「なに考えてたんだよ」 「え……」 「一体なにを考えててこんなことになった?」 「なにって……」「こんなこと、もうずっとなかっただろうが」 いくら忙しい時間帯だったとは言え、新人時代を除けば本当に久々のことだった。 要はそれくらい余裕がなかったということだ。「あ……うん。ごめん、迷惑かけて」 「迷惑とかじゃねぇ」 努めて淡々と告げていたつもりの声が自然と険を帯びる。「……見城のことだろ」 「え……」 「お前の頭ん中、もうずっと見城のことばっかだもんな」 「……」 否定しない河原の顔を見ることができない。 目の前の河原の腕を無意味に見つめたまま、俺は責めるように続けた。「俺、関わるなって言ったよな。なのにお前、あのあとあいつと会ってたよな。……俺に……俺にあんなことされた直後だっていうのに」 そこまで言うと、自嘲気味に口端が歪んだ。 本当は圧迫止血だって、本人にさせればいいことだ。なのに俺は河原の手が離せない。ともすれば固定を兼ねて共に巻いた隣の指ごと、強く握り締めてしまいそうになっている。 俺の言葉に、河原の身体がわずかに強張る。 その反応で分かった。河原は覚えている。酒のせいで記憶にないというわけでもない。 だけどそれだけだ。それについて河原はなにも言わないし、たった一言すら俺を詰ることもせずただ黙り込むだけだった。 ……そんなに俺とのことはどうでもいいのか。 俺は衝動のままに言葉を継いだ。「見城になに言われたんだよ」 「え……」 「好きだとでも言われたか? それとも先に」 「え、ちょ、ちょっと待っ……。暮科、なにか誤解して――」 見城の名前が出るなり、河原はとたんに口を開いた。結局見城か。 そのことにますます冷静ではいられなくなる。「なにが誤解だよ」 「……ぃ、……!」 被せるように言うと、河原は小さく悲鳴のような声を上げた。
Terakhir Diperbarui : 2025-09-26 Baca selengkapnya