All Chapters of 誘拐され流産しても放置なのに、離婚だけで泣くの?: Chapter 331 - Chapter 340

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第331話

凌は美鈴の柔らかな体に近づき、彼女の体が一瞬こわばるのをはっきりと感じ取った。彼女は眠っていなかった。ただ彼を相手にする気がなく、眠ったふりをしていただけだ。凌は内心喜んで、そんなことは気にしなかった。彼は小声で言った。「律がお見合いするんだ。芳子と会わせようと思っている。その時はお前も一緒に来てくれ」彼は密かに、美鈴が律が他の女性とお見合いするのを見て、律への想いを断ち切ってくれることを願っていた。そして、本当の意味で忘れてくれることを。美鈴は目を開けた。横向きに寝ていた彼女の目の中の怒りは、薄暗い光の中でもはっきりと見て取れた。「凌、あなたは彼を受け入れられないのね?」彼女から見れば、凌が芳子を律に紹介するのは、完全に悪意のある行為だった。彼は彼女がかつて律を好きだったことをずっと気にしていた。しかし、律と芳子をお見合いさせるなんて、本当に気持ち悪い話だ。月乃のような性格の母親から、まともな娘が育つわけがない。凌の表情が少し険しくなった。美鈴の反応は彼の予想を超えていた。彼がこの件を美鈴に話したのには、確かに別の意味があった。しかし、彼女がこれほど怒り、しかも事もあろうに彼の意図を悪く解釈するとは、凌も思っていなかった。「美鈴、ただの提案だ」彼は我慢強く説明した。「それに、彼も快諾してくれたんだ」美鈴は冷笑した。自分と安輝がここにいる限り、律が同意しないわけがない。「凌、もしあなたが彼を見るのが嫌なら、無理に寛大ぶってここに住まわせる必要はないわ。いつも人を脅すようなやり方で、自分の行為がどれだけ嫌らしいか分からないの?」自分はこのような脅しを嫌悪している。凌は手を伸ばして明かりをつけた。明るい光の中、彼女の嫌悪は隠すことなく露わになっていた。「私はもうあなたとの復縁に同意したわ。これ以上何を求めているの?」彼女は布団を抱えて体を起こした。「あなたは彰の一生を台無しにしただけでなく、今度は律まで巻き込もうとしている。どうして彼らはあなたの妹たちとしか結婚できないの?」彼女は立て続けに詰め寄り、凌に説明する機会も与えなかった。そして、凌ももう説明する気を失った。彼女の態度に心が冷めた。ただ律に縁談を紹介しようと言っただけなのに、まるで律を無理やり結婚させ
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第332話

美鈴が目を覚ました時、凌はクローゼットから出てきたところだった。黒いシャツを着た彼の姿はすらりと長く伸びていた。視線を向けてきた時の表情は淡々としていた。美鈴は眉間を揉みながら起き上がり、携帯を探した。アラームをセットしていたはずだ。夜中に眠れず、明け方にうたた寝したせいで、アラームが鳴っても聞こえなかったのかもしれない。安輝のことが気がかりだ。凌の方も見て、律と芳子のお見合いについて話そうと思った。しかし、起床して身支度を整え一階へ降りた時、凌は既に出かけていた。食卓では律が安輝に朝食を食べさせており、彼女を見て微かに眉をひそめた。「凌と喧嘩したのか?」凌が出て行く時、明らかに彼は機嫌が悪そうだった。美鈴は卵を一口食べ、考え込んでから尋ねた。「あなたが芳子さんとお見合いしするのは、凌に強制されたから?」律は合点がいった様子で、「この件で喧嘩したのか」と納得した。美鈴は真剣な面持ちで言った。「どうあれ、あなたが芳子さんと一緒になるのは嫌だわ。彼女の……彼女の母親は決して仲良くなれるような人ではないから」「私が自ら進んでお見合いを望んだんだ」律は安輝をリビングで遊ばせると、ゆっくりと語り始めた。「知っての通り、私の母は私に結婚を強く勧めてきてるんだ。相手は誰でも同じことだ」美鈴は驚いた、自発的だって?榊家の人を選ぶほどに?彼女は眉をひそめた。「よく考えてよ。結婚は一生のことよ。一歩間違えば全てが狂うわ」自分自身のように、今もこの泥沼から抜け出せずにいる。「それは誤解だ。凌は提案しただけで、実際に会うと返事したのは私だ」律が説明した。律自身が望んだことでもあった。彼が自発的なら、美鈴にはこれ以上言うことはなかった。朝食を済ませると、彼女は会社へ向かった。調整が必要なオーダーメイドの香水が二つあるうえに、澄香がもうすぐ手術を受けるから、彼女は付き添う時間をなんとか作らなきゃいけなかった。午前中はずっとバタバタしていて、美鈴が休めたのはようやくそのあとだった。午後は特に用事がなく、会社を沙奈に任せると、美鈴は病院へ向かった。病室の入り口まで来た時、珠希の声が聞こえた。美鈴はすぐに中に駆け込んだ。しかし、病室の中の状況は、彼女が想像していたような一触即発の状況ではなかった。
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第333話

美鈴はまだ廊下に出たところだったが、雲和の病室から悲鳴が聞こえてきた。美鈴はドアのそばまで行き、中を覗いた。病室の中は騒がしかった。珠希が連れてきたボディーガードが蘭を押さえつけ、珠希自身は雲和を押さえ、彼女の頬に強くビンタをした。「私を陥れるつもりだったのね、雲和。私がお人好しだと思ってたの?」珠希はずっと雲和を自分の親友だと思い、心から彼女のために色々手伝い、彰と結婚して穂谷家に嫁げるように願っていた。澄香に対抗し、安輝を拉致するほどまでに。しかし、最後に得たのは、ただの裏切りだった。これは、珠希にとって人生でいちばんの屈辱だった。「ねえ珠希、お願いだから話を聞いて」雲和はただ懇願するしかなかった。「あなたが怒っているのは分かるけど、私にも事情があったの」彼女は自分の苦境を泣きながら訴えた。「分かってるでしょ、彰は私のことが好きじゃないし、榊家も私のことを家族の一員として認めてくれないの。私が刑務所に行けば、私の人生は終わりだよ。でもあなたは違うわ。あなたには愛情をたくさん注いでくれる両親と兄がいる。彼らはあなたを見捨てたりしない。ほら、今だって無事ここに立っているでしょ?それに、安輝は何ともなかったのに、美鈴はあなたを執拗に追い詰め、刑務所に入れようとしているのよ。全部彼女のせいよ。彼女を責めるべきじゃない?」最後の声は裏返っていた。珠希は純粋で騙されやすい性格をしているが、一度裏切られた後は、もう騙されなかった。美鈴はスマホの録音を見て、少し安堵した。この録音があれば、雲和が珠希に拉致を唆した証拠になる。美鈴はそっと立ち去ろうとした。しかし、振り向くと、そこには月乃が立っていた。彼女は音を立てずに、じっとそこに立っていた。美鈴はスマホを握りしめた。月乃は彼女の前に歩み寄り、穏やかな笑みを顔に浮かべていた。「美鈴、スマホを渡しなさい」口調は穏やかだが、その言い方には一言の反論も許さない強さがあった。美鈴がスマホをポケットに入れようとした時、月乃のボディーガードに奪われた。月乃はその録音ファイルを開いて聞いた後、削除した。彼女は携帯を美鈴に返しながら、優しく言った。「家族同士なんだから、やはり寛容であるべきよ。この録音が外部に漏れたら、榊家の評判に影響が出るわ
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第334話

珠希は周藤から聞いたことがあった。自分が警察署から出られたのは、榊月乃という人が助けてくれたおかげだと。彼女は怒りを抑え、月乃にお礼を言った。そして雲和を見て、強く言い放った。「あなたのおばさんの顔に免じて、今回だけは見逃してやるわ。次に私の手にかかれば、生き地獄を見ることになるからね」月乃は首を振り、相変わらず微笑んでいた。慈愛に満ちた長輩のふりを、とても慣れた様子でして見せた。珠希は病室から出ていった。月乃の笑みが薄れた。彼女はベッドサイドに歩み寄り、雲和を見下ろした。雲和は蘭の腕の中から抜け出し、小さな声で「おばさん」と呼んだ。「パン!」月乃は手を引っ込め、冷たく言った。「この馬鹿者が」雲和は頬を押さえ、声を上げて泣くことすらできなかった。蘭は我に返り、雲和をかばった。「どうして殴るのよ?」月乃は冷たい目で彼女を見つめ、「出てって」と言った。蘭はボディーガードによって、強制的に連れ出された。病室には月乃と雲和だけが残った。雲和は唇を噛み、ゆっくりとベッドから降りた。長い髪に隠れた顔には恐怖の色が浮かんでいた。「おばさん」月乃はゆっくりとソファのそばに歩み寄り腰を下ろすと、全身を包んでいた柔らかな気配が鋭いものに変わった。「雲和、あなたがこんなに愚かだとは思わなかったわ」雲和は指を握りしめ、顔を真っ赤にしていた。しかし、反論する勇気はなかった。「今あなたにとっていちばん大事なのは榊家に戻ることだろうに、病院でまだゴロゴロしてるって、まさか私が大げさに迎えに行くのを待ってるつもりなの?」月乃は遠慮なく雲和を罵った。雲和はうつむき、なんとか弁解しようとした。「私は……わざとじゃないの、ただ……」「わざとじゃないって?」月乃は雲和の小細工を見抜き、冷ややかに言った。「あなた、凌が迎えに来るのを待ってたんでしょ。昔みたいに彼の愛を独り占めできると思ってるの?」「雲和、あなたのやってきたことを考えたら、私が凌だったらとっくに見捨ててるわ」雲和は居心地が悪そうだ。「妹のくせに、凌の心の中でどっちが大事かを美鈴と競ってるなんて、幼稚にも程があるわ」雲和は涙をこらえた。その通りだわ。自分がずっと病院にいたのは、凌が迎えに来てくれるのを待ち、自分がまだ彼の心
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第335話

澄香は急いで美鈴に帰るよう促した。美鈴は首を振り、「今帰っても特にアイデアとか湧かないから、しばらくこのまま澄香のそばにいるわ」彼女は尋ねた。「彰は来た?」澄香は彼女が彰の名前を出すとは思っておらず、一瞬呆然としてから首を横に振った。「来なかったわ」あの日、美鈴がはっきりと言い切ったせいか、彰は良心の呵責に耐えられず、この二日間姿を見せていないらしい。澄香は彼が来ないことを願っていた。彼女の彰への気持ちは、もう完全に断ち切っていた。美鈴は軽くため息をつき、「彰と雲和は離婚する可能性があったのに、月乃さんが介入したせいで、もう離婚できなくなったと思う」と言った。「彰が自分で必死になって娶った女だから、離婚する必要なんてないわ」澄香は唇を尖らせた。彰と雲和は、実はもう三年前から付き合っていた。澄香は鮮明に覚えている。彰に説明を求めに行った時、彰が雲和をグッと引き寄せて、「俺は雲和のことが好きだ。君とはただ遊んでいただけにすぎない」と言ったことを。あの過去のことを考えると、澄香は今でも胸が痛む。今回、彼女は片手が使えなくなった代償を払って、ようやく悟ったのだ。「手術が終わったら、海外に行きたいわ」澄香は心の中で既に計画を立てていた。彼女にはまだ叶えていない夢があり、それは例え手が不自由になっても、追いかけ続けたい夢である。「いいわね」美鈴は彼女のために喜んだ。澄香はちょっと考えてから言った。「あなたの子供が生まれるまで待つわ」今の美鈴のそばには自分しかいない。自分は美鈴のそばに残る必要がある。少なくとも、子供が生まれるまでは。美鈴はお腹を撫でながら、心がポカっと温かくなった。彼女もまた、子供が生まれる時に澄香がそばにいてほしいと願っていた。「じゃあ退院したら私のところに来てね」美鈴が言った。「沙奈っていう私のアシスタントがいるの。とても良い子だから、きっとすぐに仲良くなれるわ」澄香も「わかったわ」と快諾し、ちょっとした大人の夏休みを取るつもりでいた。美鈴が病室から出てきたとき、月乃もちょうど雲和の病室から出てきた。彼女はすぐに避けようとしたが、月乃に見つかってしまった。月乃は笑顔で声をかけた。「美鈴ちゃん」あたかも親友かのような口調で美鈴を呼んだ。美鈴は聞こ
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第336話

美鈴は、二階の手すりのそばに立ち、月乃がお手伝いさんに何か頼み事をしている様子を見ていた。自分の記憶が正しければ、月乃の夫は不治の病で現在治療しているはずだ。しかし、その割には月乃は元気で少しも落ち込んだ様子を見せていない。明日香も同じことを考えていた。「晃大さんが本当に気の毒だわ」晃大本人は病院で死を待っているのに、妻はここでパーティーを開き、夫を失うことへの苦痛など微塵も感じていない。美鈴は唇を歪めた。月乃がこんな人なら、明日香も大差ないだろう。月乃は重病の夫を顧みず、明日香は妊娠中の女性を地面に突き倒した。どちらも同じくらい冷酷だわ。「明日香!」そばから倫太郎の声が聞こえた。明日香は冷たい目で見やり、まもなく元夫となる倫太郎をひどく疎ましげに扱った。「何しに来たの?」榊家の男はみんなイケメンであることで有名で、もちろん倫太郎も例外ではなかった。50歳を過ぎても、相変わらず若々しい。これが彼が今も若くて可愛い女性を見つけられる理由だ。倫太郎は優しく明日香の手を握り、情け深く「明日香、君とちょっと話でもしたいと思って」と言った。明日香は、その気持ち悪い手を払いのけた。「私から離れて」倫太郎は軽くため息をつき、優しく情熱的な目で愛情を込めて聞いた。「明日香、俺たちは何だかんだ長年夫婦として一緒に暮らしていた。本当に許してくれないのか?」彼は落ち着いた声で、優雅に言った。「今では凌も大きくなったし、一人前になった。俺たち二人でだけで旅行にでも行かないか?景色の素晴らしい場所をいくつか知っている。きっと君も気に入るよ」明日香は無視するように、「倫太郎、あなたって本当に気持ち悪いね」と言い放った。そして、彼女は足早に去っていった。倫太郎は彼女の後ろ姿を見つめ、目に浮かんでいた情熱が次第に冷めていったが、振り返るときには再び穏やかな表情に戻っていた。「美鈴、君から彼女を説得してくれ」美鈴の表情は淡々としていた。「私にどう説得できるって言うのよ?」彼女の口調はひどく硬かった。倫太郎は小声で言った。「彼女は何より凌を大事にしている。君のお腹に凌の子がいるんだ。子供のことを思えば、きっと君の願いも聞き入れてくれるだろう」子供?美鈴は皮肉っぽく口元を歪めた。倫太郎の目には
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第337話

ほどなくして、芳子は多くの人と知り合いになった。芳子は落ち着いた様子でずっと月乃のそばにいた。美鈴はチラッと見ただけで、視線をそらした。美鈴は小さなケーキを一口食べると、胃の具合も少しだけ良くなった。彼女が帰ろうとした時、月乃が芳子を連れて近づいてきた。美鈴が口を開く前に、月乃が自ら携帯を差し出した。「美鈴、私が携帯を預かっていたのは、あなたのためなのよ。妊娠中なんだから、携帯を使うのを控えめにしないと。電波が心配でしょ?」見事な見かけ倒しだわ。美鈴は無表情で携帯を受け取り、「あの時はこんなこと言ってなかったですよね?」と聞いた。月乃は美鈴が告げ口するのを全く恐れていなかった。「私もそうしたくてした訳じゃなかったの。今日は芳子にとって大事な日なの。あなたたちが来てくれたことで、彼女にとって大きな励みになったわ。美鈴、私がちゃんと埋め合わせするから、無駄足にさせないよ」月乃は優しく微笑んだ。まるで美鈴が彼女のお詫びを欲しがっているかのように。美鈴はもう月乃と話す気になれなかった。何を言っても、月乃は自分の都合のいいように解釈するだけだから。簡単に言えば、月乃は人の話が理解できないのだ。こんな人と話すのは、自分が疲れるだけだわ。「凌と本郷さん、今日は来てくれてありがとうございます」芳子は要領が良く、すぐに月乃に続いて口を開いた。美鈴は凌の袖を引っ張った。「もう帰ってもいい?」凌は彼女の手を握りしめた。「もう少し待て」彼女は眉をひそめ、不機嫌そうだ。凌は小声で言った。「律が後で来る」美鈴はすぐに、今朝律としていたお見合いの話を思い出した。彼がここに来るのは、芳子に会うためだろう。彼女は帰りたい気持ちをグッと抑えた。「わかったわ」美鈴の言葉が終わらないうちに、律がやってきた。その颯爽とした姿は、すぐに芳子の目を引きつけた。「律?」彼女は驚きながらその名前を呼んだ。律はうなずき、上品で優雅な雰囲気を漂わせながら、「芳子」と返事した。親密な口調だ。芳子は自分の恥ずかしさを抑えきれず、一瞬で顔を赤らめた。月乃は微笑みながら尋ねた。「温井家の御曹司である、律さんだよね?」律は頷き、「月乃さん、こんにちは」と返した。彼の上品な物腰と礼儀正しさに、芳子は思わず何度
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第338話

一気に空気が緊張し出した。向こうはパーティーで賑やかなのに。凌が律に聞いた。「芳子はどうだ?」律は口角を上げた。「やはり記憶していた通り……」彼は少し考えてから付け加えた。「綺麗なままだ」美鈴は聞き間違えたかと思った。つまり、律は芳子のことを気に入ったっていう意味かしら?凌は静かに安堵の息をついた。まさに自分が望んでいた結果だ。彼は美鈴を一瞥して、淡々と声を落とした。「律は安輝のために三年間独り身を貫いて、ようやく気に入る相手が現れたんだ。もし芳子もその気なら、二人で付き合ってみてもいいんじゃないか?」律は携帯を軽く左右に振って、「じゃあ、連絡先を教えてもらえると助かる」と言った。美鈴は躊躇い、結局言った。「本当に芳子さんに連絡するの?」彼女は温井家の事情と月乃の気性を考え、忠告した。「もう少し見極めてからでもいいんじゃない?急いで芳子さんに連絡しなくてもいいと思うけど」律は彼女の目を見て笑った。「どうせいつかは結婚するんだから、知り合いの人を選んだ方がいいだろ?」「あなたと彼女は大学時代に会っただけじゃない。それほど仲がいいっていうわけでもないんでしょ?」「もういいだろ、美鈴。律は自分でよく分かっているはずだ」凌がなだめた。凌は、ことがうまく進んでいるのを喜んでいた。彼はお手伝いさんが通りかかったときに一声かけると、すぐに芳子がやって来た。「私のこと呼んだ?」彼女は尋ね、できるだけ律を見ないようにした。律は直接携帯を開いた。「同級生同士だ。せっかくだから連絡先を交換しよう」芳子は目をパチパチさせ、一瞬固まってからようやく言われたことを理解し、携帯を取り出して律と連絡先を交換した。「今度食事でも行こう」律が言った。「うん、わかった」彼女は少し呆然として、そういうものだろうと思いつつも、信じることができなかった。律は電話に出ると、その場から離れた。芳子は我慢できず、こっそり凌に聞いた。「これってつまりどういうこと?」凌は彼女に隠さず、お見合いのことを話した。芳子は目を大きく見開き、信じられないというような様子で、「つまり、彼は私とのお見合いを希望しているってこと?」と聞いた。凌は彼女の肩を叩き、「芳子、お前は彼に決して引けを取らない。だから、無理に合わせる必要な
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第339話

美鈴はびっくりして、つい彼女を避けてしまった。美鈴には、雲和が謝るのになぜわざわざ跪くのかが理解できなかった。大勢の人が見ているから、尚更美鈴が雲和をいじめているかのように見えてしまう。「立って」雲和の涙はさらに激しくなり、「許してくれたら、立ち上がるわ」と言った。自分はもう覚悟を決めた。刑務所に入るわけにはいかない。雲和は静かに涙を流し、「私はただ……美鈴に許してほしいだけなの。この数年、自分の醜い嫉妬心のせいで、澄香をいじめてきてしまったわ。今は本当に後悔しているの。美鈴、どうか私のことを許して欲しいの。許してくれるなら、何でもするわ」彼女はもう、すべてを捨てる覚悟を決めていた。やはり月乃は冷酷な人間だ。美鈴は冷笑し、「雲和、あなたが跪いたからと言って、私があなたを立ち上がらせることは別にないわよ?」と言い放った。自分は別にマリア様でもないし。「跪きたいならそのまま跪いてればいいわ」彼女は背を向けて立ち去ろうとしたが、雲和に服の裾を掴まれた。「美鈴、私に悔い改めるチャンスすらくれないの?」美鈴は彼女の手を強く振り払い、「ないわ」と吐き捨てた。夕星のことも、澄香のこともあった。雲和にはチャンスを求める資格すらないわ。美鈴は少しイライラし、後のことを凌に任せようとした。「あなたが後は解決して」凌は雲和を引き起こし、眉をひそめて言った。「もう十分だ、雲和」こうした状況で跪くことは、疑いなく美鈴に対する道徳的な圧力にほかならない。「凌、もうちょっと優しくしてあげて。彼女はあなたの実の妹よ」月乃は驚き、雲和を自分のそばに引き寄せた。「話し合いで解決できるから、雲和を怒らせないで」雲和は泣きながら訴えた。「おばさん、私はただ誠心誠意に謝罪をしたいだけなの。本当に悔い改めるから」もともと弱々しい風貌の彼女は、泣くとさらに哀れに見えた。雲和が榊家のお嬢様であることは、もはやもう秘密ではない。だから彼女に同情する人も多い。月乃は丸く収めようとした。「あなたと美鈴は雲和を実家に連れて帰りなさい。雲和が悔い改めたら、自分の妹として榊家に迎え入れてあげて。もし悔い改めなかったら、追い出して自生自滅させればいいわ」「だめだ」凌は眉をひそめた。雲和はとっくに昔の雲和ではなくなっている
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第340話

美鈴はあまり気分が優れていなかった。彼女は律が良い人と結婚をして、愛する妻を得られることを願っていたが、その相手が芳子だと思うと、なぜか胸がざわついた。なぜよりによって芳子でなければならないの?彼女がぼんやりしていると、突然誰かに手のひらを握られた。その温もりで彼女は我に返った。「まだ律のことを考えているのか?」凌は上機嫌だ。ただ上機嫌であることがバレないように隠していた。美鈴は俯いて、凌のスラリとした指を見つめながら、心に淡い嫌悪感が湧き上がった。「これから榊家は雲見市でやりたい放題だろうね」実力伯仲の穂谷家と姻戚関係になり、さらに温井家にも繋がりもできた。言ってみれば、榊家はこの先すっかり安泰ってところね。凌は彼女の指を弄びながら、低い声で言った。「律と芳子のことは、彼ら自身に決めさせよう。俺は干渉しない」美鈴は信じなかった。温井家と繋がれるこんな好機を、彼が黙ってて何もしないわけがない。車が榊家の実家についた。美鈴と凌が降りると、別の車が続いて入ってきた。そして、車のドアが開いた。雲和がドスンと美鈴の前に跪いた。白いロングドレスに汚れがついていた。「美鈴、私をここに住まわせて欲しいの」彼女の長い髪はさらりと垂れ、目に涙を浮かべていた。美鈴は雲和の前に立っていた。彼女は無表情で雲和を見下ろし、冷たい声で言った。「誰の指示で来たの?」雲和は涙を拭いながら答えた。「おばさんよ。おばさんは全て私が引き起こしたトラブルだから、私が責任を取るべきだって言ってた。まずはあなたに許してもらえるまで謝り続けるの。もちろん、私は本当に反省しているの。美鈴、本当に申し訳なかった。私のことを殴ってもいいし蹴ってもいいし、なんでも好きにして。あなたのそばにいて、自分が犯した罪を償いたいの」月乃の指示かしら?美鈴は冷笑した。月乃は本気で「和を以て貴しとなす」を実践しているようだわ。だからこそ私生児をここに押し込んだのね。「立て」凌は眉をひそめて雲和を見た。「みっともないなあ」雲和は唇を噛みながら美鈴を恐る恐る見て、首を振った。「美鈴が許してくれない限り、私は立たないわ」美鈴の表情は夜の闇の中で冷たかった。「それなら跪いたままでいて」彼女はそのまま去って行った。雲和は
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