(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~의 모든 챕터: 챕터 41 - 챕터 50

66 챕터

触れ合う優しさに 6

 こんなの、私は知らない。そういった映像を見た事がないわけではないけれど、その当時はピンと来なかった。元彼との行為も本音を言えばあまり乗り気ではなく、求められたから応えている感じになっていて。 だから、今のこの状況は自分にとって異常な状態でどうして良いのか焦ってしまっている。 それなのに、朝陽《あさひ》さんは……「残念だが、待ってやるつもりはない。そんな風に戸惑う表情も、鈴凪《すずな》のもっと乱れた姿も全部見たいから」「な、んっ……でぇ……!?」 こんな姿を見られたくない、変な声も聞かれたくない。そう思っているのに、朝陽さんは逆にそれを見たいという。私の両手首を片手で一括りにし、頭の上に固定した朝陽さんはそのまま服を脱がしにかかる。 必死に腕を動かそうとするのに、朝陽さんの力が強くてびくともしないままあっという間に素肌を彼に晒すこととなった。 常夜灯の灯りでもそれなりに見えているのが恥ずかしくて、彼の視線から逃れるように顔を背けたのだけれど……朝陽さんの大きな手が私の身体のあちこちに触れるたび、自分の中心が熱くなり頭がクラクラしてくる。 とてもじゃないけれど平静ではいられない、こんな身体の奥からズクズクと疼くような感覚は初めてで。訳がわからなくなって朝陽さんを見つめれると、彼は何故か小さく舌打ちをする。「鈴凪がそういう顔するの、狡過ぎるだろう? クソ、ヤバいくらい煽られる……」「そんなの、私の……所為にしないでっ!」 もしかしたら朝陽さんは、自分で思っていたよりも私に欲情してくれているのだろうか? あの人のような完璧な美しさと魅力的なボディーラインは無いけれど、それでも今だけは私を見てくれてるって思っていいの? そんな私の気持ちが彼に伝わったのか……「だから、そういう可愛い顔ばっかすんなって……歯止めが効かなくなるだろ」「な、に……変なことを言わないで……っ」 朝陽さんの言葉で、私の方が理性も何もかもが吹き飛んでしまいそうなのに。私が悪いみたいに言われても、こんな風にしているのは貴方じゃないですか! って、言いたくても言葉に出来ないままで。「お前を可愛いと思って、それの何が悪いんだよ? それならば鈴凪が素直になるまで、俺の腕の中から出さないでおこうか?」「む、無理! 無理です、無理っ!」 普段の朝陽さんなら絶対に言わない様な言葉
last update최신 업데이트 : 2025-09-10
더 보기

予期しない遭遇に 1

 カーテンの隙間から、差し込んだ日の光で目が覚めて。自分のアパートの天井とは違うな、なんてぼんやり考えながら隣には誰もいない事を確認した。 昨日、温もりを分け合った相手はもう仕事に行ったのだろう。彼がいた場所はひんやりとしていて、部屋の主がいなくなって時間が経ったのだと分かる。「……まあ、そんなものでしょうね」 それでも朝陽《あさひ》さんが、出勤出来る程度に元気になったのならば良かったとは思う。 ゆっくりと身体を起こすと、身体のあちこちが怠い感じがして溜息をつく。正直なところ、身体を重ねるという行為を私は全然分かってなかったのかもしれない。 それくらい朝陽さんとの一夜は驚くことが多くて。 あんなあられもない自分を、彼にしっかりと見られてしまった恥ずかしさもあるのだけど。それでもあの人と過ごした一夜が、忘れられないくらいに蕩けるようなものだった事には違いない。 ベッドの横にあるチェストに水差しとグラスが用意されていたから、遠慮なく乾いた喉を潤わせてもらう。「いつまでもここにいる訳にはいかないわよね、それに……」 昨夜の情事を思い出させるこのベッドのシーツも、全部綺麗なものに変えておかなければ。 いつもより疲労感の残った身体を起こすと、すぐそばに白いTシャツが畳んでおいてあった。サイズが大きいので、朝陽さんのものなのだろう。自分が来ていた服を探すが、どこにも見当たらないのでこれを着ろという事なのかもしれない。 けれど恋人でもない自分が彼の服を着る事に抵抗を感じて、シーツを体に巻き付け自分の部屋に戻り着替える事にした。 洗濯機を回している間に軽い朝食でも作ろうかとキッチンに向かう途中、リビングのテーブルに置いてある小さなメモに気が付いて。 手に取ってみると、そこには朝陽さんからのメッセージ。『今日は家で大人しく休んでいろ』 それだけの内容だったのだけど、朝陽さんがこんな事をするなんて意外だったので何とも言えない気分になる。昨夜だって、いつもとは違う彼の一面に散々翻弄されたというのに。「……モールに行くって、昨日話したじゃない」
last update최신 업데이트 : 2025-09-10
더 보기

予期しない遭遇に 2

「良かったぁ、これなら予定より早く帰れそう」 今日が平日だということもあり、モール内はそこまで混雑してはいなかった。 目的の買い物はあらかた済ませてしまったが、もう一つだけ行きたいお店があって。こんなことを考えているなんて朝陽《あさひ》さんが知ったら、鼻で笑うかもしれないけれど……彼の隣に立っても恥ずかしくない自分になろうって。それが、今だけの仮の婚約者だったとしても。 これまでだって、身だしなみにはそれなりに気を遣ってはいたつもりだったけど。昨晩に彼が何度も可愛いと褒めてくれたからか、もう少し頑張ってみたくなったのかもしれない。「なんでかなあ……?」 元彼の流《ながれ》を見返すために、良い女になってやる! みたいな黒い感情よりも、素直に自分をもっと好きになりたいからだと思える。もちろん流や鵜野宮さんに対する憎しみや悔しさが、全て消えてなくなった訳じゃないけれど。 こんな風に思えるのも、やっぱり昨日の朝陽さんのおかげなのかな……? だからと言って彼にお礼の気持ちを伝えても、きっと呆れられてしまうんでしょうね。 目的のショップの前、普段あまり入る機会のなかった高級ブランド店。やっぱりこういうお店には、朝陽さんと一緒の時にくれば良かったかな? なんておかしなことを考えながら、店内に入ると……「まあまあ! そちらも凄くお似合いですわ」「……そう? じゃあ、コレもお願いしようかしら」  店の奥にある個室のような場所から、女性たちの話し声が聞こえてくて。スタッフさんの対応から、そこにいるのがこの店のお得意様であることが想像出来た。 とはいえ、それも平凡なOLの私には関係ないことで。女性たちの話の内容は聞かない様にして、店内に飾られたアクセサリーを見ていたのだけれど……「いつもありがとうございます、鵜野宮《うのみや》様」 鵜野宮……さん? いいえ、まさかね。珍しい苗字とはいえ、こんなところであの女性と会うなんてことはないでしょうし。 そう自分に言い聞かせてはみるが、心臓は緊張でバクバクと音を立てている。もしかしたら話していないだけで流もそこにいるかもしれない、そんな状況に嫌な汗が背中を伝う。「ふふ、次の新作が出る時にはまたお願いするわ。今日オーダーした物の仕上がりも楽しみにして待ってますね」「はい、もちろんでございます」 この優雅な話し方、そ
last update최신 업데이트 : 2025-09-11
더 보기

予期しない遭遇に 3

 私のすぐ横を通り過ぎていく美しい女性は、やはり鵜野宮《うのみや》さんで間違いなかった。彼女はその場にいた私の存在など全く気に留めることもなく、お供らしき男性を連れて歩いていくだけで。 ……同じ場所にいるはずなのに、私と鵜野宮さんは違う世界にいるみたいに感じてしまう。大輪の薔薇のような彼女と、今の自分を比べても仕方ないとわかっているのに。 昨夜、あれだけ朝陽《あさひ》さんに褒めらた喜びも一気に萎んでしまっていく。やっぱり、あの時の言葉は彼の本心じゃ無いかもしれないって。「それじゃあ、また」「鵜野宮様、またのご来店をお待ちしております」 彼女はその優雅な仕草で商品の袋を受け取ると、それを付き添いの男性に手渡して店を出て行った。やはり社長令嬢ということもあるのか、鵜野宮さんは自分とはまとうオーラが違う気がして。それだけで、なんとも言えない気持ちにさせられた。 ……あのあと、私はどうやってショップを出て家に帰ってきたのかもよく覚えてはいない。 朝陽さんは私に、誰もが羨むような愛され花嫁になれと言ったけれど。あの鵜野宮さんに負けないほどの、特別な女性であるフリが私に出来るのだろうか?「私が鵜野宮さんも羨むような、幸せそうな花嫁に……?」 朝陽さんはどうしてこの役に私を選んだろう? 確かに自分が面倒事を起こしたタイミングも、今の状況の彼にとっては好都合だったのだろうけれど。それでも……やっぱり私には荷が重いんじゃないかって。 元彼のことだけなら、どうにか頑張れたかもしれないのに。今の自分ではどんな部分でも、完璧な女性である鵜野宮さんに勝てる気がしないから。 そうやって、らしくなくグジグジと悩んでいるとガチャリと玄関の扉が開く音がした。「……え、朝陽さんがもう帰ってきたの?」 予想より早い帰宅に少し驚いたが、慌てて玄関に向かう。仮とはいえ婚約者になったからには、そういうのもしっかりやりたい性分だったので。まあ、ちょっと新婚っぽい雰囲気を味わってみたいという本音もあったけれど。「おかえりなさい、随分早かったですね」「……今日は大人しく休んでろ、って
last update최신 업데이트 : 2025-09-11
더 보기

予期しない遭遇に 4

「……は、い?」 いやいやいや、確かに以前そんな事も話しましたけどね? 朝陽《あさひ》さんは私がそう言ったからと、素直にそれを実行しちゃうようなタイプじゃないですよね? むしろ「俺がそうしたくなるように、お前が頑張れば?」くらいは良いそうなのだけど。 まさかの朝陽さんの発言で、私の頭がパニック状態になる。一旦落ち着いて考えてみなくては、どうしてこんな話になったのだろうと。「そもそも朝陽さんは、どうして私がモールに行ったって分かったんです?」「玄関のロックが外れたと、俺のスマホに通知が来ていたからな。それに……」 なるほど、朝陽さんの立場を忘れてしまいがちだけど。御曹司である彼が住む部屋は、セキュリティーの関係上そういうことまで通知がいくようにしているってことなのでしょうね。 住む世界が違うことに納得しながらウンウンと頷いていると、なぜか彼の手が伸びてきて首筋に触れた。「あの、なんでしょうか?」「……この香りは、鈴凪《すずな》には似合わない。俺が今度、お前に合う商品を扱っているショップに連れていくから」 朝陽さんの表情が曇った理由に気付いて、なんとも言えない気持ちになる。今の私が纏っているであろう香りは、先ほど寄ったショップの商品の一つで。スタッフの方がすすめてくれたので、少しだけ試させてもらった物だったから。 ……もしかしたら、過去にあの人も使っていたことがあったのかもしれない。彼女を思い出させる香りを、朝陽さんは私に使って欲しくないのだろう。 それに気付いたからといって、私があからさまに落ち込んだ姿など見せるわけにはいかない。あくまで私と朝陽さんは、契約上にある仮の婚約者でしかないのだから。「あー、やっぱりそうですよね。私にはちょっと上品過ぎるっていうか……すみません、先にお風呂に入って落としてきちゃいますね!」  これ以上何かを言われる前に、その場に朝陽さんを残してさっさと部屋へと戻る。正直、あのままでは上手く笑顔を作れる自信がなかったの。 だから……玄関に残された朝陽さんがどんな表情をしていたのかなんて、この時の私は想像することも出来なかった。昼間のモールでの事もあり、かなり自分のことでいっぱいいっぱいになっていたのもあったので。「さっきのはやっぱり不自然だったよねぇ……」 湯船に浸かりながらの一人反省会。綺麗に身
last update최신 업데이트 : 2025-09-12
더 보기

予期しない遭遇に 5

「……あれ? 今日ってもしかして、朝陽《あさひ》さんにとって何かの記念日だったりします?」 食事用のテーブルの真ん中に【ドン!】という感じで置かれている箱の中身は、ケーキかなにかなのだろうと思う。それも、ホールの。 昨日は特に何も聞いていなかったが、そもそもそんな余裕は朝陽さんにもなさそうだったし。もしかして誕生日とかだったりしたらどうしよう、プレゼントも何も用意してないのに。 そんなことを頭の中で考えていると……「昼間、濃野《のの》に買いに行かせた。人気のパティシエが新しくオープンしたケーキショップらしい」「はあ……そうなんですか」 ということは、朝陽さんが自分用に用意させたということだろうか? まあ、何かの記念日とかでなければそれはそれで全然構わないのだけど。 それにしても……「朝陽さんって、甘いものが好きだったんですか?」「…………へぇ。お前には、俺がそう見えているのか?」「いいえ、全く。これっぽっちも」 分かりません〜とか、ちょっと意外ですね〜なんて誤魔化せばいいのに。考えるよりに先に口が動いて、ペラペラと本音を喋ってしまう自分が憎い。 案の定、朝陽さんは不機嫌そうなオーラを醸し出していて。「それが悪いなんて言ってないじゃゃないですか、ただそう見えないってだけで。だから、そんな睨まないでもらえません?」「……睨んでいるつもりはない、ただ物凄く呆れているだけだ」「はあ、それは大変ですね」 本当に、意味がわかんないんですけど? 私には朝陽さんが何を言いたいのか分からなくて、これで会話を終わらせて部屋に戻ろうとしたのだが。「……鈴凪《すずな》は、何も変わったりはしないんだな」「え? 今、何か言いました?」 朝陽さんにしては珍しく小声だったので、何を言ったのか聞き取れなかった。立ち止まって彼の返事を待ったが、それっきり何も話そうとはしなくて。どうしようかと迷っていると……「それは鈴凪が食べていい。俺は少し出かけるから、お前は鍵をかけて先に休んでいろ」「え? ちょっと
last update최신 업데이트 : 2025-09-12
더 보기

予期しない遭遇に 6

 あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか? ケーキの箱を前にした状態で、私は何も出来ないままボーッと座っていた。朝陽《あさひ》さんのいうとおりにコレを食べていればよかったのかもしれないが、どうみても箱の中身は二人分あるように思えて。 もし彼が一緒に食べようと用意してくれたのに、私がそれに気付けなかったのだとしたら……そう思うと手をつけられなくて。 壁の時計を見てみれば、もう零時はとっくに過ぎてしまった。私も明日から仕事なのだから、もうベッドに入るべきだと思うのだけど。 ……結局は後十分、後五分とこの場所に留まってしまっている。 今夜はもう帰らないつもりなのかもしれない、それでも朝陽さんが言った『遅くなる』という言葉を信じたくて。どうしてこんなことを思ってしまうのか分からない、それでも自分がそうしたいからもう少しだけ待ってようって思ってしまう。 少しだけ睡魔に負けそうになって、うとうとしていると玄関の扉が開く音がした気がして……慌てて立ち上がりそこに向かおうとして、ふらつき倒れかける。 そんな私の身体を抱き止めたのは、やっぱり朝陽さんで。「ーーあっぶねえな、怪我でもしたらどうするんだよ!」「あの、ごめんなさい。その急いでて、朝陽さんに倒れ込むつもりじゃなかったんですけど」 確かに、また彼に怪我でもさせてしまったら申し訳なさすぎる。帰ってきてくれたことを確認したくて焦って、それで迷惑をかけてしまうなんてどうしようもないじゃない。 急いで謝り朝陽さんはから離れようとするが、彼は私の背に回した腕をどかそうとしない。「何でそうなるんだ? 俺は、鈴凪《すずな》が怪我をしてないかを心配してるっていうのに」「……なぜ、私?」 朝陽さんの言っている意味がよく分からない。彼が怪我した場合は大事になりかねないが、私がそうなったところで特に困りはしないはずなのに。そりゃあ、もちろん私だって痛いのは嫌だけれど。 だけれど、どうしたって朝陽さんの方が色んな人に必要とされている存在だということには違いないのだから。「……俺がお前の心配をしたら迷惑なのか? それに、遅くなるから先に休んでるように言ったはずだろ」「それはそうなんですけど。その……ケーキを食べるのなら朝陽さんと一緒がいいなって、思って」「…………」 結構勇気を出して自分の気持ちを伝えたつも
last update최신 업데이트 : 2025-09-13
더 보기

予期しない遭遇に 7

「……あの、嫌ならいいんです。私の我儘なので、朝陽《あさひ》さんがそれに無理して合わせる必要はありませんし」 無言になってしまった朝陽さんと向き合っているのが気まずくて、さっきの発言は気にしないでほしいと伝える。 私のこういうところが『面倒なんだ』って、流《ながれ》にも言われたことがあったのに。 また以前と同じ失敗をしてしまったと、一人で反省していると……「誰も無理なんて言ってないだろ? すぐに皿を用意するから、鈴凪《すずな》はそこで座って待ってろ」「え、あの朝陽さん?」 それだけ言ってスタスタとキッチンに入っていく朝陽さんの後ろ姿を、ただじっと見ているしかなくて。無理ではない、ということは彼は一体何に対してあんな不機嫌そうな顔をしてたの? ハッキリとモノを言うから分かりやすい性格なのかと思えば、考えてることが全く読めなかったり。朝陽さんって本当によく分からない人なんだなって、ぼんやりしたまま考えていた。「朝陽さんはどのケーキがいいですか? 甘い物があまり得意でなければ、こっちのフルーツが多いタルトとなんかはどうでしょう?」「……俺のはどれでもいいから、先に鈴凪が食べたいものを好きなだけ選べ」 ケーキにはあまり興味がないのか、朝陽さんはどうでも良さげにそう言う。さっきみたいな不機嫌そうな感じはしないのだけど、何だか目を逸らされてる気がするのは私の考えすぎなのかな? なんだかんだでこの人は誰かを放っておけない性格なので、仕方なく私の相手をしてるんじゃなかって。 けれどそんなウジウジした自分を知られたくなくて、いつも通りに振る舞うのだけど。 「じゃあ、チョコとモンブラン……それにミルフィーユもいいですか? でも、こんな時間に三つも食べたらヤバイかも」「何がヤバイだ、お前は痩せ過ぎなくらいだろうが。もっとしっかり食って、肉をつけろ」 朝陽さんにそう言われて、一瞬で顔が熱くなる。 この人には自分の全てを見られてしまってるんだって、その言葉で思い出してしまったから。 ……そりゃあ、確かにちょっとボリューム不足な部分もありますけどね?
last update최신 업데이트 : 2025-09-13
더 보기

予期しない遭遇に 8

「うわあ、美味し〜い!! なんなんです、これ!?」 朝陽《あさひ》さんが用意してくれたケーキの一つを口にして、驚いて深夜だというのも忘れて大きな声を出してしまう。それくらい今まで食べてきたケーキとは違っていて、口の中が蕩けそうでホワホワしてしまう。 なのに朝陽さんは、そんな感動している私を呆れたような顔で見ながら素っ気ない返事をしてくる。「夜中にうるせえな。何ってどう見てもケーキだろうが、お前の目にはコレがいったい何に写ってるんだよ?」「ああ、もう! 私が言いたいのは、そういう事じゃなくてですね……」 彼はこういった高級なデザートも食べ慣れているかもしれないが、私はそうではないのだし少しくらい今の喜びを分かってほしいのだけど。 ……でも、それも仕方がないのかもしれない。朝陽さんや鵜野宮《うのみや》さんにとっての普通は、私のソレとは全く違うのだから。生まれ育った環境の違い、そんなのはいまさらどうしようもなくて。 不釣り合い、何度も頭の中で浮かんだ言葉がなぜかチクチクと胸に刺さる。どうしてなんだろう?「本当に美味しい、やっぱり全部食べちゃうのは勿体なく思えちゃいますね」「……いいから、さっさと食べてしまえよ。別に鈴凪《すずな》が食べたいって言えば、すぐに用意してやれるんだから」「もしかして朝陽さんは、私を餌付けしてるんですか?」 もちろん彼がそんな事をする必要なんてないことはわかってる。でもそう話してくれた朝陽さんの言葉だけですごく嬉しくて、顔がニヤけてしまいそうだったから。そうやって誤魔化すので必死だったの。 この人とは契約という関係しかないはずなのに、二人でいると不思議と居心地が良くて。「そうかもな、鈴凪に効果的そうなのがコレくらいしか思いつかなかったし?」「ええ? そんな嘘をついたりもするんですね……でも、嬉しいです。ありがとうございます、朝陽さん」 嬉しかったのは本音だし、朝陽さんが本気でそんな事を思ってないことも理解してる。それでもお礼はちゃんと言っておきたかったの、いつかこの関係に終わりが来た時に後悔しなくていいように。 朝陽さんはまだ何か納得いかなそうな表情をしていたが、少しだけ私から目を逸らして話し始める。「……その、今朝は悪かったな。立場上、どうしても出席しなきゃならない会議があって」「ああ、気にしてないので大丈夫
last update최신 업데이트 : 2025-09-14
더 보기

予期しない遭遇に 9

「鈴凪《すずな》は、いや……おまえ、今日なにかあったのか?」 朝陽《あさひ》さんは何かを言いかけて、少し考えたそぶりをした後に話の内容を変えてしまったようで。それも気にはなったが、何となく今日あった事を彼に見抜かれてるような気がした。 もしも今日、私が鵜野宮《うのみや》さんを見かけたことを話したらこの人は何を思うのだろう? 自分も彼女に会いたいと考えるのか、それとも……いいえ、そこは私が干渉していい部分じゃない。己の中の余計な考えを振り払って、いつも通りの鈴凪《わたし》でいなければ。 「いいえ、モールは思ったより人も少なくてのんびり買い物が出来ましたし。こうして美味しいデザートも食べれて、結構良い事ばかりかもしれませんね」「……」 朝陽さんは以前に私の『演技力に期待してる』と言っていたから、それ応えるつもりで今から演じていればいい。 そう、これは……嘘じゃなくて、その時のための演技なんだって。 彼は少しの間じっと私を見つめていたが、やがて食べ終わったケーキの皿を手に取って立ち上がった。「あ、それくらいは私が……」「いい、鈴凪はもう部屋に戻って休んどけ。それと明日からお前には護衛をつける、念の為にな」 念の為、って本当だろうか? もしかして私が朝陽さんに信用されてないだけなんじゃないかと不安になるが、文句を言える立場でもなく黙って頷くしかない。勤務先が違うこともあり、監視が必要だと思われてたりするのかもしれないけど。 普段通りように見えて何となくいつもと違う感じのする朝陽さんの言動に戸惑いながら、それでも余計な詮索をする勇気はなくてそのまま自室へと戻る。「昨夜は凄く近くに思えたのに、どうしてだろ……?」 別にあの時のように扱ってほしいとかではないけれど、最初より距離を感じることが不思議に思えて。 ふかふかのベッドに横になっても、胸がざわざわして何だか落ち着かない。温かいミルクでも用意しようかと思ったが、いまさらリビングにも戻りづらくてとりあえず瞼を閉じてみた。「……ああ、そうだ。急で悪いんだが頼んでもいいか? お前くらい信用できる相手じゃないと、流石にちょっとな」 ……誰かと電話してるのだろうか? 微かに朝陽さんの話し声が聞こえてきて。 あの人の方がちゃんと休んだ方がいいんじゃないかな、なんて思いながらゆっくりと夢の中へと落ちて
last update최신 업데이트 : 2025-09-14
더 보기
이전
1234567
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status