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All Chapters of 異常のダイバーシティ: Chapter 51 - Chapter 60

61 Chapters

51. 屋台≪NightStall≫

 とりあえず、やる事はやったはずだ。6階へと降りてさっさと車に戻ろう。  俺たちは幅広いエスカレーターから下り、あべのハルカス屋上を後にする。  エレベーターの扉が閉まるまで、あの"成功例とされるProtoNeLTたち"を見続けた、あんなのにならないように目に焼き付けるために。 「まだ油断しないようにしないとね。突然来るかもしれないんだし」  しっかりと注意喚起するエンナ先輩。  6階から3階に降りようとした時に、エレベーター内から出て来たヤツらが、ずっと脳裏にあるのだろう。  あの時ヤツらを一網打尽に出来たが、逆に俺らもされる可能性がある。  今回はあべのハルカスで60階もあるために、エレベーターを仕方無く使ってはいるが、今後も充分注意して使う必要があるだろう。これは絶対に忘れないようにしなければならない。  6階に到着する手前で銃を一斉に構えるが、拍子抜けなほど案外何事も無く、パーキングの方へとやってこれた。そこには一つも変わらない様子の車が待機していた。  車内に乗り込むと、どっと来た今までの疲れからか、俺は死ぬように個室のベッドへ倒れ込んだ。  あんなずっと死の緊張感と恐怖感に苛まれた中でいたんだ、体力の消耗が激しすぎる。  とにかく今は寝たい。次の事はまた起きてから考えりゃいい。  そうして目を瞑ると、あっという間に深い眠りへと落ちていった。 ♢ ⋯⋯ん、なんか首の後ろがくすぐったいな。  ってか、俺寝てたのか⋯⋯。  ゆっくりと振り向くと、そこにはくっ付くように添い寝しているモアがいた。 「⋯⋯なにやってんだ?」 「すみません、ちょっとだけうなじを嗅ぎたいなと思いまして⋯⋯起こしちゃいました?」 「そりゃそうだろ。⋯⋯ちょっと後ろ向いてみ、代わりにやってやるから」 「は~い、どんな感じなんでしょう」  モアはくるっと背中を向け、綺麗に伸びたサラサラの長髪を手で纏める。そして、彼女の綺麗なうなじが露出した。  ⋯⋯今気づいた、これセクハラじゃないよな? 「する前に一つ聞くが、やらしい事されたって他に言いふらしたりしないよな?」 「えぇ!? しませんよそんな事!? (むしろやらしい事して欲しいのに⋯⋯)」  また何かぶつぶつ言ってるような⋯⋯。  まぁいい、こ
last updateLast Updated : 2025-10-13
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52. 深味≪DeepTaste≫

 漂う芳ばしい香りを吸えば吸うほど心身が喜ぶ。  ちょっと黒めの濃厚スープからは、ただならぬ味噌を扱っているのが瞬時に分かる。  そして代表を飾る黒鮭の横には、海苔、黒メンマ、黒野菜、黒ネギ、黒味玉という一風変わった組み合わせ。  これらも適当に置かれた真っ黒というわけではなく、食欲をそそられるように計算されたちょい黒。  そこに絡まる縮れ細麺、これだけは"淡いクリーム色"で製麺されている。なんで麺だけはいつもの色なんだ⋯⋯? 「⋯⋯いただきます」 「いただきます!」  俺とモアは手を合わせた後、即座にラーメンへと箸を伸ばした。  麺にほんの少し触れた時、なぜ黒を基調としないのかが伝わった。あえてクリーム色のままの方が、ちょい黒の味噌と重なった時に、より綺麗に強調されるからだ。  さらに食欲が沸き上がり、我慢出来なくなった俺の身体は、二色混ざって光る麺を一気に啜った。 「⋯⋯ッ!?」 「一口で分かるだろ、その衝撃が」  こんなに美味いラーメンがあったなんて⋯⋯。  こいつがハマってる理由の全てがこの一口に詰まっている。  まず最初に炭火の深みがガツンと広がる。その炭火をより引き立てるように、味噌の旨味と麺のコシから来る芳醇な甘味が通っていく。  いや、それだけじゃないぞこれは⋯⋯。  その後も箸が止まる訳も無く、トッピングも合わせてどんどん口へと運んでいく。  いざ楽しみに取っておいた黒鮭へと手を付けた時、分かっていなかった最後のピースが嵌った。  ⋯⋯やっぱりこれだったんだな、全てをグレードアップさせていた正体は 「あのー、黒鮭ってラーメンに入れるとこんなに美味しいんですね⋯⋯!」  目を光らせて彼女は言う。  どうやらモアも知ってしまったらしい。  夜屋台の黒鮭味噌ラーメン、これは"黒鮭の出汁"も相まって至高の一杯に仕上がり、何もかもを完全の一個上へと連れて行っているという事を。  それからも知らぬ間に届いていた餃子と、待っていたかの如く輝く炒飯も食らい尽くした。 「⋯⋯あたし、明日も食べたいです。ザイ先輩、明日も来ませんか!?」 「そうだな、明日も来よう」 「だろ? ここに来るまでに寿司とか中華とか、いろんな誘惑があったと思うが、結局来ちまうんだよ、ここにな」  分かる、ケンの言う事が分かってしまう。  
last updateLast Updated : 2025-10-14
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53. 複壊≪LuminaryRex≫

 これを飲んだ後に、ショートケーキを食べるとどんな感じになるのだろう。  モアが俺より先に食べると、目をぱっちり開いて口に手を当てた。 「え! 同じ物使ってるのに、こんな違うんですね!」 「そうでしょ。この組み合わせはクセになるわよね」 「特にラーメン食べた後だと、余計にいい感じします⋯⋯!」 「口の中に残ってたこってり感が、パッとフルーツ感に代わるというか、まぁそんな感じかもね」 「はい! まさにそんな感じです!」  楽しそうに話すモアとエンナ先輩、それを見てスアがくすっと笑っている。  こういった日常が本当はあるべきなんだ。  ⋯⋯それにしても、突発的な女子会に一人男が間違えて入ってしまった感が凄い  俺、いていいのか⋯⋯? 「それじゃ、次はザイの番だね」  俺の疑問を跳ね退けるようにして、隣のスアは推し進める。  まぁ、今更気にしてるのも無理がある。  そして俺は、"紫黄苺のショートケーキ"を一口頬張ってみた。 「⋯⋯っ!? こんなにか⋯⋯っ!?」 「あはは、ザイもそうなっちゃうんだ」  スアに笑われ、モアとエンナ先輩にも笑われた。  別に一発芸したわけじゃないんだが⋯⋯。  とにかく言い表すなら、紅茶はマイルドへと一直線という感じだったが、ケーキだと果実本来の濃さに割り振ってるという感じ。  紫黄苺の風味は一言では表現しづらいが、苺の甘酸っぱさから始まり、次第に葡萄のようなジューシー感、最後にはレモンのような爽やかさが駆け抜けていく。  ⋯⋯見た目や美味しさだけじゃない、まるで車の窓から味の季節を通過するようというか  別にポエマーじゃないのに言い方がそれしかねぇ⋯⋯!  口に出してなくてよかった、さらに笑わるとこだった。  よく料理系のマンガにある、食べた後の誇張リアクションだったら何が出たのか気になる、それくらい驚く違いだった。  身体は言う事を聞かずに食べ進めてしまい、気付かぬ間に俺の皿は空になっていた。  そこに流し込む紅茶は、どこまでも味蕾を飽きさせない。 「ふぅ⋯⋯。家に持って帰りたいな、これ」 「わかる~。いろいろと終わったら、お持ち帰りしよっか」  そう言いながら、スアはショートケーキをもう1つ頼んでいた。  これは近所にあったら通いまくる。 「あ、そうだ。あべのハルカスから出た後
last updateLast Updated : 2025-10-15
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54. 新靴≪OSS/Shoes≫

 まだ俺たちはお互いを深く知っているわけじゃない。  唯一知っているのはスアのみで、エンナ先輩との付き合いもそれほど長くは無い。きっと、まだまだ知らない事が多いと思う。  夢中になって話していると、いつの間にか22時頃になっていた。  1時間ほど前にケンもカフェへとやってきて、6人での気楽な談笑の後、俺は先に抜ける事にした。  実は靴がボロくなっている事に気付かず、さっきスアに言われて見たら、所々ヒビ割れが起きていた。  ここのところ、三船コーチとの訓練でも酷使していたのが響いたのだろう。  "次の理由探しの場所"で足手纏いにならないためにも、今の内にしっかり準備をしておく必要がある。  ここにはちょうど靴屋もあるため、そこで最新のを調達する事にした。  俺に合ういいのがあればいいんだけど⋯⋯。  そして、前から気になっていた靴屋の前へ行くと、そこには4足の靴が浮いて回転しながら宣伝され、横のホログラムディスプレイには説明が書かれている。  これも何度見ても面白く、もう1つの画面には俺の全身像が映り、それぞれの靴を履いた姿で街中を歩いている様子が映し出された。  あれは新宿か?  夜の東京都心を颯爽と歩いているもう一人の俺が、動画として謎に流れている。  その動画前へと寄って見てみると、歩く場所をどこでも変えられるみたいで、"大阪の天王寺"に切り替えてみた。  ⋯⋯うん、今はこっちの方がしっくりくるな 「お邪魔しま~す」  そう言って背後から入って来たのはモアだった。 「お、モアも靴を買うのか?」 「そうですね、いいのがあればなと思いまして。あたしも結構、知らない間にダメになっちゃってる事多いので」  やっぱりAR上で武器を使って激しく動くのは、壊しやすいのかもしれない。特にプロとかは。  今の俺らは現実世界だけど、似た動きが多いために、良いものに変えておくに越したことは無い。  そして、推されている4足を順番に試し履きしていった。  動画や説明欄の通りの高機能で、なんと最近のは"Optimal Shape Sensor(オプティマルシェイプセンサー)"、通称"OSS"が搭載されており、歩行パターンや運動量、心拍数、姿勢、歩行場所など様々な情報をAIがモニタリングして、靴の内部と外部形状が最適状態へと変化するようになってい
last updateLast Updated : 2025-10-16
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55. 霧晴≪ClearTheFog≫

 深夜、ベッドに潜ってSNSや動画を確認する。  そこには、この1ヵ月間どう引き籠って生活しているかを紹介する動画を出す人や、外に出てヤツらから逃げ回っている様子、拳銃や刀で立ち向かっている人なんかもいる。  ただ、数には敵わずやられているパターンが多く、やはり逃げ回るにも限界がある事がよく分かる。  これらは主に梅田界隈と道頓堀界隈の有名地域で見られるようで、その他の地域は比較的引き籠ってやり過ごそうとする方が見受けられる。  しかし、ヤツらに家中へ侵入されて襲われているのも増えてきているため、家で生き抜くのはもう運任せの状態。  結局、日岡知事に立ち向かう方が生き延びられる確率は高いように感じる。そのためには、俺らのような"かいじゅう"を装備して出て行かないと厳しいのが現実。  ハンドガンやアサルトライフルは、一時的にはどうにかなるかもしれないが、ヤツらを完全停止にまで持っていける可能性は低く、やはり数で押し切られて終わってしまう。  ⋯⋯確認できるネット情報はそれくらいか  そういや、この車はずっと天王寺近辺を移動し続けているみたいだ。たぶん先輩がそのように走行設定しているんだと思う。  日光や風力、地熱だけでなく、車自身の振動や空気中の窒素や酸素までもを燃料として電気を作り、ほぼ無限に自動運転できる仕組みになっている。  従来のガソリンや水素などの有限燃料を使わないので、どこかに寄る必要も無いのがあまりに大きすぎる。  この車があるかないかで、俺たちの行動難易度は劇的に違ったはずだ。これからも同じくらいの水準はそう出てこなさそうだし、唯一の何でもできる安全拠点。  そんな拠点の個室で寝っ転びながら、傍に置いた自分のハイスマートグラスを掲げてみる。  未だに謎なままの"海銃"という存在。これについても調べなければいけないなと思いつつも、まだそこまで余裕を持てていない。  味方で居続けて欲しいと願うばかりで、突然敵意を向けられないかだけが心配。それはスアとエンナ先輩にも言える事で、二人が急に暴走しないかどうか不安だ。  ハイスマートグラスを銃のように構え、"海銃"を具現化させる。  ⋯⋯もしこいつが敵になってしまったら、きっと"ProtoNeLT"よりも怖い。 「明日も俺たちのために、ヤツらを薙ぎ払ってくれ」  そう小言を呟き
last updateLast Updated : 2025-10-17
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56. 駅内≪OsakaStationCity≫

 梅田に近付くにつれ、空気が一変するのが分かった。  街並みや人の感じが変わる方ではなく、ここに入っても大丈夫なのだろうかという異様感。  それらに対抗するように、動画で見た通り、結構な人がうろうろしている。  武装している者もいれば、無謀に軽装で走り回る集団まで。  ちなみに俺たちが"ProtoNeLTかどうか判断している方法"だが、目や身体の異常だけでなく、ヤツらは体温が急激に下がる時がある。  おそらく維持するために冷却が必要な時があるのだろう。体温の36度程度から、20度くらいに下がったりしている瞬間がある。  この違いはL.S.を通して見るか、ハイスマートグラスを通して見るかで、インスタントサーモグラフィックカメラで見分ける事がある程度可能。なので、あっちにいるのが人間であるという事はすぐ把握できた。  今のとこ、この方法が通用してはいるが、日が経つにつれ改良されそうなため、そう言った意味でも新策をさっさと終わらせるべきだ。 「人が多いみたいだから、ちょっと離れた場所に一旦止めるわね」  そして、大阪駅を正面に見据える形で停車した。  一人ずつ降り、ゆっくりと駅の方へと向かって歩く。  すると大阪駅の範囲に入った瞬間、まだ14時なのに関わらず空が突如豹変し、辺りの風景も"夜の状態"へと様変わりした。 「え、また!? なんで夜になるの!?」  スアは確かめるように一歩下がる。 「えぇ!? 昼間に戻ったよ!? ちょっとみんなも下がってみて!?」  言われたように、俺も一歩下がってみる。  ⋯⋯なんなんだ、これは?  本当に風景が昼間へと戻り、また一歩踏み出すと夜へと切り替わる。意味不明すぎて理解が追い付かず、何回も繰り返してみた。  ⋯⋯やっぱりなんも分かんねぇ  あべのハルカスの時もそうだった。建物に近付いた瞬間に同様の状態へとなったが、何も分からず仕舞い。だからといって、調べようにもあまりに情報が無さ過ぎる。 「⋯⋯おい見ろ! また青と赤に光ってやがんぞ⋯⋯ッ!!」  叫ぶケンの視線先にある大阪駅は、夜の姿になると、赤と青に覆われていた。 「やはり、容易に上まで行けると思わない方が良さそうだ。とにかく、まずは周辺に注意して行こう」  赤色のハイスマートグラスを"簡易小型銃"にし、アマは先を歩き始めた。  いつ
last updateLast Updated : 2025-10-18
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57. 隣撃≪FriendlyFire≫

 さっきのおっさんはなんだったんだ⋯⋯?  あんなに無防備でここほっつき歩いてるし、なんか怪しい。 「ちょっとザイ、どこいくの?」 「あのおっさんを追う。俺以外の5人で上へ続く箇所を探してて欲しい、すぐに戻るから」  俺は一人、こっそりと後を付けてみた。  実はここに来る直前、SNS上でヤバい情報が流れて来た。  この数日間で犯罪が激増しているそうで、その中でも梅田近辺で起きている事件についてだ。  可愛い女の子を見つけては、都合良い事を並べて助けるふりをして、誘拐しているヤツがいるらしい。  見た限りは一人では無く、集団で狙っているというウワサ。  今は警察が機能していないのもあって、店内以外ではほぼ犯罪し放題な側面がある。つまり、協力してされると相当厄介な状態。  もしかしたら、あのおっさんの親しみやすそうな格好と言い草からして、その集団の一人の可能性がある。そうだと仮定すると、キレさせてしまった経緯からして報復されかねない。  この後、何かと邪魔されたら上へ行きどころじゃなくなる。だったら、その芽は先に摘んでおいて損は無い。  幸い、駅ナカが薄暗いのもあって、あっちからはバレにくい。"ProtoNeLT"も意外と巡回していないから静かにやり過ごせる。  それにしても、あのおっさんどこまで行くんだ⋯⋯?  桜橋口の方へと歩く事数分、そこで"5、6人ほどのおっさんの知り合いたち?"が待っているようだった。見るからに、どれもあの男と年代が近く、やっぱり一人ではなかった。  ⋯⋯何やら会話してるな  しゃがんで隠れて聞いてみると―― 「"車岡さん"、そっちはどうだった」 「いやぁ、一番の上玉がいたんだがなぁ、ヤンキーのクソガキに邪魔されてしもうたわぁ」 「銃突きつけてやりゃよかったろうに」 「それがなぁ、あっちも銃っぽいの持っとったわ。迂闊に使ったら返り討ちくらいそうな気がしてな」 「ほんまか。それはまだここにおりそうか?」 「上に知り合いが行ってしもうて探す言うとったから、当分おりそうな気がするで」 「なら、"あっち"にも手伝ってもろうて、こっそり囲んでやってしてまうか。そんで女らは一斉に行って眠らせりゃえかろう」 「おぉ、そりゃええ方法やで、さすが"堀田さん"や」 「へへ。"車岡さん"が言う上玉は期待大やからな、連
last updateLast Updated : 2025-10-20
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58. 階銃≪BlossomEve≫

 小波の羽根4枚が突如肥大化し、それぞれからも海銃の顔が現れていった。  その5つの顔たちは別々の標的をロックオンすると、いつでも殺れると強烈に訴えてくる。 「は、はよッ! はよ撃たんかいッ!!」  車岡が必死に指示しているが、向こう側の"ProtoNeLTの皮を被ったヤツ"は、立ったまま誰一人としてトリガーを引く気配が無い。  なぜなら、見えない間に出力していた"5頭の海銃群"は、既に前方5人のアイツらを気絶させている。  おっさん共が怪訝な顔でソイツらに触れると、まるで魂が抜けたように各々倒れ込んだ。 「ど、どしたんや⋯⋯なんで倒れてしもうて⋯⋯。一体なんなんやこのガキらはァ⋯⋯!? こんなもん、全員で撃ちゃ怖ぁないッ!!!」  堀田がそう言った瞬間、残ったアイツら5人で一斉に俺へと撃ってきた。もう弾が無いのも知らずに。 「⋯⋯あ? なんで何も出んのや⋯⋯? 今撃ったろうがッ!!」 「その持ってるの、"こっちのモノ"になってるからもう使えないよ」 「は? どわぁッ!?」  アマの言う通りに、堀田が持っていた自分の銃を見ると、たちまち驚愕して投げ捨てた。他のおっさんも同様に投げ捨てていく。  それら銃の顔は、"俺の海銃と全く同じ顔"になっていた。普通の銃の役割を放棄させ、海銃に侵食されている状態へと変わっていた。 「さて、戻ろうかザイ君」 「え⋯⋯いいのか?」 「これ以上僕たちがやる必要は無いよ。ほら、放っておいてもこの人たちは、"あの本物たち"からは逃げられない」  なんとおっさんらの背後からは、"本当のProtoNeLT素体"が何体もやってきていた。  こんな数を相手に、立ち止まっている時間があるわけ無い。 「おいッ! なぁ⋯⋯助けてくれやァ!? 金も女もいくらでもやるがなッ!!! ほんまに、ほんまに頼むぅッ!!!」  もちろん助けるつもりは毛頭無い、やってきた事は全て自業自得なのだから。それに、無駄弾をこんなところで消費するのももったいない。   瞬く間に、"本当のProtoNeLT"が所持する"凶悪な長槍"に刺されたヤツらは、逃げ場もなく頭を食われ始めた。  そこに構っているうちに、俺とアマは走って大阪駅構内へと戻っていく。 「⋯⋯よかったんだよな、これで」 「もし
last updateLast Updated : 2025-10-22
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59. 金髪≪IdolGirl≫

 大阪駅2階に着くと、不穏な静けさが漂い、1階同様の赤と青の薄暗さが広がっていた。  しかも、下から微かに見えていた人たちはいなくなっていた。  車岡が言っていたように、"金氷"とやらに付いて行っているのかもしれない。 「うーん、2階からはドローンが役に立たないなぁ」  スアがハイスマートグラスに取り付けている超小型ドローンを操作しながら言う。 「なんか特定の範囲に入ると、使えないっていうの多いですよね」  モアも同様に触りながら怪訝な顔をしている。  そして暗くて見にくいが、ここからの構造もかなり変わっているように見える。  2階がこんな入り組んだようにはなっていなかったはず。  どちらかと言えば、経由するための連絡通路や待ち合わせ用といった感じだったのに、1階と変わらないくらいの複雑さがある。  こんなとこ、行かなきゃいけないのか⋯⋯。  さらには"赤と青が交差する大きな卵"が奥に何個か見えた。  最悪すぎる、あれの中にはヤツらが入っているというのはもう動画で知っている、興味本位で近付くのは絶対ダメだ。  それから、なるべく離れないようにしながら、6人で周囲を照らしながら歩いて行く事数分。 ♢ まずは風通しの良い、視界が広がる場へと出た。  ここへ来る途中、"ProtoNeLT素体"が何体も倒れているのを見た。  その傍には、"金色の氷?"のような何かで包まれたままの弾丸が数発落ちていた。  一般的な銃は、引き金を引くと撃鉄が薬莢の後部を打ち、火薬を炸裂させて銃弾を押し出すようになっている。  こんな氷が残ったままなんてありえるのか⋯⋯? それとも撃った後にこうなった⋯⋯?  どちらにしても訳が分からない。  この弾のサイズからして、ハンドガンの類に当てはまると思われる。まぁそれほど銃に詳しいわけじゃないから、外れている可能性も充分にあるけど⋯⋯。  逆に、ハイスマートグラスの"簡易小型銃"なら素人でも分かり易い。  弾丸が"細長い台形っぽい独特な形状"をしているため、一度覚えてしまえば見間違える事は無い。  リロードが必要無いのが利点ではあるが、ハイスマートグラスの独自エネルギーによる自然銃弾生成のために、一発ずつ一定の生成準備が必要となる。  特性として、残弾数が多いほど生成が速いために、空にせずに生成を促し
last updateLast Updated : 2025-10-23
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60. 秘弾≪ConfidenceBullet≫

 ネットには出ていない大阪救済軍団ってなんだ⋯⋯? だから車岡は「他から来たなら知らんのか」的な事を言っていたのか。 その流れからして、やっぱりどこかに"ProtoNeLT以外のバケモン"がいるのもやっぱり事実なのだろう。 それより、この金髪ツインテの子は相当若いように見える。「俺たちと年齢がそう変わらなそうだけど、何歳か聞いていいか?」「え~? 女の子に歳を聞くのはよくないですよ~? 喜志可プロ~」 メスガキを装った表情が妙にムカつくな⋯⋯。 でも急に聞いた俺も悪いか⋯⋯冷静になって考えたら。「じょ~だんですってば! うちは16歳のピッチピチ高1JKですよ~! ん~と、喜志可プロの2個下ってことになりますかねぇ?」 うわ、若っ。 まぁほぼ変わんないけど⋯⋯。 だけど、高1でこんな危険な梅田周辺を行動しているのは度胸がエグい。しかもこんなオシャレを保った格好というかなんというか。それだけ"金氷月"に属する彼らも信頼してるってわけか。 ⋯⋯ん? よく見ると、左腕のサイドに"夜晴(よはれ)"と深く刻まれている。この子の名前だろうか?「あー! "ヨハレちゃん"って名前知ってる! ランクマのランキング、惜しいところまで行ってたよね!」「え、白神楽プロがうちの事知ってくれてるぅ~!?」 "ヨハレ"という名前の金髪ツインテの子は、目を神々しく輝かせている。「だって勢いヤバすぎて、あのまま抜かされるかと思ったもん! 私はたまたま当たらなかったけど、当たった人はみんな堅実で強いって言ってたしね」「いやぁ~、頑張ったんですけど後一歩及ばずですね~。ランクマの基準だけでプロにはなれないですけど、比率は重いですもんね~」 女子のランクマ順位はよく知らないけど、スアの話からして相当強そうな感じがする。 それなら、これだけ行動する勇気があるのも頷けるが、問題はヤツらを退けられる武器だ。 右手に握っている"金色の冷気漂うハンドガン"が、その鍵を握っているのは明白。 考えていると、いつの間にかエンナ先輩が少し後方へと下がっていた。「ちょ、エンナ嬢!? なんでそんなとこいるんすか!?」「いやぁ、みんな話が弾んでそうだから。私いたら邪魔そうじゃない?」「んな事全然無いっすよッ! もっとこっち来て話してやってください。プロなんかよりもっと価値ある⋯⋯
last updateLast Updated : 2025-10-24
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