「……ええと、もう一回だけ言ってもらえませんか? もしかしたら、私の聞き間違いかもしれないので」 翌朝になっていきなり朝陽《あさひ》さんに告げられた今後の予定に、私はそれが冗談かと思ってつい聞き返してしまった。朝陽さんの隣に立っている初対面の男性は、そんな私の言葉も無表情のまま聞いているのだけど。 そもそも同じことを何度も言わされるのを嫌う朝陽さんが、これで不機嫌になるのは経験上分かっているのに。「ほぉ? それは俺の言葉が聞き辛かったのか、それとも聞かなかったことにしたいのか……どちらなのかが、気になるところだな」「すみません、ちゃんと聞こえてました。なので、眼鏡を外そうとする手を止めてもらえるとありがたいです」 こんな朝一からドS御曹司バージョンの朝陽さんは、正直ちょっとしんどいので。私は彼が眼鏡を元の位置に戻したのを確認して、さっきの続きを話し始める。「……でも、わざわざ婚約式をするなんて。そんな大事にしてしまうと、本当は『結婚しません』とか言えなくなりません?」「俺たちは結婚式までするんだ、婚約式くらいしたところで大差ないだろう。メインの招待客以外は、エキストラを雇って誤魔化すつもりだしな」 朝陽さんがいうには、本来取材などで来るはずの記者の役等をエキストラに頼むらしい。それでも呼ばれた人達によって、ある程度の噂が広まるのはどうしようもないらしいけど。 しかも、一番問題なのがその婚約式まで二週間もないということで。 本当にそんなんで出来るんですか? くらいは言わせてもらいたくなる。「鈴凪《すずな》は今日の仕事終わりに、ドレスショップに行ってその時のための衣装を数点選んでおけ。店にはこの白澤《しらさわ》に案内するよう言ってある」「……分かりました。白澤さん、よろしくおねがいします」 朝陽さんの隣に立っている男性は、白澤 美杜《みもり》さんという名前だそうで。今日から私の護衛をしてくれるらしいのだけど、もともと無口な人なのかあまり話そうとはしない。 男の人にしては線が細く綺麗な顔をしたこの人に、私が守ってもらって本当にいいのかという気持ちになるのだけど。「鈴凪さんの業務時間は近くで待機してます。終業後は私が迎えに行くまで社内で待っていてください」「はい。色々、ありがとうございます」 凄く丁寧な感じの方だけれど、朝陽さんとはどう
최신 업데이트 : 2025-09-15 더 보기