少しの間は二人して相手を睨み合っていたが、それに飽きたように大きなベッドに腰かけネクタイを緩め始めた神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》に向かって私はそう言った。 正直なところ彼と結婚するほど想い合っている親密さを出すだけでも難しいと思っているのに、こんな人から世界一愛されているように見えるにはどうすればいいのか全く想像もつかない。 そのためには、まず目の前にいる相手の事を知らなくては始まらないだろうと私は思ったのだが。「そこは鈴凪《すずな》の演技力の見せ所だろう? 学生時代は演劇部副部長、それも何度か主役を張ったこともあるそうじゃないか」「……そこまで、調べたんですか? もう何年も前の事なのに」 流石に神楽グループの御曹司が何の調査もせずに、私にこんな役をやらせるようとするなんておかしいとは思ってた。だけどこんな短期間に自分の事を過去も含めて調査されたのだと思うと良い気分はしない。 ……そりゃあ確かに、最初の出会いがあんなものだったから仕方ないとは思うのだけど。「ああ、簡単な素行調査程度はさせてもらった。たまにあの時の鈴凪のようなアクションを起こして、俺に近付こうとするライバル企業の刺客が紛れてたりもするんでね」「それは、そうですよね……」 御曹司という立場なのだから、一般人には分からない苦労があるのは当然なのかもしれない。だからこそ余計に、本当にこの人と嘘の結婚式を挙げてしまって良いのかと考えてしまうのだけれど。 それも見透かされてしまっていたのかもしれない、神楽 朝陽の次の一言に私は言葉を失ったのだから。「鈴凪が世界一の愛され花嫁になる、自分以外の男の。そうなった時、元婚約者である守里《もりさと》 流《ながれ》はいったいどんな顔をするんだろうな?」「――っ!!」 自分の心の奥底に確かに存在する黒い感情、それを暴かれた気がして。唖然として神楽 朝陽を見つめれば、彼の唇が自信あり気に弧を描いていた。まるで『それを鈴凪も見たいだろう』と言わんばかりに。 残念ながら私は冷静沈着とは程遠い性格で、感情のままに動いてしまうタイプだという自覚はあった。それも神楽さんには都合が良かったのかもしれない。「それ以外にも結婚式で趣向を凝らしてみるのも面白いかもしれないな、鈴凪はどうしたい?」 ここでわざと私に意見を求めてくるあたり、間違い無く確信犯でし
Terakhir Diperbarui : 2025-08-24 Baca selengkapnya