梨花は軽く視線を戻し、自分の車のそばまで歩み寄った。乗り込もうとしたところで、その時、桃子が啓介を抱いて近づいてきた。疑わしげに彼女を一瞥し、その視線は最終的に、彼女のバッグから覗く紙に注がれた。桃子はストレートに尋ねた。「それ、何?」その態度は、まるでこの屋敷の未来の女主人かのようだ。梨花は慌てず騒がず、離婚届受理証明書をバッグの奥に押し込むと、平然と言った。「粗大ゴミの処理証明書よ」桃子は梨花が何をごまかしているのか分からず、いっそ話題を変えた。「昨日の会議で言っていた薬、実験結果はいつ出るの?」「何であなたに教えなければならないの?」 梨花は笑って尋ねた。「強盗でもするつもり?桃子、あなたって本当に恥知らずよね」子供の頃から、他人のものを奪うことばかりに夢中になって。今度は自分の研究成果を狙っているというわけね。桃子は言葉に詰まり、腹立たしげに言った。「奪うって何なのよ!」「じゃ、自分で何とかすることね。おこぼれをもらえるなんて思わないことよ」そう言うと、梨花はさっさと車に乗り込み、アクセルを踏んで走り去った。桃子は悔しさのあまり足を踏み鳴らした。自分に研究開発の能力があるなら、梨花なんかに頼るものか。それに、理屈では梨花が大したことを成し遂げるとは思えないものの、心の奥底ではやはり恐れていた。万が一。万が一、梨花がそれほどの強運の持ち主だったら、と。桃子は啓介を抱いて家の中に入りながら、尋ねた。「啓介。さっきあの女が来た時、お祖母様と何か話してた?お祖母様、あの女に何かあげたりしてなかった?」あの紙は、不動産の権利書に少し似ていた。まさか、美咲があの女に財産でも譲渡したのではあるまいな!そんなこと、絶対に許さない。鈴木家の財産はすべて、啓介のものにならなければならないのだ。「知らない」 啓介は目をぱちくりさせた。「お祖母様、僕に二階にいろって。下りてきちゃだめだって言ってた」何か秘密でもあるというのだろうか?桃子が目を細め、リビングに入った途端、美咲が不機嫌な様子で執事に話しているのが聞こえた。「素直に言うことを聞かないから、面倒なことになるのよ。彼女が竜也と仲違いでもする時を待ちなさい。痛い目に遭わせる機会なんて、いくらでもあるわ
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