なんであいつがここにっ……。 一切他のテーブルの様子を見ることなく、まっすぐ裏へと戻ってしまった。 この想像以上の動揺を、せめて悟られなかったと思いたい。 表情にも特に出したつもりはないし、不審な態度もとらなかった……はずだ。その証拠に、周囲のスタッフも誰も何にも気付いていない。 だけど反して俺の心臓は、今にも飛び出そうなくらいに大きく鳴っていて、抑えようと意識すればするほど、呼吸まで苦しくなるほどだった。 ここ一年ほどは、ほとんど思い出すことすらなくなっていた。 河原に出会って、彼に接するにつれ、その存在にどんどん上書きされていったからだ。そうして、河原への気持ちをはっきり自覚した頃には、すっかり過去のことにできていた。……つもりだった。 この期に及んで胸が痛むようなことはない。 なのに鼓動はこんなにも顕著な反応を見せている。 まさか気持ちがまだ残っていた、なんてあるわけないけど――。 ……いつ日本に帰ってきたんだよ。 俺に「久しぶり」と言ったその客は――その金髪男は、俺が過去に関係を持ったことのある相手の一人だった。 そしてその中で唯一、俺の気持ちが残っていた人物……。 特別トラブルがあったわけでなく、ある意味上手くいっていたとも言える関係を、もう二度と顔を合わせることもないと、唐突に終わらせたのは俺だった。河原と出会うより更に一年前、俺が大学、彼が院を卒業する時のことだ。 だけどそれには彼も納得していたのだ。元々彼自身、卒業と同時に渡米して、そのまま向こうで仕事をするつもりでいたし、それは大学に入学した時には既に決まっていたことだった。 一旦渡米してしまえば、まず数年は帰国できないだろうという話で、実際その後もアメリカで順調な日々を送っていた……はずなのだ。 彼の名前は見城将人。年齢は俺より三つ上。 木崎が騒ぐのも無理はなかった。 イギリス人の血を引くクォーターということもあるのか、その整いすぎている容姿やスタイルは、ただ
Last Updated : 2025-09-10 Read more