All Chapters of (仮)花嫁契約 ~元彼に復讐するはずが、ドS御曹司の愛され花嫁にされそうです⁉~: Chapter 61 - Chapter 70

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怒涛の婚約発表に 11

「え、朝陽《あさひ》ですか? 彼なら帰る前にホテルの支配人へ挨拶をしてくると、五分ほど前に部屋を出て行きましたよ」「ああ、そうなんですね。私が着替えを終わるのくらい、待っていてくれてもいいのに……」 短い期間でも結構無理を言って婚約式の準備をしてもらっていたから、私も今日のお礼くらい言いたかったのに。そうぶつくさ呟いているのが聞こえてしまったのか、白澤《しらさわ》さんがミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくれた。「朝陽は鈴凪《すずな》さんに、これ以上の無理をさせたくなかったのでしょう。まあ、それも素直に言葉には出来ないでいるようですけれど」「本当にそうなんでしょうか? 結局、私は彼の足を引っ張ってばかりで……呆れられたんじゃないかなって」 あれからしばらく一人で頭を冷やして、落ち着いてからフロアに戻りはしたけれど。自分で思っていたような演技が出来ず、かなり朝陽さんにフォローしてもらうことになって。 そのせいか少し自己嫌悪に陥っている部分もあり、いつものように前向きな自分になかなか戻れないでいる。「もしかしたらまだ話してるかもなので、私もちょっと見に行ってきます」「分かりました」 もし入れ違いになった時のため、白澤さんには部屋で待っててもらい急いで支配人室まで向かっていると……廊下の向こうから微かに耳に入ってきた、その聞き慣れた声。「どういうつもりだ? 俺の婚約者に近づく必要が、今のお前にあるとは思えないが」「あら? 私は元彼女として、鈴凪さんを応援しようと挨拶しただけにすぎないわ。どうせまた貴方のお父さんが邪魔をしてくるでしょうから、私の経験談を教えてあげようと思ってね」 廊下を曲がった向こうにいるのは、朝陽さんと鵜野宮《うのみや》さんで間違い無いだろう。会話の内容から朝陽さん達の過去はなんとなく想像つくけれど、今の二人の間には妙な緊張感があって。「だいたい私でもダメなのに、彼女にOKが出ると思ってるわけないわよね? それとも、いろいろな相手を試しているってとこなのかしら?」「……そんな風に、鈴凪の事を考えた事はない」 鵜野宮さんのクスクスという笑い声が、嫌な感じで耳に残る。どう考えても自分は見下されていると気付かされる、思っていたよりも彼女はずっと根性悪い女性だったようで。「ふふ、もう懐柔されちゃったのかしら? ま
last updateLast Updated : 2025-09-20
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夢見心地の誘惑で 1

 『ガチャン!』と、いつもより乱暴に玄関の扉が開閉された音がして。 ポヤポヤとした頭で、やっと朝陽《あさひ》さんが帰って来たのかな? なんて考えていると、彼はドスドスと音を立てて廊下をこちらに向かって歩いてきて。「おい、鈴凪《すずな》! お前、どうして一人で勝手に帰ったりした……は?」「ふふっ、ちょっと遅かったですねぇ。コレもう全部、飲んじゃいましたよぉ?」 私が手に持った瓶を、朝陽さんは唖然とした顔で見てる。もしかしたら、彼もこれを飲むのを楽しみにしていたのだろうか? でも、もう空っぽだからどうしようもないよね。 焦った様に近付いてきた朝陽さんに、手に持っていた酒瓶を奪い取られたがそれも何だか可笑しくて。「鈴凪、お前……コレ、全部一人で飲んだのか!?」「そうでーす。残念でしたね、早く帰ってこなかった朝陽さんが悪いんです~」 帰る前に「お祝いです」と白澤《しらさわ》さんから渡されたこのお酒、一杯だけのつもりでグラスに注いだら止まらなくなってしまって。 沈んだ気持ちのまま朝陽さんと顔を合わせにくくて、ちょっとだけ気晴らしになるかな? なんて軽い気持ちだったのだけど、今は凄くふわふわして楽しい。 ニコニコと笑う私に、朝陽さんは怒ることも出来ず頭を抱えてしまっているけれど。 ……ごめんなさい、朝陽さん。 今夜もしかしたら鵜野宮《うのみや》さんとヨリを戻すことになった、と言われるんじゃないかって怖かったんです。 仮でも、今日くらいは朝陽さんの愛され婚約者のままでいたかったから。「だからって、こんな度数の高い酒を……このバカ」 私から取り上げた酒瓶を確認しながら、まだブツブツ言ってる朝陽さん。そんな彼の袖を引っ張って、拗ねた子供のように我儘を言う。「ふふ、今夜くらいは優しくしてくれても良いじゃないですか? どうせ、もうお役御免になるんですし」「あ? お役御免って、いったい何を言って……」 彼は私が何も気付いていないと、そう思っているのだろうか? 朝陽さんが私の言葉より鵜野宮さんの事を信じていたり、隠れて彼女と会っていたことも全て分かっているのに。 それともこの人はまだ鵜野宮さんとの【駆け引き】を続けていて、私はそれに付き合わなければいけないの?「……だって、契約なんてもういらないでしょ? どうせ、もう答えなんて分かってるんですか
last updateLast Updated : 2025-09-21
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夢見心地の誘惑で 2

「ふふっ、朝陽《あさひ》さんの綺麗なお顔が台無しですね~!」「はぁ? お前なあ……」 もともと整いすぎてるくらいだから、むしろこうした方が愛嬌があっていいかもしれない。酔っぱらいの相手をするのが面倒なのか、朝陽さんはされるがままになっている。 でもそれじゃあ面白くないな、と思って。 つねるのを止め、両手で頬を挟んで頭ごと強引に引き寄せた。するとバランスを崩した朝陽さんが、ソファーに座っていた私に跨るような体勢になってしまって…… 思ったより近くに彼の顔があって、そのせいで私の心臓が大きく跳ねたような気がした。目を背けてるはずの自分の感情、でもこの胸の騒がしさはどうにも出来ない。 慌てて、朝陽さんから顔を背けると……「酔っぱらって、簡単にそんな表情を見せるな。馬鹿が」「……ええ〜?」 そんな表情とは? 自分が今どんな顔をしてるか分からず戸惑ったが、そもそもそんな事を言われなければいけない理由が分からず反抗的な態度をとってしまう。 酔いすぎたせいで、自分が彼に構ってもらいたくなってる自覚も無くて。「えー? じゃない、いま自分がどんな間抜け面してるか分かってないだろ」「……朝陽さんって、いつもそうですよね? 私にはそういう事ばっかり言ってくるし」 何だか心がピリピリしてる。こんな風に子供みたいに拗ねても、呆れられるに決まってるのに。でも一度口から出てしまった言葉は、全然止められなくて。「それに眼鏡を外すと、ドSだし凄く意地悪でヤなところばっかり。それなのに……」「……おい、鈴凪《すずな》?」 こんなことしたって、朝陽さんにダメージなんて与えられっこないのに。どうして私はこの人に、構ってほしくなっちゃうのだろう? 頬に添えていた手を移動させて、朝陽さんの眼鏡のテンプルに触れる。「この顔が好み、ってわけじゃないんだけどなぁ……」「俺に喧嘩を売ってるのか、お前は?」 そうじゃない。ただ無性に、眼鏡をかけてない朝陽さんの素顔が見たくなっただけ。眼鏡のレンズ越しではない貴方の瞳に、ちゃんと私を写してほしくて。 朝陽さんが抵抗しなかったので、私は彼から眼鏡を奪ってサイドテーブルに置く。この人の素顔を見るのは初めてなわけではないけれど、何だかいつもとは違う気がする。「……ちゃんと責任とれるんだろうな? 鈴凪が、自分でやったんだから」「ふ
last updateLast Updated : 2025-09-22
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夢見心地の誘惑で 3

「ええと……この状況は、何なんでしょうか?」 予想外のこの状態に、私は目を泳がせながら自分に覆いかぶさっている相手に問いかける。それがこの人を余計に喜ばせるだけだと、冷静に考えれば分かるはずだったのに。 残念な事に私の頭は、お酒に酔ってだいぶ思考力が低下していたようだ。 それをちゃんと理解してるはずなのに、朝陽《あさひ》さんは私に容赦してくれる気はないらしく……「何って、鈴凪《すずな》のご期待に応えてやろうかと。お前はずいぶんと、俺に対して不満があるようだし?」 そう言って妖しく微笑む朝陽さんが怖いと思うのに、抗えない程の魅力があって。 そもそも不満があるって言っても、それは普段の彼の私に対する態度であって……決してこういう意味ではない。 朝陽さんはその事に気付いている筈だ、なのにどうしてこんな事を? とにかくこの状況をどうにかしなきゃと、働かない頭で必死に考えるのだけど。「あの~、それとこれはちょっと違うっていうか。なので……」「ごめんなさい、は無しだからな? いまさら謝られても、止めてやる気は全くないから」 私に最後まで話させる気はないらしく、言葉を重ねて黙らさせられる。ハッキリと止めてやる気はない、なんて朝陽さんが言うとは思ってなかった。 しかも私が慌てだすと、彼は自身のネクタイを見せつけるかのようにシュッと外して。 まさか、とは思うけど……「朝陽さん、それ本気……なんですか?」 彼ならば、これも『悪戯だ』と言ってくれるんじゃないかって。そんな淡い期待を持ってた自分が、やっぱり甘かったようで。「ここまで煽ったのは、鈴凪の方だろ? 責任は取ってもらうって、俺はちゃんと言ったからな」「ーーえ? う、うそでしょっ!?」 片手で私の両手首を掴んだ朝陽さんに、ネクタイで両腕を縛られてしまうまでそう時間はかからなかった。 もしかして、かなり慣れてるんですか? ってくらいの手際の良さに、ただ驚きしかなくて。「どうして、こんなことを?」「……俺は出来る限り優しくしたつもりだった。お前を初めて抱いた、あの夜は」「――っ!?」 朝陽さんから唐突に言われて、あの一夜のことが瞬時に思い出され頭が沸騰するかと思った。 あれからお互い、一度だってその事に触れたりしなかったのに……今そんな事を話すなんて、あまりにも狡すぎる。 この人にどれだ
last updateLast Updated : 2025-09-22
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夢見心地の誘惑で 4

「チッ、これも自覚なしかよ。ああ、もう……」 少しイラついたような声で舌打ちをした後に、何故か溜め息をつく朝陽《あさひ》さん。虐められているのは私のはずなのに、どうしてそんな顔をするんです? 自分が酔っているせいで何かに気付かずにいるのかな、とも思うけれど。やっぱり朝陽さんが何を考えているのか、分からなくて。そんな私の頬に、そっと彼の指が触れて……優しく指の腹で撫でられて、なんだかゾクゾクとしてしまう。 この人は本当に私の官能を引き出すのが上手過ぎるんじゃないかって、悔しい気持ちもあるのだけれど。でもそっと撫でる朝陽さんの指が気持ち良く、つい自分から頬を擦り寄せてしまって。「……じゃあさ、あとどれだけ優しくすればお前は満たされるんだ?」「え? それってどういう……?」 問いかけられた言葉の意味がよく分からなくて、彼を見るといつもの意地悪な表情ではなく。朝陽さんはとても真剣な眼差しを、私に対して向けていた。 何か答えなければと考えている間に、朝陽さんの方が焦れたのか頬にあった手が耳たぶに移動していて……「や……やだ、擽ったいっ」「ああ……そういや鈴凪《すずな》は、耳が弱かったな?」 たった今思い出したように言ってるけれど、これは絶対わざとに決まってる。朝陽さんはそういう人の弱点は決して忘れたりはしないはずだから。 それでも必死で耐えていると、朝陽さんは次の手だというように耳元でこう囁いたのだ。「なあ、俺に優しくされるのと意地悪なの……どっちがいい? 今夜は特別に、鈴凪に選ばせてやる」 そんなの聞かなくたって分かるでしょう? やっぱり朝陽さんは間違いないドS御曹司なんだって、そう理解してるのに誘惑に心が揺らぐ。こんなに酔っ払ってるんだもの、今なら少しくらい本音をこぼしても許されるかもしれないと。「鈴凪が自分で答えないのなら、俺のいいように解釈するが?」「それは嫌です、どうせ朝陽さんが選ぶのは意地悪の方なんでしょう……?」 それ以外は考えられない。そう思って断固拒否をすれば、また嬉しそうに笑うんだから。その顔がちょっと可愛く見えてしまうのが、自分では認めたくないけれど。「さあて、それはどうだろうな?」「その言い方だと、絶対にそのつもりでしたよね」「……安心しろ。鈴凪が自分から優しくしてほしいって言ったんだから、ご希望通りそうしてや
last updateLast Updated : 2025-09-23
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夢見心地の誘惑で 5

「ぁう〜、うるさいぃ……」 聞き慣れないアラームの音で、夢から現実に戻されかけてそれを止めようと手を伸ばすが……おかしい、いつものところにスマホがない。というか、私の使用している枕ってこんな硬くはなかったはずだけど。 そこまで思考が働き始めてやっと気が付いた、ここが自分に与えられた部屋ではないということに。いつもの位置にスマホがないのも、枕がいつもと違うのだって当然である。ここは朝陽《あさひ》さんのベッドの上で、私の頭の下にあるのは彼のニの腕なのだから。「鈴凪《すずな》、おまえ起きたのか?」「……ええと、はい。いっそ、永遠に目覚めなければよかったかもしれませんが」 そう思ってしまうのにはちゃんと訳がある、昨夜のアレコレで私は酔っていたせいもあり……その、自分だけ気持ち良くなって途中で眠ってしまったのだ。 その後で服は朝陽さんが着せてくれたのだろう、かなり大きめのTシャツが私の体を包んでいて。でもそれすら申し訳なさを倍増させているとは、本人に向かっては言えないけれど。「その、昨日は大変申し訳なく……」「そうだな、まさか一晩中生殺しの気分を味わされるとは思わなかった」 はい、誠にすみません。だけどあんな風に酔っていた私に、あれだけのことをすればそれは……その、ねえ? もちろんそれを朝陽さんに直接いう勇気はありませんけど。 でも、何かおかしい気がする。 今の状況が、その何というかまるで甘い夜を過ごした恋人同士の朝みたいな感じというか。 ベッドの上で後ろから朝陽さんに抱きしめられるような形で横になってるのだけれど、何故か腰にまで腕を回されお互いの体が密着してる。薄いTシャツ一枚では、彼の体温をまともに感じてしまってかなり気恥ずかしい。 なのに朝陽さんはこの状況を当然と言った顔をしてるから、私の戸惑いは大きくなるばかりで。 昨日家に帰ってくるまで、私は朝陽さんと鵜野宮《うのみや》さんの親密な様子にショックを受けていたはずなのに……本当にどうしてこうなってるの?「あー、婚約式の後に一日くらい休みを入れておくべきだったな」「……はい? あの、今なんて?」 今までで一番朝陽さんらしくないセリフに、自分はもしかしてまだ夢の世界にいるのだろうかと思ってしまった。御曹司という立場もあるのだろうが、普段どれだけ真面目に仕事のことを考えてる人なのかは理解し
last updateLast Updated : 2025-09-23
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夢見心地の誘惑で 6

「だから今日くらいは先に休みをとっておくべきだった、と」 もちろん朝陽《あさひ》さんの言った言葉はちゃんと聞こえてます、私が知りたいのはその理由の方で。少なくとも私の知っている朝陽さんはそう簡単に仕事を休もうとする人ではないはず。 少し前に、二人で一夜を共にした時だって……朝にはもう、ベッドに朝陽さんの姿はなかったわけだし。だから尚更、この人がそんな事を言い出した訳がわからなくて。「朝陽さんが、今日の仕事を休みに? それは……いったい、何のために?」「……は? そんなの、こういう時くらい鈴凪《すずな》と二人でゆっくり過ごしたいからに決まってるだろ」「ああ、なるほど?」 ええと……この場合、私はどうしたらいいのだろう?  これは相当な異常事態かもしれない、朝陽さんが何故か分からないけれど壊れてる! 何か変とかどこかが違う、なんて可愛いものじゃない。とりあえず、彼の言ってること全てがおかしい。 どうしても朝陽さんの発言が信じられなくて、ついこんな事を聞いてしまう。「あの〜昨夜、何かおかしな物でも食べたんじゃないですか?」「なに言ってんだ、その逆だろう? 俺は昨晩、鈴凪を喰い損ねたんだぞ」 ちょっと待って待って、またとんでもない事を言い出さないでよ! そんな朝陽さんの口を、両手で塞いでしまいたい衝動に駆られる。もう何だって、今朝の朝陽さんはこんなことばかり言うの? 昨夜の痴態を思い出して恥ずかしくて堪らないのに、変な風に胸がドキドキしてしまう。 とにかく、もう頭の中がゴチャゴチャでどうにかなりそうな気分だった。「ゔぅー……ああ、そうでした! そろそろ白澤《しらさわ》さんがくる時間なので、私は部屋に戻って準備してきますね!」 そう言って勢いよくベッドから出て、彼が止める間もなく部屋からダッシュで逃走したのだった。このままでは普段と違う朝陽さんの雰囲気に流されてしまいそうで、それが怖くて。「チッ、上手く逃げやがって……」 残された部屋でそう呟いた朝陽さんが、わりと楽しそうな表情をしてたなんて私が知るわけもなく。 自室に戻ってからも、バクバクとうるさい心臓を鳴り止ませるのに必死になって。 ……どうして、こんなにもあの夜と朝陽さんの態度が違うの? いつかは鵜野宮さんとヨリを戻すつもりなんでしょう? 私はその為の【仮】の婚約者のはずなの
last updateLast Updated : 2025-09-24
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夢見心地の誘惑で 7

「鈴凪《すずな》さん、どうかしたんですか? 少しお疲れのように見えますが」 いつも通りだ、白澤《しらさわ》さんは普段と変わらない。良かった……と心からそう思ってしまうのは、やはりさっきの朝陽《あさひ》さんの言動が異常だったからに違いない。 まだ準備の途中だからリビングで待っていて欲しい、と伝え部屋に戻ろうとする白澤さんに話しかけられた。「あの、鈴凪さん。余計なお世話かもしれませんが、今日は首元の隠れた服を着られた方がよろしいかと……」「――っ!?」 申し訳なさそうな顔でそう言われて、自分の首筋に何があるのかを察して。慌てて洗面台の鏡で確認すれば、ハッキリと散らばった赤い花びらのような痕。 それに戸惑いアワアワしていると、朝陽さんが後ろのドアから入ってきた。「あ、の……まさか、これは朝陽さんが?」「は? それはそうだろ。俺以外の男がつけたんだったら、大問題だろうが」 いやいや、私が言いたいのはそういう事ではなくてですね? 私からすれば、朝陽さんが付けるのも十分おかしいんじゃないかって話で。 朝から何度目かの噛み合わない会話に疲れて、脱力しかけていると……「それじゃあ、俺は先に出るからな。白澤、そいつを頼んだぞ」 朝陽さんは自分だけさっさと支度を済ませると、白澤さんに向かってそう言った。 ソイツって、まさか私の事ですか? やっぱり何かがおかしいけれど、その理由がハッキリとしない。「はい、もちろん分かってますよ」 白澤さんはそれに気付いてるのか、気付いてないのか。やっぱり普段と変わらない対応で、私の方がおかしいのかと混乱しそうになる。 それでも、ハッキリと確信をもって言われた言葉に……私の頭が爆発するかと思った。「昨日の夜に何があったかは知りませんが、二人の親密さが増したようで何よりです」 それって絶対なにがあったのか、分かって言ってますよね!? 少しずつ慣れてきて気付いたのだけど、白澤さんは結構ズバッと切れ味のいい発言をする人で。 この人もやっぱり、朝陽さんの昔からの友人だというだけあるとしみじみ思ってしまう。「ああ、白澤さんまでそんなことを……うう」「……ふふ。私としては、朝陽と鈴凪さんがもっと仲良くなってくれる方が嬉しいですからね」 それは、あの鵜野宮《うのみや》さんよりも……という意味が含まれてるのだろうか? 白澤さん
last updateLast Updated : 2025-09-24
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渦巻くその悪意に 1

「それでは鈴凪《すずな》さん。今日もお仕事、頑張ってくださいね」「ありがとうございます、白澤《しらさわ》さん」 白澤さんは今日も、しっかりと会社の入口まで送ってくれている。一度は朝陽《あさひ》さんを説得しようとしたのだが、彼に『それでは意味が無い』とバッサリ言い切られてしまって。「今日は見れたね、やっぱ彼ってイケメンだよねえ~」「うんうん、ホントにラッキーだったね!」 しかもこうして毎朝、白澤さんが来るのを楽しみにしている女性社員まで出てきてしまって。「はあ〜! 朝イチの目の保養、やっぱり有難いわあ」「……それは、良かったですね」 いつの間にか隣に立っていたのは、私が補佐を務めている営業部の轟《とどろき》さん。かなり仕事の出来る女性で、サッパリした性格をしている。そんな轟さんに私は憧れていたりするのだけど。「昨日はお休みを頂き、ありがとうございました。業務でなにか変わった事などはありませんでしたか?」「ん〜、特には無かったかな? そうそう、雨宮《あまみや》さんに新しく頼みたい仕事があってね……」 そう言われて、轟さんの後を追って慌ててオフィスに入る。その時にチラチラと数名の社員から見られていたと、気付きもしないで。 《プルルル、プルルル……ガチャ》「はい、営業一課の轟です。はい、雨宮 鈴凪ですか……彼女にどのようなご用件で、え? ……はい。わかりました、それでは失礼します」 「あのさっきの電話、もしかして何かありましたか?」 補佐である私を電話で名指しにする人はそう多くない。 それに、なんだか会話の内容が不自然だった気がして。それが気になり轟さんに話しかけたが、彼女も困ったような表情で……「まあタダの悪戯でしょうね、ボイスチェンジャーを使ってるみたいだったし。雨宮さんは気にしないで、仕事の続きをしててくれる?」「……はい、わかりました」 でも、どうしてもさっきの電話の違和感は拭えない。 そんな時ゴミ箱がいっぱいになっている事に気付いて、近くのごみ箱の分も集めて棄てようと立ち上がる。 ゴミをまとめた大袋の中に、大量に丸めて捨てられていた紙。 そこに自分の名前らしきものを見つけて……「……なに、コレ? 私の名前ばっかり、それも何枚も」 大量の紙は送られてきたFAXのようで、その中には私に関する悪意のある言葉がたくさん書か
last updateLast Updated : 2025-09-25
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渦巻くその悪意に 2

「もしかして、何かありましたか? 朝よりも顔色が優れないですし、なんだか良くない気を感じます」 今日も時間通りに会社の前で待っていてくれた白澤《しらさわ》さんから、会ってすぐそう言われて思わずドキリとした。今日は特に、心当たりが有り過ぎたせいでもあるのだけれど。「どうして、そんな事が分かるんですか?」「そうですね、まあ……仕事柄というか、私が少し特殊な家系の生まれだからでしょう」 白澤さんが勘が良い事には何となく気が付いていたけれど、それには何か理由があるようで。彼が自分の事を話してくれるのは珍しく、少し緊張してしまう。 だけどやっぱり好奇心の方が勝り、食い気味に話の続きをたずねてしまって。「その、特殊な家系とは?」「私の苗字は白澤なのですが、これは【はくたく】と読むことも出来まして。白沢《はくたく》というのは中国に伝わる神獣で、その図画は厄除け魔除けとして有名です。私の先祖がその白沢を信仰していたため、いつの間にか不思議な力を得たと聞いています」 確かに、白沢という神獣についてはどこかで見たことがある気がする。有名なものだと麒麟や竜と言ったところだろうけれど……それでも凄い話で。「えっ、そうなんですか? では白澤さんの美杜《みもり》というお名前には……」「身守《みもり》。つまり、その身を守る。そんな意味を込めて付けた、と母から聞いたことがありました」「なるほど、そうだったんですね」 魔除け、厄除けの神獣……身を守る、きっと白澤さんのご両親は凄く彼の事を大切に思っているに違いない。何となく白澤さんがこんなに真面目で思いやりがあり、心が真っ直ぐな理由が分かった気がする。 そんな事を考えていると、白澤さんが私の顔を覗き込んで。「私は朝陽《あさひ》から貴女を護るように頼まれてますから、困った事があれば相談してください。どんな些細な事でも、構いませんので」「本当に、ありがとうございます」 素直にそう思えて、感謝の気持ちを伝える。今の私の状況でも、こうして助けてくれようとしてくれることが心強くて。 少し悩んだ後、ポツポツと今日起こったことを白澤さんに話し始めたのだけど。「……もしもの話ですが。鵜野宮《うのみや》さんが私をどうにかしたいと思った場合、この職場から私を解雇するくらい簡単なんじゃないでしょうか?」 社長令嬢である鵜野宮さんなら
last updateLast Updated : 2025-09-25
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