Home / SF / 異常のダイバーシティ / Chapter 21 - Chapter 30

All Chapters of 異常のダイバーシティ: Chapter 21 - Chapter 30

61 Chapters

21. 登校≪TOBARI/HighSchool≫

 まさかこんな事が出来る日が来るなんて⋯⋯  リムジンに乗って登校なんて、2次元でしか見た事が無い。  ってか、このリムジンってエンナ先輩のものなのかよ⋯⋯。俺はてっきり親のだと思ってたんだけど。  高校卒業祝いで新車になったこれを貰ったそうで、親はまた別の車を使っているらしい。  このリムジンはあまり使わないようにしているようで、やっぱり自分で何でも出来るようにしたいそうだ。  高校の時、エンナ先輩はいつも電車通学だったっけ。電車が止まったりした時だけリムジンで来てたんだっけか。  もちろん無人自動運転の最新型で、タッチパネルから選んで食べ物や飲み物までサービスしてくれる。これの面白いところは、ちょっと時間は掛かってしまうが、AIが目の前でライブキッチンのパフォーマンスなんてものまであるところだ。  もちろん、天王寺駅前から大阪都波裏学園なんて、車移動で20分もかからないため、使いたいなんて我儘は言わない。 「朝食は何でも遠慮せず選んでいいからね」  黒鮭定食を頼みながら、先輩は俺とスアに囁く。 「俺も黒鮭定食にしていいですか?」 「私も!」 「どうぞ~。美味しいわよ、黒鮭。私のおすすめ!」  数分で用意された黒鮭は焼きたてで、香ばしい匂いが漂ってくる。こんな良い鮭、食べた事ないぞ⋯⋯。   それに並ぶように置かれた白米と味噌汁と納豆は、どれも輝いている。 「ん~! 良い匂い! ずっと嗅いでられる~!」  スアは幸せそうな顔。  これは味わって食べたい⋯⋯けど、時間が無いからなぁ。 「「⋯⋯いただきます!」」  俺とスアはシンクロするように、黒鮭を一口。  ⋯⋯なんじゃこりゃぁ⋯⋯!  表面は炭火で焼いたようなカリっと深い味わい、そこから中に行くほど濃い旨味がぎっしり詰まっている。すぐに甘味もドンと口全体を覆ってきた。  ⋯⋯ダメだ、白米が止まらない! ⋯⋯美味すぎる! 「ふふ、気に入ったみたいね」 「先輩、この黒鮭とサーモンマグロが毎日欲しいです」 「え~、じゃぁ私と結婚しないとだね」 「ごほっごほっごほっ」 「き、喜志可くん!? 大丈夫!?」 「変な事、急に言わないでくださいよ⋯⋯!」 「(⋯⋯あながち、変な事でもないんだな~)」  こっそり言った先輩の言葉はあまり聞き取れなかった。  スアはという
last updateLast Updated : 2025-09-04
Read more

22. 色剥≪LostColor≫

 俺は即座にハイスマートグラスを銃のように構え、海銃へと成り変えた。 「⋯⋯ッ!」  撃った瞬間に色彩が輝き、小波(さざなみ)に包まれた弾丸がヤツの身体へと直撃する。 「な⋯⋯ッ!」  しかし、なんと"ヤツの真っ赤になった身体"にはびくともせず、何度撃っても効かないまま⋯⋯。  こっちを見向きもせず、ヤツは突き刺した生徒の頭を食い散らかし、ソイツの姿へと変異した。 『⋯⋯あれェ? 僕の首が無くなってるゥ? 僕は、僕は、"これからの存在"ってのに、ナレタッテコトォォォォォ???』 「きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!?!??」  阿鼻叫喚に包まれたクラスからは、6ヵ所ある出口へとそれぞれが走って逃げていく。  残った俺たちの前に、目を360度回転させて狂っているアイツ。もはやクラスメイトの面影を一つも感じない。ただ姿が同じだけの、"壊れた何か"がそこにいるだけだった。 「⋯⋯ッ! スアッ! 俺たちも逃げるぞッ!! こいつにはこれが効かないッ!!」 「ザ⋯⋯ザイ⋯⋯足が⋯⋯足が動かなくて⋯⋯」 「は!?」  緊急事態に身体が強張ったのか、どうにも出来ないようだった。 「行って⋯⋯一人で行って⋯⋯」 「⋯⋯なにいって⋯⋯」 「早くッ!! 次のも来てるからッ!!」  スアの視線の先の出口には、"違うヤツ"がさらに来ているのが、見えているようだった。  どうやってもヤツを止める方法はない。あのホテルでは助けられたのに⋯⋯  ⋯⋯スアを見捨てる⋯⋯しかない⋯⋯?  こんなに一緒に、どんな時も一緒に、これからも一緒に生きていきたいのに⋯⋯?  スアを⋯⋯スアを⋯⋯俺は⋯⋯  考える隙など無く、ヤツは"ハンマーのような大きな鈍器"を取り出し、なぜか俺の方へと向いて振りかぶった。  標的はスアではなく、俺だったのだ。  ダメだ⋯⋯俺が逃げればスアに⋯⋯ 「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」  クラスに響く大きな叫び。その声の正体は俺ではない。  彼女が激しく叫んだ後、ピンクのハイスマートグラスを銃のように構えた。  刹那、あのハイスマートグラスから、"ピンクの鏡のような羽が4枚"生え始め、中央からは"新型人工衛星のような姿"が現れた。  放たれた一発がアイツに当たると、途端に赤色が剥がれていき、白色へと変わって動きを止めた。  ⋯⋯もしかして、今
last updateLast Updated : 2025-09-06
Read more

23. 苅銃≪SatellaWrest≫

「それで、何があったの?」  対面に座るエンナ先輩が心配そうに言う。 「学園内にヤツが入って来たんです。人型AIの"ProtoNeLT"が」 「それって昨日言ってた話だよね? ごめん、途中から眠くなっちゃってたんだよね⋯⋯また一から教えて貰えるかな?」  先輩、風呂入ってからふにゃふにゃしてたもんな⋯⋯  俺はヤツに対して知ってる情報全てを、改めて車内で話した。 「ほ、本当なの!? "頭を食べて人間になるAI"がいるなんて⋯⋯」 「はい。俺らが殺されそうになったのも、ソイツが原因なんです。最初は警備員になったアイツが突然現れて、急に"銃殺されるのは好きか"とか言い始めて⋯⋯」 「よくそんなホテルの50階から逃げて来られたね⋯⋯。さすが喜志可くんとスアちゃん、私だったら絶対絶対ぜ~~~~ったい無理だよ⋯⋯」  その後、秘桜アマがなんでここにいたのかの話に切り替わった。 「それで、なんでお前はあんなとこにいたんだよ。アフターバンパクシティの病院にいたはずだろ?」 「昨日の最後にあったAI総理と日岡知事の対談後から、院内の雰囲気が妙におかしくなったのを感じて、抜け出してきたんだ。症状も一時的なものだったから、身体は動かしやすかったからね。きっと君たちも逃げただろうと思い、大会も無くなる可能性が高いと想定した。それで、登校日に設定されているこの日曜、転校の視察で急遽入れさせてもらったんだ」 「転校? 親の都合とかで、か?」 「いいや。喜志可ザイ、君に興味を持ったからだ。普段の生活でどういった事をすれば、あんな強さに辿り着いたのか、参考にさせてもらおうと思ってね。さっきも使っていた"波が連なる銃"、それを手に入れた過程も知りたい」  ⋯⋯え、俺に興味持っただけでわざわざ転校しようとしてんの⋯⋯?  三船コーチは一旦諦め、俺を観察する事に徹底したいというコイツ。  なんか変なのが来ようとしてるんだが⋯⋯ 「だとして何もわざわざ、夏休みの登校日に来る必要無かっただろうに」 「自分の中に衝動が走ったんだ、すぐ見に行った方がいいと。思い立ったら吉日と言うだろ? 夏休み明けから行くための、いいイメージにもなるじゃないか。それほど、僕の中に"あの天井の深海からの巨大銃"が響いたのさ」  謎にドヤ顔で言っているんだが⋯⋯ 「で、ちょうどこのヤバい状況
last updateLast Updated : 2025-09-08
Read more

24. 集結≪Miscellaneous≫

「エンナ嬢ッ! おかえ⋯⋯って、なんでアマがいんだよ!?」 「んな事より、なんだよその格好は」  地下玄関へと迎えに来たケンは、昨日と打って変わって執事のようなスマートな服装をしており、いつもの"黄色のハイスマートグラス"を掛けていた。  髪型も全然違うし⋯⋯ホストっぽいというかなんというか⋯⋯ 「へっ、俺はな、エンナ嬢に雇ってもらったんだ。ゲームのプロなんていつまで続くか分からねぇんだからよ、次の人生も考えとかなきゃだろ? こんなすげぇ大豪邸でボディガードさせてもらえるなんて、いい機会じゃねぇか」  俺の問いに、余裕の表情で淡々と答えるこいつ。  なんだろうか、さっきまでと正反対の雰囲気に、どこか安堵する自分がいた。 「って、俺の事はいんだよっ! アマがいるのはなんでなんだ!?」 「転校の様子見で職員室に来てたアマとばったり会ったんだ、話せば長くなる。まぁいろいろあったんだよ。俺とお前がホテルで会ったあの状況みたいなもんだと思ってくれ」  その後の詳しい説明は代わりにスアがしてくれた。こいつはスアの言う事ならなんでも素直に聞く、俺より適任だ。申し訳ないが、こいつの面倒事はスアに任せよう。  そうして話し合ってる中、俺とエンナ先輩が先にリビングへ入ると⋯⋯ 「あ、おかえりなさい、ザイ先輩、エンナ先輩」  後光が差したあまりに天使すぎる姿に、一瞬誰か分からなかったが、神々しいほどの真っ白なメイド服に包まれたモアがいた。 「えっと、似合って⋯⋯ますかね⋯⋯? ケン先輩が執事服していたので、あたしもしてみようかなと思いまして⋯⋯」  彼女の照れた顔は、あまりに破壊力が高すぎる。  しかし動じる事のないエンナ先輩は、すぐにモアへと近寄った。 「モアさん、私の専属メイドにならない? 給料弾むわよ」  めちゃめちゃ動じとるやん⋯⋯ 「専属メイドですか? あたしなんかに出来るでしょうか⋯⋯?」 「あなたはその格好でいるだけでいいわ。どうせ他の家事は全部AIがしてくれるのだから」 「⋯⋯それって専属メイドの意味ありますかね?」  困惑しているモアの傍へと俺は寄った。 「エンナ先輩、残念ながらモアは、プロゲーミング事務所"Hanged Girl Gaming"の看板娘なんすよ。しかも経営してるのは彼女の父です」 「そっかぁ。やっぱりスアち
last updateLast Updated : 2025-09-09
Read more

25. 本番≪Real/NewDiversity≫

 日常ならば、ここにいる誰もが気しないであろうこのメッセージ。  なのに、命令されているかのように、勝手に手が動いて見ようとしている。  見なければ、俺の仮定した"新ダイバーシティ策の意味"を答え合わせ出来ない、そんな予感があった。 「話の続きはまた今度だ。おそらくこの会見、"新策"についての話が出る可能性が高い。みんなで見た方がいい」 「⋯⋯そうだね。ここはザイ君の言う通りにしようか」  アマにも気迫が伝わったのか俺に賛同し、それに釣られるように各々が見る準備をする。  準備といっても、L.S.を構えるか、ハイスマートグラスから覗いていればいいだけ。俺の見ている画面を、他へ共有すればいいだけなのだから。  もう始まるまで後1分もない。俺はすぐさまL.S.のホログラムパネルを数枚展開し、会見直前の様子を共有した。  するとそこには、日岡知事が優しそうな顔をしながらも、こちらの心が分かっているかのように、ただ真っすぐにカメラ先を見つめていた。 「日岡⋯⋯知事⋯⋯」  あの顔を見ながら、スアが小さく呟く。  その些細な彼女の一言には、これまで感じた恐怖全てが込められているようだった。いつ死ぬか分からない状況でのホテル最上階からの脱出、クラスメイトが目の前で殺された中からの学外への逃走、そのどれもが。  そして、その時間はやってきた。 『皆様こんにちは、日岡です。早速ですが、"新ダイバーシティ策の効果"を実感して頂けてるでしょうか。これは"9月17日までの約1か月間行われる予定"となっております。今日は、この新策に関して説明していきますので、最初から最後まで目を通して頂ければなと思います。さて、先日の分は導入テストのようなものでした。新ダイバーシティ策は、これから本番へと入っていきます』  ⋯⋯これからが本番⋯⋯?  昨日あんなにだったのに⋯⋯これからが⋯⋯  今日の学園内で受けた衝撃さえも、まだ一部だった⋯⋯?  身体中から鳥肌が立ち、心臓の鼓動が速くなり始める。 『まず初めに、"彼らの存在"についてご紹介します。もう見られた方もいる事でしょう』  そう言って日岡知事が映したモノ。  見境なく何度も襲ってきた人型AIのアイツ、"ProtoNeLT"そのものだった。 『略名は"ProtoNeLT"、正式名称は"Prototype/
last updateLast Updated : 2025-09-10
Read more

26. 理由≪ALLReason≫

 ネット上にはあらゆる見解が流れ、この1ヵ月間は外に出ないという人もいる。  ヤツらが何時何処に徘徊しているか分からない、そう考えるのが当然になってくる。  ただ、それは近いうちに限界が来る。水も食料も調達しないといけない。リモートAIで出来るかもだが、この状況になった後でそうそう上手くいくとも思えない。  SNSはどんな反応になっているのか見ていくと、一つ引っかかるものがあった。大阪駅を歩く途中、俺とスアが見かけた"あの青と赤が交差する卵?"だ。あれが左右に大きくひび割れていく様子のリアルタイム動画が流れて来た。  全長3メートルほどの大きさがある中身からは、なんと"数体のヤツら"が姿を現し、近くを歩く人々を襲っていたのだ。大阪駅構内も、今や気安く歩ける場所ではなくなってしまっている。  さらには、卵は他の場所にも幾つか設置されていたようで、大阪環状線の各駅に沿うようにして、何個も発見されている。  天王寺駅にもあったため、もしケンが昨日俺たちと別れて駅に入っていたらどうなっていたのか⋯⋯という妄想がふと過る。  これからは当たり前のように無防備で歩けない、警察もこちらの味方をしてくれないのだから。  しかも、この"ProtoNeLT"とやらは、どう考えても"不完全体である事"がこれまでの経験から分かっている。だから、名前の先頭に"Prototype"と付いているんじゃないだろうか?  人間のあまりに複雑な脳を一度に取り込み、模倣しようものなら、これまでに学習の無いような未知の膨大データを取り込む事になる。多角的な視点や要素に基づいた意志や熟考、ヒトにしか出来ないそれら全部。それによって、例え最新AIだろうとまだ追いついておらず、許容量を超えてオーバーフローしているのだと思う。  ただ、個人差はかなり大きいと見ていい。ホテルで会った警備員の時の動きは、かなり人間に近い動きを出来ていた。人間の脳は一人として同じではないため、取り込み易さの相性があったりするのだろう。  例えば、日常生活で同じ行動を繰り返すような人は取り込み易いんじゃないか? ルーティンワークによって単調な刺激しかなくなっていった脳は、他より複雑さが無いのかもしれない。まぁ取り込むタイミングも重要と考えられそうか⋯⋯。  どちらにせよ、"こんなクソふざけたヤツ"なんぞには、簡単
last updateLast Updated : 2025-09-11
Read more

27. 真実≪Truth≫

「どうして私には無いのかな⋯⋯」  先輩にだけ黒いパンフレットが、どれだけ見ても無い。  理由を考えてみたが、俺たちの中で唯一"ヤツら"に遭遇していないというのがある。  ⋯⋯ん? 待てよ?  俺は今一度、黒霧のパンフレットを見た。 「⋯⋯もしかして、"この新存在から逃げた府民へ"って」 「あの"ProtoNeLT"から逃げる事に成功した人って意味ですかね⋯⋯?」  ふとモアが呟いた。 「あぁ、モアの言う通り。エンナ先輩は"ヤツら"に会っていなければ、逃げてもいません。この黒いパンフレットは、逃げる事に成功した人だけが得られるものなのかもしれません」  私だけ仲間外れだ、と先輩は言うが、それほどいい物にも思えない。だって、真っ黒なんだぞ? そこに赤と青の字でホラーテイストで刻まれている。こんなの自慢出来るものじゃない。  また、ここには"理由集めをしろ"として、最後の方の一つ目に"あべのハルカス屋上新エリア"とだけ、意味不明な事が書いてある。 「つまり、ここへ僕らは行かないといけないのか?」  アマが質問をエンナ先輩以外5人へと投げかけてくる。 「⋯⋯んなわけねぇだろ、今外に行ったら何されっか分かったもんじゃねぇ。1ヵ月間ここから動かない方が正しいだろ」 「ケン君はそれでいいとして、僕らもここで世話になり続けるのかい?」  「いいわよ、私は。ただ、1ヵ月間の食料が蓄えられているか、確認しないとだけど⋯⋯」  エンナ先輩はそう言ってくれて、確認しに行った結果はこの6人で2週間分は持つそうだった。 「2週間⋯⋯。どこかで調達しないとだな」  考える素振りをしているケン。  こいつからは、本気でエンナ先輩を守るという気迫さえ感じる。  いきなり1ヵ月間何も買わないまま引き籠れと言われても、やっぱりこれが現状。この家がそうなのだから、他の家の大半も準備している人なんていないだろう。大量に1か月分の冷凍食材や食品を買ってる家がいくつあるかって話だ。案外、数えるほどしかいないと思う。 「どの店のドローン配達も止まってるね」  ふと、L.S.のホログラムアプリを見ながら、次はスアが囁いた。  ついさっきまで開いていたお店がどこも休止状態になっており、出前も宅配もどれもやっていない。  外にいればいつ死ぬか分からないのに、そんなところ
last updateLast Updated : 2025-09-12
Read more

28. 一人≪Silent/ALONE≫

「そっか~。スアちゃんにも私に似たクセがあるなんてさ、より親近感が沸いていいわぁ~」 「うぅ⋯⋯師斎会長、もうこれ以上イジらないでくださいぃ⋯⋯」 「え~? 可愛くていいじゃない。ねぇ、モアさん?」 「ホテルから逃げる時にやってるのを見たんですけど⋯⋯可愛いからいいと思います⋯⋯!」  まだその会話続けてんのか、この美女3人衆は。  にしたって復活が早いな、エンナ先輩は⋯⋯。  そのせいで、俺はずっとケンに肩を組まれてるんだが⋯⋯。 「おい、あのクセはいつからやってもらってんだぁ? あぁ?」 「もういいだろ⋯⋯。そもそも、俺じゃなくてスアに聞けよ」 「てめぇ、分かってんだろ? あれをされたいクソ野郎共がどれだけいるか。なぁ、アマ?」 「僕は別にそんな事に興味は無い。二人の"怪獣"には興味あるけどね」 「はぁ? "怪獣"?」  あれ、ケンは気付かなかったのか。  ホテルから抜け出す最後、薄暗くて俺の"海銃"が見えなかったそうだ。  まぁ、気付いていたら車内で聞いてくるはずか。  見せてくれとうるさいため、俺は水色のハイスマートグラスを銃のようにして、"海銃"を出してみせた。 「うおッ!? お前、なんでそんな事できんだよッ!? それってゲーム内だけのもんだろッ!?」 「それが分からないんだよ。急にこうなって⋯⋯」 「これを見れば、ケン君も"さっきのどうでもいい事"より、こっちが気になってきただろう?」 「んー⋯⋯いや、だとしてもまずは"さっきの"だな。徹底的にこいつを問い詰めねぇと」  その後、なんとかケンとアマを振り払い、他の部屋へと逃げ込んだ。  いつまでもめんどくせぇし、反動で和み過ぎなんだよあいつら。AR e-Sportsのプロなら、もっと他にすべき事があんだろうが⋯⋯。  さて、エンナ先輩には申し訳ないけど、ちょうど一人の時間も欲しかったし、この後どうするかを真面目に考えないと。  はっきりしたのは、アマがさっき言った通り、籠城すればするほど徐々に首を絞められていく事は分かった。なら、じっとせずに"何かしらの解決策"を探したほうがいいのは明白。  でも、急いだっていい事は無い。こういう時、ゲームなら焦った人間から殺されていく。いっても俺だって一応プロの端くれ、判断力や正確性はその辺の連中よりは自信がある。  そ
last updateLast Updated : 2025-09-13
Read more

29. 沸騰≪Boiling/FACE≫

「ケンとアマはいないな?」 「はい、大丈夫です。トイレ行ってくると言って、こっそり来ましたから」  L.S.から廊下の天井カメラを確認すると、動きやすそうな黄色のジャージ服に着替えたモアだけが立っていた。  俺は座ったままドアの方を向き、指でドアロック解除のサインを送る。  すぐに自動ドアは開き、モアが入ってくる。 「すみません、いきなり」 「全然いいよ。それよりここ、座り心地最高にいいぜ」 「これってマッサージチェアですか?」 「そう。座ってみ」  代わってモアが座ると、「おわぁ~⋯⋯」と気の抜けたような声を出した。  このマッサージチェアは、その辺のものとは明らかに別物だ。座った瞬間にその人の身体に合う形へと変化し、さらにはどこをどのように刺激するのが最適か瞬時に判断して、"プロ並みの整体"を受けられる。  抜けられないぜ、そのマッサージ沼からはそうそうに。  ってか、モアのスカート短すぎないか? 足場がもう少し上がったら、この視点からだとパンツ見えそうなんだが⋯⋯。  気持ち良さそうに目を瞑るあの顔は、何も気にしてませんって感じしてるけどさ。  まぁでも大丈夫だろ、あれ以上に足上がる事ないだろうし。 「おーい、寝るなよー?」 「⋯⋯起きてますよ~。ごめんなさい、もう少しだけ」 「すんげぇ気に入ってんじゃん」 「こんな高機能なイス、初めてなもので⋯⋯」 「俺もここまでいいのなんて座った事無いなぁ。何円するんだろ?」  ネットで調べてみると、"約500万ぐらい"だと出てきたんだが⋯⋯嘘だろ⋯⋯? しかも、"特別な最上会員様専用のオーダーメイド品"とある。  医療にも高い効果があるようで、治らないとされる腰痛や頭痛など様々な疼痛(とうつう)に対し、続けていれば治ると書いてある。  こんな気楽に座っていい代物では無かった。まぁでも、変な使い方しなきゃ大丈夫だよな⋯⋯? こんな機会、滅多に無いしちょっとぐらい⋯⋯。 「ザイ先輩。もしかして、凄い高級品でした⋯⋯?」  目を開けてこっちを向く彼女に、俺は静かに頷いたが、バレないうちに使っておこうと謎の結託をした。  ってか、モアは二人きりで話がしたかったんじゃなかったっけ。 「それで、話があるって言ってたよな?」 「あ、すみません、あまりに気持ち良すぎて全部飛んじゃって
last updateLast Updated : 2025-09-14
Read more

30. 社長≪Muscle/President≫

 結局、最後までモアにマッサージチェアを奪われてしまった。  まぁ、好きなだけ使っていいよと言った俺が悪いんだけど。  だって、わざわざ来てくれた後輩の女の子に、代わってくれなんて言うのもあれだろ⋯⋯。  ってか、モア寝てる⋯⋯? 「モア、そろそろリビング行くぞ。エンナ先輩のお父さんが来る」 「⋯⋯はぇ? あたし、寝てました!?」 「寝てたな。それだけ疲れてたんだろ」 「ザイ先輩に代わろう代わろうって思ってたらいつの間にか⋯⋯。えへへ」  なんだその男が絶対許してくれそうな顔は。  ギャル天使じゃなくて、ギャル悪魔の方なのか?  そういや、今まで後輩の女の子と接する事ってほとんど無かったが、いざ出来たらこんな感じなのかな。  うーん、モアが特別な気もしてきた。  ⋯⋯とりあえず、後でエンナ先輩に頼んで、また後で使わせて貰えるか聞いてみようか 「あたしから先に戻りますね、トイレに行くって言って来ましたから。結構な長いトイレになっちゃいましたけど、家をちょっと見学してたとか言えばいいですかね?」 「それでいいんじゃないか、こんな滅多に無い豪邸なんだしさ」 「ですね。それに、一緒に戻っちゃうと、また先輩がぐちぐち言われちゃいますもんね」 「ダルいからな、特にケンが」 「(私は言われる方が嬉しいですけど⋯⋯)」  今、小声で何か言っていたような?  それより、なにかと無防備だよなモアって。  大会ではあんなに派手に活躍するのに、俺の前では普通に寝たり、クソ短いタイト系のスカートで対面に座ったり⋯⋯。  あんな事してたら、他の男だと何されるか分からないぞ、後でひっそりと注意しとこうか。  ⋯⋯さて、そろそろ俺も戻っていい頃だな。  一人リビング前へと戻ると、自動ドアが開いた瞬間、"エンナ先輩の父親らしき人?の背中"が目に入った。 「師斎社長、お久しぶりです」 「お、おぉ、久しぶりだなぁ喜志可くん。また背が伸びたんじゃないか?」 「どうですかね。自分ではあまり気付かないですが」 「ははは。少しガタイも良くなって、前よりがっちりしているよ。相当なトレーニングをしているのが分かるぞ」 「いえいえ、そんな社長ほど大したものでは⋯⋯」  「また落ち着いたらジムへ行こうじゃないか! ははは!」 「あはは⋯⋯」  この人とジム行
last updateLast Updated : 2025-09-16
Read more
PREV
1234567
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status