(仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~의 모든 챕터: 챕터 31 - 챕터 40

66 챕터

重ね見た切なさに 5

 ……微かな水音を微睡《まどろみ》の中で拾って、私はまだ夢現のまま身体をベッドから起こした。 普段だったら気にしない程度の事だったのに、今夜に限ってそうしなかったのは……それが私にとって避けることが出来ない、一つの『運命』のようなものだったからなのだろう。 音を立てないように部屋の扉を開けて、静かに明かりの漏れるリビングへと向かう。そこにいるのは間違いなく彼なのだろうけれど、こんな時間に何故?「……眠れないんですか、朝陽《あさひ》さん」「そういう鈴凪《すずな》は、まだ半分夢の中みたいだな。瞼が閉じかけてる、どうして起きてきたんだ?」 朝陽さんは一番寛げそうなソファーに身体を預けて、片手にウイスキーの入ったグラスを持っている。はじめは寝酒だろうかと思ったが、彼の表情を見てそうではないことに気付いた。 ……いつもの意地悪そうな笑顔じゃない、どこか切なくて苦しさが混じったような。それをいつもの皮肉で隠そうとしてるのだろうが、全くと言っていい程に誤魔化せていない。「何か、あったんですか……?」 私がそう訊ねたところで、朝陽さんが素直に答えてくれるなんて思ってはいない。だけど、そのまま知らん顔していられないお節介な性格なのはどうしようもなくて。 それなりの嫌味が返ってくることも覚悟して、ゆっくり彼に近寄ったのだけれど……「……寝ぼけてる鈴凪にまでそう見えるのなら、割と重症なんだろうな。この程度のことで落ち込むなんて、本当に俺らしくない」「その程度……じゃないから、そんな辛そうな顔してるんじゃないんですか? 理由は分かんないですけど、今の朝陽さんがらしくないとは私は思いませんよ」 まだ頭がぼんやりとしている所為もあって、ちゃんと言葉に出来ているかは自信が無いけど。『重症』だと言いながら、それを『この程度』と話す彼に何となく矛盾を感じてしまう。 ……それが何なのかはっきりしないのに、どうして私はこの時に朝陽さんとの距離を縮めてしまったのだろう?「意外だな、鈴凪ならもっとこう……そんなのらしくないから、もっと前向きに頑張ってくださいよ! とか、前向きな事を言ってくるのかと思ってたのに」 グラスを片手に持ったままそう話す朝陽さんは笑ってるが、瞳にはやはり陰りが見える。完璧主義の彼がこんな風になる訳は私には想像も出来なくて。 そ
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重ね見た切なさに 6

 それにしても、ここまで朝陽《あさひ》さんが落ち込んでいるのは何故なのだろう? 荷造りをするために一緒にいた時は、いつもと変わらない俺様だった。 じゃあ、仕事で何かあったとか? けれど帰宅してからの彼はこんな様子ではなかったし、私を心配してくれる余裕もあったように見えた。 それなのに……「……あれ? その新聞、朝陽さんが持って帰って来たんですか?」 小さなサイドテーブルに置いてある夕刊を見つけて、不思議に思って訊ねてみる。片付けをした時にはなかったから、朝陽さんが持ってきたには違いないのだろうけれど。「ああ、秘書に買って来させたがもう必要ない。悪いが処分してくれ」「え? はい、分りました」 もう見たくもないというようにそれを投げるように渡され、ゴミ箱に持って行こうとチラリと夕刊の見出しを見ると……そこには、今日テレビで見たのと同じ内容の記事。 鵜野宮《うのみや》さんとトップリーガーの熱愛って、どうしてこれを朝陽さんが? こういった内容のゴシップに彼が興味があるとは思えなかったのだけれど。 だけどもし、この記事を見て朝陽さんが落ち込んでるのだとしたら……?「一つだけ聞いてもいいですか、朝陽さん。もしかして朝陽さんって……?」「……なんだよ。もし俺がそうなんだとしたら、何かおかしいのか?」 ハッキリとした聞き方が出来ずにいた私に、彼はさも面倒だというように答える。出てきた言葉は否定ではない。 という事は、つまり……?「おかしくはないです、ちょっとだけ驚きはしましたけど。でもそれなら先に教えて欲しかったですよ、昼間は無駄に緊張しちゃったじゃないですか」「……やっぱり驚くか。俺らしくないんだろうな、こういうのは」 本音を言えばかなり驚きはしたのだけど、朝陽さんの今の姿を見てると責める気にもなれなくて。きっとこの人は私が経験したことのない悩みや苦しみを抱えてるんだろうから。 そう思って、静かに一人で頷いて……「何となく理解出来ました。朝陽さんは本当に好きな相手と結婚することが難しいから、私を一時的な代役に選んだって事なんですね……」「そういうとこは勘が鋭いんだな、でも結局こんな形で裏切られるんだから笑える」 裏切り……? つまりこの人は、朝陽さんと付き合っていたのに別の相手と婚約発表をしたというのだろうか。世間体のために結婚す
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重ね見た切なさに 7

「その、すまない。今まで気づかなかった俺も悪いんだが、俺達は話が少し噛み合って無くないか?」「……え?」 うそでしょう、朝陽《あさひ》さんが謝った? あの、朝陽さんが!? 自分勝手で性格悪くて眼鏡を外すとドSに豹変する、まるで暴君のような朝陽さんが!?「おい、何だその顔は。もの凄ーく、何かを言いたそうに見えるんだが?」 驚きが表情に出ていたのか、そんな私を見てあからさまに機嫌を悪くし始める朝陽さん。いやいや、だってそう思われても仕方なくないですか? ……朝陽さんが謝るなんて、明日の天気がすっごく不安。「あーあ。明日は新しく出来たモールに行く予定だったのに、これで雨だったらどうしよう」「はあ? モールって、いったい誰とだ?」 ますます機嫌が悪くなるの、何でですか? 別に朝陽さんとは契約の婚約者なんだし、そこまで気にしなくてもいいのに。 ――って。今、気にするべきところはそこじゃなくて!「いや、それはどうでもいいので。さっき言っていた話が噛み合ってないことについて教えてくださいよ」「いや、それはどうでも良く無いだろ!?」「いいえ! ものすごーく、どうでもいいです!」 まるでコントみたいだ。どうして私と朝陽さんて、こんなに相性が悪いんだろう? そう思って、ぶつくさ文句言っていると……「鈴凪《すずな》は他の男が関わってきた時に、その感情がそのまま顔に出るんだ。契約が有効な間は俺だけに集中してろよ、失敗されて迷惑するのはこっちなんだからな」「……はあ、分りました。それでさっきの噛み合ってないっていうのは?」 別に一人でモールに行くので、そんなの関係ありませんけどね? と心の中では思うが、面倒なのでこれ以上余計な事は言わないでおこう。 それに、早くさっきの話の続きも聞きたいし。「じゃあ聞くが、鈴凪の言う爽やかなイメージって誰の事を指してるんだ? 少なくとも俺には、アイツが爽やかそうな人物には全く見えないんだが」「……え? だって朝陽さんの秘密のお相手って、このトップリーガーの男性ですよね?」 そう答えた瞬間、朝陽さんがあからさまに頭を抱えてしまって。もしかして自分の予想は、少し外れていたかもしれないと気づく。 「今までの会話をどう考えたら、そういう発想に行きつくんだよ……」 もしかしなくても私は、大きな勘違いをしていたよ
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重ね見た切なさに 8

 どうしてこんな言い方をしてしまったのだろう? 朝陽《あさひ》さんとはただの契約上の関係で、彼が誰を好きだって構わない筈なのに。その相手が鵜野宮《うのみや》さんだという事に、凄くショックを受けてしまった気がする。 元婚約者である流《ながれ》にも、鵜野宮さんにアピールするためにあっさりと婚約破棄されて。あの時に助けてくれた朝陽さんも、本当はあの人を想ってる。 今の自分の中にある感情は悔しさなのか、それとも惨めさ? はたまた、悲しさなのかもよく分からない。「……凄く綺麗ですもんね、鵜野宮さん。華やかで女性らしさもあって、私なんかとは大違い」 「まあ、そうだな。女狐みたいに狡賢くて、その時々の立ち回りも上手かった。何より、自分自身を魅力的に見せることに長けていたから」 褒めているのかよく分からない言い方だけど、朝陽さんが本当に彼女を愛していたのは伝わってくる。あんな風に落ち込んでいたのも、これなら納得出来た。 朝陽さんは鵜野宮さんという女性を、よく理解したうえで想ってるのだろう。それがあの時に元カレが見せたような軽々しい感情とは、全く違うものなんだって私にも分かるから。 ……だからなのかもしれない。こんな状態の朝陽さんを見るのがちょっと辛く感じるのは。 この人からこんなにも想われている、そんな鵜野宮さんが羨ましいのもあるけど。同じように流を想ってたはずなのに裏切られた苦しみ、そんな自分と今の朝陽さんを重ねて見てしまって。 凄く切ない、どうしようもないくらい胸が痛くて。 このまま朝陽さんを放っておくなんて、私にはどうしても出来なかった。「ねえ、朝陽さん。あの日、私は婚約者に裏切られて、とても悲しかったの。だけど朝陽さんがあんな風に助けてくれて、凄く救われたんです」「……別に。俺はただ、鈴凪《すずな》を都合よく利用したかっただけだ」 ええ、もちろんそれもちゃんと分かってます。 でも仮の婚約者を演じるだけでいいのならきっと、朝陽さんには他の女性だって選べたはずで。都合が良かったのは事実だろうけれど、結果的に私はあの状況から救われたのだから。 朝陽さんがあの時連れ出してくれてなければ、私はきっともっと酷い状態であの場所を去らなければいけなかっただろうし。「だから今は私が朝陽さんの辛さを、少しでも紛らわせることが出来れば良いなって思ってます」「
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重ね見た切なさに 9

「はあ……そんなお人好しだから、守里《もりさと》 流《ながれ》みたいな男に散々良いように利用されるんだろうが」「なんでそこで朝陽《あさひ》さんが怒るんですか、意味がわかんないです」 自分だって同じように、私を利用しているんだと言ってたくせに。優しくしたいという私に、あからさまに不機嫌な表情を見せる朝陽さんって本当に謎だと思う。 確かにお人好しだとは言われるし、損をすることだって無いわけじゃない。それでも私がこういう自分でありたいという気持ちは、これからも変えられそうにないから。 だけど、ほんのちょっとだけ朝陽さんが私を頼ってくれるように……「そこまで言うのなら、いつか借りを返してくれればいいです。もしかしたらまた何かで、朝陽さんに助けて欲しい時が来るかもしれないし?」「……」 もちろん、出来ればそんな日は来ない方が良いけれど。一人で辛い時間を過ごさせるくらいなら、そっちの方がずっと良い。 朝陽さんにもう少し近寄り、彼が座っているソファーの前に正座してみせた。ずっと俯いているこの人と視線を合わせるため、それだけのつもりだったのに。 それまで深めに腰を下ろしていたはずの朝陽さんが、前のめりになり倒れこむように私に覆いかぶさってきて……「え? ちょっ……朝陽さん!?」「……俺は今、お前の事がもの凄く嫌いな気がしてる」 この状況で、よくそんなこと言えますねえ! 正座のままの私に力を抜いた状態の朝陽さんが抱き着いてきたせいで、そのまま二人してフローリングに倒れこむ形になってるのに。 でもこれはきっと、今のこの人にとっては精一杯の虚勢なのだろうから。少し我慢して文句言わないでおこうって思った。「そうですか。私は最初の頃、朝陽さんに感じていた苦手意識はだいぶなくなりましたけど。でも貴方が私を嫌いなのならば、それは仕方ないですしね」「嫌な言い方すんな、それが本音かどうかくらい分からないわけじゃないだろう?」 ……つまりさっきの言葉は本心ではなかった、と。この人は本当に、天邪鬼な性格をしていらっしゃるようで。 けれど、どうしてだろう? 今はそれが、少しだけ可愛いと感じてしまっている。この感情は結構というか、かなり厄介な気もするけれど。「素直になっちゃえば良いじゃないですか。ここには朝陽さんと私の二人しかいないんです、私なんて別に、いちいち気にす
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触れ合う優しさに 1

「いきなり何するんですか、朝陽《あさひ》さん」「それは俺の台詞だな、先に触れてきたのは鈴凪《すずな》の方だっただろう?」 初めて交わす口付けさえも、お互いに相手の所為にする。そういうところも、やっぱり私達らしいとも思うけれど。弱音を吐いて欲しいと言ってるのに、こんな時でもこの人は俺様でなきゃ気が済まないの? ただ優しくしたいだけなのだから、少しくらい可愛げのある所でも見せてくれれば……なんて考えていると。 ジッと見つめられている事に気付いて、何となくこっちの方が気まずくなる。確かに私からも朝陽さんに触れようと顔を寄せた、でもそれはお互い様なのに。 けれど彼から出た言葉は、私が予想していたものとはまるで違っていて。「嫌だったなら、避けるなり叩くなりすればよかっただろう? 俺だって鈴凪が拒否すれば、無理にキスするつもりはなかったんだ」「そうやって何でもかんでも、私の所為にしないでくださいよ? キスしたかったからしたんだ、って言われた方がずっと納得出来るのに」 そこに私に対する想いが無くても、それは仕方ないと思う。だって彼は今、私とは別の女性の事でこんなにも落ち込んでいるのだから。 一人で沈んでいる彼を癒したい、慰めたいと思ったのは自分自身でその気持ちに偽りはない。損をすると散々言われた性格だけど、私自身そう簡単に変われるわけもなくて。 そんな私の真意を探るように、朝陽さんは目を細めてこっちを見下ろしてくる。信用していいのか、敵の多そうな彼はまだ迷っているのかもしれない。 それならば、信じてもらえるように私から行動すればいい。「もし対価を求められないと安心出来ないっていうのなら、私はいくらでも要求してあげますよ? でも朝陽さんが欲しいのは、対価を払って得られるものではないですよね」「じゃあ、何なんだって言うんだ? 鈴凪が俺相手に、無償の愛情でもくれるっていうのか?」 朝陽さんが欲しいのは私からの愛情ではないでしょう? だけど今は誰かに傍にいて欲しい、傷ついた心に寄り添ってくれる人を求めてるはず。 そう感じてるならば、いま一番傍にいる私にしか出来ない事をさせて欲しい。「まさか、そんなわけないじゃないですか。私だって本当に好きな人には、同じだけの気持ちを求めますよ。ですから私が朝陽さんにあげられるものは、それ以外という事になりますね」
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触れ合う優しさに 2

「そうです、私だって相手を選ぶ権利はありますから。朝陽《あさひ》さんみたいなドS御曹司との恋愛なんて、絶対お断りですもん」 さっきのキスはただの気紛れだとでも言うように振舞えば、一瞬だけ朝陽さんの目付きが変わった気がして。でもその理由が分からないまま、彼を見つめているとハッキリとその口元が弧を描いたのだ。 ヤバい、と思った時にはもう遅くて。「……へえ? そこまで言うのなら、逆に鈴凪《すずな》に責任取ってもらうってのもいいかもな」「は? 何故私が……って! ちょっと、ちょっと朝陽さん!?」 いつの間にか顔を寄せてきた朝陽さんに耳元でそう囁かれて焦っていたら、今度は背中に回されていたはずの手が腰辺りに移動しててパニックに。 彼から触れられることを、全く考えてなかったわけではないけれど。頭のどこかで、この人は私を女と見てないと思い込んでいたから。朝陽さんの異性に触れるための手の動きに、正直ちょっとだけ驚いてしまった。 それは俺様でドSな普段の彼からは想像できない程に、物凄く優しいものだったけれど……「私は、そういう責任なんて取るつもりはないって……っつ!」「仮とはいえ鈴凪は俺の婚約者なんだぞ、なのにそういう相手にはなり得ないって。そこまで言われたら、なあ?」「え、何が……なあ、なんですか?」 いやいや。同意を求められても、全く意味が分かんないんですけれど!? けれど朝陽さんは、それを笑顔で押し切る気満々で。 私の身体のラインをなぞる手も、ゆっくりだがその動きを止めてはいない。 もしかしてさっきの私の言葉で、朝陽さんを怒らせてしまったのだろうか? 今謝ってしまえば責任とやらは回避出来るかもと思いついたが、朝陽さんの判断の方が早かったようで。「もう手遅れだからな、先に俺をその気にさせたのは鈴凪の方だ。いまさら待ったを聞いてやる気はない」「や、やけになるのは良くないと思いますよ?」 どう考えても今の朝陽さんの行動は、それなんじゃないかって思えて。もしもこの人が慰めを必要としていれば応えるつもりだったが、今の状況は予想していたのとかなり違っているから。 流石に私も、そんなやけくそな気持ちで一夜を共にして欲しくはない。朝陽さんがそういう人じゃないと思いたいけれど、そこまでこの人の事を分かっている訳でもなく。 腰に回された片腕をはがそうと試みるが
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触れ合う優しさに 3

「それなら、私が責任取る必要も無いって事なのでは……?」 私が朝陽《あさひ》さんの傍にいようと思ったのは、彼が傷付いているように見えたからで。本人が大したことないというのなら、わざわざ慰める必要もないはず。 だったら、私が余計なお節介をやいては迷惑ですよね? と、そろり朝陽さんの腕の中から逃げようとしていたのだが……「問題なら大有りだろう? 鈴凪《すずな》が婚約者であるはずの俺に、何の魅力も感じてない。そのうえ、俺には愛情以外のものしか渡せないって言ってるんだからな」「え……? いや(仮)ですよね、その婚約も。普通はそこに愛情なんていらないのでは?」 むしろこの人なら「恋愛感情なんて持たれたら迷惑だ」とか言いそうな気がするのだけど? この話を提案してきたのは朝陽さんだが、少なくとも契約時にそんな話はなかったはずなのに。このままでは余裕を取り戻したように見えるこの人に、上手く丸め込められてしまいそうな気がして。「ああ、確かにそうだな。それならば遠慮なく、鈴凪に愛情以外のものを差し出してもらうとしようか?」「え、狡くないですか? 私はただ朝陽さんの役に立ちたいって思っただけで……あ」 やってしまった、つい口に出してしまった本音を誤魔化す方法が思いつかない。 きっと朝陽さんは、こんな風に慰められるのを嫌うに違いない。 そう思っていたのに…… 背中と腰に回されていた腕の力が強くなって、ますます彼と身体が密着して戸惑う。この状態では朝陽さんの表情は見えないから、彼が何を考えているのかも分からなくて。「あの、朝陽さん……?」「自分でも屁理屈を言ってる自覚はあるんだ。でも、今だけは……こうさせてくれないか」 グッと胸に重くて鈍い痛みが走った。 誰かを真剣に愛したからこそ分かるその胸の痛みに、数日前の自分が重なってしまって。 そんなどうにも出来ない感情が、グルグルと私の中で渦巻いている。 これは愛情ではない、そう分っていても……もうこの人を放っておくことは出来なかった。 少しだけ身体をずらして腕を抜くと、朝陽さんの頬にそっと手を添えて。さっきまでの強気な発言に隠された、彼の切ない本音に応えるように目を閉じた。 ここに愛は無くてもいい、傷付いた同士の傷の舐め合いでも。今だけでも朝陽さんは私を必要としてくれているし、私もそれに応えてあげたいから。
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触れ合う優しさに 4

 深夜だったこともあり、朝陽《あさひ》さんの部屋の明かりは常夜灯だけだった。そのことに少しホッとしながら、ぼんやりと彼らしいシンプルな室内だと思っていたりして。 もちろん置かれたインテリアは一流のものだろうし、それなりに拘ってるのだろうけれど。それでも機能性を一番に考えていると、ぱっと見で分かるから。 ……そして朝陽さんの腕に抱かれたまま通り過ぎた棚の真ん中、倒された写真立てにはあえて気付かないフリをした。 一人で眠るには大きすぎるほどのベッドに降ろされ、体勢を整えようとしたがすぐに朝陽さんが覆いかぶさってきて。心の準備は出来ていたつもりだけど、一気に緊張感が襲ってくる。 癒してあげたい、なんて思ってはみたものの……自分がそれ程の経験や知識がない事を思い出してしまって。そんな私の焦りに気付いたのか、朝陽さんは動きを止めてジッとこちらを見てくる。「今なら、まだ止められるぞ……?」 今、一番辛いのは彼のはずなのに。それでも私を気遣ってくれる、それが嬉しくもあるけど胸が苦しくて。その場所から微動だにしない朝陽さんの首に腕を回して、そのまま強引にこちらへと引き寄せた。 たとえお互いに愛情が無くても、一時の慰めになるのなら。その胸の中の痛みを、一瞬でも忘れる事が出来るのならば。 だけど……「一つだけ約束してくれますか? 私を誰とも重ねて抱いたりしないって」 これだけは私のなかで譲れないもの。この行為が一時の慰め合いだったとしても、私は雨宮《あまみや》 鈴凪《すずな》としてこの人に触れて欲しいから。「……そんなの、当たり前だろ」「なら、構わないです。ああ、私にテクニックとか期待しないでくださいね?」「バカか。そんな余計な事はいちいち言わなくていいから、ほら……」 朝陽さんは何故か私の手を取って、手の甲に唇をあててみせる。まるで物語のお姫様に王子様がキスをするように。予想もしなかった行動に驚いている間もなく、彼の唇は甲だけでなく手のひらや手首へと優しく何度も触れて。「なに……してるんです? そんな事、私相手にしなくても」「自分に
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触れ合う優しさに 5

 朝陽《あさひ》さんはそんな私の行動を不思議に思ったのか、上半身を少し浮かせてこちらをじっと見つめてきた。その視線が思ってたよりもずっと真剣なものだったので、なおさら落ち着かなくなって。「……何をしてるんだ?」「その、変な声が出ちゃったので……ごめんなさい、次からは気をつけるので」 もしかして、さっきの声は聞かれていなかったのだろうか? それなら良かったと思いながらも、どうせ朝陽さんに下手な誤魔化しは通じないだろうからと素直に伝えた。 ただでさえ経験が少なく、こういう事が上手く出来るか分からないので。どう考えても朝陽さんはそっち方面では不自由してないだろうから、下手な見栄ははらない方が良いんじゃないかって。 けれど、彼の反応は想像とはちょっと違ってて……「はあ? 何でそうなるんだ、鈴凪《すずな》は俺に聞かれるのがそんな嫌なのか?」 朝陽さんが強調した【俺に】というのは、どういう意味があるのだろう? 正直なところ、自分はこんな声が出たのも初めてでどう答えるのが正解なのかもわからなくて。 それでも何故か不機嫌な表情をする彼に、きちんと説明しなくてはと思って必死だった。「……ええと、そうじゃなくて。こういうのって、朝陽さんの方が嫌じゃないかなって思ったので」 もちろんこれが彼に釣り合うような美しい女性の甘い声なら、きっと問題はないと思う。けれど私は契約で仮の花嫁を演じてるだけの、ごく普通のOLでしかないのだから。 そんな事をぐるぐると頭の中で考えてしまっていると、口に添えていた両手首を朝陽さんに掴まれて。「あのな、嫌なわけがないだろ? むしろ……想像よりずっと可愛かったから、もっと聞かせろよ」「――っつ!?」 予想もしなかった彼の言葉に、一気に心臓がバクバクと音をたて始める。今まで朝陽さんにそんな事を言われたことなどなかったし、これから先だって絶対にないと思ってた。 それが肌を重ねる相手へのリップサービスだとしても、朝陽さんがそういう事をする人だとは思えなかったし。 戸惑いから真っ赤になっているであろう顔面を隠そうにも、私の両手首はこの人にがっしりと掴まれていてどうにも出来そうにない。アワアワと焦っている私に構わず、朝陽さんが先程の続きをしようとするから……「ちょっ……待って、待ってよ朝陽さん! ん、んぅっ……!?」 また首筋
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