遠くから見つめ合う二人。蓮司は優しい眼差しで天音をしばらく見つめた後、先のメイドが天音の耳元で何かを囁くと、彼女の瞳に揺らぎが広がったのを確認し、ようやく安心して去って行った。蓮司はロールスロイスの後部座席に乗り込みながらも、まだ不安そうで「天音の警護を厳重にしてくれ」と指示した。天音はメイドたちに休暇を与え、彼女たちが喜んで出て行くのを見送った。そして、部屋の入り口にはボディガードが立っていた。天音は淡々としたまなざしで扉を閉め、着替えた。階下に降りると、法律事務所の専属配達員が到着していた。天音は株式を慈善基金会に寄付する契約書にサインし、監督弁護士の名簿を更新した後、配達員を帰した。シンプルな白いシャツにジーンズ、波打つ長い髪をポニーテールにした天音は、まるで16歳、初めて白樫市に来た頃のようだ。別荘全体を見渡した。新しい間取りのせいで、かつてここで暮らしていた痕跡を思い出させるものは何もなく、ただウェディングドレスの写真や三人家族の写真、そして蓮司の冷たい顔が絶えず脳裏に交錯した。ペンを取り、カレンダーの残りの日付を塗りつぶし、今日の日に印をつけた。天音は気持ちを落ち着かせ、別荘を出て送迎車に乗り込んだ。「まずは警察署へ行って宝石を受け取ろう」2台の車が送迎車を挟むようにして先導した。星辰ホテルと警察署の間の大通りは、東雲グループと煌星グループの結婚式という大イベント、さらに世界コンピュータ競技大会の開催と政府関係者の来訪が重なり、交通規制されていた。道路は人で埋め尽くされていた。クラクションの音がひっきりなしに鳴り響いていた。天音は眉をひそめた。「時間がない。少し歩こう」ボディガードたちは全員車から降り、何人かは先導し、何人かは警護し、何人かは後方を守りながら、人混みの中へと入っていった。大きな手が天音の方に伸びてきた。彼女はためらうことなくその手を掴むと、人混みに引き込まれ、がっしりとした腕の中に抱き寄せられた。ボディガードたちは、ほぼ次の瞬間には天音の姿が見えなくなっていることに気づき、人混みの中を必死に探した。「あそこだ!」「いや、あっちだ!」白いシャツ、ジーンズ、ポニーテール姿の女性たちが、次から次へと人混みから現れ、ボディガードたちの視界を混乱させた。「早く!旦那様に
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