*** どこに向かおうとしているのかなんて正直どうでも良かったが、流れる景色を見ていると、それもすぐに予想がついた。 アリアから海に向かって二十分ほど走れば、緑化に力を入れたという埠頭公園が見えてくる。そこはいわゆるデートスポットで、クリスマスシーズンともなればライトアップも楽しめるという人気の場所だった。 ちなみにここには俺も来たことがある。学生の頃、やはり見城と二人で、ドライブがてら立ち寄ったことがあったのだ。その時は特にイベントシーズンだとかそういうわけでなく、ただ気が向くままに訪れた場所の一つに過ぎなかったけれど。「ここでいいかな」 ほどなくして見城は、比較的人気の少ない駐車場の一角に車を停めた。 空調を気にしてかすぐにはエンジンは切らずに、ややして自身も煙草を取り出すと、そこから抜き取った一本を無言で俺へと差し出してくる。 どうぞ、と目で促されたものの、俺は横に首を振った。 ちょうど次の煙草を吸いたいと思っていたところだったが、だからといってそれを見城からもらう気にはなれない。 そう? とばかりに見城はかすかに笑って、それをそのまま自分の唇に添えた。 彼の纏う香りや、車の中の空気で分かってはいたけれど、彼が愛煙しているのは俺と同じ銘柄だ。そこに火を点したジッポにも見覚えがあった。 ……微妙に気まずいような心地になり、俺は窓外へと視線を投げる。 俺に煙草を教えたのはこの男だ。銘柄が同じなのもそこに由来している。見城までずっと変えていなかったのは想定外だったけれど、今更あえてそこに触れることはしない。「さっきの続きだけど……」 俺が何も言わないでいると、見城は気を取り直したように再び口を開いた。 合間で煙草を吸うその様に、俺も遅れて自分のポケットを探る。そうして俺は俺で取り出した煙草を軽く揺すってみたものの、「あの子さ、〝英理〟って名前だったりしない?」 こんな時に限って白筒が浮かない。 ……え?
Terakhir Diperbarui : 2025-09-13 Baca selengkapnya