竜也だ。男も明らかにシャワーを浴びたばかりで、紺色のルームウェアを身に着けている。普段スーツを着ている時とは、雰囲気が少し違っていた。鋭さは相変わらずだが、どことなく気だるげな様子も混じっている。梨花は小さく息をつき、ドアを開けた。「今夜は本家に泊まらないの?」竜也は彼女を横目で見た。明らかに、心がこもっていない彼女の言葉が気に入らない。「俺がいつ、本家に泊まったことがある?」それもそうだ。余計なことを聞いてしまった。八年前に彼が家を出てから、本家に泊まったことなど一度もなかった。梨花は彼が潔癖症なのを知っていたので、わざわざ新品の客用スリッパを取り出して床に置いた。男性用のスリッパだ。竜也はそれに目を落とし、冷ややかな口調で尋ねた。「誰のだ?」梨花はキッチンへ向かいながら、振り返りもせずに答えた。「あなたのよ」竜也の口角が、気づかれない程度にわずかに上がった。彼はズカズカと部屋に入り、まるで自分の家のように振る舞う。彼女が料理をしようとするのを見ても、彼は特に驚いた様子はなかった。「夜食か?」梨花は黒川家で、ろくに食べていなかった。ましてや、今日のあの状況だ。まともに食べる気になどなれなかった。「うん」彼女はキッチンの明かりをつけながら、頷いた。竜也は食卓の椅子を引き、席に着くと、当たり前のように指図した。「じゃ、俺の分も作ってくれ」「……」あなたも食べ足りなかったのかと聞きたかった。だが、本家の食卓でのあの光景を思い出し、賢明にも口をつぐみ、キッチンに戻ってラーメンを作り始めた。彼女の料理の腕は褒められたものではなかったが、ラーメンを作るくらいなら問題ない。梨花が部屋に入ってきた時、家には彼女一人しかいなかったので、リビングのメイン照明は消えており、視界を遮らない程度の暗い明かりだけがついていた。ラーメンを作るため、台所の照明は明るく点いていた。彼女は全身に明るい光を浴びせ、羽根のような睫毛を伏せ、数秒ごとに鍋の中の物をかき混ぜた。シャワーを浴びたばかりで、花柄のネグリジェを着ていた。スカートの裾は動きに合わせてわずかに揺れ、優雅だった。それが男の心にささやかな波紋を広げた。竜也の視線は、まるでそこに釘付けになったかのようだ。彼女の
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