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All Chapters of 異常のダイバーシティ: Chapter 41 - Chapter 50

61 Chapters

41. 車内≪CarTour≫

 地下部屋へと戻った俺と先輩は、みんなのいる車へと向かった。  その途中、肩に"何か"が触れるのを感じた。 (⋯⋯すまないが、エンナを任せたよ) !?  ⋯⋯今の声って  振り向くと誰もいなかった。  でも確かに聞こえた、"亡くなったあの人"の一言。 「⋯⋯任せてください。俺が必ず⋯⋯」 「喜志可くん、何か言った?」 「いえ、すみません」  地下玄関から出て、準備が完了した車へと乗る。  ⋯⋯なんじゃこりゃ、これ車なんだよな?  隣り合う個室の中央通路を歩いて行くと、突然右の個室からスアが顔を出した。 「やっぱりザイ、会長と一緒にいたんだ」 「ちょっと頼まれたからな」 「ふ~ん」 「⋯⋯別に変な事してないって。理由はなんとなく分かるだろ」  スアは拗ねたように頬を膨らませた表情から、命令でもされたかのように一瞬で普通の顔へと戻った。 「な~んてね、分かってるよ。深夜にあんな事があったら、少しの時間でも一人はやっぱ怖いもん。もし次、私が一人になりそうだったらザイが付いて来てね?」 「そりゃ⋯⋯約束したんだし」  恥ずかしさを堪えて言った甲斐もあり、彼女は喜んでいるようにも見えた。  そしてタイミングを計ったように、今度は左の個室からモアが顔を出してくる。 「あ、ザイ先輩おかえりなさい! ちょっとこっち来てください!」 「どした?」 「ここのマッサージチェア、機能がほぼ"例のアレ"と同じですよ!」  "例のアレ"て⋯⋯言い方よ。  モアの座っていたマッサージチェアに、入れ替わりで座ってみる。 「⋯⋯おぉ!」 「ね!? ほとんど同じですよね!?」 「うん。これが車内でも使えるなんて⋯⋯。けど、モアのとこだけにしかないのかぁ」 「それがですねぇ、なんと全員の部屋のイスが"これ"です!」 「はぁ!? マジで!?」  驚く俺の後ろに、いつの間にかエンナ先輩が立っていた。 「他のところでも座ってごらん、喜志可くん」  先輩に案内され、他の部屋へと入ってみる。  俺ら6人でも余ってるくらいに個室があるため、正直どこ使ってもいいようにしてくれている。  とりあえず、適当にスアの後ろの個室へと入ってみた。  そこには、"さっきと同じデザインのイス"が置いてあった。  誘われるように座ってみると⋯⋯ 「⋯⋯ヤ
last updateLast Updated : 2025-09-28
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42. 阿倍≪AbenoHarukas≫

 2階はまさに小型の無人商業施設のようだった。  映画館、服屋、本屋、靴屋、焼肉、回転寿司、中華、和食・洋食、ファストフード、スイーツ、ゲーム、カフェ、エステなど、あらゆる店舗が左右に順序良く、個人まりと並んでいる。  こっちは様々な企業とリモート連携しているらしく、どこを利用するにも料金が必要になってはいるが、一般的に利用するより相当安い。これも師斎社長の努力と信頼あってこそ成せる技なのだろう。 「こんなの車に詰め込むなんて出来るんだね⋯⋯」 「⋯⋯あたし、今度からここのお店だけ利用したいです!」  スアとモアもすっかり興奮している様子。  どこのお店も開けた感じになっているため、営業している様子もよく見える。  服屋や靴屋なんかは、実物商品が浮いて回転しながら紹介され、商品横のホログラム画面には詳しい説明が書かれている。  それだけでなく、さらにもう1つのホログラム動画に俺たちが映り始めた。なんと通りかかった人を対象にして、その人が着たり履いたりすると、どんな感じになるのかがリアルタイムで流れている。  なんか俺があの服と靴で渋谷を歩き始めたぞ。  総じてゲームの中に飛び込んだような没入感が凄いな、ここは⋯⋯。 「歩くだけでわくわくしちゃいますね」 「後で行ってみるか」  どれも入ってみたいけど、まずはあいつらを探さないとだ。  いきなり通話してやるのも可哀そうだし、とにかく手当たり次第に探していこう。  ん? ここは⋯⋯本屋か?  手前に"今日のおすすめ"として、何冊か浮遊回転しながらトピックセンテンスと共に紹介されている。 「あ、あれってアマ君じゃない?」  スアの指さす先、奥に座って読んでいるアマの背中が見えた。 「⋯⋯何やってんだよ、こんなとこで」 「お、いらっしゃい。今はホログラムビジョンの電子書籍ばかりなっているからね、たまにはこうやって紙で読むのがいいんだ。君が来たってことは、そろそろ出発?」 「あぁ、11時にな。だから一旦先輩のとこへ集まるぞ」 「なら、この本は買って行こうかな」  残りはケンだが⋯⋯あいつはどこにいるんだ?  さらに一番奥、2階の先端へと向かうと、まさかの夜屋台のようなラーメン屋まであった。  BGMもそれっぽいのが流れ出し、雰囲気まであの屋台の感じまんまだ。 「あ、ケン先輩が
last updateLast Updated : 2025-09-29
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43. 探索≪Exploration≫

 これ、本当にあべのハルカスなんだよな⋯⋯?  まるで"ゲームのダンジョン"にでも改造されたような、何とも言えない恐ろしさが漂ってくる。  さらに、この薄暗さと人気の無さが不気味感を倍増させており、歩く足音さえもその一部となってしまっている。 「え⋯⋯ここドローンが起動しないんだけど⋯⋯。モアちゃんはどう?」 「⋯⋯あたしのも全然ダメです」  どうやらスアとモアの"超小型ドローン"が使えないらしく、この不安しかない通路先を確認出来ないそうだ。 「ちょっと見てくるわ。わるいんだけど喜志可くん、"あの銃"でサポートお願いできない? ケン君はみんなと一緒にここで待ってて、お願いね」 「⋯⋯分かりやした! お気を付けて、エンナ嬢」 「決してあなたを信用してない訳じゃないから。悪いようには考えないでね?」 「はい! ザイ、絶対ケガさせんじゃねぇぞ」 「あぁ」  それにしても、先輩はよく行こうと思えるな⋯⋯。  何か起きそうで怖いはずなのに、その恐怖を押し殺してでも一歩前に出る勇気。  そういえば、部活の時の彼女もそうだった。  ここで勝負しないといけないという場をしっかり見極め、チャンスを掴んできたのをよく見てきた。  俺とスアがまだ在籍している"拡張空間研究部"、通称"カクケン"は今も彼女の影響を受けている部員が多い。  この頃の新入部員の女子はだいたいがエンナ先輩、"ユキ先輩"、スアの名を上げる。"あんなふうになりたい"、と。  "新崎ユキ先輩"なんかはもう、言う必要がないほどの"黄金レジェンド世代の一人"で、あの優勝しすぎて出禁の三船コーチ、現日本代表の有川コーチとトリオも組んでいた人だ。  あのエンナ先輩も憧れの人として名を上げるほど。プロとして活躍していないのが信じられないんだよなぁ⋯⋯。と言っても、彼女は三船コーチと同じ"大学3年生"だし、これから参戦だってありえるかも。  てなわけで、まぁとにかく女子ファンがかなりの数いる。ってか部員数が女子で6割を占めている。  男の方はどうかと言うと、俺の事はほとんど上げられず、大半は三船コーチ、有川コーチ、秘桜アマの3人。アマに関しては、言いたくないが所作も美しいというのが大きいだろう。  どんな事にも言えるだろうが、基本やフォームが綺麗というのは、人を引き付ける重要な要因になる。
last updateLast Updated : 2025-10-01
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44. 迷子≪LostFriend≫

「⋯⋯あれ? ねぇ、帰り道ってこんなだったっけ⋯⋯?」  ふと先輩が言う。 「この道で合ってるはずですよ。薄暗くて分かりにくいですが、俺は道順の覚えには自信が⋯⋯」  そう信じて戻っていくと⋯⋯。  6階のパーキング前出口で待っているはずの4人が、誰一人として待っていなかった。  近くに止めている車に戻ってみても、誰もこっちに来ていない。 「どうして⋯⋯みんなどこいったの!?」 「スアに電話しますッ!」 「私はケン君ッ!」  ⋯⋯なんでだよ  スア、なんで出ないんだよ!?  どれだけやっても結果は変わらず、ただ俺たち二人だけがいるまま。  くそ⋯⋯こんな事になるなら最初から一緒にいれば⋯⋯。  ⋯⋯いやそうじゃない、こんなの分かる訳が無い。先輩の選択は決して悪くなかったんだ。6人一緒にいたからと言って、確実に安全に歩けた保証だって無かったんだから。  俺より慌てる様子のエンナ先輩を見ていると、逆に冷静になり始める自分がいた。  一旦深呼吸だ、深呼吸しろ⋯⋯。はぐれたって、あいつらはプロで頑張ってきた連中、簡単にやられたりはしない。そもそも、まだヤツらがいるとも限らない。 「どうしよ⋯⋯私のせいで⋯⋯私のせいでみんなが⋯⋯!!」 「先輩、あいつらは俺のような"偽プロ"と違って、ゲームでもれっきとした"本物のプロ"で戦ってきてた奴らです。きっと他の場所で、あっちも俺らを探してるはずです!」 「喜志可くん⋯⋯。えぇ、あの子たち凄いものね。それにあなただって"偽プロ"なんかじゃない。覚悟を持って撃てるんだもの」  次第に冷静になっていく先輩と、この後どうするかを順序立てる。 「こうなったら待っててもよくないだろうし⋯⋯まずは私たちでなんとかするしかないわね」 「ですね。先輩の事は絶対俺が守るので」  こうして、俺たちは再び薄暗い赤と青に塗れたハルカス内へと入る。  やっぱり誰も待ってはいない、行くしかない。 「⋯⋯けど、こんな時にこんな事言うのもあれだけど、残ったのが喜志可くんで良かった。一番安心できるし、それに⋯⋯」  なぜか俺を見つめる彼女の顔が徐々に赤くなっていく。 「⋯⋯こ、これ以上は今はやめとく! さぁ気合い入れるよ!」  俺の背中をさすりながら、彼女はふん
last updateLast Updated : 2025-10-02
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45. 二頭≪BlueRed/Sauros≫

 3階へと降りると、同様に赤と青の不気味具合が漂っていた。ここから見える景色さえも、天王寺の煌びやかなビル群とタワマンたちの夜景が広がっている。  何度L.S.を見たって、時間は昼前なのに。  ⋯⋯頭がおかしくなるだろ、こんなの 「ケン君、どこにいるんだろ⋯⋯」 「ここってレディース服のアパレルショップしかないですね。なら、余計にあいつがここに来る意味もないわけか」 「だね。会ったら何があったのか、すぐ聞かないと!」  相変わらず、何度通話やメッセージをしても返って来ない。  あっちからは送れるのに、こっちから送れないってどういう事なんだ⋯⋯?  エレベーターが使える代わりに謎に電波が悪くなったり、新策が始まってからロクな事が無い。  まぁ、"3"だけしか送って来ていない辺り、あっち側も不便か大変な状況か、どっちかまだはっきりしないけど⋯⋯。  周辺へ注意を払いながら、走ってケンを探し回っていく。  しかし、このフロアにいる気配が無く、他から足音一つ聞こえてこない。 「先輩、隣のビルへ行きましょう、ここではなさそうです」 「そうね、近い"左館の方"から行きましょうか」  あべのハルカスは少し前に新しくなり、3つのビルと連携している形になっている。  俺たちがいるのが中央のため、右と左のフロアも見ていく必要がある。 「なんかいつもより走り辛く感じるね。こんな変なところにいるってのもあるけど、嫌な緊張感みたいなのが身体を強張らせるっていうか⋯⋯」 「全く同じ事思ってました。あまり無理はしないようにしてくださいね」 「うん。喜志可くんもね」  ビルを移る際、空港とかによく置いてある動く歩道、英語では"ムービングウォーク"とか言われるやつ、あれに乗っていくようになっている。  加速して素早く"左館"へと入って行くと、やはりどこも赤と青の薄暗さからは逃れられないようだった。  だが、ついさっきいた"中央館"とは大きく違う点がある。それは"音?"が奥の方から聞こえた事だった。 「⋯⋯ケン君に違いないわっ!」  俺より先に気付いた先輩が数歩先を走って行き、そこからさらに加速していく。  並んでいるアパレル店を駆けて行った先、あいつのシルエットが微かに見えた。 「ケン君ッ!」 「ケンッ! お前なんでこんなとこに」  こっちに気付
last updateLast Updated : 2025-10-04
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46. 規則≪FloorRule≫

 距離を保ちながら、黙って隠れ続けること数分。  "謎の2つ頭の恐竜"は最後に周囲を見渡した後、右館の方へと歩いて行った。 「ふぅ⋯⋯これでやっと動けそうね。エレベーターへ向かいましょ」 「エンナ嬢、よくビビらずいられるっすね⋯⋯。他の女の子だったら、もっとビビって何も出来なそうっすけど」  ケンが言うと、エンナ先輩は大きく深呼吸した。 「⋯⋯何言ってんの、内心は心臓バクバクに決まってるじゃない。だって私はあなたたちの2個上なんだから、先輩らしくいないと。⋯⋯っていう気持ちで無理矢理頑張ってるだけよ」  それでもなかなか出来るものではないと思う。  もしバレた時、一番に襲われるのは間違いなくエンナ先輩だ。それを想像するだけで、すぐに足が止まってしまいそうなのに。  決して俺やケンが前を歩くのが嫌だというわけではなく、ただ先輩が率先してやってくれている。だから、俺とケンは後輩だからと甘える事無く、その勇気に報いるだけのアシストをしなければならない。  こうして、静かになった中央館のエレベーター前へと戻る事が出来た俺たち。すぐにエレベーターを呼ぶと⋯⋯。 「⋯⋯ん? これ、停止してません⋯⋯?」 「そ、そんなわけ」  俺に代わって先輩が非接触パネルのホログラムボタンを押すが、一向にエレベーターが動く気配が無い。 「なんで!? さっきは普通に動いてたじゃない!?」 「ちょっといいすか、エンナ嬢」  さらに代わってケンが押すが、それでも動きそうにない。 「どうなってやがる⋯⋯。階段かエスカレーターから行くしかねぇのか」 「⋯⋯あっちの階段が近いわ、行きましょう」  また先輩の後に続いて確認しに行くと、なんと頑丈なシャッターで閉められていた。  さっきまでこんな事になっていなかったのに⋯⋯。 「んだよこれッ! "俺のとこ"と同じになってんじゃねぇかよッ!」  シャッターを叩こうとしたケンの右腕を、数センチ前で止める。 「おいやめろって、"あの恐竜"が勘付いて戻って来るだろうが」 「⋯⋯ちっ、わりぃ。頭に血が上っちまった」 「どうしよっか⋯⋯。中央も左もダメって事は、残りは右しかないって事になるけど⋯⋯」  ってことは、また"アイツ"のいる場所に行かなきゃいけないのか⋯⋯。  せっかく耐えて待ったのにと、溜息を吐いた時だった。
last updateLast Updated : 2025-10-06
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47. 物陰≪HidingPlace≫

 少し歩いたところで"変な奇声?"が聞こえてきた。  加工されたような低い声で『アハハハァ? アハハハァ?』と意味不明なワードを繰り返している。  何がいるのかは薄暗くて、ここからではよく見えない。 「⋯⋯ねぇ何がいるの⋯⋯ねぇ」  不安そうに先輩が一言漏らす。 「エンナ先輩、ここは俺が先に」 「いや⋯⋯踏ん張らなきゃ。あっちだって女の子二人で頑張ってるのに、ここで逃げたら合わせる顔が無くなるから」  さっきから続く異常な恐怖からか、先輩の声は震えていた。本当は前に行きたくない、その気持ちが強く伝わってくる。  ずっと『アハハハァ? アハハハァ?』と響くこの声が、より悍ましさを助長させていた。  "コイツ"から、モアとスアはちゃんと逃げられてるんだよな⋯⋯?  ケンからのメッセージが時間差で届いた経緯からして、二人の安否が読めない。  けど、あいつらのコンビ力の高さは大会の結果として出ている。だから信じてる、ちゃんと生きている事を。  そして、この美術館も中央館、左館、右館というフロア構造になっており、この薄暗く複雑な中で二人を探さなければならない。尚且つ、"あの変な奇声を上げ続けるキモい何か"を避ける必要がある。  恐竜の時のように見やすいならいいのだが、今回はそうもいかないのが厄介すぎる。 「⋯⋯微かだけど、左の方へと声が移動している。右から回って行けそうだよ」  こんな時でも、冷静な判断が出来るアマがいてくれて助かった。  全体に響いているように聞こえるのに、よく分かるなこいつ。  俺たち4人は屈んで隠れながら、右側からひっそりと歩いて行く。  隣の壁際には、アニメ美術展を開催中だったのか、現在放映されている人気アニメキャラの"立体ホログラフィック絵画"が今にも飛び出しそうに動いている。  きっと普段来たら楽しめるのだろうが、今はそれどころではない。というより、これのせいでさらに異様さが増している気もする。  ここで『アハハハァ? アハハハァ?』と言っているヤツの正体が判明した。左館の方へと遠ざかって行くヤツの背中が見え、それはあまりに気持ち悪いものだった。  どう見ても身体と釣り合っていない"デカい頭を2つ"携え、それでも何事も無いように人間と同じ歩き方をしている。 「⋯⋯なんじゃありゃぁ。あんなクソきめぇのがいた
last updateLast Updated : 2025-10-07
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48. 白四≪WhiteSquare≫

 6人全員で集まれたのはいいが、問題はここからだった。  時間を掛け過ぎたのか、『アハハハァ? アハハハァ?』と言うアレが、俺たちのいる右館へとゆっくり迫って来ていた。 「⋯⋯私とケン君はあっちへ! スアちゃんと喜志可くんでそっち! アマ君とモアさんは奥のとこッ! 一旦別れるわよッ!」  瞬時に判断してくれた先輩のおかげで、分散してすぐ隠れる事が出来た。どう考えても6人一緒にいるのはマズいのは目に見えている。  そしてヤツは現れ、『アハハハァ? アハハハァ?』という奇声を右館で響かせ始めた。何度聞いても不快でしかなく、明らか味方という雰囲気でもない。 「(⋯⋯ねぇザイ、6階から来たんだよね?)」 「(エンナ先輩と一緒にな。戻ったら誰もいねぇし、クソ焦ったんだからな)」 「(私の事、心配してくれてたの?)」 「(当たり前だろ。むしろお前を一番⋯⋯まぁそういうこと)」  とんでもない状況のはずなのに、スアはそうでもなさそう。  俺がいるからだろうか? そう思ってくれてると嬉しいんだけどな⋯⋯。  なんか隣にスアがいると、どんな事でも出来そうな気がしてくる。それほど、彼女は俺にとって大きな存在なんだと痛感する。 「(⋯⋯他のみんな、大丈夫かな)」 「(ギリ見えてる範囲では大丈夫そうだ。とにかく今は見つからないようにしないと)」 「(私たちの"かいじゅう"で撃っても倒せないのかな⋯⋯)」 「(⋯⋯倒せなかった時のリスクが大きすぎる。俺らだけじゃなくて、全員を巻き込む事になるだろうから)」 「(そうだよね⋯⋯。早く安全なとこへ行きたいね⋯⋯)」  思ったより長く居座るアイツを視認し続けていると、突如として右奥側の有名絵画の前で立ち止まった。  まさかの急にそこが開きだし、なんと何体もの"観光客や警備員へと扮したProtoNeLT"が入って来た。そいつらまでもこの右館から徘徊し始める。 「(まずいな⋯⋯この数だと見つからないのも時間の問題だ)」 「(あっちの方ってさ、師斎会長とケン君がいる場所じゃない⋯⋯?)」  どうする⋯⋯。  このままだと二人が見つかってしまうかもしれない。  かと言って、見つからずにやり過ごせる可能性だってある。  と思った途端、ヤツらは"ProtoNeLT"を4体残し、中央館へと移動し始めた。  ⋯⋯な
last updateLast Updated : 2025-10-08
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49. 再始≪Re:Start≫

 突如、警報が鳴り始めた。  右館の方から"警察官?"らしき人物たちが走って来ているのが見えた。  ⋯⋯もしかして、さっき"ProtoNeLT"が入って来たあの空間を使って入って来たのか!?  さらには『アハハハァ? アハハハァ?』という奇声がまた始まり、なんとあれだけ撃ち込んだ巨頭が再起していたのだ。  周りの倒れた"ProtoNeLTたち"を取り込み、壊れた部分を修復してしていたのだ。あの巨頭は"ProtoNeLTの変異体"なのかもしれない。 「⋯⋯早くここを出るわよ! 走ってッ!」  先を行く先輩と共に全員が走る。  美術館入口から飛び出し、俺たちがやってきたエレベーターへと駆けた。  それさえも遮るように、エレベーター内から"ProtoNeLT"が5体現れ、あの時と同じ毒ガスを構え始めた。 「どけッ!!」  叫んだ先輩の新たな銃から、また"四角の白いレーザー"が乱射され、5体もろとも退けた。  転がったヤツらの手元からは毒ガスのスプレーが転がる。その中に、"一つだけ色が違うスプレー"があった。  俺は走りながらそれを拾い、即座にラベルを見ると、"硫酸らしき説明"が薄っすらと書いてあるのが読み取れた。  「すぐ乗ってッ! このまま屋上行くわ!」  エンナ先輩、モア、ケン、アマの4人が乗り、一番後ろを走っていた俺とスアが乗ろうとした瞬間、スアの足元へと"何か"が転がって彼女はこけてしまった。  振り向くと、巨頭が毒ガスのスプレーを拾い、そのうちの1本をこっちへ投げたようだった。 「⋯⋯スアッ!」  すかさず俺は彼女を庇うように立ち、ヤツの持っているスプレー目掛けて"色彩の小波弾"を数発放ち、それら全てを使わせないように撃ち落とす。  しかし巨頭自身には撃ち込んでも、ヤツの動きはやはり止まりそうにない。その上、警察たちも走って近付いて来ている。たぶんこいつらも"ProtoNeLT"なのだろう。  絶体絶命に追いやられて手が強張り、左手に握った"硫酸のスプレー"を持っている事を実感させる。  ⋯⋯そうか、こいつならヤツにも 「デカい頭だけ⋯⋯一生ぶら下げてろ⋯⋯ッ!!」  俺が散布した"硫酸のスプレー"は、忽ち局所的に前方を包んでいく。巨頭だけでなく警察たちまでも巻き込み、ヤツらは両手で必死に"硫酸ミスト"を払っているが、
last updateLast Updated : 2025-10-09
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50. 一在≪Reason:1≫

 屋上に着いた瞬間、今までとは違った雰囲気を感じた。  そこには、赤と青に光る大阪夜景を"見下ろす謎の人々?"が端々に突っ立っていた。  家族、カップル、一人でなど、どう見ても普通に景色を楽しんでいるようにしか見えない。 「誰もこっちに気付かず、ずっとあっちだけ見てるね⋯⋯」  スアがそう言いながら、あの人たちを注視する。 「ちょっと話しかけてみるか」  そう言って行こうとした俺を、スアがすぐに引き留めた。 「待って。行かない方がいい気がする」  彼女の握る手はかなり力強い。  それほど何かを感じ取ったのかもしれない。  モアやエンナ先輩までも、スアの意見に同意する。何でも、女の勘との事。そう女子たちに言われると妙に説得力がある⋯⋯。 「ケン君も行かないように」 「行かねぇよ、てめぇは保護者か」  俺たちのやり取りを見て、なぜかアマとケンが言い合っている。 「そしたら気付かれていないうちに、さらに続くあっちへ歩いて見ましょう」  エンナ先輩が見る先に、滅多に見ないほど幅広いエスカレーターがあった。  どうやら屋上のさらに上があるらしい。  そこを上って行くと、"あべのハルカス屋上新エリア【存在しないはずのハルカス】"と書かれた場所へと辿り着いた。  ここだけ、あべのハルカスとは思えない様相を呈していた。  まるでウェディングベールの切れ端を並べたかのような花、それが端に届きそうなほど大きく咲いており、さらには中心にデカい恐竜の頭が2つ置かれている。  その純白さから、エンナ先輩が使い始めた"新たな銃"と似た雰囲気を感じた。 「この銃⋯⋯ここの影響を受けて、こんな形になったとかなのかな」  ふと先輩が呟く。 「⋯⋯どうなんでしょう。俺とスアのとは、また違うみたいですけど⋯⋯」  俺が話していると、突如床から巨大立体ホログラムが起動し始め、"日岡知事らしき人物?"が映し出された。 『ここへ来たという事は、"ProtoNeLT"を否定する理由を集めているという事ですね? "理由は全部で6つ、様々な箇所へと"置かれています。では、その1つをこのパンフレットへとこの場で記入してください。記入者に対し、私のサインが左下へと記載されます。それらを全て集め、大阪府庁へと来庁された場合は、私が直に新ダイバーシティ策の是非を問いましょう
last updateLast Updated : 2025-10-12
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