くてドSだと思う事も少なくはないけれど、それも彼の愛情表現だと知っているから。 今までに何度も大切な存在だと言ってくれたし、大事な時にはちゃんと私の意見も尊重してくれる。 ――そんな朝陽さんの事を何も知らないくせに、分かったような事を言わないで!「はあ……鈴凪《すずな》は現実が見えてないんだな。神楽《かぐら》 朝陽はもうお前なんか用済みだって思ってるのに、そんなの可哀想だから俺が受け止めてやるって」「たとえ朝陽さんが私と別れる事を選んだとしても、絶対に流《ながれ》のところに戻ったりしない」 勘違いにも程がある、この人は今もまだ私が戻ってくると信じて疑いもしていないの? そもそも流は心から私を愛しているわけじゃない、ただ朝陽さんに張り合おうとしてるだけ。 今さらそんな事をしても、何の意味もないのにどうしてそれに気付かないのか。「はあ、本当に強情だな……ああ、ちょうどいい。鵜野宮《うのみや》さんからの連絡だ、せっかくだからコレを鈴凪にも聞かせてやるよ」「……?」 呆れたように流はそう言ったが、鵜野宮さんからの連絡とは? 彼女は別の場所で待機すると言っていたはずなのに、本当は何か別の目的があって出て行ったのだろうか。 彼はポケットからスマホを取り出し画面を確認すると、いやらしい笑みを浮かべたままそれに指を滑らせて操作している。「鈴凪は全部、俺達が嘘をついていると思っているんだろう? 今からの話を聞けば、きっとお前だって事実なんだと分かるさ」「何なの、貴方はいったい何の話を……?」 私の手がギリギリ届かない位置に携帯スタンドを立てて、こちらからも画面が見えるようにスマホが置かれた。画面には通話中の文字と、スピーカーがonになっている事が確認出来たのだけど。 そこから聞こえてきたのは、微かな風のようなものと誰かが近づいてくる足音のようで。【ザザザッ……ザッ、ザッ……】 何となく聞き覚えのある足音、少し癖のある歩き方をする人を……私はよく知っている。 だけど、そんなはずはない! そう思いたいのに、現実は――『ふふふ。やっぱり私に会いに来
last updateLast Updated : 2026-02-22
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手段選ばぬ目的に 7

 驚きで一瞬だけ何も考えられなくなったけれど、今はボーっとしてる場合じゃない。少なくともこの通話の向こうには間違いなく朝陽《あさひ》さんがいる、それならば……!「朝陽さんっ! 鈴凪《すずな》です、私の声が聞こえますか!?」「馬鹿だな、こっちの声は聞こえないようにミュートにしてるに決まってるだろ? 鈴凪は大人しく、二人の仲良さげな会話を聞いていればいい」 スマホに向かって大声を出してみたが、流《ながれ》に鼻で笑われてしまう。確かにこちらの声が聞こえれば都合が悪いのだから、当然と言えばそうなのだけど。 自分はこうして反論する以外の何も出来ない、その事が余計に気持ちを焦らせてるみたいで。『別に良いのよ、そんなこと。こうして来てくれたってのは、朝陽が私を選んでくれた証拠ですもの』『……まあ、梨乃佳《りのか》らしい考え方だな。昔から本当に変わってない』 私を選んだ、とは? その言い方だとまるで彼が鵜野宮《うのみや》さんの事を一番に考えている、そう聞こえるのだけど。 だけど実際に朝陽さんは今、鵜野宮さんと一緒にいる。これはいったいどういう状況なのか。それに朝陽さんが彼女の事を変わってないと話す、その様子や台詞にまで自分の心に引っかかりを感じてしまって。『そう? でも交際期間の長かった貴方が言うのならそうなんでしょうね。せっかくだしあの頃の思い出話なんかもしたいわ』『そういう遠回しな言い方をする必要はない、俺たちの間では……そうだろう、梨乃佳?』 必要無い、俺たちの間では……それってどういう意味ですか、朝陽さん。私は彼の事を理解していたつもりだったけど、鵜野宮さんと会話する様子は全く知らない人に感じて。 愛してるから信じたいのに、この状況から来る不安と二人の親密な雰囲気に自信を無くしていく。 それなのに、そんな私に追い打ちをかけるかのように鵜野宮さんは……『ふふ、朝陽ったら。だけどここで話すような内容ではないし、別の場所に移動しましょう。貴方と過ごすための素敵な部屋を用意しているの』 そんな……二人きりで、そんな所には行かないですよね? 朝陽さんならきっと彼女を冷たく突き放してくれるはず、そう思っていたのに。『……ああ、そうだな。早速案内してくれるか、梨乃佳』 迷った感じもなく直ぐにそう返事をした朝陽さん、私はそのショックで何も言えなくなってし
last updateLast Updated : 2026-02-23
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手段選ばぬ目的に 8

「……そんな」 朝陽《あさひ》さんはこんなにも簡単に、鵜野宮《うのみや》さんの誘いに乗るような人だっただろうか? 確かに鵜野宮さんを想っていたことも知っている、彼がどれだけ一途なのかということも。 もしかすると私の事を好きになってはいたけど、本当は鵜野宮さんの事が忘れられずにいたの? そんな考えが頭の中いっぱいに広がって、余計に心を乱していく。 「はははは、聞いてたか鈴凪《すずな》? 神楽《かぐら》 朝陽はあんなアッサリと鵜野宮さんに心変わりしてたじゃないか、本当にチョロい奴だな!」「……」 落ち込んだ私の姿を見て、流《ながれ》は心底嬉しそうに高笑いをしてみせた。結局この人は私を受け止めたいのではなく、今のような不幸な様子を見たかっただけに違いない。 それによって自分の方が正しかったと、そう思い込みたいのかもしれないけれど。「鈴凪は俺があんなに忠告していたのに何も聞こうとしなかったからな、今のはお前の自業自得だよ」 上機嫌で下から私の顔を覗きこみ、そう言い聞かせようとしてくる。交際している時から流はやや自分本位なところはあったが、ここまでくるとモラハラ気質だったのかもしれない。 別れて正解だった、もう欠片もこの人に情なんて残ってないと再確認出来ただけ。「……だから? だったら、何だって言うの?」「はあ? なんだよ、もう少しくらい落ち込んでいればいいのに。ああ、アイツが駄目でも俺がいるからそんなに気にしてないのか」 またそういう発想になるの? いつまでも復縁出来ると信じて疑わない、そんな彼にはもう何を言っても通じないのかもしれない。だけど、否定せずにいれば勝手に肯定したことにされかねないから。「さっきも言ったはずだけどね。もしもこの事がきっかけで朝陽さんと別れたとしても、流の元に戻る可能性なんてないわ」「いい加減にしろよ、お前は何様のつもりなんだ? 俺にもあの男にもアッサリと捨てられるような、さほど魅力もない女のくせに」 段々と言葉遣いもその発言内容も酷いものになって、私という人間を全否定するような事も平気で言いだした。そう魅力的ではない事くらい、自分でも分かってる。 だけど、朝陽さんはそんな風に私自身を否定したりはしたことないの。あの最悪な出会いから、想い合うようになった現在まで……そう、たった一度だってね!「その捨てられ女にムキ
last updateLast Updated : 2026-02-23
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手段選ばぬ目的に 9

「そうやって暴れるくらいなら、最初から言う事を聞いてればよかったんだ! これは俺を怒らせた鈴凪《すずな》が悪いんだからな」「流《ながれ》こそ何でも人の所為にして威張ってるなんて、人として恥ずかしくないの?」 流は自身の自分勝手な言動すらも、全て私の所為だと言い始めて。流石にカチンときて反論すると、それさえも気に入らないと攻撃的になる。 これはモラハラを通り越してただの暴力でしかない。流の乱暴な扱いから逃れようにも、身体の自由が利かない状態ではそれすらままならない。「なんだと! この……元カノだからって大目に見てやっていれば、どこまでも調子に乗りやがって!」「あっ、痛!」 流は強引に私を引きずり倒そうとしたが、長い髪が彼の袖の釦《ボタン》に引っかかり思うようにいかず余計に苛ついたようで。 しかし少し前に鵜野宮《うのみや》さんがテーブルに置いた鋏《はさみ》を見つけると、すぐにそれを手に取り意味深な笑みを浮かべる。「チッ! 無駄に髪なんか伸ばしているから。ああ……そうだ、こんなの邪魔だろうから俺がサッパリさせてやるよ」「――なにするつもり!?」 流が何をする気か気付いた私は、身を捩り彼から逃れようとする。けれども自身の髪が絡まっているため、離れたくても思うように動けない。 ソファーに縛り付けられたままの状態で髪を一束掴まれてしまい、これ以上抵抗することも難しくて。「女は失恋すると髪を切るって話があるだろう? ちょうど良いじゃないか、俺って本当に優しい男だよな」「ふざけないで! これ以上、私に触れたら許さないわ!」 今の私に出来る事は精一杯の虚勢を張る事だけ、それでもこの人たちに負けたくない思いで必死だった。貴方達を相手に泣いて謝って縋るなんて、何をされても私は絶対にしないから!「へえ、許さない? その状態で何が出来るって言うんだか、結果的に惨めに泣くことにならないと良いけどな」「近付かないでって言ったでしょう!」 鋏を近づける流れに、私は自身の手首を繋いだ手錠の鎖を使って応戦する。力加減も出来ない必死の抵抗だった為か、逆に刃物を持っている彼の方がよろけてしまったのだ。 けれどもすぐに体勢を立て直した流は、さっきよりも顔を真っ赤にして大声で怒鳴る。「――こいつ、マジでふざけやがって!」「うぅっ……!!」 髪が絡んだままの状態で手首
last updateLast Updated : 2026-02-24
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手段選ばぬ目的に 10

【ゴンッ! ゴン、ゴン、ゴン……ガアァン!!】「「――!?」」 壁を乱暴に叩くような音が数回したと思ってそちらを見ると同時に、激しい衝撃と共に吹き飛ばされた入口の扉。それなりの厚さがあるはずのそのドアを、いったい誰がどうやって? 驚きで声も出せずにいると、扉か部屋に入ってくる二人の人物の姿。それは私の良く知っている人たちで。「なんだ、いったい何が起こって? ……なっ、どうしてお前たちがここに!?」「白澤《しらさわ》さん、それにシオさんまで……?」 予想外の事に戸惑ったのか流《ながれ》は掴んでいた私の手首を離し、今度は私を前に出して縦にするかのような体勢をとる。どこまでも卑怯なその振る舞いに呆れそうになるが、今はそんな事を気にしていても仕方ない。 ゆっくりと室内へと足を進める白澤さんとシオさんは、そんな彼に怯む様子も見せず余裕の表情を浮かべている。「かなりお待たせしてしまったようですね、申し訳ありません」「ああ……大丈夫だったかい、鈴凪《すずな》!?」 流の存在など見えていないというように、二人は私にだけ話しかけてくる。それも彼等らしいと言えばそうなのだけど、短気な流を逆上させるには十分だったようで。 彼は持っていた鋏《はさみ》の刃先を私の首元に近付けると、その私に隠れたような体勢のままで二人に叫んでみせた。「――それ以上近付くな!! お前らがどうやってここに来たのか知らないが、そこから動けばコイツの命の保証はしない」「流っ! こんなことして、どうするつもり!?」 突然の二人の乱入に混乱したのか、流はさらに冷静さを失い行動も滅茶苦茶なものになっていく。このままでは取り返しのつかない事になりそうで私は彼を止めようとするが、余計に怒らせるだけになってしまって。 そのまま持っている鋏をブンブンと振り回したり、今度は二人に向けたりと危険すぎてどうすれば良いか分からない。「うるさい、お前はこのまま大人しくしていろ。俺は間違ってなんかいない、こんなの絶対に認めないからな!」 このままでは流自身が後悔することになるだろうし、白澤さんやシオさんに危害があってはいけない。だから私は暴れる流の腕を必死に掴んで、後の事を白澤さんに頼むしかなかった。「お願い、白澤さん! 私に構わず、このまま流を取り押さえてください!」「……」 だけど白澤さんもシオさ
last updateLast Updated : 2026-02-24
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醜悪なその本性に 1

「そんな汚い手で気安く触ってんじゃねえよ、鈴凪《すずな》は俺の婚約者なんだから」 後方からいきなり背中を蹴り飛ばされたらしく、油断していた流《ながれ》はそのまま勢いよく前方へと吹き飛んだようだ。しかもいつの間にか私の身体は、真後ろに立っていた朝陽《あさひ》さんの腕の中にすっぽり収められていて。 ソファーに繋がれていた時の紐は外されていたが、両手首の手錠はそのままだったためそれを見た朝陽さんの表情が一気に険しくなる。 だけどそんなことよりも、今この場に彼が現れた事の方がずっと驚きで。「――か、神楽《かぐら》 朝陽っ!?」「ええっ、嘘でしょう? どうして朝陽さんがここにいるんですか!?」 流は床に這いつくばったまま朝陽さんに攻撃的な視線を送るが、逆に彼にきつく睨み返されてしまい焦っていたのだけれど。 朝陽さんがその程度で済ませるほど温厚な性格ではない事も、私や白澤《しらさわ》さんは十分過ぎるほど分かっているから。「……とりあえず詳しい話は後でだ、すまないが鈴凪を頼む。まずはこの粘着ストーカー男に、そろそろ現実と向き合ってもらわないと」「くっ……!!」 朝陽さんが少し離れた場所にいたシオさんに向けてそう言うと、彼女はすぐに傍に来てくれて。シオさんは私を近くに座らせてあちこち確認した後、この手首を繋ぐ輪と鎖を見てその綺麗な顔を顰めてしまった。 ソファーと繋ぐための紐は移動するために流が切ったけれど、この手錠は今も外されていない。金属の当たっている部分が擦れてきたせいで、少しの痛みはあるが我慢出来ない程じゃないから。「大丈夫かい鈴凪、どこか怪我していないか? ……ああ、この手錠はちょっと鍵が無いと外せないかもしれないね」「大丈夫です、間一髪のところでみんなが助けてくれたので。こうしてシオさんも来てくれて、本当に今は心強いです」 シオさんも言うように手錠はしっかりした作りのため、これを力づくで何とかするのは難しそうだ。鍵があるとしても、持っているのはこの二人のどちらなのかも知らなくて。 もしも鵜野宮《うのみや》さんが持っているとしたら、それこそ素直に出してくれるとも思えない。そんな事を考えていると……「あの時に危機感を持たず、私と白澤が鈴凪から離れてしまった所為で。こんな危険な目に会わせてしまって、本当にすまなかった」 シオさんはもの凄く申し
last updateLast Updated : 2026-02-25
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醜悪なその本性に 2

 慌てて朝陽《あさひ》さんと流《ながれ》の様子を確認すると、いつの間にか彼らは部屋の端に移動していて。どうやら後ろへと這って逃げる流を、朝陽さんがゆっくりと追い詰めていたようだ。 そう簡単に終わらせないところを見ると、朝陽さんの怒りが相当なものなのだと分かる。興味が無かったりどうでもいいと、彼はわりとあっさり片付けてしまう事が多いから。 けれどもジリジリと逃げ場を奪われていく流の方は、見るからに顔面蒼白と言った感じになっている。「――な、なんでだよ!? どうしてお前がここに来れるんだ、鵜野宮《うのみや》さんと一緒にホテルにでも行っているはずだろう!?」 そう、流の言う通り私もスマホでそれを聞いていたのに。あの時の声は間違いなく朝陽さんだったし、口調だって普段の彼と変わりなかった。 なのに、どうして今ここに来ることが出来たのか?「はあ、どうして俺が梨乃佳《りのか》なんかとホテルに行かなきゃならない? アイツとの関係はとっくに終わっていて、今の俺が真剣に交際してる相手は鈴凪《すずな》なんだぞ」「そんな、鵜野宮さんは……絶対にお前と復縁すると、そう言っていたのに」 何をとぼけたことを言ってるんだと言わんばかりの朝陽さんの表情、その堂々とした様子に嘘や偽りは感じられない。 彼が私と本気で付き合っていると、ハッキリ言ってくれるのはもちろん嬉しい。でもそれなら、朝陽さんが鵜野宮さんに案内を頼んでいたのはいったい何だったの?「だから、それもアイツの勝手な思い込みだろう? 俺にそんな気はサラサラないし、梨乃佳の打算的なアプローチはもううんざりなんでね」「――何でだよ! お前が鵜野宮さんとヨリを戻せば、全部上手くいくはずだったのに」 もしかしたら朝陽さんはまだ鵜野宮さんにほんの少しは気持ちがあるのかもしれない、そう思っていたのは私の間違いだったようで。彼は流や私の前で、鵜野宮さんとの復縁の可能性をきっぱり否定してくれた。 流はそんな朝陽さんの言葉に納得出来ないようだったけれど、二人がヨリを戻したところで全部上手くいくなんて絶対に有り得ない。「知るかよ、そんなお前の自分勝手な都合なんて。俺はこのまま鈴凪を連れて帰る、その前にお前達が二度とこんな事をする気が起きないようにするけどな」「ふ、ふざけるなよ! お前なんて、このまま……!」 いよいよ切羽詰まって
last updateLast Updated : 2026-02-26
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