Semua Bab 君にだけは言えない言葉: Bab 31 - Bab 40

80 Bab

深意と真意 03

    ***  どこに向かおうとしているのかなんて正直どうでも良かったが、流れる景色を見ていると、それもすぐに予想がついた。 アリアから海に向かって二十分ほど走れば、緑化に力を入れたという埠頭公園が見えてくる。そこはいわゆるデートスポットで、クリスマスシーズンともなればライトアップも楽しめるという人気の場所だった。 ちなみにここには俺も来たことがある。学生の頃、やはり見城と二人で、ドライブがてら立ち寄ったことがあったのだ。その時は特にイベントシーズンだとかそういうわけでなく、ただ気が向くままに訪れた場所の一つに過ぎなかったけれど。「ここでいいかな」 ほどなくして見城は、比較的人気の少ない駐車場の一角に車を停めた。  空調を気にしてかすぐにはエンジンは切らずに、ややして自身も煙草を取り出すと、そこから抜き取った一本を無言で俺へと差し出してくる。 どうぞ、と目で促されたものの、俺は横に首を振った。  ちょうど次の煙草を吸いたいと思っていたところだったが、だからといってそれを見城からもらう気にはなれない。 そう? とばかりに見城はかすかに笑って、それをそのまま自分の唇に添えた。  彼の纏う香りや、車の中の空気で分かってはいたけれど、彼が愛煙しているのは俺と同じ銘柄だ。そこに火を点したジッポにも見覚えがあった。 ……微妙に気まずいような心地になり、俺は窓外へと視線を投げる。  俺に煙草を教えたのはこの男だ。銘柄が同じなのもそこに由来している。見城までずっと変えていなかったのは想定外だったけれど、今更あえてそこに触れることはしない。「さっきの続きだけど……」 俺が何も言わないでいると、見城は気を取り直したように再び口を開いた。  合間で煙草を吸うその様に、俺も遅れて自分のポケットを探る。そうして俺は俺で取り出した煙草を軽く揺すってみたものの、「あの子さ、〝英理〟って名前だったりしない?」 こんな時に限って白筒が浮かない。 ……え?
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-13
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深意と真意 04

「英理の上がり症、今も治っていないんだよね? この前ちらっと見ただけでわかったよ」 「……」 「昔ね、よく手を握ってあげていたんだ。そうしたら、なんだか落ち着くっていうから」 忙しなく脈打っていた鼓動が、身体ごと揺らすみたいに大きくなっている。  耳鳴りがして、見城の声もどこか遠い。  再び何も言えなくなっていた俺は、どことない中空を見つめたまま、その言葉を聞いていた。「だから、あの時も一瞬、ああ、今すぐ手を握ってあげたいなぁなんて思ったんだけどね。まぁ、思っただけだけど。さすがに人違いだったらまずいしね」 視界の端に映る彼の面持ちは酷く優しく、河原とのことを心から懐かしんでいるのが分かった。 ……そんなの、反則だろ。 どうやら木崎の話は本当だったらしい。  だって双方の言うことが完全に一致している。 河原の幼なじみは見城だった。そこにあるのが恋愛感情でないにしろ、河原の心を占めているのは昔も今も変わらずこの男だったのだ。  酒が入ると隙が増える河原が、まるでなんでも無いみたいに口にしたことからも容易に想像できる。河原が拠り所としているのは、友達としての俺でもない。他の恋人でもない。 ただ一人、この見城将人という幼なじみだった。 「実を言うとね」 ……まだあるのかよ。 俺はいまだに言葉が継げない。  なのに見城は構わず続けた。「――俺、英理が初恋の相手だったんだ」 その瞬間、息が止まる。 ――は……?  こいつ、いきなり何言って……。「この話、今まで誰にも言ったことなかったんだけど……。静になら、今更かなと思って」 「――……」 「当時は気付かなかったんだけどね。自分が英理のこと、そんな目で見てるなんて……考えたこともなかったんだけど」「……だけど?」 聞かない方がいい。  絶対聞かない方がいい。  思うのに、気がつけば問い返してしまっていた。 そして問い返せ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-14
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深意と真意 05

「あぁ、うん。実はそうなんだ」 彼は苦笑めいた吐息を漏らした。  それでもまっすぐ肯定されて、俺はやり場のない苛立ちを覚える。  いつものらりくらりとしていたくせに、こんな時ばかり――。「……帰る」 「え?……静?」 俺は煙草の箱を握りしめたまま、不意にドアを開けた。  次には車を降りて、振り返ることもなくドアを閉める。  すぐに窓が開く音がする。「ちょっと待って、静!」 珍しく慌てたような声が聞こえたけれど、俺はそのまま歩きだす。「――静!!」 見城が追いかけてこないのは大体予想がついていた。ただ何度も名を呼ばれ、それが思いのほかしつこくて、俺は耳を塞ぎたくなるのを堪えて奥歯を噛み締める。 そんな必死になるほどなのかよ。 海の傍だからか、外気が随分冷たく感じる。その予定になかった服装に、俺は焦燥のままに上着の襟元を掻き寄せた。 一度も振り返ることなく足早に公園を後にした俺は、ちょうど通りかかったタクシーを拾い、身を隠すように中へと乗り込んだ。 ……だいたい、決まってた舞台はどうなったんだ。なんでこの時期に日本に帰ってきてんだよ。  卒業してすぐ……アメリカに戻ってからも、あんなに、あんなに仕事も順調そうだったのに。 河原に惹かれ始めてからは機会も減っていたが、俺は見城と縁を切った後も、密かにその後の活動についてネットの記事を探したり、向こうの雑誌をチェックしたりしていた。 そして先日、思いがけない再会をしたことでまた記事を検索してみたのだ。今回は特に興味があってのことじゃない。単に近況はどうなってんだと思ったから。 そうして見つけた記事には、この冬に比較的大きな舞台を控えていると書いてあった。  翻訳サイトを経由したその記事は正直分かりにくかったけれど、そこに〝キャスティングされた〟と書かれていたのは間違いなかったはず――。 それがなんで……。 見城がどういう意図で帰国したのかさっぱり分からない。  挙句、突然降って
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-14
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引き金を引いたのは 01

 翌週の土曜日、宣言通り見城は店にやってきた。  しかも16時頃に。 早番の上がりは17時。遅番の入りは15時だ。  要は、その時間に来店すれば、どちらのシフトのスタッフにも会える可能性が出てくると言うことだ。 よくよく考えれば、俺は学生の頃からアリアで働いていたので、その辺りのことを見城が覚えていたとしても不思議はない。  今までそこを選ばなかったのは、単に時間が合わなかっただけで……だがこれからはそれが可能だからと、河原のこともわかったことだしと、本腰を入れてきたということなのかもしれない。 要はあえてそこを狙って来たのだ。  ……相変わらず抜け目がない。 まぁ、残念ながら人が多い時間帯ほど河原はホールには出ないし、そもそもその日河原は公休日だったんだけどな。    ***  その更に一週間後の土曜日。どうせまた同じ時間帯にやってくるのだろうと思っていたら、意外にも見城は姿を現さなかった。 そんな中、俺は久々に河原から宅飲みに誘われる。  翌日は俺も河原も公休日で、その日は通常通りどちらも遅番だった。 心境としては受けてはいけない気もしたのだ。だけど、本音では俺だって誘いたい気持ちはあったから……。  どちらかの家で、ゆっくり、のんびり二人きりで過ごすあの時間は何ものにも変えがたい。  ……思えば、断ることはできなかった。 見城の顔を見なくて済んだということもあり、少々気が緩んでいたのかもしれない。木崎も休みだったため、話題に上ることもなかったし。    ***  終業後、俺は一旦部屋に戻り、シャワーを済ませ、部屋着に着替えてから河原の部屋に向かった。  帰り際にコンビニで買った酒や食べ物は、先に河原が部屋に持って上がってくれていた。 扉の前に立つと、インターホンを押そうとして……試しにそのままドアノブに手をかけてみた。案の定、鍵はかかっていなかった。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-14
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引き金を引いたのは 02

「ていうか、それって前から木崎が言ってた人だろ? 友達になったっていう……」 「あ、そっちじゃなくて。最近来るようになった方の金髪の人」「金髪……最近? ……や、でも俺、やっぱりそんな派手な知り合いいないと思う……」 内容からも、聞こえてきた声からも話している相手が木崎だということはすぐに分かった。  そしてその〝金髪〟が誰を指しているのかも――。 確信すると同時に、どくんと大きく鼓動が跳ねる。 すぐにでも端末を取り上げ、通話を切ってしまいたかったが、そんなことをすれば盗み聞きしていたと自らばらすことになるし、確実に何か隠していると勘付かれてしまう。……特に木崎に。「でもさぁ、河原の名前知ってたんだよね。フルネーム。あ、もちろん俺は何も教えてないよ?」 「そう、なんだ……? ……じゃあ、やっぱり知り合い、なのかな」 心臓が身体ごと揺らすように拍動する。  もうやめろと言いそうになる口を努めて引き結ぶ。「……じゃないかなぁ? わざわざ俺に外で声かけてきたくらいだし……。ていうか、ほんと河原のことよく知ってそうな感じがしたんだよね」「えー……誰だろ。全然分からない……」 ごそごそと継続的に動いていた河原の気配がぴたりと止まる。そのまま考え込むような沈黙が落ちる。 河原が答えを導き出す前に、どうにか誤魔化せないだろうか。  この期に及んで思うけれど、今更どうにかできるわけもない。 くそ……木崎のやつ、よけいなことを。 ややして、先に口を開いたのは木崎だった。「……まぁ、それでさ。実は頼みごとがあるんだよね」 「頼みごと?」 「うん。もしさ? もし……ほんとに河原が彼と知り合いだったとして……ちゃんと再会できたらさ? そしたらぜひ、俺にも紹介してもらえたらなぁなんて――」 はぁ?! 今度こそ声を上げてしまうところだった。  っていうか木崎の本題はそこかよ! 冗談じゃねぇ……! 俺はとっさに自分の口を押さえ、押さえながらも、気がつ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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引き金を引いたのは 03

    ***  せっかくの待ちに待った機会だというのに、俺の胸中はいまだもやもやとして一向に晴れる気配がない。 河原の話によると、今日の午前中、買い物に出ていた木崎にたまたま通りかかった見城が声をかけてきて……。そのまま車に乗せるようなことはしなかったらしいが、それからしばらく路肩に寄せた車のドア越しに、さっきのような話をしたとのことだった。「でも、ほんとびっくりしたよ」 河原の部屋のリビングにも、俺の部屋同様に大きめのソファと、その正面にローテーブルが置いてある。床に敷かれているのは毛足の長い白一色のラグ。  そこに直接腰を下ろした河原は、テーブルを挟んで向かい側――ソファに座っていた俺にはにかむように笑いかけながら、懐かしそうに呟いた。「多分もう、二度と会うことはないんだろうなって思ってたから……」 とりあえず、とそれぞれ一缶ずつ手にしたいつもと同じ銘柄のビール。河原は自分のそれを手のひらで挟むようにして持つと、手持ち無沙汰そうにゆるゆると転がし続けていた。蓋はまだ開けられていない。今はそんなことより、見城のことで頭がいっぱいなんだろう。 そんな笑顔……。 今まで見たことない。 あーくそ……。 勢いでばらしてしまったことは認めるが、だからといってそこに後悔はなかった。  もともと近い将来、こうなるだろうことは予想していたし、どのみち河原の知るところとなるなら、その時は俺の口からと思っていたからだ。  ……まぁ、それが今日だとは想定していなかったが。「しかもさ……まさか暮科が将人さんのこと知ってるなんて」 「まぁ……一部では有名だからな」 ここまできて、単なる同姓同名じゃないのか、なんて言えるはずもなく、俺は曖昧に相鎚を打ちながら、逃げるように自分の缶に口を付ける。 見城はアメリカを拠点として活動しているモデル兼、舞台俳優で、海外の雑誌にも時々記事が掲載されている――。  そう説明すれば、河原は素直に「それで木崎が言った
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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引き金を引いたのは 04

    *** 「飲まねぇのかよ」 言えば思い出したように河原は缶を開けた。  そうして一度は話が途切れたものの、「じゃあ……また店に来るかもしれないんだ」 結局、それから数時間が経っても、河原はことあるごとに見城の話題に触れてきて――。「まぁ……その可能性は高いだろうな。お前のこと、名指しで探してるくらいだし……」 それぞれの缶ビールがいくつも空になり、そこに追加したウィスキーや冷酒を飲み始めてもなお、「そっか……それなら直接会うこともできるかもしれないな。近いうちに……」 まるで飽きるふうもなく、彼はひたすらその瞬間を待ち侘びるかのように微笑っていた。 ……だから、その笑顔やめろよ。 そのたび俺は心の中で吐き捨てる。 いい加減もうその話題から離れろよ。  言いたいのに言えず、かと言って部屋を出て行くこともできず、俺はただそんな河原に付き合うしかない。 こんなタイミングで帰ると言えば、河原だってさすがに何ごとかと思うだろう。  まさか俺が見城に嫉妬しているだなんて気付くことはないだろうが、そんな中途半端な状態で、変に気を遣われるのはもっと嫌だった。「将人くん……変わってないといいな」 将人くん、て……。 いつの間にか、〝将人さん〟が〝将人くん〟に変わっている。 あいつのこと、昔はそう呼んでいたのか。やっぱり河原の中で見城の存在は大きいんだな。 改めて敵わないことを突きつけられた気がして、俺は思わず奥歯を噛み締めた。 もう、やめろよ。 テーブルの上に投げてあった煙草を手に取り、抜き出した一本に火を点ける。河原は煙草を吸わないが、俺用の灰皿がリビングの天板にはいつからか常備されていた。 それがどれほど嬉しかったか、河原は知らないのだ。  その時のことを思い出し、思い出せばいっそう遣る瀬な
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-15
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引き金を引いたのは 05

 ……やばいと思ったのだ。  河原に触れられることで、いっそう火が点いてしまいそうで。  そこから伝わる体温が、想像以上に心地良く思えてしまったから。「あ、ごめん……」 河原は弾かれたように手を退いた。すぐさま掠れた声で謝罪を呟き、俺から離れる気配が続く。 俺はそっと目を開けた。その視界の端で、河原は俺に背を向けて、けれどもそうして腰を落とした場所は、 だから……近いんだよ。 少し手を伸ばせば、容易く届いてしまう距離だった。 …………我慢、できなくなるだろうが。 ラグの上に座り込み、俺の乗るソファに背を付けて、ゆっくりと瞬く河原の顔は仄かに赤い。 河原は酔っている。  それは見ていればすぐ分かる。 慣れてくれるまでは判断しづらいが、河原はもともと人当たりのいい性格だ。  意外と根は明るいし、さっぱりしたところもあって、基本後ろ向きな俺よりよほど建設的だと感じることもあるくらいだった。 だが、どんなに慣れたところで、普段はここまで距離が測れなくなったりはしない。これほど無防備な姿を見せたりはしない。 ……だからこれは、全て酒のせいなのだ。 くわえたままの煙草の灰が長くなっている。  そろそろ弾いておかなければ、間もなく落ちてしまうだろう。 俺は視線を横向け、ゆっくり身体を起こした。  すると河原がはっとしたように口を開いた。「あ、水。……俺、水持ってくるよ」 言いながら、立ち上がろうとしたその手首を俺は掴む。  河原の身体がぎくりと強張ったのに気付きながら、何食わぬ顔して他方の手を灰皿に伸ばし、穂先をそこに押し付けた。「暮、科……?」 膝立ちも半ばの河原が、俺の方へと振り返る。  ソファの上に座る俺の方が、わずかに目線は高かった。「河原」 「な、なに?」 名を呼べば、ぎこちなくながらも笑みを返される。  わけもわからずただ驚いて、それで
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-16
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引き金を引いたのは 06

「……っ」 河原が信じ難いように目を瞠る。  それを視界の端にとどめながら、俺は酒の香りがする薄い唇を食み、何か言いかけたがために開かれていた隙間から強引に歯列を割った。反射的に逃げを打つ彼の舌を追いかけ、絡めとると、緩急をつけて吸い上げ、その表面に甘く歯を立てる。 そこまでされて、ようやく河原ははっとしたように顔を背けようとした。痛みがあるのか、嫌悪によるのか、困ったように眉根を寄せて、懸命に首を捩る。「っん、ぅっ……、んん……っ」 だが俺はまだ彼を放さない。  放さないどころか、彼の所作に合わせて何度も唇の角度を変えて、口付けをより深いものへと変えていく。 舌裏を舐め上げ、上顎を擽り、嚥下しきれない唾液を攪拌する。擦れ合う濡れた感触に煽られ、息継ぎすら惜しいように、執拗に彼の体温を求め続ける。「んっ……くれ、しっ……ん、ぅ……っ」 口端からこぼれた雫が、彼の首筋へと線を描く。河原が堪えかねたように目を瞑る。  目端の紅潮は色を増し、時折垣間見える瞳はひどく潤んでいた。けれども、それは単に息苦しさと――せいぜいアルコールによるものだ。 そう頭ではわかっているのに、容易に錯覚してしまいそうになる。  だって鼻に抜ける吐息はこんなにも甘い。甘く聞こえる。  共有する熱は着実に温度を上げて――そう感じられて、 もう、無理だ。 ここまできて、やめるなんてできない。  今更もう、止まらない。 河原……お前に触れたい。 口に出せない想いを心の中で呟きながら、気がつくと俺は、これ以上ないくらいに高揚していた。    *** 「ふ……っ、……」 流されたのか、諦めたのか。あるいはそのどちらもなのか。  いつのまにか震えるほど強張っていたその身体が弛緩しているのに気付いて、俺はやっと口付けを解いた。 気がつけば、河原の手首を掴む手にも思いの外力が入っていた。もしかしたら痣ができてしまったかもしれ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-09-16
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引き金を引いたのは 07

 なんで抵抗しねぇんだよ……。 しないというより、できないのかもしれない。  それを痛々しく思いながらも、ここで止めるという選択肢はもうなかった。 一つ、また一つとボタンを外し、あらわにさせた鎖骨に触れる。合わせを開き、布地の下へと手のひらを滑り込ませると、「な、にしてっ……」 そこでようやくぎくりと河原は肩を跳ねさせた。「何って、見ればわかるだろ」 「わ、わか……、っ!」 俺はその肩先に唇で触れ、そのまま押さえつけるようにしながら、肌蹴させた素肌へと淡い痕を刻む。初めて触れる河原の肌は、思っていたより柔らかく、仄かに甘く感じられた。「……」 「え、ぇ……っあ!」 俺は胸元へと這わせた指で、不意打ちのように小さな突起を探り当てる。  河原は自分の漏らした声に驚いたように、慌てて唇を引き結んだ。 そんな河原の反応に、その声に、心臓がどくんと大きく脈打つ。  今頃酒が回ってきたのだろうか。次第に頭の中が霞がかり、呼吸まで浅くなっていく。「お前、ここ……」 ……感じるのか。 掠れた声で囁きながら、俺はささやかに隆起した突起を摘まみ上げる。「っ……! や、ぁ……離……っ」 河原の喉がひく、と鳴った。制しようと発した声と共に、呼吸が跳ねた。    確かめるように他方の突起にも舌を伸ばし、あえて音を立ててそれを口に含む。先端を甘噛みしながら周囲を擽るように舌先で辿り、その傍ら、「ほら……」 忘れるって言えよ。早く。 吐息混じりに促せば、それすら刺激となったように彼の背筋が戦慄いた。「あ、ぁ、待って……なぁ、もっと、わかるように……っ」 「わからなくていいから、言うこと聞けよ」 「そん、なの……っ」 なおも河原は首を縦に振らない。会わないとは言わない。忘れるとその場しのぎの嘘もつかない。  河原がそういう男だと知っているのに、俺は思うようにいかないもどかしさにますます
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