忘れていたつもりもないのに、河原の包帯に血が滲んでいたことに気付いたのはもう少しあとのことだった。 服もろくに着ないまま、慌てて手当てをし直した俺を見て、河原はくすりとおかしげに笑った。 俺は「余裕だな」と目を眇め、わずかに首を傾げた河原をそのまま肩へと担ぎ上げた。慌てる河原を横目に「その手じゃ洗えねぇだろ」と続け、次には否応なしに浴室へと連行して――。 ……その後のことは、覚えてはいるが語らない。 年末が近くなっても、相変わらず見城は店に通ってきていた。毎週土曜日の午前中と、そしてあの日以降は火曜日の夕方も。 いい加減、「本当に暇なんだな」と皮肉ってみたこともあったけれど、それでもあいつは「一年ほど休暇をもらったんだ」と微笑うだけで、少しも堪えた様子は見せなかった。相変わらず強かな男だと思う。 ちなみに、出演予定だった冬の舞台は結局降板していて、その前の夏の舞台も体調不良ということで降板していたらしい――と、聞きもしねぇのに教えてくれたのは木崎だった。 ……別に今更どうだって構わねェけど。 というか、それより何より気になることがあるのだ。見城はいまだに口を開けば河原のことばかりで、そうなるとやっぱり見城の狙いは河原なのではないかと思えてしまう。そのくせ河原には俺のことばかり聞いてくるというからわけがわからない。 三年経っても相変わらずあの男の本音は読みづらいということなのだろうか。だからと言ってそこをそれ以上掘り下げても良いことにはならない気がするから、俺も意識して触れないようにしているけれど。 俺と見城の仲を取り持ってほしいという申し出に対し、河原が返事を保留にしたことは今でもちょっと根に持っている。二人が互いの連絡先をいつのまにか交換していたことだって正直気に入らないが、それについてもひとまず目を瞑ることにした。 河原の気持ちがちゃんと俺にあると知ったからでなく、なんとなく見城は、河原にだけは無害であるような気がしたからだ。それくらい、河原について話す時の見城は穏やかで優しい表情をしているように見えた。 そしてそう気付
Last Updated : 2025-10-05 Read more