「待ち合わせにまだ誰も来ていないって分かったとき、英理、ちょっとどきどきしたよね……?」 中空に取り残された自分の手をさみしげに見詰めながら、見城がちらりと河原を見る。河原が「う、うん」と小さく頷けば、その視線はまた俺へと戻ってくる。「ほら。俺がいて良かっただろ……?」 かと思うと、次にはにっこり微笑んで、ぱちりとウィンクまで寄越してきた。 その瞬間、俺の手の中から、改めて構え直していたライターが滑り落ちる。カツンと硬質な音を響かせ、天板の上で小さく跳ねたそれを尻目に、見城はおもむろに手を下ろし、「冗談だよ。別に感謝してほしくてやったことじゃない」 言いながら、目の前のワイングラスをゆっくり傾けた。 ――やられたと思った。そうだ。こいつはこんなやつだった。 それにまんまと振り回されてしまった自分に心底辟易する。「暮科、ライター」 そこに横から手が伸びてくる。河原が足下まで落ちたライターを拾って、俺に差し出してきたのだ。 もう一方の手には、残り少なくなっていた自分のグラスが握られている。続けざま、それを目の前で一気に空にして、河原はぷはっと嬉しそうに息を吐いた。「二人が楽しそうで俺も嬉しい」 お前の目はどうなってんだ。 口をつきそうになった言葉を飲み込み、俺は口端をかすかに引き攣らせる。 河原はあくまでもふわふわとした笑みを浮かべて、勝手にうんうんと頷いていた。 ライターを受け取り、咥えていた煙草も一旦手元に戻した俺は、遅ればせながらも自分もグラスを手に取った。 ……マジで仲良くしてほしいんだな、見城と……。 そう思い知らされたところで、苦笑するしかない。 いや、ここはもう飲むしかないのかと思った俺は、無言でそれ――河原と同じ生ビール――に口を付け、そのまま一気に中身を飲み干した。「あー、いい飲みっぷりだね。――次こそはもっとゆっくり飲みたいな」 「……次?」「ああ、残念だけど、そろそろ時間なんだ。沙耶たちにも伝え
Última actualización : 2025-12-10 Leer más