「……お前、どう見ても飲みすぎだろ。もうその辺でやめとけよ」 見かねてそう促してみても、木崎は「うんうん」と笑って頷くだけで、お構いなしに次のカクテルを注文する。俺の言葉なんて聞こえていないらしい。「だーいじょうぶだよ。俺誰にも言ってないし、これからも言わないし」 「…………」 「だってほら! こう見えても隠しごと得意じゃん? 俺!」 「知らねぇよ……」 たしなめるだけでは何も変わらない木崎に、俺は深いため息をつく。そのくせ、いつから、どこまで知られているのかも気になって、思い切って席を立つこともできない。 ……まぁ、今まで全く気付いている素振りを見せなかったことからも、隠しごとが得意なのは確かなのかもしれないが……。「しっかし、暮科もさぁ、可愛いとこあるよねぇ」 「……もう帰る」 「え、待って待って! なんでそうなるの?! まだ話の途中でしょ!」 「……ってぇな」 不満げに声を上げると同時に、痛みが走るほど強く肩を掴まれる。鬱陶しげに一瞥すると、ちょうどそこに追加のグラスが運ばれてきた。「それで終わりにしろよ」 釘を刺すように言って、俺は短くなった煙草を灰皿に押し付ける。そうして諦めたようにスツールから下りると、「ちょっ……まさかほんとに帰る気なの?」 木崎が飲みかけていたカクテルを噴き出しそうになりながら、俺の腕にしがみついてきた。 ったく、こいつは……。「ほんとにってお前……そろそろ遅番も上がりの時間だぞ」 信じられないと首を振る木崎に、俺は改めてカウンター内に飾られている時計を指差した。 けれども彼はそれを見るでもなく、「もうちょっとだけ!」と言って絡めた腕に力を込めるばかり……。 時刻は23時30分を回ったところだった。遅番の上がりは24時。そろそろ河原も終業の準備を始める時間だ。 ちなみにアリアは24時間営業ではなく、基本は年中無休だが、年始も数日閉めていたりする。「うん、だから今からなら河原も来られるかなぁ
Last Updated : 2025-09-06 Read more