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All Chapters of 君にだけは言えない言葉: Chapter 91 - Chapter 100

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好きだから 07

 ……本当は、甲斐と一緒に店を出なくても、更衣室で暮科が終わるのを待っても良かったとは思う。仮にそうしていたとして、甲斐は全然許してくれただろうし、実際自分にもそうしたい気持ちもあった。  時間も時間だし、暮科とは帰るマンションも同じだ。他のスタッフだってそれは知っているから、特に変な風に取られることもないだろう。 だけど、結果としてそうしなかった理由が他にもあった。甲斐ともう少し話したかったことももちろんだけど、……何より、俺の気持ちが……変に昂ぶりすぎていて――…。「あ、もう着いちゃった……」 そんなにぼんやり歩いていただろうか。気がつくと自宅のあるマンションはすぐ目の前で、俺はエントランスに視線を向けると、そのまま傍らの植え込みの縁へと腰を下ろした。 周囲は閑散として、人通りもほとんどない。  一つ息をつき、再び頭上を仰ぐと、きらきらとこぼれそうなほどに星を湛えた、快晴の夜空が目に入った。 ――こんな風に、何気なく空を見上げてしまうのは癖のようなものだった。 昔から失敗ばかりで、下を向いてばかりだった俺に、上を見る大切さを教えてくれたのは将人さんだ。俺が中学に上がる頃には引っ越してしまったけれど、それまではずっと家が隣同士で、極度の上がり症である俺のことをいつも気にかけてくれていた……何ていうか、将人さんは俺にとって本当に兄のような存在だった。 その将人さんが、まさか俺と音信不通になっている間に暮科と知り合っていた――それも付き合っていたぽい? ――なんてことは夢にも思わなかったから、それを聞かされたときには、正直、複雑な心境にもなったけど……。 だけど、結果として俺が暮科と付き合うようになったのもその将人さんがきっかけだったわけだから、それについてはもう目を瞑るしかない。 そう言えば、将人さん言ってたっけ。  静――暮科は、ああ見えて結構なネガティブ思考だよって。 そんな風に感じたことはあまりなかったけれど、少なくとも意外と嫉妬深い……というか、心配性? なんだなってことは最近ちょっと分かってきたし、「うん……その辺は一応気にしとこ……
last updateLast Updated : 2025-10-31
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言葉の効力 01

 甲斐も塔子さんも、本当に律儀だと思う。 経緯はどうあれ、俺は双方からちゃんと話を聞いていたというのに、後日、実際につきあい始めてからも、またそれぞれから報告があった。  しかも二人共口をそろえて「ありがとう」だなんて……何をそんなに感謝することがあるのか、正直俺にはよく分からなかった。 だって俺は本当に何もしていないのだ。何かしてあげたいとは思っていたけれど、結果俺が何をするまでもなく、彼らは収まるところに収まってしまった。 強いて言うなら、ただ黙って話を聞いて、結果心からの祝福をした――それ以外には何もない。本当に、それだけだった。 塔子さんがいつから甲斐に惹かれていたのかとか、甲斐の方はどうだったのかとか、そういうのももう全く気にならないし、もしかしたら俺と付き合っている頃から気持ちは動いていたのかもしれないけれど、例えそうだったとして今更どうも思わない。 だって俺は二人のことが今でも好きで……そんな二人が幸せであるなら、本当にそれだけで十分だったから。二人が嬉しいと俺も嬉しいし、心から喜ばしいと思う気持ちに嘘はない。 ――だけど、こんなにも迷いなくそう思えるのは……。  もしかしたら俺がいま、それくらい幸せだと実感できているから、なのかもしれないな。  ***  翌日――。 遅刻しないようにと早めに家を出た俺は、まだほとんど人の気配の感じられない更衣室のドアを開けた。  いつも早めに出勤してくる面子は決まっていて、普段俺は特にどちらともない方だったけど、今日は意識して早く出てきた分、少なくともギリギリの時間が多い木崎よりは早いはずだ。 そして実際、室内に木崎の姿はなく――。「なんだ、今日は随分早いな」 「えっ、あれ……?」 ただそこには予想していなかった人物の姿があった。「暮、科……?」 俺は思わず扉を開けたまま立ち尽くし、聞くまでもない名を問いかける。「他の誰に見えるんだよ」 まだ時間に余裕があ
last updateLast Updated : 2025-11-01
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言葉の効力 02

「あ、でもちょうど良かったよな」 長めの紐は、一周回して前で結ぶ。過日に暮科から教わったそのやり方はもう身についている。蝶々結びをしながら振り返ると、暮科は気だるげにソファに凭れたまま、咥え煙草の先を「何が」とばかりに小さく揺らした。「ほら、今日暮科も同じ早番なら、いつもより夜ゆっくりできるし……明日はどっちも休みだから、朝までだって大丈夫だろ?」 結んだはずの蝶々結びが何故か解け、再度結ぶ。形を整えながら暮科の傍へと歩み寄り、問いを重ねた。 元々、今年はそろって24日が休みだからと、その前日である今夜から飲む約束はしてたけれど……その時間が、少しでも延びるなら素直に嬉しい。  俺にとって、暮科とのんびり宅飲みする時間は、昔も今も変わらずに待ち遠しいものなんだから。「……暮科?」 俺が隣に立ったからと言って、暮科がすぐに俺を見ないのはいつものことだった。だからすぐには気にならなかったけど、「煙草……落とした、ぞ……?」 その視線の先で、ぽろりと口元から落ちた煙草が、俺の足元へと転がって尚微動だにしないのには、流石にちょっと違和感があった。  俺はそっと上体を屈め、つま先にぶつかった煙草を拾い上げてから、窺うように暮科の顔を覗き込んだ。「……見るなよ」 と、そう呟くなり、暮科は俺の目元を片手で覆う。だけどその表情は、残念ながら指の隙間から窺えた。 え、嘘……。 俺はわずかに目を見張る。  暮科の目端が淡く染まっている。心なしか泳ぐように揺れる眼差しにも、隠しきれない動揺が見て取れる。  何だろう。暮科がそんな表情《かお》をするなんて、本当に珍しくて――…。「暮科……、ほら」 俺は目元を覆っていた暮科の手をそっと外させて、持っていた煙草をその手のひらに乗せた。 その煙草に火は点いていなかった。落ちたはずみで火種が飛んでしまったわけでもない。  それは最初からまっさらなままだった。 いつからどんだけ考えてたんだよ。煙草に火を点けるのも忘れるくらい、俺はお前を悩ませて
last updateLast Updated : 2025-11-02
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聖夜によせて(side:暮科静)

 慣れるとか、信じるとか、そんな目に見えない物を拠りどころになんて出来ない。言葉だって同じだ。口先だけならなんとでも言える――。 そう思っていた俺が、「好きだよ」なんて、たったそれだけの言葉でバカみたいにほっとした。 河原が塔子さんとか言う女性を店に連れてきた時、丁度俺は店長に呼ばれて店内にはいなかった。  だけど、二人が退店するまでずっといなかったわけじゃない。 店長室から戻ってみると、厨房とホールを区切る扉の前に木崎が立っていた。  木崎は扉についたマジックミラー越しに、店内の様子を覗き見していた。それだけなら特に珍しいことでもなかったが、その表情がいつになく神妙な気がして、俺は無言のままその背後へと近づいた。 そして、一体何をそんなに気にしているのか――タイプの男がいるにしては大人しすぎるし――と、木崎が気付くより先に、その横から同じように店内へと目を向ける。 ……河原? そこにはいたのは河原だった。しかも、その向かい席にはきわめて楽しそうに――少なくとも俺にはそう見えた――談笑する女性の姿がある。見たことのない相手だった。「……うわ! 暮科っ……い、意外に早かったんだね」 不意に俺の影が落ち、振り向いた木崎は思い切り身体をびくつかせたが、それでもどうにか取り繕おうと笑顔を浮かべる。  それを完全に無視して、俺は独りごちるように訊いた。「あれ、誰」 「ん、ん――…。あの様子からして……前付き合ってた彼女とか……かな?」 「彼女……」 気がつくと俺は、反芻するように呟いていた。 ああいうときばかり無駄に素直な木崎が正直今でも恨めしい。  あそこであいつが、ひとこと「分かんない」とでも言っていれば、俺の心もあそこまで荒むことはなかっただろうに。 ……分かっている。そんなの単なる責任転嫁だってことは。 木崎の勘がいいのは今に始まったことじゃないし、それは俺だってよく知っている。  例えそのせいで俺まで変に焦る羽目になったとしても、結果として木崎が動かなけれ
last updateLast Updated : 2025-11-03
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聖夜によせて 02

 向かった先は、もちろん河原が使用中の浴室だ。  どうせ河原のあとで借りる予定だし、それは河原も承知の上なんだから、その順番が少々重なったところで別に大差ないだろう。 ――というのは、もちろん俺の勝手な言い分だが、それでも河原ならきっと怒らない。怒らないどころか、まるで気にしないとばかりに笑って受け入れるに違いない。  半ば確信めいた予想を胸に、俺は脱衣所の扉を開ける。 まぁ、ただ風呂に入るだけなら……だろうけどな。 社員旅行だなんだで行った先でも、河原は他人と風呂に入ることに特に抵抗はなさそうだった。  俺だってそこまで苦手なわけじゃない。ただ、少なくともこれまで河原と二人きりで入ったことはなかった。 理由は当然……間違ってもエレクトしないよう気を回していたからだ。 そうならない節度と自信は持ち合わせているつもりだったが、相手が相手なだけに、万が一と言う可能性もある。 そして案の定――。「河原。俺も入る」 「え、あ、俺遅かった?」 「遅ぇよ。時間が勿体ねー」 「あー、ごめん。じゃあいいよ、入って」 そんな適当な言葉と共に、突然浴室のドアを開けられたにもかかわらず、河原は洗髪していた手を止めただけで、まるで普段通りに気の抜けたような笑顔を浮かべただけだった。  ***   滑り落ちていく水の流れに逆らい、脇腹から胸元へと撫で上げていく。それに合わせて、わずかに反れた河原の背中が、辿り着いた胸の先を摘みあげた瞬間、びくりと震えた。 両手で双方の突起を柔らかく摘み、擦り合わせるように指先を動かす。一方の手のひらは、先に河原が吐精したもので濡れている。そちら側の方が反応がいいのは、そのぬるぬるとした感触にいっそう煽られるからだろう。「――ぁ、あぁっ……」 触れた尖りを、円を描くように転がして、時折軽く引っ張っては押し潰す。堪えようとして堪えきれない嬌声が浴室に響くと、相乗してますます気分が高揚する。 河原がシャワーを止めようとする手を取って、背後から仕
last updateLast Updated : 2025-11-04
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聖夜によせて 03

「――お前な」 俺は密やかに息を吐き、首まで真っ赤になって俯く河原の後ろ姿をじっと見詰めた。 そういうの、逆効果だってそろそろ気付けよ。 たったそれだけのことで、目眩がするほど煽られる。俺は「マジで」と心の中で重ねると、腹の底で舞い上がったかすかな嗜虐心に目を眇めた。 もっと焦らして翻弄したい。もっと振り回して追い詰めたい。そうしてもっと、俺だけを求める身体に作り替えたい。いや、身体だけじゃだめだ。身体も心も全て俺のものにしてしまいたい――。 そんな浅ましい願いばかりが頭を巡る。 そんなふうに思われているなんて、河原は夢にも思わないだろう。それほどたちの悪いやつに、自分が捕まってしまったなんて。「ほんと、ばかだな……」 自嘲気味に呟きながら、目の前にある河原の姿態を眺める。  どんなに壁際に身を寄せようと、その身体が俺の腕の中にあることには変わりない。  それは少し手を伸ばせば容易く抱き締められる距離で――なのに河原は、あくまでもぴったりと壁に縋り付いている。 ……だからな、そういうの逆効果なんだよ。 俺は再び距離を詰め、そのままうなじに舌を伸ばす。ぴくりと揺れた肩を片手で宥めながら、ねっとりと這わせた舌で張り付く髪を掻き分ける。そうしながら、不意打ちのように軽く歯を立てた。「んっ……!」 河原の身体がびくりと跳ねる。俺は食むようにしながら、うっすらと刻まれた痕を舌先で辿った。  胸元へと戻した片手は、けれどもその頂《いただき》にはすぐには触れず、それを囲む淡い色づきに沿ってゆるゆると動かすだけだ。「っ……ふ、ぁっ……」 河原は掠れた吐息を漏らしながら、焦れったいように背筋を戦慄かせた。ともすれば、俺の手に押し付けるように胸を反らせて、もっとちゃんと触ってほしいとばかりに身体を震わせる。「お前さ……」 肌に唇を押し当てたまま囁くと、拒絶するみたいに頭を振られる。そのくせ、一方では腰まで揺らめかせるのだ。手放しきれない理性に反して、身体が求めるものは明白らしい。 俺
last updateLast Updated : 2025-11-05
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聖夜によせて 04

河原の吐き出したそれを潤滑剤に、あらわにさせた窪みの表面を撫でつける。試すように中心をつつくと、河原が上擦ったような吐息を漏らした。 「あ……っ、んっ……」 忙しない呼吸の合間に、わずかに入口が収斂《しゅうれん》する。そのタイミングを見計らって、更に奥へと潜り込ませた。 「んん……っ」 河原は一瞬身を強張らせ――けれども次にはなんとか力を抜こうと努めてくれる。拒むことなく息を吐き、されるままにゆっくりと俺の指を飲み込んでいくそのさまは、目眩がするほど健気に映り――そして何より卑猥に見えた。 「お前………」 河原のこう言う素直なところは、純粋すぎて、誠実すぎて、本気で俺のことを想ってくれているんだと実感させてくれる。そしてそうなると俺の気持ちはいっそう止まらなくなるのだ。俺の方こそ愛しくて堪らないと、その想いばかりが強くなる。 河原のこととなると、途端に周りが見えなくなるんだからーーと、いつだったか木崎に言われたことを思い出す。確かに、その自覚がないとは言わない。 河原を誰にもとられたくない。触らせたくない。俺だけを見ていて欲しい。そう思うあまり、自分でも滑稽なほど嫉妬深くなるし、時にはろくに言葉も待たずに手を出してしまったりもする。河原と付き合う前のことにしても、今回の元カノや甲斐の件にしてもそうだった。あとに残るのは、後悔ばかりだと分かっているのに――。 「あ、ぁ、そ……っ」 白濁が泡立つほど忙しなく動かしていた二本の指を、ふいに左右に開かせる。入口を縁取る薄い皮膚が引き攣りながらも少し開き、更に指を広げると、そこから滲み出てくる体液がぐちゅりと生々しい音を立てた。 ……クソ。 堪えきれず、心の中で舌打ちをする。身体の熱が一気に上がる。確かめるまでもなく兆した下腹部は反り返り、どくどくと脈打つたびに勝手に震えるほどになっていた。 俺は指を入れたまま、開かせた隙間にその先端をあてがった。 ゆっくりと指を引き抜きながら、それと入れ替わるように昂ぶった屹立を押し込んでいく。完全に指が抜ける前に先端を埋めると、河原が苦しげに引き攣った呼気を漏らした。 「いっーー…ぁ、待っ……苦し……っ」 限界まで広がった粘膜が、強引に割り入ってくるそれに絡みつき、内壁は押し出すようにも、引き込むようにも収縮を繰り返す。 河原は額
last updateLast Updated : 2025-11-06
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聖夜によせて 05

 ***  そんなわけで……。 今まで散々我慢していた俺が、本当にただ一緒に風呂に入るだけ――なんてことで終われるはずもなく。 俺は結局、河原が逆上せて意識をなくすまで、浴室の湯気の中でその身を揺さぶり続けた。 それについては、正直ちょっとやり過ぎたかもしれないと反省はしている。 反省はしているが、これまでのことを思えば仕方ないだろうとも言いたくなる。だから少なくとも今回に限っては謝ってやらねぇ。 確かに俺は、先日も河原には触れている。触れたのは一度だけじゃないし、二度目は挿れるところまでいったりもした。 けれども、結果として俺はどちらも中途半端なまま終わっているのだ。それを何食わぬ顔して鎮めるのがどれだけ大変だったか、あえて口にしたりはしないけれど。 まぁ河原だって知りたくないだろう。……そのたび自室に戻った俺の頭の中で、自分がどんな目に遭っていたかなんて。 そんな中、「好きだよ」なんてあんなふうに言われたら……そんなのもう、我慢なんてしなくていいと言われたも同然としか思えなかった。 なんなら途中で仕事を放り出して、河原を拉致って帰らなかっただけでも、自分で自分を褒めたいくらいだ。 ーーなんて、今となってはどれだけ単純なんだと自分が恥ずかしくなったりもするけれど、だからと言って後悔はしていない。 そんな自分に苦笑しながら、俺は傍らで眠る河原の寝顔をぼんやり眺める。 浴室を出る頃には一応目を覚ました河原だったが、結局何をするにも心許なく、そこから寝室へとその身を運んだのは俺だった。 抱き上げようとすればこんな時ばかり頑なに遠慮され、かと言って支えてもろくに歩けない身体を、それならと半ば強引に肩へと担ぎ上げての移動だった。 ベッドに身体を横たえると、今度は素直に「ごめん、ありがとう」と告げられる。そして次には「ちょっとだけ寝かせて……」と声にならない声で請われ、その数秒後には俺の返事も待たず
last updateLast Updated : 2025-11-07
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暮科と甲斐と塔子(side:暮科静)

「あ、ちょっとコーヒーでも一緒に飲もうぜ。奢ってやるから」 クリスマスを過ぎたある公休日、俺は濃いグレーのマフラーに口元まで埋めながら、昼下がりの街中を歩いていた。  そこに突然、声をかけてきたのは甲斐だった。 しかもその隣には例の“塔子さん”の姿もある。  何で俺が……と心底思ったが、正直少しだけ興味も湧いた。 ……まぁ、適当に切り上げりゃいいか。 思い直した俺は、ひとまずその誘いに乗った。  *** 「……」  この女が河原の――。  近場のカフェに入ると、向かい席の正面に甲斐、その隣に塔子さんが腰を下ろす。  しかし、それぞれ一つずつ飲み物を注文し、一息ついたところで、ふと甲斐の携帯が着信を知らせる。  結局、甲斐は「ちょっとごめん」とだけ残して、店の外に出て行った。 ……マジかよ。 当たり前のように、塔子さんと二人きりになると沈黙が落ちた。  視線を向けると、窓の外で甲斐が電話を続けている。何となく、早々には切り上げられない様子がうかがえた。 そこに一人の男性店員がやってくる。  トレイには俺と甲斐のホットコーヒーと、塔子さんのホットカフェラテが乗っていた。  彼は天板に下ろしたカップの向きを整えると、定例の挨拶と一礼を残し、静かにその場を後にした。 俺は自分のカップに視線を落とすと、巻いていたマフラーを解いた。「それ、プレゼント?」 「……え?」 沈黙を破ったのは塔子さんだった。  塔子さんは、俺が隣の席に引っかけたマフラーを目線で示し、小さく瞬いた。「……あぁ、はい」 俺は頷いた。それはこのクリスマスに河原からもらったものだった。  塔子さんは自分のカップに指をかけ、微かに笑った。「ちゃんと相手を見て選んでるのね」 「……は?」 「ごめんなさい。私、知ってるの」 ああ……そういうことか。  甲斐から聞いたのだろうか
last updateLast Updated : 2025-11-08
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きっと彼も彼なりに(side:暮科静)01

 時刻は、まだ空が白んできたばかりの明け方――。  先に目を覚ました俺は、ベッドの上でぼんやり煙草に火をつけた。 ……ぐっすりだな。  そんな無茶した覚えもねぇんだけど。 一呼吸のちに細く紫煙を吐き出して、俺はふと傍らに目を向ける。  そこには同じ布団の中で熟睡する河原の姿があった。 俺はそっと手を伸ばし、触り慣れたその柔らかな髪に軽く指を通す。  昨夜河原は、半ば気を失うようにして眠りに落ちた。 とは言え、そこまで無理をさせた覚えはない。久々に触れられたこともあり、一度や二度で手放してやれなかったのも事実だったが、嫌がる彼を抑え付けて――なんてことは一切しなかった。……はずだ。 けれども、今朝の河原は仰向けのまま眠っている。基本俺に背を向けて眠ることの多い河原にしては珍しい光景だ。おかげで、普段はなかなか見ることのできない無防備な寝顔が眼前に晒されている。 温和な印象を与える尻下がり気味の眉。毛髪と同様、若干色素の薄い睫毛。そして薄く隙間を覗かせる唇が、妙に目に付いた。 ……絶対他のヤツに見せるなよ、そんな姿。 しかもこの布団の中の河原は、まだ何も身に着けていないのだ。「…………」 だめだ。変に意識してしまった。  俺は銜えていた煙草をサイドテーブル上の灰皿に押し付け、河原の上へと影を落とす。 啄ばむように、額に、目の際に、頬へと口付け、ぴくりと瞼が震えるのを視界の端に、柔らかく唇を重ねる。瞬間、河原の呼吸が僅かに揺れる。それだけで容易く火が灯る。自制して、抑え込んでいた欲求が頭を擡げる。 ゆっくりと角度を変えながら舌先を滑り込ませ、反射的にぴくりと跳ねた舌裏を舐め上げる。「ん……」 河原の吐息が鼻に抜けたのをきっかけに、俺は一旦口付けを解いた。 それでも河原は目を覚まさない。ほんの数秒ですら、瞳が開くことも無かった。  俺は河原の身体をひっくり返す。手ずからうつ伏せにさせると、さすがに微かに声が漏れた。「……ん……?」 だが結局そ
last updateLast Updated : 2025-11-09
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