Semua Bab (仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~: Bab 21 - Bab 30

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その契約は強制で 5

 少しの間は二人して相手を睨み合っていたが、それに飽きたように大きなベッドに腰かけネクタイを緩め始めた神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》に向かって私はそう言った。 正直なところ彼と結婚するほど想い合っている親密さを出すだけでも難しいと思っているのに、こんな人から世界一愛されているように見えるにはどうすればいいのか全く想像もつかない。 そのためには、まず目の前にいる相手の事を知らなくては始まらないだろうと私は思ったのだが。「そこは鈴凪《すずな》の演技力の見せ所だろう? 学生時代は演劇部副部長、それも何度か主役を張ったこともあるそうじゃないか」「……そこまで、調べたんですか? もう何年も前の事なのに」 流石に神楽グループの御曹司が何の調査もせずに、私にこんな役をやらせるようとするなんておかしいとは思ってた。だけどこんな短期間に自分の事を過去も含めて調査されたのだと思うと良い気分はしない。 ……そりゃあ確かに、最初の出会いがあんなものだったから仕方ないとは思うのだけど。「ああ、簡単な素行調査程度はさせてもらった。たまにあの時の鈴凪のようなアクションを起こして、俺に近付こうとするライバル企業の刺客が紛れてたりもするんでね」「それは、そうですよね……」 御曹司という立場なのだから、一般人には分からない苦労があるのは当然なのかもしれない。だからこそ余計に、本当にこの人と嘘の結婚式を挙げてしまって良いのかと考えてしまうのだけれど。 それも見透かされてしまっていたのかもしれない、神楽 朝陽の次の一言に私は言葉を失ったのだから。「鈴凪が世界一の愛され花嫁になる、自分以外の男の。そうなった時、元婚約者である守里《もりさと》 流《ながれ》はいったいどんな顔をするんだろうな?」「――っ!!」 自分の心の奥底に確かに存在する黒い感情、それを暴かれた気がして。唖然として神楽 朝陽を見つめれば、彼の唇が自信あり気に弧を描いていた。まるで『それを鈴凪も見たいだろう』と言わんばかりに。 残念ながら私は冷静沈着とは程遠い性格で、感情のままに動いてしまうタイプだという自覚はあった。それも神楽さんには都合が良かったのかもしれない。「それ以外にも結婚式で趣向を凝らしてみるのも面白いかもしれないな、鈴凪はどうしたい?」 ここでわざと私に意見を求めてくるあたり、間違い無く確信犯でし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-24
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その契約は強制で 6

「お前、俺をいったいなんだと……」 朝陽《あさひ》さんはベッドに腰かけているから、私の方が彼を見下ろす形になっている。そのせいなのか、つい強気になっていたのかもしれない。「自分勝手で自信過剰、その上眼鏡を外すとドSになる神楽グループの御曹司さま?」「ほう? そう思っていたとしても、そこまでハッキリと口にした奴は鈴凪《すずな》が初めてだ。その度胸は認めるが、もちろんタダで済むとは思ってないよな?」 しまった! と気付いた時にはもう遅かった。私が彼に対して不満に思っていた部分まで、ついペラペラと言葉にしてしまっていたらしい。 神楽 朝陽はパッと見は微笑んでいるが、醸し出すオーラは怒りそのもので。この人は大企業の御曹司よりも、どこかの組の若頭とかの方が似合うんじゃなかろうかとまで考えてしまう。「タダで済むと思ってるかって、もう私はちゃんと朝陽さんの恋人役を演じてるじゃないですか! これ以上、私にどうしろっていうんです?」「……そうだな、追加で何か条件を付けても面白そうだ。鈴凪はどんなのが良い?」 その問いかけに私は首を横にブンブンと振る、そんな事を聞かれても答えれるわけがない。どうせこの人が追加する条件なんて碌なものではないはずだから。 ただでさえ、難易度の高い演技を求められているのだ。それ以上の事をそう簡単に増やしたりしないで欲しい。「そんな無茶を言う前に、朝陽さんだって少しは協力してくれたっていいんじゃないですか? これっぽっちも朝陽さんに愛されてないのに、世界一の愛され花嫁を演じるって無理がありますし」「……へえ? じゃあ鈴凪が俺に望む協力っていうのがどういうのかを、じっくり聞かせてもらおうかな?」 えええ~、そう返してきちゃいます? 予想もしなかった切り返しに、私はまた返事に困ってしまう。まさか神楽 朝陽がそんな事を聞いてくるとは思わなかったから。 私は話題が変えれればいいくらいの気持ちで発した言葉だったから、そんな詳しくなんて考えてはいない。それなのに彼はなぜか楽しそうに私の答えを待っているのだ。 待たせれば不機嫌になることは分かってる、それならば最初から無理難題でそれを誤魔化してしまえばいい。そう思って……「そりゃあ愛され花嫁なんですから、朝陽さんに愛されるしかないんじゃないでしょうか? 何ていうか愛されてる『幸せオーラ』みたい
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-25
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その契約は強制で 7

「……幸せオーラ、か。確かに、今の鈴凪《すずな》から感じるのは真逆の幸薄オーラみたいなものだからな」「誰が薄幸の花嫁ですか!」 カチンときてそう反抗すると、神楽《かぐら》 朝陽《あさひ》は「ブハッ!」と吹き出してそのままベッドで笑い転げている。揶揄われてるのは分かってるのに、こうして過剰反応するから玩具にされると分かっているはずなのに。 なんだか負けた気がして、こちらも言い返してみせた。「私が薄幸に見えるのなら、あと一ヶ月でそれを愛され花嫁に見せる必要があるってことです! それに朝陽さんが協力するべきなのは当然でしょう?」「そうか? まあそれも面白そうだな。俺を楽しませてくれるのなら、協力してやってもいい」 ……もともとは私が迷惑料の代わりに、貴方に協力してる形なんですけれどね。そう言ってしまいたかったが、それはとりあえず我慢した。「じゃあ、早速ですが朝陽さんはどんな協力をしてくれるんです? その内容もしっかり契約とやらに付け加えておいてもらいたいんで」「そこまで信用されてないのか、俺は? まあ、そうだな。挙式までの残り一ヶ月間で、俺が鈴凪に十分過ぎるほど愛されるということを実感させてやればいいんだろう」 朝陽さんは簡単そうに言うけれど、どう考えても女性に愛される側の彼にそんなことが出来るのだろうかと疑いたくなる。私に話す時だって命令口調で、誰かに尽くすとは程遠いところにいそうな彼が。 それでも自信満々でそんな事を言うから、このまま朝陽さんに任せるべきなのか悩んでしまう。「それって本当に朝陽さんに出来ますか? 挙式まで時間もないし、失敗すれば後々朝陽さんが大変な事になるんですよ?」「鈴凪はもう少し俺を信頼するべきだろ。新婦となるアンタが未来の夫である俺を信じていなければ、この先上手くいくはずのこともそうでなくなるだろうが」 そう言われても、お芝居だといったのは朝陽さんだし。急に新婦とか未来の夫とか言われてもピンとこないから無理がある。だけど、朝陽さんがどんな方法を考えているのかは少し興味があって。 元カレの流《ながれ》とも、一緒にいて愛されていると実感することはそう多くなかった。そんな私にどんな手を使ってそんな風に思わせてくれるのか、想像すると少しドキドキもしてて。「……自信あるんですよね? それなりに期待しても良いって、そう思っても
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-26
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その契約は強制で 8

「そう簡単にいくでしょうかね、私だってペナルティーなんて受けるつもりはないので。そう言う朝陽《あさひ》さんこそ一か月後に計画通りの結婚式を上げれなくても、私に文句は言わないでくださいよ?」 暗に「愛され花嫁」になれるかどうかは貴方次第なのだと伝えると、朝陽さんはますます楽しそうに口角を上げて見せる。私と同じように血の気が多いタイプなのか、勝負が好きなのはお互い様らしい。 もちろん借りがあるのは私の方だから、それ以外の事については全力でやるつもりではいる。彼に協力してもらうのは、私が誰よりも愛されているという実感を得ることだけ。 そのつもりだったのだけれども……「そこまでいうのなら、覚悟もきめてるんだろう。この契約において、鈴凪《すずな》としてはどこまでOKなんだ?」「どこまでって……何がです?」 朝陽さんの質問の意図が分からずそのまま聞き返すと、何故か彼は何ともいえない微妙な表情をしてみせた。 馬鹿にされているのか、何か可哀想なものを見るような目つきというのか。とにかく私にとって気分が良い物ではなかったので、文句を言おうとしたのだけど。「鈴凪は俺に愛されていることを実感したいんだろう? その幸せオーラとやらのために。だからどんな風に愛していいのかと聞いている。抱きしめたりキスは可能なのか、その肌にどこまで触れていいのかという事だ」「……は、肌⁉」 ちょっと待って! いきなり距離を詰めないで? 慣れた仕草で私の腰へ腕を回さないで!?  って、焦れば焦るほどに頭の中はパニックになり冷静な受け答えが出来なくなる。 これは契約のはずなのに、そこにハグやキスが必要ですか? しかもそれだけでなく、神楽《かぐら》 朝陽は私の肌に触れていいかとまで聞いてきたのだ。「いっ、いいわけないでしょーが! この……変態ドS御曹司!」「いって!鈴凪、おまえな……」 腕を回され引き寄せられたことで慌てた私、気付いたら朝陽さんのお腹に思い切り肘打ちしてしまっていた。かなり痛かったのか、彼がギロリと睨んでくるけれどそれどころじゃない。 至近距離で嗅いだ朝陽さんの香水の香りのせいか、身体が火照ってる気がして。 ……うう、全部朝陽さんが悪い! 変な事を気いてきて、その上許可なく触れてきた朝陽さんがいけないんです!「わ、私の所為じゃないですよね!? フリなんだから相
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-27
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その契約は強制で 9

「……なんていうか、意外とロマンチストなんですね」 揶揄《からか》ってるわけじゃない、本当に朝陽《あさひ》さんがそんな風に考えていることに驚いただけ。普段の発言や行動から、この人の恋愛観はもっと冷めていると思っていたし。 見かけによらず朝陽さんは、恋人になったら愛が重いタイプだったりするのかもしれない。それはそれで、なかなか面白そうだけど……「意外と、は余計だ。そういうのならば、鈴凪《すずな》はそんな気持ちにはならなかったのか? 守里《もりさと》 流《ながれ》と恋人同士だった時に」「流に……」 流の事はもちろん好きだった。何年も付き合い、愛情だけじゃない深さが私達にはあると信じてもいた。 だけど……一つだけ、彼との間に悩みがあったのも事実で。「どうしたら、相手に触れられたくなるんですかね? 私は流に性的な意味で触れられて、気持ち良いと思えたことが無くて」「……それは、どういうことだ?」 もちろん抱きしめられたり、くっついた時の彼の温もりは好きだった。自分の居場所はここだって安心出来たし、なにより落ち着けた。 けれど、どうしても身体を重ねるという行為が好きになれなくて。それが原因で流とは何度か喧嘩になったこともある。「相手を好きだから触れたいって、朝陽さんは言いましたよね? それなら好きなのに触れ合うことを喜べない私のほうに、何かしらの問題があったのかなって」「……そうとは限らないだろ、他の相手でも同じだったのか?」 何でこんな事まで朝陽さんに話してしまってるんだろうとは思ったが、変に隠す方が後々面倒なことになりそうなのでこれで良かったかもしれない。 意外にも彼は、私を揶揄うでもなく真面目に話を聞いてくれているようで。「流が初めての彼氏だったので、別の人っていうのはちょっと分からないですね」「……そうか。それは、何と言うか」 流と出会ってからは、彼しか見えてなかった。自分には他の男性に目を向けれるような器用さもなかったし。そんな私に朝陽さんは何と声を書ければいいのか迷っているようだったから……「いいんですよ、気を使わなくても。だけどまあ、そういう事なんで『婚約者として触れ合う』ってのはちょっと私には難しいかもしれないです」「……分かった。演技に必要な時以外、鈴凪が良いと言わなければ俺からは触れない」 まさかそんな事を朝陽さんが
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-28
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その契約は強制で 10

「え? いいんですか?」「当たり前だろ。鈴凪《すずな》をいじめるのは確かに楽しいが、必要以上に苦しめたり追い詰めたりしたい訳じゃない」 ちょっと違いがよく分からないけれど、彼なりに私に気遣ってくれてるのだろう。「いじめるのが楽しい、って部分が無ければキュンとくる台詞だったかもしれませんね」「……そんな風には見えないがな。それに触れないってのは性的でって意味であって、それ以外では今までと変える気はない」 逆に難しいような気もするけれど、朝陽《あさひ》さんがそうするっていうのなら私はそれで構わない。むしろ……彼は私の事を異性として見てないと思ってたから、ビックリしたくらいで。 本当によく分からない人だな、朝陽さんって。結局なんだかんだで、私の方が助けられてる気がするし。「朝陽さんって面倒見が良いって言われません?」「はあ!? 鈴凪の目は腐っているのか? 俺のどこをどう見たら、そう思えるのかが全く理解出来ない」 今までで一番驚いた顔をされた気がする、思ったままを言葉にしただけだったのだけれど。意地悪な性格が前面に出過ぎていて分り難いが、朝陽さんは意外と良い人だと思う。 ……まあ、本人は納得いかないようなので二度は言わないでおこう。「……それで、こうして朝陽さんのお父さんにも会いましたし? これから私は、幸せな花嫁とやらのために何をしていけばいいんですか?」「そうだな、とりあえず俺のマンションに引っ越してきてもらおうか。どうせ父に見張られるくらいなら、近くに置いておいた方が良いだろうし」 置いておくって、私を物みたいに言わないでほしいのだけど。 それでも安アパートで周りにビクビクしながら生活するよりは、セキュリティーのしっかりしたマンションの方が安全だろうけれど。「どこなんです、朝陽さんのマンションって?」「本社ビルの近くに最近建ったマンションの最上階だが、何か不満でも?」 ああ、朝陽さん高いところ好きそうですもんねえ。と言いたいが、とりあえず今は我慢しておこう。余計な事を言うと、私の状況が悪くなっていくことは流石に学習したから。 だけど……「そのですね、実は私は高いところが苦手なんですけど」「さっきは俺が譲歩したんだ、今回は鈴凪が努力するべきじゃないか? まあ、窓の少ない部屋を空けてやるから頑張れ」「頑張れって……そんな無茶苦茶
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-08-29
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重ね見た切なさに 1

「それも全部、業者に任せればいいだろう? 今さら、何がそんなに恥ずかしいんだか」「放っておいてください! っていうか、片付けが終わるまで出て行っててもらえません?」 荷物が少なかったのもあるが、あっという間に私のアパートから必要なものだけをマンションへと移動させた朝陽《あさひ》さん。部屋の解約手続きまでしかけた彼を、契約終了後に帰る場所がなくなったら困ると説得するだけでも大変だった。 朝陽さんはその時にはちゃんと部屋を用意してくれると言っていたが、そこまで世話になる理由もない。「ここに見られて困るほどのものがあるとは思えないが? どうせ服や下着、アクセサリーの類は全部買い換える予定だしな」「はあ? 何でそうなるんです?」 いくつかの段ボール箱に詰められた中身、それをクローゼットに片付けている最中にそんな事を言われた。節約はしていたが、身だしなみはそれなりに気を使っていたつもりなのに。 それにお気に入りの服だってある。このワンピースもそう、元カレの流《ながれ》が付き合って初めての誕生日に買ってくれたもので……と、しんみりしていると。「……まさかとは思うが、鈴凪《すずな》は他の男にプレゼントされた服を着て俺の隣に立つつもりか?」「もしかして朝陽さんは読心術、使えるんですか?」 考えていたことをズバリと当てられてしまい、背筋に冷たいものが走る。分かってはいる、今の私の婚約者は(仮)とはいえ朝陽さんなのだ。ここまで来て未練がましく、元カレからの贈り物を持っているべきじゃない。「そんな顔してれば嫌でも分かる、俺以外の人間の前では気を付けろ」「はい……」 朝陽さんの言う通り、彼の隣で流の事を思い浮かべたりしていいわけがない。一方的に別れを告げられて、まだ気持ちが追い付かないのも事実だがここまで来たら前に進まなくては。 気合いを入れ直すように拳を握れば、その様子を見ていた朝陽さんが僅かに微笑んだ……ような気がした。「さて、俺はそろそろ会社に戻らせてもらう。残りは一人でも出来るだろう?」「出来なくはないですけど……朝陽さんは私が金目の物を持って、ここから逃げるとか考えたりしないんですか?」 玄関やリビング、廊下などに飾られている美術品や彼の私物はどう見ても高価な品に違いない。そんなものがゴロゴロ置いてある場所に、契約を交わしたとはいえ良く知りもし
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-01
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重ね見た切なさに 2

「さて、と……あらかた片付いたし、ちょっと休憩でもしようかな?」 喉が渇いたのでキッチンへと移動すると、設置してあるウォータサーバーに気付いた。勝手に冷蔵庫を開けないで済むから有難い、そう思いながらグラスに水と注いだ。 リビングには座り心地の良さそうなソファーが置かれていたが、気が引けて離れた場所の小さなチェアーに腰かける。大きすぎるテレビの存在が気になって、ちょっとだけとリモコンで電源を入れた。『熱愛発覚!! トップリーガーである真岸《まぎし》 晴仁《はると》さんの恋人と噂されているのは、とある企業の社長令嬢! そんなお二人のプライベートデートと思われる画像が……こちらです!』 昼過ぎという事もありテレビの内容はゴシップめいたものだったけれど、私の目はその画像に釘付けになった。「この女性、確か……あの時に流《ながれ》と一緒にいた?」 鵜野宮《うのみや》さん、という名前だっただろうか? 確かに彼女にはどこか洗練された雰囲気があったが、まさか社長令嬢だったなんて。 いや、それよりも……トップリーガとの熱愛発覚って、いったいどういうことなの? 流は鵜野宮さんの新しい恋人ではなかったのだろうか。テレビに映る美男美女は、どっから見てもお似合いのカップルでしかない。「流は……彼女の遊び相手?」 朝陽《あさひ》さんの部下の人たちはそう話していた。それが真実ならば今頃、彼女にアタックをかけていた流は……そう考えかけて頭を振った。彼は、もう私には関係ない人なんだもの。 ここでは休まらない気がして、テレビを消すとグラスを持って自室に戻ることにした。「ああ、その話なら昼間に秘書から聞いたが……」 思ったよりも早くマンションに帰ってきた朝陽さんに、流と一緒にいた女性の事について聞いてみた。前に彼女を見た時、確か朝陽さんもあの人を知っているような口ぶりだったから。 けれど、いつもははっきりモノを言う朝陽さんが言葉を濁しているようで。何となく深く聞かない方が良いような気がした。「そう、ですか。もしかして流は本気の相手じゃないのかなって、ちょ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-01
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重ね見た切なさに 3

「今回のテレビの件に関しても、鵜野宮《うのみや》はわざと自分の顔を晒してる。その方が彼女にしてみれば、都合が良いんだろうが」「都合が良い、ですか……」 私には朝陽《あさひ》さんの言葉の意味はよく分からないが、あの女性と彼は全くの無関係でないのは間違いなさそう。でもこの雰囲気からすると、二人は良い間柄ではないのかもしれない。 これ以上、流《元カレ》の事を聞くのは気が引けて部屋に戻ろうとすると……「それよりも、鈴凪《すずな》はもう夕食は済ませたのか? 冷蔵庫に大した食材は入ってなかったはずだが」「えっと、冷蔵庫を勝手に開けるのは悪いと思ったので。疲れたせいか食欲もそんなになかったですし……」 私がしどろもどろに質問に答えると、朝陽さんはスマホを取り出しソファーへと腰を下ろした。その体勢のまま、私を手招きするので近寄ると……「ほら、隣に座らないと見えないだろうが。さっさと座れ」「え? っと、ひゃあ!」 手首を引っ張られて、強引に朝陽さんの隣へと座らされる。ふかふかのソファーなので身体が沈んで、勝手に彼にピッタリとくっつく体勢になってしまって。「朝陽さん、近いです! ちょっと、ちょっとだけ離れて」「は? 離れたら見えないだろ? いいから、もっとこっち寄って見ろよ」 慌てる私の肩に、朝陽さんは容赦なく腕を回してホールドしてくる。それに見ろって言われても、この状況でいったい何を見ればいいんですか!?「昼間なるべく触れないようにするって、言ったばかりじゃないですか!」 朝陽さんはそれで納得してくれたはずなのに、これの状況はおかしいでしょう? もちろん彼があからさまに触れてきている訳ではないが、こっちはそれでも意識してしまうのだから。「それは性的な意味では、って話だろうが。それより早く選ばないと、注文時間過ぎちまうぞ?」「いやいや、そうじゃなくって……って、注文時間?」 何の事を言ってるんですか? と彼を見れば、手に持っているスマホを顔にこれでもかという程近付けられる。いや、逆に見えなくなるんですけど……と、言う勇気はないが。 ディスプレイが見える位置まで頭をずらして確認すると、そこにはデリバリーの注文画面が開いてあって。ええと、つまり……?「もしかして、私のためですか?」「そんなわけあるか、俺の分を注文するついでに決まってる」「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-02
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重ね見た切なさに 4

「だからあ、もう食べれませんってば! 朝陽《あさひ》さんは私を、豚にでもするつもりなんですか?」 自分が注文した料理のほかに、色々な料理がズラリと並べられたテーブル。どうしてか朝陽さんは、あれもこれもと私に食べさせようとしてくるのだ。 さっき隣に座った時に身体が寄りかかったせいで、体重がバレたのか「軽すぎる!」と彼に怒られてしまって。 最近まともに食事がとれなかったのは事実だけど、いきなりこんなに食べれるわけがない。それなのに朝陽さんときたら……「確かにそうだな。どうせ『食べる』のなら、ある程度肉付きが良い方が俺は好みだし?」「な……っ! そうやって、なにか含んだような言い方をするのはやめてくださいよ!」 この人の意味深な発言に、また私がアタフタさせられてる。っていうか、朝陽さんの個人的な好みなんて教えてもらわなくて結構ですから!  何だかいつもより意地悪だなと思ったら、彼の眼鏡がテーブルの端に置かれていて。ああ、ドSモード発動中なんですね……と、げんなりしたくなる。「くくっ……揶揄《からか》われるのが嫌なら、そんな隙を作らないように努力したらどうなんだ? それに、これとそれくらいは食べれなくはないだろ?」「最初から優しくしてやろう、っていう気持ちはないんですよね? ああ……でも、これくらいなら食べれそうかも?」 朝陽さんが差し出した料理は量が少なめで、胃に負担のかからなさそうな物だった。この人の言動にはちょっとした優しさが隠れてるから、どうしても嫌いになれなくて困る。「……へえ、鈴凪《すずな》は俺に優しくされたいのか? それは、それでなかなか楽しそうだが」「私は楽しくなくなりそうなんで、遠慮しておきます。今はこれを食べるのに忙しいですし」 そう返せば、朝陽さんはますます楽しそうに口角を上げる。言葉のチョイスを間違えて、また彼を喜ばせてしまったようだ。 こういうやり取りで朝陽さんが少しずつ私に興味を持ち始めているなんて、この時は全く気付いていなかったのだけど。 結局、なんやかんやと理由を付け料理を食べさせられて。お腹が破裂しそうになってからしか、自分の部屋には戻してもらえなかった。 意外と面倒見が良いのか、それとも心配性なのか。最初の朝陽さんからは想像も出来ないような、彼の隠れされた一面を知ることになった気がして。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-02
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