……本当は、甲斐と一緒に店を出なくても、更衣室で暮科が終わるのを待っても良かったとは思う。仮にそうしていたとして、甲斐は全然許してくれただろうし、実際自分にもそうしたい気持ちもあった。 時間も時間だし、暮科とは帰るマンションも同じだ。他のスタッフだってそれは知っているから、特に変な風に取られることもないだろう。 だけど、結果としてそうしなかった理由が他にもあった。甲斐ともう少し話したかったことももちろんだけど、……何より、俺の気持ちが……変に昂ぶりすぎていて――…。「あ、もう着いちゃった……」 そんなにぼんやり歩いていただろうか。気がつくと自宅のあるマンションはすぐ目の前で、俺はエントランスに視線を向けると、そのまま傍らの植え込みの縁へと腰を下ろした。 周囲は閑散として、人通りもほとんどない。 一つ息をつき、再び頭上を仰ぐと、きらきらとこぼれそうなほどに星を湛えた、快晴の夜空が目に入った。 ――こんな風に、何気なく空を見上げてしまうのは癖のようなものだった。 昔から失敗ばかりで、下を向いてばかりだった俺に、上を見る大切さを教えてくれたのは将人さんだ。俺が中学に上がる頃には引っ越してしまったけれど、それまではずっと家が隣同士で、極度の上がり症である俺のことをいつも気にかけてくれていた……何ていうか、将人さんは俺にとって本当に兄のような存在だった。 その将人さんが、まさか俺と音信不通になっている間に暮科と知り合っていた――それも付き合っていたぽい? ――なんてことは夢にも思わなかったから、それを聞かされたときには、正直、複雑な心境にもなったけど……。 だけど、結果として俺が暮科と付き合うようになったのもその将人さんがきっかけだったわけだから、それについてはもう目を瞑るしかない。 そう言えば、将人さん言ってたっけ。 静――暮科は、ああ見えて結構なネガティブ思考だよって。 そんな風に感じたことはあまりなかったけれど、少なくとも意外と嫉妬深い……というか、心配性? なんだなってことは最近ちょっと分かってきたし、「うん……その辺は一応気にしとこ……
Last Updated : 2025-10-31 Read more