河原が、妬い……てる? いつかのそれより、明確に。 付き合い始めて間もない頃、河原の元彼女である塔子さんに言われた言葉を思い出す。 河原は、妬かない――。 それに対し、俺は知ってますと答えながらも、その実ちょっとだけ優越感を覚えていた。 だって河原は、俺にはそれらしい態度を見せたことがあったからだ。付き合う前に一度だけとは言え、「見城に、俺をとられたくないと思った」というようなことを口にしたことがある。 本人にその自覚があるかどうかは怪しかったが、あれは確かに嫉妬だったはずだ。 いまだ俺との付き合いにどこか慣れない河原が、色々と迷いを見せるのは珍しいことではなかった。おそらくは、まだどこか相手が男なら大丈夫だという気持ちがあるのだろう。かえって相手が女である方が――俺は女には興味ねぇって言ってんのに――真剣に心配してくれそうな気がするくらいだ。 ――と、まぁ、そんな状況で、「暮科……や、ったの? ――将人さんと」 まさか河原の口から、そんな言葉が出てくるなんて、夢にも思わない。 ……妬いてるどころの話じゃねぇじゃねぇか。 その瞬間、俺はバカみたいに浮かれていた自分を消し去りたくなった。 妬いてくれているのは確かだった。それは本人も自覚しているらしい。 だけど、どうした。なんでいきなりそんな突き抜けた――。「……なんでいまそんな話になるんだよ」 束の間閉口した俺は、辛うじてそれだけ言うと、逃げるように傍らの缶ビールへと手を伸ばす。 けれども、そのまま数口嚥下してみたそれは――いつも好んで飲んでいるものなのに――味なんてほとんどしなかった。 ギシ、と再びベッドの軋む音がする。 かと思うと、視界に河原の手が伸びてきた。その手は俺が持っていた缶ビールを取り上げて、無言のままテーブルに戻す。「かわは――」 今までにない空気感に、少しだけ鼓動が逸る。 探るようにゆっくり振り返ると、次の瞬間、目の前の景色が反転した。「……っ」
Terakhir Diperbarui : 2025-11-20 Baca selengkapnya