……微かな水音を微睡《まどろみ》の中で拾って、私はまだ夢現のまま身体をベッドから起こした。 普段だったら気にしない程度の事だったのに、今夜に限ってそうしなかったのは……それが私にとって避けることが出来ない、一つの『運命』のようなものだったからなのだろう。 音を立てないように部屋の扉を開けて、静かに明かりの漏れるリビングへと向かう。そこにいるのは間違いなく彼なのだろうけれど、こんな時間に何故?「……眠れないんですか、朝陽《あさひ》さん」「そういう鈴凪《すずな》は、まだ半分夢の中みたいだな。瞼が閉じかけてる、どうして起きてきたんだ?」 朝陽さんは一番寛げそうなソファーに身体を預けて、片手にウイスキーの入ったグラスを持っている。はじめは寝酒だろうかと思ったが、彼の表情を見てそうではないことに気付いた。 ……いつもの意地悪そうな笑顔じゃない、どこか切なくて苦しさが混じったような。それをいつもの皮肉で隠そうとしてるのだろうが、全くと言っていい程に誤魔化せていない。「何か、あったんですか……?」 私がそう訊ねたところで、朝陽さんが素直に答えてくれるなんて思ってはいない。だけど、そのまま知らん顔していられないお節介な性格なのはどうしようもなくて。 それなりの嫌味が返ってくることも覚悟して、ゆっくり彼に近寄ったのだけれど……「……寝ぼけてる鈴凪にまでそう見えるのなら、割と重症なんだろうな。この程度のことで落ち込むなんて、本当に俺らしくない」「その程度……じゃないから、そんな辛そうな顔してるんじゃないんですか? 理由は分かんないですけど、今の朝陽さんがらしくないとは私は思いませんよ」 まだ頭がぼんやりとしている所為もあって、ちゃんと言葉に出来ているかは自信が無いけど。『重症』だと言いながら、それを『この程度』と話す彼に何となく矛盾を感じてしまう。 ……それが何なのかはっきりしないのに、どうして私はこの時に朝陽さんとの距離を縮めてしまったのだろう?「意外だな、鈴凪ならもっとこう……そんなのらしくないから、もっと前向きに頑張ってくださいよ! とか、前向きな事を言ってくるのかと思ってたのに」 グラスを片手に持ったままそう話す朝陽さんは笑ってるが、瞳にはやはり陰りが見える。完璧主義の彼がこんな風になる訳は私には想像も出来なくて。 そ
최신 업데이트 : 2025-09-03 더 보기